アルス・スブティリオル
テンプレート:Portal クラシック音楽 アルス・スブティリオル(Ars subtilior)は、14世紀末から15世紀初頭のフランスや北イタリアにおける、極度に複雑で技巧的な音楽様式。
アルス・スブティリオルとは、「より繊細な技法」を意味する。この語はフィリップス・デ・カゼルタの著作とされるTractatus de diversis figuris における「より繊細な技法 artem magis subtiliter」などの記述に由来しており、ウルスラ・ギュンターによって後期アルス・ノーヴァの先鋭的な様式を指す用語として導入された[1]。
アルス・スブティリオルはギヨーム・ド・マショーの死後にアルス・ノーヴァの様式がより洗練され複雑化したものである。極度に技巧を凝らしたリズムの複雑さは西洋音楽史上でも他に類を見ない[2]。 主なジャンルはバラード、ヴィルレー、ロンドーといった世俗歌曲である。
アルス・スブティリオルの時代は、教会大分裂(シスマ)の頃で、様々な権力の対立が見られ、オスマン帝国の侵入、黒死病の大流行など、多くの社会不安が存在した時代であった。
アルス・スブティリオルの代表的な作曲家として、アントネッロ・デ・カゼルタ、フィリップス・デ・カゼルタ、ヨハンネス・チコーニア、ボード・コルディエ、マルティヌス・ファブリ、マッテオ・ダ・ペルージャ、ジャコブ・ド・サンレーシュ、ソラージュなどが挙げられ、シャンティー写本やモデナ写本などで作品が伝えられている。
アルス・スブティリオルの作曲家は、時にその楽譜の形態においても奇想を凝らしている。ボード・コルディエのカノンTous par compas は円形の楽譜に書かれ、ロンドーBelle, bonne, sage の楽譜はハート型をしている。ジャコブ・ド・サンレーシュのLa harpe de melodie の楽譜はハープの絵の中に書かれ、譜線をハープの弦に見立てている。
後世への影響
アルス・スブティリオルの音楽は、一部の音楽家たちの探求と実験に終わり、次にくるルネサンス音楽に直接引き継がれることはなかったが、その難解な音楽体系が根音の必要性を喚起し、その後ギヨーム・デュファイらによりベースラインを含む4声体のスタイルが導き出されることとなった。またその複雑な音楽が生まれた背景には記譜法の発展があり、楽曲を構築する上で譜面が重要なツールとして台頭してきたという点でも特筆すべき時代である。
また、この時代のリズムの可能性を現代フランスの作曲家ブリス・ポゼは、現代の記譜法で蘇らせる試みをいくつかの作品で行っている。その結果、楽譜は真っ黒である。
脚注
参考文献
- Josephson, Nors S. "Ars Subtilior". The New Grove Dictionary of Music and Musicians, second edition, edited by Stanley Sadie and John Tyrrell. London: Macmillan Publishers, 2001.
- 網干毅 「14世紀世俗曲における多声法についての一考察―Ars novaからArs subtiliorへ」『人文論究』第60巻、第1号、関西学院大学人文学会、2010年。