粉塵爆発
粉塵爆発(ふんじんばくはつ、テンプレート:Lang-en-short、テンプレート:Lang-de-short)とは、ある一定の濃度の可燃性の粉塵が大気などの気体中に浮遊した状態で、火花などにより引火して爆発を起こす現象である。
概要
非常に微細な粉塵は体積に対する表面積の占める割合(比表面積)が大きい。そのため空気中で周りに十分な酸素が存在すれば、燃焼反応に敏感な状態になり、火気があれば爆発的に燃焼する。炭鉱で石炭粉末が起こす炭塵爆発がその代表例である。また小麦粉や砂糖、コーンスターチなど食品や、アルミニウム等の金属粉など、一般に可燃物・危険物とされていない物質でも爆発を引き起こし、穀物サイロや工場などが爆発・炎上する重大事故を引き起こす。
粉塵爆発の仕組み
ガソリンなど可燃性気体の発火・爆発に近い。粉塵爆発が起きるためには、粉塵雲、着火元、酸素の3条件が揃わなければならない。
粉塵爆発は空中に浮遊している粉塵が燃焼し、燃焼が継続して伝播していくことで起きるが、浮遊する粉塵の粒子間距離が開きすぎていると燃焼が伝播せず、逆に密度が濃すぎると燃焼するための十分な酸素が空間に無いため燃焼が継続できず、いずれの場合も爆発しない。爆発が伝播できる最低の密度を爆発下限濃度と呼び、燃焼が継続できる適度な隙間が開いている濃度を爆発上限濃度と呼ぶ。
爆発の危険性評価
爆発の危険性は、以下の特性値を基に判断される。
- 爆発発生特性
- 爆発下限濃度
- 爆発上限濃度
- 発火温度
- 最小着火エネルギー
- 爆発限界酸素濃度
- 爆発強度特性
- 爆発圧力
- 圧力上昇速度
- 火炎伝播速度
- 爆発跡ガス
発生状況
過去46年間の統計では、281件の事故が発生し、負傷者587人、死者110人が出ている(粉塵爆発火災対策より引用)。
種類 | 負傷者 | 死者 |
---|---|---|
石炭 | 41 | 7 |
金属 | 158 | 42 |
農産物 | 111 | 17 |
化学合成品 | 62 | 6 |
有機化学薬品 | 68 | 13 |
繊維 | 94 | 8 |
その他 | 25 | 7 |
粉塵爆発の例
- 1878年 - ミネソタ州・ミネアポリスのワッシュバーン製粉所で、小麦粉による粉塵爆発。18名が死亡。
- 1899年 - 豊国炭鉱にて、日本初の炭塵爆発事故が発生。死者210名を出す大惨事となり、以後、炭鉱内での対策が進むこととなった。
- 1963年 - 三井三池炭鉱三川坑で、炭塵爆発が発生(三井三池三川炭鉱炭塵爆発)。死者458名、一酸化炭素中毒患者839名を出す、戦後最悪の炭鉱事故となった。
- 1977年 - 12月22日にルイジアナ州ニューオーリンズ近郊の穀物エレベーターで穀物の粉塵爆発が発生し、37人が死亡。5日後にはテキサス州ガルベストンでも同様の爆発が起き、10人が死亡した(穀物エレベーター連続爆発事故)。
- 2007年 - 新潟県上越市の信越化学工業の工場で、爆発事故が発生した。現在、粉塵爆発の可能性があるとされている。
- 2008年 - ジョージア州・ポート・ウェントワースの砂糖精製工場で、砂糖の封入作業中に粉塵爆発が発生。死者8名、負傷者62名。
- 2010年 - 北海道苫小牧市の飼料会社工場内で、爆発が発生。溶接作業の際に、粉塵に引火したとみられる。
金属粉塵の特性
金属粉末は、酸化する過程が通常の塊とは異なる挙動を示す。これは酸素イオンによって形成される電気二重層内の電位勾配が塊では一定であるのに対して、微粒子では粒子半径に反比例するためである。このため、粒子半径が小さいほど酸化されやすい傾向が強くなる。表面に酸化膜が形成されない種類の金属の微粒子は、空気に触れただけで発火する場合もある。このような特性から、本来であれば不燃物であるはずの金属が可燃物となって粉塵爆発を起こす。
粉塵爆発の危険性評価
2002年に、JIS規格で測定法が制定されている。
- JIS Z8817 可燃性粉塵の爆発圧力及び圧力上昇速度の測定方法
- JIS Z8818 可燃性粉塵の爆発下限濃度測定方法
独立行政法人産業安全研究所からも指針が出されている。危険性評価は、頻度と強度の両面から評価される。一般的なリスク管理では、発生頻度が低いほど安全ではあるが、爆発事故が発生した場合の被害は、設備被害、人的被害の両面で極めて大きいため、僅かな発生頻度でもリスクが高いと評価される。粉塵爆発の場合には一般的な火薬学の理論は適用できないため、リスク評価にはFK理論と呼ばれる熱爆発理論を用いた計算が利用されている。
参考資料
- 粉塵爆発火災対策 ISBN 4274203123