防衛記念章

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テンプレート:Double image 防衛記念章(ぼうえいきねんしょう)とは、自衛官がその経歴を記念して制服に着用することができる徽章をいう。防衛記念章そのものは略綬ではないが、徽章の形態としては略綬式を採用している。狭義の勲章とは異なるもので、記念章従軍記章表彰歴章等に相当する、自衛官特有の栄誉である。常備自衛官以外の自衛隊員が同じ条件を満たしても防衛記念章を身につける事はできない(予備自衛官等は規定されていないため不可)。また、防衛記念章を着用した自衛官が退官し、予備自衛官等に任用した場合も現制度上着用する事はできないが人事書類にて記録されている。

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概要

ファイル:General Lord visiting Pacific 1.jpg
防衛記念章を着用した吉田正航空幕僚長(中央)と1等空佐(右)

勲章略綬類似の形状(長方形)をしており、大きさは横36ミリメートル、縦11ミリメートルである。略綬とは元々、勲章自体を身につけては華美に過ぎる場に於いて勲章に付属するリボンを折って代用としたものである。つまり、外国の軍人が胸に着ける略綬は勲章等(「勲章等着用規程」(昭和39年4月28日総理府告示第16号)第1条、第11条第1項4号)に付属するものであるのに対し、防衛記念章は略綬型のもの自体が章となっている。そのため、自衛官の間では「グリコのおまけ」とも呼ばれている[1]

防衛記念章の制式及び着用規定は防衛庁訓令昭和56年11月20日第43号(防衛記念章の制式等に関する訓令)により定められており、自衛官の服装のうち、常装、第1種礼装、第2種礼装及び通常礼装に着用することができるとされている。金属心の構造は同規定では定められていないが、販売されているものは記念章単体で着ける事が出来ない構造になっており、留めピン付きの連結金具に通して左胸ポケット上に着ける。なお自衛官が外国勲章を受章した場合、その略綬を防衛記念章と一緒に並べて着けられる。

着用手続きについて陸上自衛隊では、自衛官が着用資格(防衛庁訓令昭和56年11月20日第43号第2条各項)を得ると、部隊長が管理する「防衛記念章着用資格記録簿」にその旨が記載され、それに基づいて「防衛記念章着用資格証」が交付される。また、対象者が既に資格証を交付されている場合には、その資格証に追記される。そして、着用資格者は資格証を提示して防衛記念章を購入するように規定されている(「防衛記念章に関する事務手続について(通達)」(昭和57年2月9日陸幕人計第53号))。海上自衛隊も同様であるが、記録簿と資格証はそれぞれ「防衛記念章着用記録票(甲)(乙)」及び「防衛記念章着用資格通知書」と称される(「防衛記念章の着用手続等について(通達)」昭和57年2月20日海幕人第632号)。

また、隊員の士気の高揚及び魅力化対策の一環として、防衛記念章の一部は配付されており(例:「防衛記念章の配付要領について(通知)」平成3年7月26日海幕人第3645号)、その場合の調達は公募によって行われ、防衛省入札公告で「新規防衛記念章」が告知される[2]テンプレート:-

授与に関しては着用資格を元に中隊長以上の部隊長による裁量[3]で表彰者が決定し、主として定期表彰の他に災害派遣等の功績の場合は派遣終了し部隊が恒常勤務に移行した後に適当な期日をもって表彰式が行われる。受賞者は当該期の勤勉手当の判定が比較的優先して良く判定される傾向にある。

また、授与を行う部隊長の役職と階級によっても授与される賞詞の区分は規定によって定められている[4]

沿革

創設時の自衛隊には旧軍経験者が在籍しており、戦前に受章した勲章・記章の略綬を着用する者もいたが、戦後の叙勲基準では自衛官が現職の間に叙勲されることが無くなり、従軍記章や記念章も発行されることが無くなったため、旧軍の軍歴が無い当時(昭和57年)の現職自衛官は勲章や略綬を正当な権原をもって[注 1]着用できる場合がほとんど無くなっていた[注 2]。他方、他国の軍人は制服に多数の勲章類を保持しており、特に米軍では記念章・従軍記章が数多く制定されているため、常装には大量の略綬を着用している。そのため、外国軍人との外見上の均衡をとるという必要性もあり、1982年(昭和57年)4月1日に防衛記念章制度が設けられた。

制定当初は15種類だったが、その後種類が増加している。特に、自衛隊の活動領域が狭かった昭和時代には「防衛記念章の制式等に関する訓令」の改正はわずかに3回しか行われていないが、平成に入り自衛隊の活動領域が飛躍的に拡大すると共に、同訓令は平成元年から平成10年末までの間に8回も改正が行われ、授与対象が拡大(平成23年9月の改正時点で41種類の防衛記念章が存在)している。

外国との均衡

ファイル:Peter Pace in dress uniform 2005.jpg
アメリカ海兵隊の将官(ピーター・ペース海兵隊大将)。略綬状のユニットアワード(右胸)と勲章(左胸)を併用している。

防衛記念章はメダル本体は制定されておらず略綬状のものしか制定されていない。外国軍隊の記念章に於けるリボンのみの例としては、アメリカ軍のユニットアワード (Unit Award) やユニットサイテーション (Unit Citation) があるが、何れも部隊表彰を受けた部隊の隊員が着用するものであり、個人が受章した勲章・記章とは着用の位置やTPO等の扱いが異なる。

日本以外の国々では、正章と略綬を服装によって使い分けるのが普通であり、外国軍人との均衡を失すると指摘されている[注 3]。特に、メスジャケット着用時にはリボンを着用しないのが普通であり、ユニットアワードもフルサイズの勲章類を着用する際は併用できるが、ミニチュアメダルとの併用はできないため[7]、メスジャケット着用時には着用しない。メスジャケット着用時には着用する勲章類はミニチュアメダルとされている[8][9]。そのため自衛官も、制度上は着用できることになってはいるが(防衛庁訓令昭和56年11月20日第43号第6条)、第2種礼装時には防衛記念章を着用しないのが通例となっている[10]。但し、アメリカ陸軍ではドレスコードがブラックタイの服装でも、サービスジャケットを使用する場合(陸上自衛隊の旧第2種礼装に相当)、現役将兵は略綬を着用出来る[11]一方、海軍はこの場合もミニチュアメダルを使用するので[12]、略綬は併用できない。

着用資格者

ファイル:防衛記念章.JPG
JTF-TH派遣任務に従事した隊員に授与された第18号と第36号防衛記念章

「防衛記念章の制式等に関する訓令」第2条により、以下の自衛官が着用できる。

  1. 賞詞を授与された自衛官
  2. 表彰を受けた部隊等(防衛大学校防衛医科大学校防衛研究所技術研究本部若しくは装備施設本部自衛隊の部隊若しくは機関又は装備施設本部の地方支分部局)において当該表彰に係る業務に従事した自衛官
  3. 部隊の長の職その他の防衛大臣の定める職にあった自衛官
  4. 内部部局等(防衛省本省内部部局、統合幕僚監部(旧統合幕僚会議及び同事務局)及び情報本部陸上幕僚監部海上幕僚監部航空幕僚監部、技術研究本部、装備施設本部、防衛監察本部)に勤務した自衛官
  5. 長期間勤務した自衛官(永年勤続章受章者)
  6. 在外公館に勤務し、又は有償援助による調達に関する業務その他の外国において行う業務に従事した自衛官
  7. 外国において行う訓練又は南極地域への輸送に関する業務に従事した自衛官
  8. 国際貢献に関する業務に従事した自衛官
  9. 国の行事又は自衛隊法施行令第126条の12に規定する運動競技会協力業務に従事した自衛官

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種類

防衛記念章には以下のものが定められている(「防衛記念章の制式等に関する訓令」第4条別表第2)。なお、太字の号数は訓令上は存在するが、現在は授与されることのない記念章であることを示す(授与対象となる組織の廃止、または活動の終結のため)。

また、特別賞詞及び第1級から第3級までの賞詞を受賞した者は併せて防衛功労章が授与される。特別賞詞(第1号防衛記念章)受賞者は現在まで一人もおらず、第1級賞詞(第2号防衛記念賞)及び第2級賞詞(第3号防衛記念賞)は顕著な功績のあった少数の者に授与されている。例えば、現役自衛官でオリンピックの金メダリストになった者には第1級賞詞が、銀・銅メダリストになった者には第2級賞詞が授与されている。

着用は号数の順にし、通常横1列に対し3種類(女子である自衛官については2種類)を着用する(「防衛記念章の制式等に関する訓令」第6条附図)。

種類 着用者
70px 第1号 特別賞詞受賞者
70px 第2号 第1級賞詞受賞者
70px 第3号 第2級賞詞受賞者
70px 第4号 自衛隊法(昭和29年法律第165号)第6章に規定する自衛隊の行動防衛出動治安出動災害派遣など各種の出動)に参加し、又は航空救難、警戒監視その他の防衛大臣の定める業務に従事した功績により、第3級賞詞を授与された者
70px 第5号 航空機及び車両操縦において定められた飛行時間又は走行距離以上無事故であった者若しくは縁故募集により隊務運営に功績があったとして第3級賞詞を授与された者
70px 第6号 技術上優秀な発明考案をした者または業務改善を行ったことにより隊務運営に功績があったとして第3級賞詞を授与された者
70px 第7号 通常の訓練・演習等において功績があり、第3級賞詞を授与された者
70px 第8号 自衛隊法第6章に規定する自衛隊の行動に参加し、又は航空救難、警戒監視その他の防衛大臣の定める業務に従事した功績により、第4級賞詞を授与された者
70px 第9号 航空機及び車両操縦において定められた飛行時間又は走行距離以上無事故であった者若しくは縁故募集により隊務運営に功績があったとして第4級賞詞を授与された者
70px 第10号 技術上優秀な発明考案をした者または業務改善を行ったことにより隊務運営に功績があったとして第4級賞詞を授与された者
70px 第11号 通常の訓練・演習等において功績があり、第4級賞詞を授与された者
70px 第12号 自衛隊法第6章に規定する自衛隊の行動に参加し、又は航空救難、警戒監視その他の防衛大臣の定める業務に従事した功績により、第5級賞詞を授与された者
70px 第13号 航空機及び車両操縦において定められた飛行時間又は走行距離以上無事故であった者若しくは縁故募集により隊務運営に功績があったとして第5級賞詞を授与された者
70px 第14号 技術上優秀な発明考案をした者または業務改善を行ったことにより隊務運営に功績があったとして第5級賞詞を授与された者
70px 第15号 通常の訓練・演習等において功績があり、第5級賞詞を授与された者
70px 第16号 安全功労者表彰又は防災功労者表彰を受けた部隊等において当該表彰に係る業務に従事した者
70px 第17号 特別賞状受賞に係る業務従事者[13]
70px 第18号 第1級賞状受賞に係る業務従事者:雲仙普賢岳土石流災害・ナホトカ号重油流出事故新潟県中越地震等の大規模災害において派遣行動を命ぜられ、当該任務に従事・もしくはこれらを支援した部隊等の隊員に授与
70px 第19号 部隊等の長()の経験者
70px 第20号 部隊等の長(将補)の経験者
70px 第21号 部隊等の長(1佐)の経験者
70px 第22号 部隊等の長(2佐3佐)の経験者
70px 第23号 部隊等の長(尉官)の経験者
70px 第24号 防衛省(旧防衛庁)内部部局勤務経験者
70px 第25号 統合幕僚監部統合幕僚学校を除く)に勤務した者のうち防衛大臣が別に定める者(平成18年3月、第27号に代わって制定)
70px 第26号 陸上・海上・航空幕僚監部勤務者
70px 第27号 旧統合幕僚会議事務局及び情報本部勤務者
70px 第28号 統合運用体制移行後の情報本部に勤務した者のうち防衛大臣が別に定める者(平成18年3月、第27号に代わって制定)
70px 第29号 技術研究本部勤務者(平成21年6月制定)
70px 第30号 装備施設本部(旧:調達実施本部、契約本部、装備本部の勤務歴を有する者を含む)に勤務した者。平成21年6月制定。
70px 第31号 防衛監察本部勤務者(平成21年6月制定)
70px 第32号 25年勤続者 通称「緑のたぬき」[14]
70px 第33号 10年勤続者 通称「赤いきつね」[15]
70px 第34号 外国勤務経験者:在外公館に勤務(防衛駐在官など)し、又は有償援助による調達に関する業務その他の外国において行う業務に従事した者のうち防衛大臣が別に定める者
70px 第35号 ソマリア沖海賊の対策部隊派遣に関する業務従事者:2009年3月に発令された海上警備行動及び海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律(平成21年6月24日法律第55号)に基づく対応措置に従事した者。2009年12月制定。
70px 第36号 大規模災害派遣(災統合任務部隊)従事者:東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故に伴う災害派遣に従事した者のうち、防衛大臣が別に定める者(2011年12月に防衛記念章の制式等に関する訓令を改正し制定、同年10月の入札公告で告知された記念章)
70px 第37号 国際貢献に関する業務従事者:外国において行う国際貢献に関する業務(第37号及び第38号の項に掲げるものを除く。)に従事した者のうち防衛大臣が別に定める者(自衛隊ペルシャ湾派遣を契機に設けられた。UNDOF部隊や国際緊急援助隊要員として出動した者などが授与対象)
70px 第38号 自衛隊インド洋派遣従事者:平成13年9月11日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法(平成13年法律第113号(テロ対策特別措置法)及び新テロ特措法に基づく対応措置に従事した者)
70px 第39号 イラク人道復興支援活動従事者:イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法(平成15年法律第137号、通称「イラク特措法」)に基づく対応措置に従事した者)
70px 第40号 国家行事に関する業務従事者:昭和天皇大喪の礼及び今上天皇即位の礼オリンピック競技大会及び2002 FIFAワールドカップサッカー大会、北海道洞爺湖サミットに関する業務に従事した者のうち防衛大臣が別に定める者
70px 第41号 外国訓練等従事者:外国において行う訓練又は南極地域への輸送に関する業務に従事した者のうち防衛大臣が別に定める者(砕氷艦しらせ同ふじ乗組員及び各種遠洋実習航海参加者、陸上・航空自衛隊の米国実射訓練参加隊員などが授与対象。)

複数受賞

同種類の防衛記念章を複数個着用できる者は以下の要領に従い、当該記念章の中央に金又は銀色の桜花をつける。2009年の改定以前は同種類の記念章を複数着用する際は、2個の場合は銀色の桜花を1個、3個以上の場合は金色の桜花を1個であった。つまり4個以上着用できても金色の桜花1個であり、3個の者との見分けがつかなかった。かつては同じ記念章を4個以上着用する者は稀であったが、近年は自衛隊の活躍と共に記念章を受賞する機会が多くなり、時代に合わせて改定したと考えられる。

特筆される複数受賞者として、オリンピック金メダリストの三宅義信小原日登美を挙げることができ、この2名のみが第2号防衛記念章(第1級賞詞)を2度受賞している[16]

  • 2個の場合は銀色の桜花を1個
  • 3個の場合は金色の桜花を1個
  • 4個の場合は銀色の桜花を2個
  • 5個以上の場合は金色の桜花を2個

注釈

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脚注

  1. 『MAMOR』Vol. 26
  2. 例:平成23年10月18日付防衛省公告入札公告(新規防衛記念章)防衛省HP、2012年1月17日閲覧
  3. これは非常に曖昧であり、功績が認められての表彰と勤務年数が長期間による事の慰労といった側面の他に定期異動等の転属時に該当者へ授与される事が多く、功績の場合はオリンピックや各種戦技競技会・検閲や災害派遣等における活躍を元に選定される。銃剣道や持続走等の戦技競技会参加者への授与は特段の功績ではなく戦技の教官からの推薦で授与される事も多く、必ずしも大会等で優秀な成績を収めた事への報償とは限らない。また後者の場合は長期間臨時勤務を行った隊員へ勤務間の慰労と感謝を込めて授与する(俗にいうおまけのような扱い)事例や、一定期間部隊で勤務し定期異動で転属する隊員への餞別代わりとして賞詞を授与する傾向が現在でも続いている他に、部隊長等の補佐やドライバー業務・伝令業務等の功績により授与される事もあることから、授与された隊員が必ずしも優秀である事の証明にはならずあくまでも勤務や活動への慰労・表彰が主体である
  4. 3佐または1尉が指揮官の部隊長からの授与は5級、連隊長・大隊長等による部隊長からの授与は4級または5級、師団・旅団長等からの授与は3級~5級、方面総監等は2級を基準に授与となり、陸上幕僚長からの授与は1級または2級、防衛大臣からの授与は特別賞詞または1級となっている。基本的に方面規模での活動への表彰は最低でも3級賞詞。陸上幕僚監部または防衛省を所轄とする活動を元に大臣または陸幕長からの授与は特別賞詞または1級の賞詞がそれぞれ授与される傾向がある
  5. 自衛隊1982
  6. 『MAMOR』vol.38 p50
  7. Army Regulation 670-1 Chapter 29-11(陸軍の場合)
  8. Army Regulation 670-1 Chapter 24-12b 他(陸軍)
  9. UNITED STATES NAVY UNIFORM REGULATIONS Article 3201 - 3212 他(海軍)
  10. 『MAMOR』(扶桑社)各号の「Air Mail」参照。
  11. Army Regulation 670-1 Chapter 20-10(12) 他。
  12. UNITED STATES NAVY UNIFORM REGULATIONS Article 3207 - 3212 他。
  13. 2012年8月現在装着要件を満たしている者はペルシャ湾掃海派遣部隊イラク人道復興支援活動及び南スーダン国際平和協力隊第1次隊(自衛隊南スーダン派遣)のいずれかに参加した者
  14. 『MAMOR』Vol. 26
  15. 『MAMOR』Vol. 26
  16. レスリング金の小原&米満が自衛隊名誉賞 ニッカンスポーツ 2012年8月28日

参考資料

関連項目

外部リンク

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