パルス符号変調
パルス符号変調(パルスふごうへんちょう、PCM、テンプレート:Lang-en)とは音声などのアナログ信号をパルス列に変換するパルス変調の一つである。
目次
概要
PCMはアナログ信号を標本化(サンプリング)・量子化し、得られた信号の大きさを整数データとし、それを一組のパルス列として出力する[1]。このため他のパルス変調法に比べ、計算機による処理を行いやすい利点がある。音声記録用には線形量子化以外にも折線量子化 (NT)、対数量子化(DATのLPモード)が利用されておりこれらは人間の聴覚系の特性を利用して実用性を維持しながらデータ量を削減している[2]。差分符号化と量子化幅の適応的制御により、品質を落とさずにPCM信号のデータ量を圧縮するものにADPCMがある。
パルス符号変調の操作をアナログ-デジタル変換とも言い、それを行う回路をアナログ-デジタル変換回路と言う。また、より一般に、デジタル化の操作をデジタイズと言う。
用途
- 音声・映像のデジタル記録
- レーザーディスクやDAT・CD-DA・リニアPCMレコーダー・MD・DVD-Video・DVD-Audio・BDMV (BD-Video)・BDAV・Xbox 360用ゲームソフト・PlayStation 3用ゲームソフトなど
- 音声・映像のデジタル伝送
- デジタル放送・ISDNなど
- 遠隔監視・計測・制御のデータ転送方式
PCMプロセッサー
テンプレート:Main アナログビデオテープレコーダと組み合わせて、一種のDATとして利用するための装置。フロントエンドにA/D変換とD/A変換の装置を備え、バックエンドにデジタル符号とNTSC信号などとを相互に変換する装置を備える。統一規格がありかつては民生用機器も発売され、Hi-Fi目的等に用いられた。例えば現代のDATは、機能的にはPCMプロセッサーとビデオテープレコーダを小型化し一体化したものである。
PCM音源
PCMデータをDA変換装置によって変換することで音を再生する装置をPCM音源という。サンプラー、サンプリング音源と呼ばれることもある。
ソフトウェア技術
ソフトウェアミキサー
アプリケーションソフト側から見ると、任意の個数・性能の仮想PCM音源を鳴らす形となっていて、それらをPCM再生ハードウェアに向けてミキシングして送り出す機能を持つソフトウエアがあり、ソフトウェアミキサーと言う。近年CPUの大幅な処理速度向上により、よりリッチな表現が可能になった[3]。DirectXで音声データに音階を付与する機能、ソフトウェアMIDI音源などはいずれもこの技術により成り立っている。家庭用ゲーム機でこれを利用しているものの代表として、ゲームボーイアドバンスが挙げられる。一方、これをほとんど利用しないゲーム機にはPlayStation 2などがある。これはPS - PS2において、ハードウェアPCMまたはストリーミング再生というスタイルがほぼ確立しているためである。
非PCM音源によるPCMデータの再生
ハードウェア制御を細かに行うことによって、発声が可能なハードウェアをDACに見立て、音声を再生する手法も存在している。 ビープ音用のハードウェアでパルス幅変調を行ったり、矩形波の出力をDACに見立てPSGによるPCM再生を行う試みや、同様にX68000ではOPMに音色として矩形波を定義し、8チャンネルの出力ポートを利用することで、最大でモノラルでは50kHz前後、ステレオで25kHz前後のサンプリング周波数の再生を可能にしたソフトウェア[4][5]も存在する。 DACとしては非線形指数的の特徴を持つなど、元々想定していないハードウェアであるため、再生の音質は想定した設計のものと比較し、低くなりがちである。
リニアPCM
これを単にPCMとする場合もある。LPCMとも。リニア量子化を使用し、非可逆圧縮は一切しない。CD-DA、DVD-Audio、一部のDVD-Video、BD-Video、PlayStation 3用ゲームソフトなどで用いられている。サンプリング周波数が高く量子化ビット数が多いほど高音質(原音に近い)となる。非可逆圧縮で見られる音質の劣化やダイナミックレンジ(特に高周波帯域)の低下が無い。
- CD-DA(音楽CD)
- サンプリング周波数44.1kHz、量子化ビット数16bit、2chステレオ。
- DVD-Video
- 非必須。量子化ビット数16/24bit、サンプリング周波数は48/96KHzまで対応している。転送レートは最大1.5Mbps、チャンネル数は2chステレオが上限である。その為DVDビデオでは多くのソフトが、ドルビーデジタルを用いて5.1chサラウンドに対応している。
- DVD-Audio
- 次世代CD規格の1つ。サンプリング周波数は最大192kHz、量子化24bit。チャンネル数は2chステレオのものが一般的。
- BD-Video (BDMV)
- サンプリング周波数は48/96/192kHz、量子化ビット数24bit、チャンネル数は7.1chサラウンド[6]が上限だが2008年現在、殆どのソフトウェアは5.1chサラウンドである。最高転送レートは27.4Mbpsで固定式(比較対象としてHD DVDでは5.1chサラウンド、13.5Mbpsが上限)。圧縮を行わない分、可逆圧縮音声であるドルビーTrueHDやDTS-HDマスターオーディオと比べて計算(エンコード・デコード)は簡単になるが、無論使用帯域は増える事になる[1][2]。再生には、リニアPCMでのサラウンド出力に対応したBDプレーヤーと再生に対応したAVアンプのHDMI端子ケーブルでの接続が必須となる。その為DVDプレーヤーで一般的であった光デジタル音声端子ケーブルでのリニアPCM音声出力は、2chステレオまでとなる。なお、PlayStation 3では、システムソフトウェアバージョン3.30より搭載された音声出力設定、『ビットストリーム(ミックス)』機能を使うことで、リニアPCMで収録されたサラウンド音声をDTS、またはドルビーデジタルのサラウンド音声にダウンコンバートし、この二つの規格の内いずれかが再生可能な機器であれば、光デジタル音声端子ケーブルで接続した機器でもサラウンドを再生させることが可能になっている(一度PCMに変換しているため音声は劣化する)。
- PlayStation 3用ゲームソフト
- 最高で7.1ch (48kHz/16bit) にまで対応している。最近のPS3用ソフトはリニアPCM5.1chとドルビーデジタル5.1chのサウンドを収録したものが多く、規格上マルチチャンネルサラウンドにおいてはドルビーデジタル5.1chにしか対応していないXbox 360用ソフトに対するアドバンテージとなっている。7.1ch収録のものは特にサウンド面にこだわったソフトの場合が多く、その多くはSCE製品であることが多い。
- Xbox 360用ゲームソフト
- 最高で2chステレオにまで対応している。ドルビーデジタル5.1chでゲームサウンドを収録していないXbox 360用ソフトは、全てリニアPCM2chでのサウンド収録であると推察される。ドルビーデジタル2chである可能性は低い。
ノイズと歪み
サンプリングノイズ
標本化雑音。周波数スペクトルで見るとサンプリング周波数の半分(ナイキスト周波数と言う)のところを折り目にして折り返したように現れることから折り返し雑音とも言う。
標本化定理により、最低でも音声に含まれる最も高い周波数成分の2倍以上のサンプリング周波数を持たない限り、高音の信号が「折り返され」て、偽信号として現れる。このため、サンプリング周波数はより高いほどより高音を再現できる。
また、再生時には同様にして、原信号を折り返したような偽信号があらわれ、ノイズとなる。サンプリング周波数をより高くしてデジタルフィルタを掛けることで、ノイズを高周波数帯域に移動させ、偽信号による妨害を少なくすることが出来る。
量子化歪み
原理上、量子化によりアナログ量からデジタル値にする際の端数処理による誤差(量子化誤差という)のため歪み(量子化歪み)が発生する。また、これによる雑音を量子化雑音と言う。これを抑えるためには、量子化ビット数を増やす必要がある。
関連項目
脚注
テンプレート:Reflist- ↑ 沖村浩史・高橋清共著 『エレクトロニクス概論』 p.110、1991年
- ↑ マスキング効果ともヴェーバー‐フェヒナーの法則とも解釈できる
- ↑ 2008年現在、環境にも因るがCPU占有率1%未満
- ↑ X680x0の内蔵音源を駆使した高品位ステレオPCM再生
- ↑ S44PLAY.DOC
- ↑ 192kHz時のみ5.1chサラウンド