補助翼

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ファイル:Aileron roll.gif
補助翼による機体のバンク

補助翼 (ほじょよく、テンプレート:Lang-en-short) とは飛行機バンク(横転、ロール)させるのに使う動翼である。エルロンと表記することも多い。補助翼は機体の前後軸を中心とした回転運動を制御する。

概要

ファイル:Circuitous flying balance.png
旋回飛行時での機体に掛かる力の釣り合い。
Lが旋回飛行時の揚力、θは機体の傾き(バンク)角度、Lcosθが旋回飛行時の揚力の垂直分力、Lsinθが旋回飛行時の揚力の水平分力、Fが遠心力、Wが重力。

主翼と尾翼を備えた一般的な形状の飛行機では、主翼の後縁の外側に取付けられており、飛行機のヨー軸周りのロ-リング飛行を行う際や旋回を行う際に使用される。

飛行機が機体を右に傾けたい場合には、以下の操作により行う。

  1. 操縦輪を時計回りに回転させるか、操縦桿を右に倒す。
  2. 左翼の補助翼の後縁側が下がる。同時に、右翼の補助翼の後縁側が上がる。
  3. 左翼の揚力が増加し、右翼の揚力が減少する。
  4. 重心まわりに、機体後方から見て(機体を前後に貫くロール軸について)右回りのモーメントが発生し、機体が右へ傾く。

旋回飛行の場合

補助翼を用いて定常の旋回飛行を行う際での機体に掛かる力の釣り合いの図を使用して説明する。機体がバンクした場合、揚力の鉛直分力Lcosθと揚力の水平分力Lsinθが発生する。その後に方向舵(ラダー)を操作してヨー軸周りの旋回を行なうが、もしラダー操作を行なわないと、水平方向の分力により、バンクした側に横滑り(スリップする、スベるなどと称する)を起こす。バンクによるスリップをうまくラダー操作で打ち消すと、揚力の鉛直分力Lcosθと重力W、揚力の水平分力Lsinθと遠心力Fが共に釣り合い、横滑りが発生しない定常旋回となる。旋回飛行時には、遠心力が発生するため、機体に加速度が加わっており、その程度を表すものとして荷重倍数を用いている。荷重倍数はバンク角に比例して大きくなるため、搭乗者にとっては重力が増加したようにしか感じられず、横向きの力(遠心力)などは感じない(ただしバンクが深くなるとこの垂直Gの増加は著しく増え、60度バンクでは2G = 地上などで安静時の2倍)。また、バンクにより機体の揚力が減少するため、旋回飛行時の失速速度は、水平飛行時よりも大きく、通常の水平旋回では、それを補うために機首上げ(ピッチ軸周りに機首上方向回転)およびパワー増加操作を行なうと、sin(バンク角)×sin(ピッチ角)だけのヨー軸周り右旋回のモーメントが発生する。

他の動翼との複合

一般的に補助翼は独立した動翼だが、一部の飛行機では他の動翼の役割を兼ねているものがある。

  • 補助翼(エルロン)とフラップを兼ねたものはフラッペロンと呼ばれる。
  • デルタ翼機などの水平尾翼を持たない飛行機で、補助翼と昇降舵(エレベーター)を兼ねたものはエレボンと呼ばれる。
  • 水平尾翼を持つ飛行機で、昇降舵を左右独立して動かすことにより補助翼としての働きを持たせたものはテイルロンと呼ばれる。テイル(尾翼)とエルロンを組み合わせた造語。
  • スポイラーを左右独立して動かすことにより補助翼としての働きを持たせたものはスポイエロンと呼ばれる。

前二者は元になる2種類の動翼が同じ場所にあるため兼用とされたものだが、後二者は後述する操縦性の問題を解消するために採用される。

アドバース・ヨー

バンク時、誘導抗力差により、旋回したい向きと逆に機首が振られる現象。すなわち、上記右バンクの例では左翼の揚力が増加すると同時に誘導抗力も増加するが、反対側の右翼では揚力の減少に伴い誘導抗力が減少する。このことにより反旋回側へのヨーが発生する。この場合スポイエロンを使用すれば、右のスポイラーだけを展開することにより右翼の揚力減少で右バンクすると同時に右翼の抗力増大で旋回側へのヨーを発生させることができる。

エルロン・リバーサル

補助翼の操作によって主翼がねじれてしまい、結果として意図した方向とは逆に機体がバンク(ロール)してしまう現象のこと。薄くて細長い主翼を持った機体が高速で飛行した場合に起こりやすいとされる。

主翼の内側に高速用の補助翼を用意したり、テイルロンやスポイエロンを装備するなどの対策をとる機体が多い。 主翼に後退角を与えることによっても緩和できるが、この目的で後退角を与える事例は少ない。

関連項目