線型微分方程式

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線型微分方程式(せんけいびぶんほうていしき、linear differential equation)は、微分を用いた線型作用素(線型微分作用素D と未知関数 y と既知関数 b を用いて

Dy = b

の形に書かれる微分方程式のこと。線形等の用字・表記の揺れについては線型性を参照。

概要

線型微分方程式

Dy = b

は、b ≠ 0 の時、2 つの解 y1, y2 を任意に取り、その差 z = y1y2 を考えると、 D が線型作用素であることから

Dz = D y1D y2 = bb = 0

となり、b = 0 の場合に帰着される。y1 = z + y2 であることを考えれば Dy = b の全ての解は Dy = b の解のうちの 1 つ(特殊解と呼ばれる)と

Dy = 0(斉次方程式という)

の解の和となる。したがって、線型微分方程式を解くことは特殊解を 1 つ見つける問題と、斉次方程式を解く問題に分けることができる。また、D が線型作用素であることから、斉次方程式の解は線型性を持ち、解同士の和や、解の定数倍も解になる。

関数の代わりに数列を(同時に、微分の代わりに差分を)考えると、類似の概念として漸化式(差分方程式)を捉えることができる(離散化)。線型差分方程式と線型微分方程式の間で、特性方程式を用いる解法など、いくつかの手法を共通に用いることができる。

定義

高階単独型

x の関数 y の高階微分 diy/dxi および、可微分関数 ai(x) (1 ≤ in), b(x) により

<math>\frac{d^n y}{dx^n} + a_{n-1}(x)\frac{d^{n-1}y}{dx^{n-1}} + \cdots + a_1(x)y = b(x)</math>

で表される微分方程式を単独高階型の線型微分方程式という。b = 0 であるとき斉次であるといい、

<math>\frac{d^n y}{dx^n} + a_{n-1}(x)\frac{d^{n-1}y}{dx^{n-1}} + \cdots + a_1(x)y = 0</math>

をもとの方程式に属する斉次方程式という。

微分作用素 f(d /dx) を

<math>f(d/dx) = \frac{d^n}{dx^n} + a_{n-1}(x)\frac{d^{n-1}}{dx^{n-1}} + \cdots + a_1(x)</math>

で定めると、未知関数 y への作用 f(d /dx)yy に関して線型性をもつ。

1 階連立型

各成分が変数 x の(適当な階数の)可微分関数である n 次元縦ベクトル y(x), m 次元縦ベクトル b(x) および m × n 行列 A(x) に対し、

<math>\frac{d\mathbf{y}}{dx} = A(x)\mathbf{y} + \mathbf{b}</math>

で定義される微分方程式(系)を A(x) を係数行列とする 1 階連立型線型微分方程式などとよぶ。 b(x) = 0 (for all x) であるとき、斉次(または同次)であるといい、

<math>\frac{d\mathbf{y}}{dx} = A(x)\mathbf{y}</math>

をもとの方程式に属する斉次方程式という。右辺の A(x)yy に関して線型性を持つ。

高階単独型線型微分方程式は、変換

<math>y_i := \frac{d^{i-1}y}{dx^{i-1}}</math>

(i = 1, 2, ..., n) により 1 階連立型の微分方程式に変形できる。

解と解空間

基本解

斉次形の線型微分方程式に対し、関数の集合 B = {y1(x), y2(x), ..., yn(x)} がその微分方程式の解空間の基底となるならば、B に属する関数 yj(x) (j = 1, 2, ..., n) のことを、その微分方程式の基本解という。つまり、斉次形の線型微分方程式の一般解は基本解の線型結合の形ですべて得られる。また、一般の線型微分方程式では、その方程式の 1 つの特殊解と、その方程式に属する斉次方程式の一般解(つまり基本解の線型結合)の線型結合が一般解を与える。(これが、これらの微分方程式が「線形微分方程式」と呼ばれる理由である。)

ロンスキーの行列式

斉次方程式の解としていくつかの関数が得られたとき、とくに係数行列のサイズが n × n で、n 個の解 y1(x), y2(x), ..., yn(x) が得られたとき、それが基本解であるかどうかは次の行列式

<math> W(x) = \begin{vmatrix}
 y_{11}(x) & y_{12}(x) & \cdots & y_{1n}(x) \\
 y_{21}(x) & y_{22}(x) & \cdots & y_{2n}(x) \\
  \vdots   &  \vdots   & \ddots &  \vdots   \\ 
 y_{n1}(x) & y_{n2}(x) & \cdots & y_{nn}(x) 

\end{vmatrix}\quad (\mathbf{y}_j(x) = \begin{pmatrix}

 y_{1j}(x) \\ y_{2j}(x) \\ \vdots \\ y_{nj}(x)

\end{pmatrix}) </math> が常に 0 でないことを確認することによって判定できる(実際には任意の 1 点で 0 でないといえば十分である)。

また、単独高階型の場合には、既に述べた方法でこれを 1 階連立型に帰着すると、解は yj = (yj, dyj /dx, ..., dn-1yj /dxn-1) の形で出てくるから、上の行列式は次のように書き換えられる:

<math> W(x) = \begin{vmatrix}
 y_1 & y_2 & \cdots & y_n \\[5pt]
 \cfrac{dy_1}{dx} & \cfrac{dy_2}{dx} & \cdots & \cfrac{dy_n}{dx} \\[5pt]
  \vdots   &  \vdots   & \ddots &  \vdots   \\[3pt] 
 \cfrac{d^{n-1} y_1}{dx^{n-1}} & \cfrac{d^{n-1} y_2}{dx^{n-1}} & \cdots & \cfrac{d^{n-1} y_n}{dx^{n-1}} 

\end{vmatrix}.</math> これをロンスキーの行列式またはロンスキアンという。

定数係数の斉次常微分方程式の解法

ak を既知の定数とする斉次線型常微分方程式

<math>\frac{d^n y}{dx^n} + a_{n-1}\frac{d^{n-1}y}{dx^{n-1}} + \cdots + a_0y = 0</math>

の左辺に対し、各 dky/dxktk に置き換えて得られる多項式

F(t) = tn + an-1tn-1 + … + a0

をこの常微分方程式の特性多項式、さらに代数方程式 F(t)=0 をこの常微分方程式の特性方程式という。

ω を F(t) = 0 の根(一般には複素数)とするとき、指数関数 exp(ωx) は dkexp(ωx)/dxk = ωkexp(ωx) を満たすから、

<math>
 F\left(\frac{d}{dx}\right){\rm exp}(\omega x) 
 = F(\omega){\rm exp}(\omega x) = 0

</math> となり、y = exp(ωx) はもとの常微分方程式の解である。ただし、多項式 f(t) に対し、f(d/dx) は tk のかわりに dk/dxk とおいて得られる微分作用素のこととする。

特性多項式 F(t) が重根を持たなければ、線型代数学でよく知られた事実により集合 {exp(ωx) | ω は F(t) の根} はもとの常微分方程式の解を生成する(つまり、基本解になる)。重根を持つならば xexp(ωx) などがさらに必要となる。

関数係数の斉次常微分方程式の解法

1960年以降の研究で,定数係数ではない関数係数[1] の斉次常微分方程式の解法が報告されている[2]

主に,求積法による解法が多く,2階線型常微分方程式をはじめ,多くの非線型常微分方程式がある[2]。 これらの中に,一般型をした陰関数型の常微分方程式があるので,この陰関数型の関数に線型の関数型を与えれば, 線型の常微分方程式が得られる.

以下に,求積法で解ける主な関数係数の2階線型常微分方程式の例を記述する[2]

求積法で解ける2階線型常微分方程式の例[注 1]
常微分方程式 一般解[2]
<math>\frac{{d}^2y}{{d}x^2}-xP(x)\frac{{d}y}{{d}x}+P(x)y=0</math> <math>y=x \Bigl\{C_1 +C_2 \int \frac{1}{\,x^2 \,}\exp \Bigl( \int\! x P(x) \,dx \Bigr)\, dx \Bigr\}</math>
<math>\frac{{d}^2y}{{d}x^2}+P(x)\frac{{d}y}{{d}x}-a(a+P(x))y=0</math> <math>y=e^{ax}\Bigl\{C_1 +C_2\! \int \exp \Bigl(\! -2ax -\!\! \int\! P(x)\,dx \Bigr)\, dx \Bigr\}</math>
<math>P(x)\frac{{d}^2 y}{{d}x^2}+(a+bx)\frac{{d}y}{{d}x}-by=0</math> <math>y= C_1\!\! \int \! \! \int \!\! \frac{1}{\,P(x)\,}\exp \Bigl(\! -\!\! \int \! \frac{\,a+bx\,}{P(x)}\,dx \Bigr)\, dx\, dx +C_2\Bigl(x+\frac{a}{\,b\,}\Bigr)</math>
<math>\frac{{d}^2y\,}{{d}x^2}-\left(\frac{1}{2P(x)}\cdot\frac{{d}P(x)}{{d}x}\right)\frac{{d}y}{{d}x}+P(x)y=0</math> <math>y=C_1\sin\left(\int\sqrt{P(x)}\,{d}x\right)+C_2\cos\left(\int\sqrt{P(x)}\,{d}x\right)</math>
<math>\frac{{d}^2y\,}{{d}x^2}-\left(\frac{1}{P(x)}\cdot\frac{{d}P(x)}{{d}x}\right)\frac{{d}y}{{d}x}-\left(P(x)\right)^2 y=0</math> <math>y=C_1\exp\left(\int P(x)\,{d}x\right)+C_2\exp\left(-\int P(x)\,{d}x\right)</math>
<math>x\frac{{d}^2 y\,}{{d}x^2}+(\alpha + \beta x)\frac{{d}y}{{d}x}+\beta y = 0</math> <math>y=x^{1-\alpha}e^{-\beta x} \left( C_1 \int{}x^{\alpha-2} e^{\beta x}\,{d}x + C_2 \right)</math>

注釈

  1. テンプレート:Mathテンプレート:Math および テンプレート:Mvarテンプレート:Math は定数で、テンプレート:Math積分定数である。ただし,テンプレート:Mathテンプレート:Mathテンプレート:Math


参考文献

  1. 日本数学会 『岩波・数学辞典・第4版』 2007年,岩波書店,ISBN 978-4-00-080309-0。
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 長島 隆廣『常微分方程式80余例とその厳密解』近代文芸社、2005年 ISBN 4-7733-7282-6.


関連項目


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