An-124 (航空機)
テンプレート:Infobox 航空機 An-124 ルスラーン(ウクライナ語:Ан-124 «Руслан»アーン・ストー・ドヴァーッツャチ・チョトィールィ・ルスラーン;ロシア語:Ан-124 «Руслан»アーン・ストー・ドヴァーッツァチ・チトゥィーリェ・ルスラーン)は、ソ連のアントノフ設計局(ОКБ имени О.К.Антонова 現在はウクライナのO・K・アントーノウ記念航空科学技術複合体(ANTKアントーノウ))が開発した量産された機体としては世界最大の輸送機である。
ウクライナやロシアでは前述したルスラーンの愛称で親しまれている一方、北大西洋条約機構(NATO)がつけたNATOコードネームはコンドル(Condor)であった。また、An-124をベースに開発された輸送機としてAn-225 ムリーヤがある。
目次
概要
機体設計
An-124は実用輸送機としては世界最大であり、その最大ペイロードは150t(民間向けのAn-124-100は120tに制限)にも及ぶ。主翼は軍用輸送機では一般的な高翼配置であるが、軍用ジェット輸送機としては珍しく水平尾翼はT字ではなく通常配置である。エンジンはターボファンエンジンを主翼下に4基搭載している。操縦装置は油圧バックアップを備えたフライ・バイ・ワイヤ方式で、機体構造には複合材が多用されている。
コックピットには6名の搭乗員(操縦士2名、航空機関士2名、航法士1名、通信士1名)が座り、その後部にある上部デッキには88人分の座席を取り付けられる。胴体の前後にカーゴドアを備えた貨物室には、重量物を扱うために3,000kg容量の2連ウインチと10,000kg容量の可動式クレーン2基を備える。貨物積み下ろし時に機首上げ/下げ姿勢が取れるように、主脚は脚柱を縮めることができる。
開発
ソ連は高バイパス比大出力ターボファンエンジンの開発が西側より遅れていた。1970年代後半にエンジンの開発が成功したことにより、アメリカのC-5ギャラクシー級を目指した大型輸送機の開発が行われるようになった。An-124はAn-22の後継機として開発され、前任機より大きな輸送力とより優れた飛行性能を持っていた。
初飛行は1982年。西側諸国へは1985年のパリ航空ショーで披露され、1986年にはアエロフロート航空などへの納入が開始された。1992年にはロシア連邦航空委員会がAn-124-100に民間形式証明を付与した。生産はソ連崩壊によって一時的に中断されたが、その後も低い生産率で生産が続けられ、1999年までに58機が生産されたと伝えられる。
2000年以降、ウクライナのキエフにあるアヴィアーント・キエフ国立航空機工場では既存のAn-124-100をAn-124-100M-150に近代化改修する作業が行われている。この型では西側製の新型電子機器を搭載し搭乗員を航法士と通信士を省いた4名に削減した他、120tに制限されていたペイロードも150tに戻された。他にもいくつか改修型が計画されており、その中にはエンジンを西側製のゼネラル・エレクトリック CF6に変更したAn-124-200というモデルも存在する。また、ロシアでは需要の増加を理由に今後An-124の改良型の新規生産を決定している。
運用
現在では旅客機ベースの輸送機では対応できない超大型貨物の運搬機としても活用されており、ソ連崩壊後は西側でもその大搭載量を利用したビジネスが活発である。超大型輸送機はあまり種類がないことから、一時は西側の航空会社でもイギリスのヘヴィーリフト航空などが運航していた時期があった。
日本では1999年に広島電鉄5000形電車(グリーンムーバー)の輸送や、2003年に自衛隊イラク派遣の物資輸送を請け負ったほか、2011年には福島第一原子力発電所事故における注水活動に使う70m級コンクリートポンプ車の輸送などの実績がある。また、不整地での優れた離着陸能力を生かし南極などへ物資を運ぶ際にも使用されている。その他、パキスタンへの国際緊急援助活動で、陸上自衛隊のCH-47を運搬[1]するなど、災害救助のためのヘリ輸送においても、その輸送能力が活用されている。
アメリカではNASAがロケットや人工衛星、国際宇宙ステーションのコンポーネント輸送に利用する他、アメリカ軍も物資輸送のためにチャーターすることがあり、日本国内の在日米軍基地への飛来も時折り観察されている。
- An-124 Ruslan.jpg
アントーノウ航空のAn-124-100
- Polet Airlines An-124 swallowing Emirates Airbus A380.jpg
エアバスA380(3分の1スケール模型)を輸送するAn-124
- An-123a.jpg
機首カーゴドアを開放した状態
- An124lift.jpg
後部カーゴドアからクレーンを使いコンテナを積み込む
愛称
愛称の「ルスラーン」は、アレクサンドル・プーシキンの書いた詩『ルスラーンとリュドミーラ』("Руслан и Людмила")や、それをもとにウクライナと関係の深いミハイル・グリンカが作曲をした同名の歌劇の主人公の名前が愛称の由来であるとも言われるらしいが、これらの作品の元になった昔話の主人公である騎士の名に由来を求める方が普通である。キエフ大公国時代を舞台とするこの説話では、悪魔にさらわれた大公の娘リュドミーラを助け出し、騎士ルスラーンは姫との結婚を勝ち取る。
なお、「ルスラーン」はウクライナ人やロシア人などの一般的な男性の名前で、トルコ語系の名前と言われており、ロシア語風に直すと「レフ」(Левリェーフ)となる。現代でも多く見られる名前であり「獅子」を意味する。一方、「リュドミーラ」(ウクライナ語では「リュドムィーラ」)は女性の名前で、スラヴ系の名前であり、「人々に愛される」などを意味する。こちらも、現代も多く見られる名前である。
要目
- 全幅:73.3m
- 全長:69.1m
- 全高:21.1m
- 空虚重量:175t
- 最大離陸重量:405t
- 最大積載量:150t
- エンジン:イーウチェンコ=プロフレース製 D-18T ターボファンエンジン(23,400kg)4基
- 運航乗務員:6名
- 搭乗者:88名
- 最大速度:865km/h
- 巡航速度:800km/h
- 最大上昇限界高度:12,000m
航続距離
An-124-100 | Аn-124-100М-150 | |
---|---|---|
0t | 15,000km | |
10t | 14,125km | |
20t | 13,250km | |
30t | 12,375km | |
40t | 11,500km | |
72t | 8,700km | |
90t | 7,125km | |
92t | 7,500km | |
97t | 6,495km | |
104t | 5,900km | |
108t | 5,550km | |
113t | 5,925km | |
120t | 4,500km | 5,400km |
122t | 5,200km | |
150t | 3,200km |
採用国
軍事用
民間用
現在、合計26機が民間用として運用されている。
運用航空会社 | 運用中 | 発注中 |
---|---|---|
テンプレート:Flagicon ヴォルガ・ドニエプル航空 | 10 | 5 |
テンプレート:Flagicon アントーノウ航空 | 7 | 0 |
テンプレート:Flagicon ポリョート航空 | 6 | 5 |
テンプレート:Flagicon リビア・アラブ・エア・カーゴ | 2 | 0 |
テンプレート:Flagicon アヴィアーント(アラブ首長国連邦政府が運用) | 1 | 0 |
派生型
- An-124
- 基本型。
- An-124-100
- 民間型。
- An-124-100M-150
- An-124-100の近代化改修型。
- An-124-102
- An-124-100M-150の搭乗員数を3名まで減らし、コックピットにEFISを導入した型。
- An-124-130
- An-124-135
- An-124-150
- An-124-200
- エンジンをゼネラル・エレクトリック CF6に変更した型。
- An-124-210
- エアバス A400M配備までの繋ぎとなる戦略輸送機を欲したイギリス空軍に提案された、ロールス・ロイス RB211エンジンとハネウェル製のアビオニクスを搭載した型。C-17AグローブマスターIIIに敗れ不採用。
登場作品
- 映画
関連項目
脚注
外部リンク
- 彼女は人工衛星を載せて飛んでいった ~巨大輸送機ルスラーンに人工衛星を積み込む一部始終に密着した12時間~ 現代ビジネス 2012年06月06日