直巻整流子電動機

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直巻整流子電動機(ちょくまきせいりゅうしでんどうき[1])とは電機子巻線界磁巻線とが直列に接続されている電磁石界磁形整流子電動機である。 同じ構造で交流直流両用の交流整流子電動機がある。

ファイル:DC motor.JPG
営団地下鉄(現東京メトロ)100形に使用されていた直流整流子電動機

特徴

ファイル:MT61 DC motor stator and brush.JPG
211系、205系で使用されている、MT61形直巻整流子電動機の内部に取付けられた固定子(手前)とブラシホルダ(奥)。ブラシホルダにはブラシが取付けられており、回転子(電機子)の整流子と接触するようになっている。
ファイル:MT61 DC motor Rotor and commutator.JPG
MT61形直巻整流子電動機の回転子(電機子)、手前にあるのは整流子。

外部の固定された界磁コイル(固定子)が、内部の回転する電機子(回転子)と直列に接続されている直流電動機である。主回路に組込まれた抵抗を変えることにより、回転速度を自由に変えられるため、古くから電気鉄道に使用されており、今でも使用されている。

利点

  • 出力特性は、始動時にもっとも大きなトルクを発生するが、回転数の上昇に伴い逆起電力が発生して電流が減少するため、トルクが減少しながら回転力が増していく。

(ただし、分巻電動機を制御して回生制動を含めシームレスに制御する方式もある)

欠点

  • 整流」でブラシ整流子の磨耗が起こる為、保守に手間がかかる。
  • 高回転域では、遠心力の影響で整流子が破壊する危険がある。
  • 高負荷高速運転時などでは整流子間の閃絡(フラッシュオーバー)などの重故障を起こしやすい。
  • 無負荷運転を行うと過回転により電動機の破壊に至る場合があるため、無負荷運転を行う可能性のある用途には選定しないことや、速度超過時に通電を遮断する安全回路を設置するなどの注意が必要である。

(直巻電動機の理論的な無負荷運転速度は無限大) テンプレート:-

速度制御・起動法

抵抗制御

許容電流内に抑えて起動させるために、電動機の発電電圧と電源電圧との差を抵抗器に負担させる起動法を「抵抗制御」という。

抵抗値の基準は電源電圧から電動機の発電電圧を引いた値(=閉回路電圧)を許容電流で割った値を全抵抗とする、すなわちその抵抗値から電機子抵抗等を引いた値が起動抵抗となり加速とともに次第にゼロになる。起動時の電動機の軸出力は速度×トルク(界磁の磁気飽和によりほぼ電流比例)に比例する。

抵抗器負担分は総て熱損失となる。

抵抗制御で抵抗損を減らすために複数の電動機を直列にして起動し、起動抵抗がゼロになると並列につなぎ変えて抵抗起動を全電圧まで続ける方式を「直並列制御」と呼ぶ。

直列 - 並列切り替え時に抵抗器と電動機がブリッジ回路を構成して遮断電流をゼロにする切り替え方式を「ブリッジ渡り」と呼ぶ。当初、切替時の衝撃を和らげる為に電車で多用されたが、間もなく機関車でも、回路切替時の主電動機の負担を低減する目的[2][3]で搭載するのが一般的になった。

弱界磁制御

直列抵抗ゼロ以降の増速に、界磁磁束(励磁電流)を減らして電機子の回転数を上げる制御を「弱界磁制御」もしくは「弱め界磁制御」と呼ぶ。電動機の発電電圧は界磁による磁束と回転数に比例するので、電圧・電流一定のまま回転数を上げるには磁束を速度に反比例で減じればよい。直巻電動機の抵抗制御では、直巻界磁巻線に流れる電機子巻線電流を抵抗に分流させて磁束を小さくして高速回転を得る。

弱界磁制御領域は電流を限界値一定に制御するので「定電力=定出力領域」「トルクが速度に反比例領域」である。特性図で見る限り、弱界磁制御の最小磁束は起動時の67%前後が多いが、鉄道での「弱界磁率」は励磁電流比で定義されていて50% - 33%程度とされている。この値の違いは界磁の磁気飽和に拠り電流を増やしても磁束が増えなくなるためである。

印加電圧を自由に選べる交流専用電車の場合には弱界磁制御を用いず、供給電圧だけで制御する(後述交流専用車での制御項参照)。結局「弱界磁制御」は直流一定電圧給電で高速回転を得る技術である。

直捲界磁位相制御

物理的なスイッチによる界磁接触器による弱め界磁制御に変えて、MGで発生させた交流電流をスイッチング素子による位相制御で断続した直流に変換し、界磁巻線に流すことで界磁率を調整する。スイッチング素子には通常、磁気増幅器が使用される。

界磁接触器による弱め界磁制御に比べて、物理的接点数を削減できメンテナンスコストが安く出来るほか、制動時は電動機の逆起電力を上げることで回生ブレーキの使用が可能になる。

複捲電動機を使用することで回生ブレーキの高効率化や、定速運転機能の採用などが可能だったが、それらは界磁チョッパ制御に置き換えられていった。一方、複捲電動機は鉄道車両用には過渡特性が悪い為に嫌う鉄道事業者もあり、そうした事業者では直捲界磁位相制御が使用され続けた。戦前には既に存在した技術であったが、半導体を使用した回生ブレーキ車よりも安価という理由から、より高度な界磁添加励磁制御が主流になる1980年代後半頃まで使用され続けた。

テンプレート:節stub

特性領域

界磁の磁束は、整流を悪化させない範囲で弱めるが、それ以上は電流減に反比例して速度が上がる直巻電動機の「特性領域」となり軸出力は速度に反比例(トルクは速度の2乗に反比例)する。この「特性領域」速度範囲が広いことから「電鉄用電動機に適する」として多用されてきた。

界磁添加励磁制御

界磁添加励磁制御は、(弱界磁制御と)回生制動制御を、別電源を設けて直巻界磁巻線に制御電流を重畳して行う方式で、別電源で励磁電流が制御される間は界磁が電機子電流に依らない実質分巻特性となる。起動は抵抗制御である。

電機子チョッパ制御

電機子チョッパ制御は、大電力半導体(主にサイリスタ)でチョッパ回路を構成して、電動機の回転数に見合った電圧を供給して起動する方式。チョッパで断の瞬間は、通電時にコイル(平滑リアクトル)に蓄積したエネルギーを電動機に供給するので起動抵抗損が発生しない。

しかしながら、抵抗損は低速度域しか発生せず、電源が供給する走行エネルギーは速度の2乗に比例するから全体の走行電力消費に対する抵抗損の割合は意外に小さく、高速度領域での回生制動を追求したほうが安価で高効率という判断から日本の私鉄では複巻電動機を使って起動は直巻電動機の抵抗制御、高速度域からの制動で分巻巻線電流を制御して回生制動する界磁チョッパ制御が主流になった。

仮に並列フルステップ速度を40km/h、運行時の最高速度を120km/hとすると、最高速度時の運動エネルギーの9分の1がフルステップ時の運動エネルギーで、直並列制御をした場合の抵抗損はその2分の1だから、全体の走行エネルギーの18分の1が抵抗損として増加するだけになる。それを高価な電機子チョッパ制御で回収するより、安価に実現できる高速領域からの回生制動で取り返す界磁チョッパ制御が有効だと私鉄各社が考えて回生制動車が多く採用された。

唯一、帝都高速度交通営団のみは、シールド工法以降の密閉性の高いトンネル内での発熱を抑える事を目的として、力行時にも抵抗器を使用しない電機子チョッパ制御を6000系電車以降全面採用し、05系5次車までこれを貫いた。もっとも営団が重視したトンネル内温度上昇の主原因は発電ブレーキによるものだった為、回生ブレーキを持つ乗り入れ他社の界磁チョッパ制御車の発熱もあまり問題にはならなかった[4]

前出「界磁添加励磁制御」は、励磁用別電源を準備することで構造が複雑な複巻電動機の使用を避けて直巻電動機を回生制動時に実質分巻特性化して高速度域の回生制動を実現させ、起動は安価な抵抗制御で済ませる方式である。

交流電化区間専用車での直巻電動機制御

交流専用車での電動機制御は基本的に電圧制御だが、具体的方法としては、当初交流電気機関車新幹線0系電車にトランスのタップ切替制御が用いられ、大電力半導体の開発で国鉄711系電車に見られるサイリスタ位相制御が加わって回路の簡易化と無段加速が実現された。

交流から整流する場合は供給電圧を自由に設定できるから、速度に反比例してトルクが落ち軸出力が一定のまま増えないで整流子の整流が悪化する弱界磁制御は行わず供給電圧を上げている。711系では直流で375V120kW出力のMT54をほぼそのまま電圧仕様を500Vに変えて150kW出力のMT54A (MT54-E) としている。この値は最大電流がほぼ同じ=トルクが同じで電圧比例の最大出力となっている。なお、MT-54Eは交直両用車417系にも120kW出力定格で用いられている。交流専用車である初期の新幹線0系などでも711系同様弱界磁制御は行っていない。

脚注

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参考文献

関連項目

  • ちょっけん、ちょくけんという読みもあるが一般的ではない。東洋電機製造社内では「ちょっけん」と称している(『鉄道ジャーナル』 p.109)。
  • 力行加速中、回路切替の為電流が途切れて一度トルクが抜け、完全に惰性状態になった主電動機に再び大電流が流れて負荷がかかる為、主電動機を痛める原因になった。これを軽減する目的で、貨物用機関車に至るまで装備された。
  • 当然、旅客用機関車では電車と同様の意味も含んでいる。
  • 千代田線では、3社直通のうち、2社が、電機子チョッパ制御の営団6000系、界磁チョッパ制御の小田急9000形といった回生ブレーキ車を採用したのに対して、国鉄のみ抵抗制御で発電ブレーキの103系1000番台を投入した為、地下駅構内の気温を上昇させたばかりか、車内も蒸し風呂のような状態となって乗客から顰蹙を買った。この為乗客の中には国鉄車が来ると見送りをし、営団車か小田急車の待ちをするものが増え、ただでさえ混雑する千代田線のラッシュに大混乱を発生させた。この為、営団側からの強い要請により、103系1000番台の減価償却を待たずに203系への全面置き換えが実施された。