総合衛生管理製造過程

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総合衛生管理製造過程そうごうえいせいかんりせいぞうかてい、通称はマルソウ、マル総、丸総)は厚生省HACCPの考え方を取り入れてつくった食品の安全管理の認証制度である。

現在、容器包装詰加圧加熱殺菌食品(缶詰レトルト食品など)、魚肉練り製品かまぼこはんぺんなど)、乳製品清涼飲料水、食肉製品がこの認証項目となっている。

「総合衛生管理製造過程(HACCP)」という表記を見るがこれは誤りである。その理由としては、本来個々のラインの危害要因分析を行うべきところを、危害リストをあらかじめ固定して決め、それを危害要因とした点[1]及びHACCP で扱うのは安全性のみであるが品質[2]もハザードとした点、などが挙げられる。また、HACCP を行う前段階である一般衛生管理(いわゆる PRP[3], GMP[4] といわれる部分)までも含まれている「総合」的なものであるため欧米で行われているHACCP と比較すると非常に複雑であり、理解及び実践は難しい。このことから分かるようにHACCP の考え方が総合衛生管理製造過程の一部分に取り入れられているだけでありHACCP そのものではない。(実際に厚生労働省も総合衛生管理製造過程がHACCP であると説明していない、しかしその誤解を解く説明もしていない) 雪印乳業がこの認証を取得していながら大規模な食中毒雪印集団食中毒事件)を発生させたことからわかるように、この認証制度の効果は低い。

総合衛生管理製造過程が認証制度であるため、日本では「HACCP を取る」という表現がよくされているが、HACCP は認証を取るものではなく毎日行うものである。ただし、カナダではHACCP が認証制度であり、ISO 22000 もHACCP の考え方を含む認証制度であることから認証制度の是非には議論が必要である[5]

日本では「HACCP 対応工場」「HACCP 対応機器」などがあるが、海外では40年以上前に建築された工場でHACCP を行っており、これらがなくてもHACCP は可能だが、総合衛生管理製造過程では施設、設備なども管理項目に入っているためこれらのものが横行している。HACCP を行うのは施設や機器ではなく人である。もっともHACCP を行いやすい工場や機器というものは存在し、概して日本については中小企業が老朽施設で製造していることがほとんどであるため、現実問題としては、HACCP導入するにあたって施設・工程の改善は必要であるがこれはHACCP そのものではなく、その前段階のはなしである[6]

以上のことから総合衛生管理製造過程はHACCP の考え方を導入したシステムであるが、本来のHACCP からみると大きな逸脱した部分があることがわかる。

注釈

  1. ジェネリックモデル: 製品ごとに決まったハザードに対して決まった必須管理点を用いるジェネリックモデルと呼ばれる手法は、中小零細企業のHACCP 導入の第一歩として有効でありHACCP 普及には役に立つが、あくまで自ら危害要因分析とそれに基づく必須管理点の設定のできるようになるまでの暫定的なものである。
  2. 品質と安全 : 安全性は品質の中に含まれると考える人がいるが、実際は相反する場合も多く別のものと考える方がよい。海外では品質と安全は別部門で管理している場合がある(大規模な企業が多い)。HACCP を行うと品質が向上する場合もあるが、これは効率の良い管理を行った結果として生じた副産物でありHACCP で扱うものはあくまでも安全性である。(HACCP で扱うハザードはB (生物的)、C(化学的)、P(物理的)ハザードであるが、総合衛生管理製造過程のハザードにはQ(品質)というものが含まれている)
  3. PRP あるいはPP(Prerequisite program 前提条件プログラム) : HACCP を行う上で土台となる基礎的な管理プログラムであり「一般衛生管理」という言われ方をすることもある。ここでは前出のGMP に基づいた教育訓練や、清浄化・衛生化作業のプログラムなどの他にリコールプログラム、トレーサビリティー、品質管理なども管理項目に入れられる。また、HACCP はラインごとに計画するものだがPRP は工場全体で同じ計画を用いる。PRP とHACCP はお互いに影響しあうものだが、その性格が異なるため別々のプログラムで管理するものである。(これを同じプログラムで管理しているのが総合衛生管理製造過程)
  4. GMPGood Manufacturing Practice 適正製造基準):HACCP の前段階である前提条件プログラム (PRP) の中心となる基準。合衆国では法規制として定められている。GMP のありかたは国により多少異なり、カナダではGMP=PRP となっているが、合衆国ではGMP に基づきPRP を構築するものとされている。また医薬品の製造においては各国で必須として法制化されており、日本では薬事法による。
  5. 認証制度と法規制 : 認証制度に関しては「認証を受けた次の日から実行しない」ということが可能であり、認証制度には意味がないという批判がある。しかし認証は働いている人間にとっては励みになる側面もあり、また、正しいガイドラインがあればこれを遵守して、結果として認証が取れるのであれば認証制度自体は悪くないとする意見もある。しかし、認証を取得する事に主眼がおかれると、本来の目的である「消費者の安全を守る」という部分が見失われがちになる。また、合衆国のように法規制としてのHACCP を扱っている場合も「科学的な基準より法規制が優先される」という批判もある。しかし、合衆国においてはHACCP の法規制は国、企業、消費者にとってプラスであったとされている。
  6. HACCP と施設 : 本文中でも述べたが、海外では築40年以上の工場でHACCP を行い優れた製品を製造している現状がある。これらの工場では必要な部分を改修してあとは人的な方法(例えば洗浄のプログラムや搬入の手順、材料と製品や機器の配置の工夫など)で工場の衛生状態を保っている場合が多い。また、過度な施設の改修は企業にとって大きな金銭的な圧迫となり、結果として安全性にかける予算が不足するという本末転倒な状態が生まれかねない。そのため経営者には施設の改修と人的な力のバランスを上手く考えて資金を投入する感覚が要求される。蛇足ながら、現在あるHACCP 対応工場と呼ばれる施設が本当にHACCP を行うのに適しているかは定かではない事を付け加える。HACCP と施設について