高エネルギーリン酸結合
高エネルギーリン酸結合(こうエネルギーリンさんけつごう、high‐energy phosphate bond, energy‐rich phosphate bond)とはアデノシン三リン酸など高エネルギーリン酸化合物が有するリン酸無水物結合を意味する生化学上の概念である。
ピロリン酸など、通常のリン酸化合物においては、リン酸無水物結合の加水分解による切断時の標準自由エネルギーの減少は3000cal/mol程度である。それに対して、ATPの加水分解における減少は7000cal/molにも達することが実験的に確認されている。それ故、この種のリン酸結合を有する化合物を高エネルギーリン酸化合物と呼ぶ。なお、反応の自由エネルギー変化が大きいのであって、P-O間の結合エネルギーは一般の化合物と比べて特に大きいわけではない点に注意が必要である。
生化学では高エネルギーリン酸化合物を化学式で表す場合のみリン酸をPを丸で括った記号を用い、そのうち高エネルギーリン酸結合を「~」(波線)で表すことがある。例えば、アデノシン三リン酸の場合、アデノシンと結合しているリン酸は通常の結合であるが、リン酸間を結んでいる結合は~で表される。
生体内の物質代謝における反応には、化学ポテンシャルの変化から自発的に進行すると予測される方向とは異なる方向に進行するものが多い。そのほとんどは、高エネルギーリン酸結合の切断反応と共役することで実現されている。したがって、高エネルギーリン酸化合物の持つ生化学的な意味は大きい。言い換えると、筋肉の収縮や濃度勾配に逆らった物質輸送は、高エネルギーリン酸結合の関与によって初めて成し得るものである。
アデノシン三リン酸などのリン酸無水物結合が高エネルギー結合となる原因については、共鳴エネルギーの低下やリン酸間の静電反発の増大あるいは、母核化合物の互変異性など高エネルギーリン酸化合物の構造に由来する原因が複合していると考えられている。
高エネルギーリン酸化合物
次に、高エネルギーリン酸化合物を示す。
- ヌクレオシド三リン酸、ヌクレオシド二リン酸 = アデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン二リン酸(ADP)等
- アシルリン酸 = アセチルリン酸 等
- グアニジンリン酸 = クレアチンリン酸 等
- エノールリン酸 = ホスホエノールピルビン酸 等
参考文献
- McGilvery, R. W. and Goldstein, G., Biochemistry - A Functional Approach, W. B. Saunders and Co, 1979, 345-351.