松谷みよ子

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松谷 みよ子(まつたに みよこ、本名:松谷美代子、1926年2月15日 - )は、日本児童文学作家

父は社会派の弁護士で、無産政党代議士となった松谷與二郎。元夫は児童文学関係者で人形劇団座長の瀬川拓男

来歴・人物

東京市神田区に生まれる。西巣鴨第五尋常小学校から東洋高等女学校に進み、1943年に卒業。家の事情もあり大学には進まず旧日本勧業銀行に就職、その後JTBで編集に従事する。1945年、東京への空襲がはげしくなって家族とともに長野中野市に疎開。1947年に長野で、1948年に東京で坪田譲治を訪れて びわの実学校で師事。以後びわの実会では坪田の引退後も責任編集などを担当する。1951年には初めての童話集『貝になった子供』があかね書房から出版され、第1回児童文学者協会新人賞を受賞する。

1955年11月、人形劇活動を通じて知り合った瀬川と結婚、12月にはともに人形劇団太郎座を創設。1956年、瀬川とともに民話の採訪を始め、民話の世界に引きつけられるようになる。瀬川と共著で1957年に『信濃の民話』を出版したのを皮切りに、松谷は民話の採録と再話を続けていく[1]

1960年の『龍の子太郎』は民話を再創造し、従来の児童文学と異なった、現実社会の厳しさを幻想的な物語と混交させた世界を作り上げ、地位を確立、第1回講談社児童文学作品を受賞した。同書で61年、第8回産経児童出版文化賞、62年、国際アンデルセン賞優良賞を受賞。また1961年には太郎座の第1回本公演で瀬川脚色による人形劇「龍の子太郎」が上演される。

1964年、『ちいさいモモちゃん』で第2回野間児童文芸賞を受賞。以後、モモちゃんシリーズを続けるが、そのうち「モモちゃん絵本」を除いた6巻が『モモちゃんとアカネちゃんの本』シリーズとされ、1974年の『モモちゃんとアカネちゃん』で赤い鳥文学賞受賞。だがその後瀬川とは離婚している(詳細は瀬川拓男を参照)。

当時の童心社の編集長・稲庭桂子と1964年の「おはなしだいすき」の作品を取り上げ、赤ちゃんの愛読書として「あかちゃんの本」の作成を企画。1967年に刊行された『いないいないばあ』は当時ほとんど存在しなかった0歳児向けの愛読書である。これに続く「あかちゃんの本」のシリーズも好評で、『いいおかお』(1967年)、『もうねんね』(1968年)、『のせてのせて』(1969年)、『おふろでちゃぷちゃぷ』(1970年)が累計100万冊を越えている[2]

また1970年代半ば以降、死やあの世に対する関心を深め、その系列の著作も多く、「モモちゃん」シリーズの第6作『アカネちゃんとなみだの海』(1992年、第30回野間児童文芸賞受賞)では、父の死という衝撃的な展開が見られた。1985年に始められた『現代民話考』シリーズでは、「今も尚民話が生まれている」という発想のもとに、現代の民話を集め、明治以降、昭和の戦争期から現代に至るまでの民間から発生した民話・怪談を収集、整理、その業績も評価されている。ほかに、「オバケちゃん」シリーズ、『ふたりのイーダ』に始まる「直樹とゆう子」の5部作がある。1994年、『あの世からの火 直樹とゆう子の物語』で小学館文学賞受賞。平和運動に熱心で、戦争と平和をめぐる作品「ふたりのイーダ」「まちんと」「とうろうながし」「ぼうさまになったからす」「ミサコの被爆ピアノ」などがある。1979年には『私のアンネ=フランク』で日本児童文学者協会賞受賞。

「お月さんももいろ」事件

1973年、童話「お月さんももいろ」(ポプラ社)が部落解放同盟から「差別を助長する作品」とされ、抗議を受けた[3]

「お月さんももいろ」は、土佐の海辺に住む漁師の娘「おりの」と、山に住む猟師の若者「与吉」の物語である[3]。おりのが与吉に贈った宝物の「ももいろさんご」を殿様の配下が奪う場面で、「横目と、その手のもん」が悪役として登場することが部落解放同盟から問題視された[3]。横目(横目付)もその配下の「手のもん」も江戸時代に処刑や刑務に携わった非人と考えられるため、「人間の美しさ、尊厳さを、差別を踏み台にして確立するのは許されない」というのが部落解放同盟の言い分であった[3]

このため、「お月さんももいろ」の「横目」と「その手のもん」は省略され、あるいは「さむらい」「さむらいたち」と改竄されるに至った[3]

旧版

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新版

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作品リスト

『松谷みよ子の本 別巻ー松谷みよ子研究資料』(講談社 1997年)「松谷みよ子全著作目録」に詳しい。

1950年代

  • 貝になった子供 須田寿絵, あかね書房、1951 のち角川文庫
  • かきのはっぱのてがみ いわさきちひろ絵 泰光堂, 1956 - (ひらがなぶんこ ; 11)
  • ぞうとりんご 田代ともえ等絵 金の星社, 1956
  • 黒いチョウ 『日本の童話. 3年生』(坪田譲治編)所収 -- 河出書房, 1956
  • 秋田の民話 瀬川拓男と共著 未来社, 1958 - (日本の民話 ; 第10)
  • かぐや姫 石井健之絵 あかね書房, 1959 - (幼年世界名作全集 ; 17)

1960年代

  • ひらかな童話集 戸田綾子等絵  金の星社, 1960
  • きつねのよめいり 瀬川康男絵 福音館 1960年 月刊絵本こどものとも53号、のち「こどものとも 傑作集」(1967年)
  • 龍の子太郎  久米宏一絵 講談社、1960 のち文庫
  • モモちゃんとアカネちゃんの本 シリーズ(全6巻)(講談社) - テンプレート:Main
  • 茂吉のねこ 三十書房, 1964 のち偕成社文庫
  • まえがみ太郎 福音館書店, 1965 のち講談社文庫
  • ふうちゃんの大旅行 小峰書店、1966
  • てんにのぼったげんごろう 偕成社, 1967
  • いないいないばあ(瀬川康男絵 あかちゃんのほんシリーズ) 童心社 1967
    • 同じシリーズに、いいおかお (瀬川康男絵 1967)、あなたはだあれ(瀬川康男絵 1968)、もうねんね(瀬川康男絵 1968)、のせてのせて(東光寺啓絵 1969)、おさじさん(東光寺啓絵 1969)、おふろでちゃぷちゃぷ(いわさきちひろ絵 1970)、もしもしおでんわ(いわさきちひろ絵 1970)
  • ジャムねこさん 大日本図書, 1967 のち講談社文庫
  • コッペパンはきつねいろ 偕成社、1968
  • ふたりのイーダ 直樹とゆう子の物語 講談社、1969 のち文庫
  • むささびのコロ 童心社, 1969
  • おひさまどうしたの あかね書房, 1969

1970年代

  • ちびっこ太郎 フレーベル館, 1970 のち講談社文庫
  • 日本の伝説 1-5 講談社, 1970 のち「日本の昔ばなし」として講談社文庫、「日本の民話」として角川文庫
  • おおかみのまゆ毛 大日本図書, 1971 のち講談社文庫
  • オバケちゃん 講談社, 1971 のち文庫
  • 木やりをうたうきつね 偕成社, 1971
  • センナじいとくま 童心社, 1971
  • まこちゃんしってるよ 講談社, 1971
  • 松谷みよ子全集 全15巻 講談社, 1971-72
  • たべられたやまんば 講談社, 1972
  • 朝鮮の民話 1-3 太平洋出版社, 1972
  • さぶろべいとコブくま 童心社, 1973
  • お月さんももいろ ポプラ社, 1973
  • つとむくんのかばみがき 偕成社, 1973
  • 松谷みよ子のむかしむかし 全10巻 講談社, 1973
  • つつじのむすめ あかね書房, 1974
  • 黒いちょう ポプラ社, 1975 のち講談社文庫
  • 水のたね 講談社, 1975
  • 死の国からのバトン 直樹とゆう子の物語 偕成社, 1976
  • 千代とまり 講談社, 1977
  • てんぐとアジャ 岩崎書店, 1978
  • 私のアンネ=フランク 直樹とゆう子の物語 偕成社, 1979 のち文庫

1980年代

  • いたちのこもりうた ポプラ社, 1981
  • 一まいのクリスマス・カード 偕成社, 1982
  • おかあさんのにおい 講談社, 1982 その他、ふうちゃんえほんシリーズ
  • 鯉にょうぼう 岩崎書店, 1983
  • ぼうさまになったからす 偕成社, 1983
  • あの世からのことづて 筑摩書房, 1984 のち文庫
  • おときときつねと栗の花 偕成社, 1984
  • 現代民話考 1-5 立風書房, 1985-86 のちちくま文庫
  • キママ・ハラヘッタというヒツジの話 偕成社, 1985
  • 鯨小学校 おじさんの話 偕成社 1986
  • わたしのいもうと 味戸ケイコ絵 偕成社, 1987
  • とまり木をください 筑摩書房, 1987
  • 現代民話考 第2期 1-3 立風書房, 1987 のちちくま文庫
  • 戦争と民話 なにを語り伝えるか 岩波ブックレット、1987
  • 屋根裏部屋の秘密 直樹とゆう子の物語 偕成社 1988 のち文庫
  • 松谷みよ子全エッセイ 1-3 筑摩書房, 1989

1990年代

  • ベトちゃんドクちゃんからのてがみ 童心社, 1991
  • 小説・捨てていく話 筑摩書房, 1992
  • あの世からの火 直樹とゆう子の物語 偕成社 1993
  • 松谷みよ子の本 全10巻 講談社, 1994-96
  • 現代民話考 9-12 立風書房, 1994-96 のちちくま文庫
  • りえ覚書 筑摩書房, 1994

2000年代

  • 現代の民話 あなたも語り手、わたしも語り手 中公新書 2000
  • 読んであげたいおはなし 松谷みよ子の民話 筑摩書房 2002
  • 若き日の詩 童心社, 2003
  • 異界からのサイン 筑摩書房, 2004
  • 民話の世界 PHP研究所, 2005
  • 自伝 じょうちゃん 朝日新聞社, 2007

その他

  • むかしむかし 与田準一,川崎大治(共編) 童心社, 1966
  • 狐をめぐる世間話(共編) 青弓社, 1993
  • 福岡県筑後ん昔ばなし 松谷みよ子民話研究室(共編), 1998
  • 怪談レストランシリーズ 怪談レストラン編集委員会著(責任編集) 童心社, 1996- ※アニメ版では原作者の1人としてクレジット。

脚注

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参考文献

  • 『松谷みよ子の本 10巻ーエッセイ全1冊』
  • 『松谷みよ子の本 別巻ー松谷みよ子研究資料』講談社 1997年

関連項目

外部リンク

  1. 「松谷みよ子年譜」『松谷みよ子の本 別巻ー松谷みよ子研究資料』収録
  2. いずれもトーハン『ミリオンブック』2008年度版。
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 『差別用語』(汐文社、1975年)p.83-84