道化師 (オペラ)

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テンプレート:Portal クラシック音楽道化師』(どうけし)は、ルッジェーロ・レオンカヴァッロが作曲、1892年に初演された全2幕からなるオペラである。マスカーニ作曲の「カヴァレリア・ルスティカーナ」と並んで、ヴェリズモ・オペラの代表作として名高い。

作曲の経緯

マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」の成功(1890年)を目の当たりにしたレオンカヴァッロが、自ら台本を書いて短期間で作曲を完成したもの。なおこのプロットは、1865年5月にカラブリア州モンタルトで発生し、判事だったレオンカヴァッロの父が裁判を担当した実在の事件にヒントを得たというのが作曲者の主張である。

しかし今日の詳細な研究では、作曲者8歳時の同事件とオペラの筋書にはそれほどの共通点は見出せず、むしろ作曲者はフランスの劇作家カテュル・マンデスの戯曲『タバランの妻』(La Femme de Tabarin, 1887年パリ初演)、あるいはスペインの劇作家マヌエル・タマーヨ・イ・バウスの劇『新演劇』(Un Drama Nuevo, 1867年マドリッド初演)からの翻案を行ったのではないかとの説が有力になってきている。

なお、レオンカヴァッロはこの作品をソンゾーニョ社が行ったソンゾーニョ・コンクール(第3回)に応募した。しかし作品は2幕物で、コンクール作品の条件のひとつに1幕物のオペラであることがあったため、当然のことながら失格となってしまった。だが、ソンゾーニョ社の社長の目にとまり、アルトゥーロ・トスカニーニの指揮で初演されて大成功をおさめ、今日ではヴェリズモ・オペラの代表作のひとつとなっている。

主な登場人物

  • カニオ(劇中ではパリアッチョ) 旅回り一座の座長(テノール
  • ネッダ(同コロンビーナ) 女優でカニオの妻(ソプラノ
  • トニオ(同タッデーオ) せむしの道化役者(バリトン
  • ベッペ(同アルレッキーノ) 色男役者(テノール
  • 合唱

舞台構成

全2幕

  • 前奏曲とプロローグ
  • 第1幕 村はずれの路上
  • 第2幕 第1幕と同じ

あらすじ

時と場所 1865年頃、南イタリア・カラブリア地方のモンタルト村。8月15日の聖母被昇天祭日の午後に始まり、同夜までの出来事。

力強い前奏曲に続いて、まだ下りた幕間から舞台で用いる仮面を付けたトニオが登場。舞台の上では道化を演じる我々役者もまた血肉をもち、愛憎を重ねる人間であり、それを想った作曲者は涙してこの曲を作ったのだ、云々との前口上(プロローグ)を述べる。

第1幕: 祭日ということで着飾った村人たちが待ち焦がれる旅回りの一座が、座長カニオを先頭にやってくる。カニオは「今晩23時から! 忘れずに芝居を観に来てくれ」と宣伝し、ベッペや村の男たちと居酒屋に繰り出す。他の村人たちは教会の礼拝に向かい、独り残った若いネッダは自由な生活への憧憬を歌う。物陰に潜んでいたせむしのトニオがかねて想いを寄せていたネッダに言い寄るが、手ひどく鞭で打たれ、逃げ出す。入れ違いに村の青年シルヴィオが現れる。実はネッダとシルヴィオは相思相愛の仲で、一座がこの村に寄るたび、逢瀬を重ねていた。2人は駆け落ちの相談を始める。それを発見したトニオは、仕返しの好機とばかりにカニオを呼んでくる。ネッダがシルヴィオに「今夜からずっと、あたしはあんたのもの」と言うのを聞いてカニオはついに逆上、シルヴィオは慌てて逃げ出し、ネッダは情夫の名をカニオに明かすのを拒む。大騒ぎを聞きつけてベッペも戻ってきてカニオを鎮め、芝居の仕度を促す。カニオは、怒りも悲しみも隠して道化芝居を演じ、客を笑わせなければならない役者の悲しみを歌う。

美しい間奏曲に続いて第2幕: 村人がお待ちかねの芝居が始まる。ネッダ扮するコロンビーナが恋人アルレッキーノを待ちわびているところへ、下男タッデーオが現れ言い寄るが、あっけなく蹴り飛ばされ退場。アルレッキーノとコロンビーナがやっと逢引を始めるところに、タッデーオが「パリアッチョが帰ってきた!」と急を告げる。パリアッチョを演ずるカニオは、コロンビーナが逃げ出すアルレッキーノに向かって「今夜からずっと、あたしはあんたのもの」と言うのを聞いて、それが先ほどの現実世界と同じ台詞であることに混乱し、芝居と現実との見境がつかなくなっていく。「情夫の名を言え。おれはもう道化師ではない」と叫ぶカニオの迫真の演技に、村人は拍手喝采する。ネッダは危険を悟り逃げ出そうとするが、カニオは彼女を刺殺し、ネッダを助けようと舞台に上がってきたシルヴィオもまたカニオに殺される。村人たちが大混乱の中、カニオは「芝居はこれでおしまいです」とつぶやいて、幕。

注記

  • 「芝居はこれでおしまいです」"La commedia è finita."の部分は、トニオが歌うのが本来の原曲の形だったが、今日ではカニオが台詞として語るのが一般的な上演形態になっている。
  • また、トニオが歌うべきプロローグを、カニオに歌わせる演出も稀にある。
  • このオペラ自身の上演時間が短いこと、場面転換の必要がないことなどもあって、ヴェリズモ・オペラのもう一つの代表作「カヴァレリア・ルスティカーナ」と合わせて一晩で上演することも多い(LPレコードの時代はそれぞれ1枚半を費やして3枚組で発売されることも多かった)。これをオペラ界の隠語で"Cav and Pag"と呼ぶ。しかし、「カヴァレリア」のトゥリッドゥと「道化師」のカニオを一人で歌いきるのはテノールにとってかなりの重労働であるのも事実である。
  • 座長カニオが舞台の始まりを「今晩23時から」と言っているが、午後11時のことではない。原文は確かに「23時」"A ventitre ore"になっているが、当時の南イタリアでは日没(の祈り)を1日の終わりとする習慣があったため、その1時間前をさしており、劇中の時期からいって午後7時頃になる。

著名なアリア

参考文献

  • アッティラ・チャンバイ+ティートマル・ホラント(編)『カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師(名作オペラブックス27)』 音楽之友社 (ISBN 4-2763-7527-4)