併合罪
テンプレート:日本の刑法 併合罪(へいごうざい)とは、刑法の罪数論上の概念であり、(1) 確定裁判を経ていない2個以上の罪(刑法45条前段)、又は (2) 過去に禁錮以上の刑の確定裁判があった場合、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪(同条後段)をいう。
併合罪については、各犯罪について別々に処断刑を決めるのではなく、一括して刑を量定する(同法46条 - 48条)。
沿革
日本で、明治13年に公布された旧刑法では、「数罪倶発」の場合には「一ノ重キニ従テ処断ス」と規定されており(100条1項)、吸収主義がとられていた。これはフランス刑法の影響だけでなく律の伝統によるものであるとされる[1]。
日本の現行刑法(明治40年法律第45号)は、ドイツ刑法の影響を受け、併合罪については吸収主義から加重主義(有期懲役・禁錮の場合)に改めた。
刑法45条前段の併合罪
確定裁判を経ていない2個以上の罪は、併合罪とされる(刑法45条前段)。
「2個以上」というのは、包括一罪や科刑上一罪(観念的競合、牽連犯)に当たらない場合(数罪の場合)である。
したがって、犯人がAを殺害した後にBを殺害した場合、Aに対する殺人罪(刑法199条)とBに対する殺人罪は併合罪となる。
刑法45条後段の併合罪
ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とされる(刑法45条後段)。
併合罪のうちに既に確定裁判を経た罪とまだ確定裁判を経ていない罪とがあるときは、確定裁判を経ていない罪について更に処断する(同法50条)。
例えば、A罪とB罪を犯した犯人がB罪だけで起訴されてその有罪判決(禁錮以上の刑)が確定した後、C罪を犯し、その後A罪とC罪で起訴された場合、A罪とB罪は45条後段により併合罪となるが、C罪は併合罪とならない。この場合、裁判所は、50条により併合罪のうち確定裁判を経ていないA罪について宣告刑を決め、それとは別にC罪について宣告刑を決めることとなり、両者が併科される。このように、間に確定裁判があることによりA罪とC罪の併合罪関係が遮断され、主文を2個言い渡すこととなる。
その趣旨は、自由刑の宣告により犯人には強烈な反省・自己矯正の機会が与えられるところ、確定裁判以後に犯した罪は、こうした反省・自己矯正を経るべきであったにもかかわらず犯した罪であるという意味において、より犯情の悪い罪として評価すべきであり、確定裁判以前に犯した罪とは別個に処断すべきものと考えられることから、確定裁判を区切りとして一括処断すべき罪の範囲を画することにある。
なお、昭和45年の刑法改正により、「確定裁判」が「禁錮以上ノ刑ニ処スル確定裁判」と改められた。これは、複数の犯行の間に罰金以下の確定裁判があったか否かを確認しなければならないことによる実務上の煩雑さを避けるための改正である。
処断刑
併合罪のうちの1個の罪について死刑に処するときは、他の刑を科さない。ただし、没収は科すことができる(刑法46条1項)。併合罪のうちの1個の罪について無期懲役・無期禁錮に処するときも、他の刑を科さない。ただし、罰金、科料、没収は併科することができる(同条2項)。このように、死刑・無期刑については吸収主義がとられている。
併合罪のうちの2個以上の罪について有期懲役・有期禁錮に処するときは、その最も重い罪の刑[2]について定めた刑の長期(刑期の上限)にその2分の1を加えたものを長期とする(同法47条本文)。例えば、強盗罪(同法236条、法定刑は5年以上20年以下の懲役)と恐喝罪(同法249条、法定刑は1月以上10年以下の懲役)が併合罪となるときは、重い強盗罪の刑の長期に1.5倍の加重をして、5年以上30年以下の懲役が処断刑となる。ただし、加重の上限は30年であり(同法14条2項)、また、それぞれの罪の刑の長期の合計を超えることはできない(同法47条ただし書)。このように、有期刑については加重主義がとられている。
併合罪のうちの2個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額(罰金額の上限)の合計以下で処断する(同法48条2項)。これは、併科主義に似ているが、一種の加重主義(加重単一刑主義)であるとされる[3]。
罰金・拘留・科料と他の刑、2個以上の拘留・科料、2個以上の没収は、いずれも併科する(同法48条1項、49条、53条)。
脚注
関連項目
- 罪数
- 科刑上一罪 - 観念的競合、牽連犯
- 包括一罪
- 新潟少女監禁事件 - 軽微な犯罪(万引き=窃盗罪)を併合罪として起訴することで、監禁致傷罪単独の法定刑上限(懲役10年)を大きく超える量刑を行うことの是非が問われた事件