イオンポンプ
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イオンポンプ
- チタンのゲッター作用によって超高真空を達成することのできる真空ポンプ。本項で詳述する。
- 細胞膜あるいは細胞内膜上に存在する膜タンパク質で、ATPのエネルギーなどを用いて、イオンを濃度勾配に逆らって能動的に輸送するもの。代表的なものに、NaK-ATPase、SERCAがある。(イオンチャネル参照)
イオンポンプ (ion pump) は、チタンのゲッター作用により排気する真空ポンプである。スパッタイオンポンプ (sputter ion pump) とも。
構造は、ハニカム状のアノード(陽極)アレイと、アノードを挟むように配置されたチタン製のカソード(陰極)からなる。アノード-カソード間に電圧をかけると、両極間に放電が発生する。この時、極間を走行中の電子が気体分子と衝突してイオンを生ずる。発生したイオンはチタン製の陰極に衝突し、表面からチタン原子を叩き出す(スパッタ作用)。叩き出されたチタンは陽極や陰極、またはその他のポンプの内壁に清浄なチタンの膜を作る。チタンは化学的に活性な為、水素・酸素・窒素・一酸化炭素もしくはその他の活性ガスを化学的に吸着してしまい、その結果容器内の真空度がよくなる。また、ヘリウム等の不活性気体も、電子との衝突でイオン化して陰極面に捕らえられ、その上にスパッタされたチタン原子が析出するため、陰極の内部に閉じこめられてしまう。
到達真空度は 10-8 Pa (10-11 Torr) 程度である。気体が無くなってくるとアノード-カソード間の電気抵抗が上昇するため、真空度の向上を確認できる。
このように、イオンポンプは気体の種類を選ばずに排気でき、また、構造上機械的可動部分が無いことから、MBE、電子顕微鏡、電子線描画装置などの超高真空装置によく用いられている。
陰極をスパッタするという動作原理のため、当然ながらイオンポンプには寿命が存在する。また、作動圧力環境に制限があるため、通常は粗引き用のポンプを併用する。代表的な装置では、超高真空チャンバにイオンポンプを設置し、試料交換室にターボ分子ポンプとロータリーポンプを設置している。