不確実性
不確実性(ふかくじつせい、テンプレート:Interlang)とは、話題の事象が確実でないことを指す概念である。日本の工学分野では「不確かさ」とほぼ同じ意味とされる。
今後起きる事象に伴う危険(リスク)と同義で使用される場合が多いが、生起確率すら計算できない場合についてのみ指す場合もある。フランク・ナイトやジョン・メイナード・ケインズらは、後者の意味で不確実性を用いた。
ケインズは、厳密な数学的期待値を計算する基礎がないために、将来を左右する人間の決意は、そのような期待値にではなく、自生的な楽観に依存すると述べ、資本の限界効率がそのような不安定な基礎の上に立っていることから来る投資の不足を問題視した。
不確実性とリスクの違い
一般に、過去のデータなどを用いて将来起こることが予測されている場合にはリスクという用語を用い、何が起こるのかさえ予測できない場合には不確実性という用語を用いる。この意味では不確実性は計算できないことになるが、数学の分野では確率論を用いて不確実性を扱うことになる。(確率を参照) すなわち、数学の分野では不確実性とリスクは区別せず、不確実性という用語を用いるのが一般的である。
なお、危険という用語は危ないことそのものとリスクの両方の意味を含んでいる点は注意を要する。この意味で、危険とリスクは同義ではない。
- 不確実性
- 発生確率が不明で計算できない。
- リスク
- 何が起こるかと、発生確率が分かっている。金融工学でヘッジできる。
学者の見解
中野剛志は産業の発展には金融の論理と矛盾してボラティリティ(変動幅)の低さを必要とすると述べている。変動が大きい方が活力があり、秩序や安定は硬直的であり停滞しているというイメージをもっている人が多いがそれは間違いだと指摘している[1]。資本主義がダイナミックなものであるのは事実であり、不確実性がイノベーションを生むという面があるが、イノベーションをするためには、将来のリターンがあるかどうか、まったく不透明である場合には投資はできないとし、イノベーションをやる動機を起こさせるのは不確実性が低い場合だとしている[2]。なお、現代経済学の不確実性を取り入れたモデルとは、確率論で表せるリスクの話であり、ジョン・メイナード・ケインズの言った確率論で計ることができない不確実性ではないとしている[3]。
経済学者の堂目卓生は「市場競争では不確実性のため、運が大きく影響する。運によって最初に勝利した者が有利となり、他者との差を広げながら勝ち続ける状況が生じる。その結果、多くの参加者にとって公平性に欠けるため、手段を選らばなくなってしまう。市場競争が完全な倫理と両立することは困難であるが、根底にある倫理的問題から目を背けず、弊害を最小限に抑える方法を探し続けるべきである」と指摘している[4]。
脚注
- ↑ 中野剛志・柴山桂太 『グローバル恐慌の真相』 112-113頁。
- ↑ 中野剛志・柴山桂太 『グローバル恐慌の真相』 121頁。
- ↑ 中野剛志・柴山桂太 『グローバル恐慌の真相』 117頁。
- ↑ 日本経済新聞社編 『経済学の巨人 危機と闘う-達人が読み解く先人の知恵』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2012年、287-288頁。