未来派野郎

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未来派野郎』(みらいはやろう)は、1986年4月21日に発表された坂本龍一の6作目のスタジオ・アルバム

解説

  • タイトルの「未来派」は20世紀初頭イタリアを中心に起こった芸術運動から取られている。
  • サウンドは主にフェアライトCMIやEmulatorⅡ(en:E-mu Emulator)による機械音・金属音のサンプリングとヤマハDX7が使われている。
  • 前回のオリジナルアルバム『音楽図鑑』よりトラック数が減っているものの、アルバム制作に7ヶ月を要しており、1トラックごとの密度は濃いと坂本はコメントしているテンプレート:要出典
  • このアルバムのレコーディングに入る前に、坂本はロックのドライブ感のリファレンスとして、レッド・ツェッペリンの全アルバムを聴き直している。直前に参加したパブリック・イメージ・リミテッドのアルバム『ALBUM』でのセッションにおいて、ビル・ラズウェルがレコーディングの合間にツェッペリンを流して参加メンバーの意識を方向付けていた事の流れを汲んだもので、結果としてそれまでの坂本の作品中最もロック色の濃い仕上がりとなった。

収録曲

  1. Broadway Boogie Woogie
    坂本にとっては初めての、ブルースコードを使用したロックンロール的ダンスナンバー。曲名は、ピート・モンドリアンマンハッタンを上から見下ろした様を描いた絵画の題名からとられた。ヴォーカルはバーナード・ファウラーと吉田美奈子。曲中流れる男女の会話は、イメージはマリネッティの考案した自由詩のスタイルを用い、映画「ブレードランナー」からワンセンテンスずつサンプリングして、それぞれ別の場所にあったものを会話風にコラージュされた。間奏のギターソロは当時21歳だった鈴木賢司。最初鈴木は別のフレーズで演奏したが、坂本から「鈴木賢司らしい(ヘヴィーな)演奏を」と注文されて録音されたテイクが採用された。サックスはジェームス・ブラウンのバンド、J.B.'sにも在籍していたことで知られるメイシオ・パーカー
  2. 黄土高原
    • 作曲:坂本龍一
    坂本の作品では数少ない、オーソドックスなコード進行を持つ楽曲のひとつ。テクノの呪縛がとけて、いわゆるフュージョン的なテイストが全面に出ている。エレクトリックピアノの演奏は、手で演奏したものを一度NEC PC-9801対応のカモンミュージック社製音楽制作ソフト“レコンポーザ”に取り込んで細かくエディットされ、人間とコンピュータの中間の独特なノリを狙っている。16分音符と32分音符の組み合わせによる細かなシーケンスフレーズが曲を通して流れ続ける。パッヘルベルのカノンをモチーフとしたコーラスは、吉田美奈子による多重録音による。レコーディング中にたまたま遊びに来た飯島真理が気に入り、歌詞をつけて12インチシングル「遥かな微笑み」としてカヴァーしている。なお、曲名の「黄土高原」は「こうどこうげん」とも「おうどこうげん」とも発音できるが坂本自身は前者を使用している。アルバム『メディア・バーン・ライヴ』にはライヴヴァージョンが収録されている。
  3. Ballet Mécanique
    • 作詞:矢野顕子 / 翻訳:ピーター・バラカン / 作曲:坂本龍一
    元々、岡田有希子のアルバム『ヴィーナス誕生』のために提供した「WONDER TRIP LOVER」を、新たに歌詞を書き換えてセルフカヴァーした。曲名は、ジョージ・アンタイルの代表作からとられた。時計が時を刻む音や、カメラのフィルムを巻き取る音などをサンプリングしてリズムを組み立てている。ヴォーカルはバーナード・ファウラー、バッキングギターは当時パール兄弟のメンバーだった窪田晴男ギターソロ・パートは鈴木賢司のプレイ数テイクをサンプリングし継ぎ接ぎしたもの。アルバム『メディア・バーン・ライヴ』にはライヴヴァージョンが収録されている。1999年には、中谷美紀が「クロニック・ラヴ」のタイトルでカヴァーしている(作詞は中谷美紀本人)。NHKの番組 未来派宣言ではエンディングで使用されている。
  4. G.T.IIº
    • 作詞:ピーター・バラカン / 日本語原詞:矢野顕子 / 作曲:坂本龍一
    シングルカットされた「G.T.」のメガミックスヴァージョン。曲名は「グランツーリスモ(大旅行)」の意。ヴォーカルはバーナード・ファウラー、ギターは窪田晴男。
  5. Milan, 1909
    • 作曲:坂本龍一
    スペースコロニーの東洋人地区の端末で「未来派」を検索したときに流れるBGM”というイメージで作られた曲。1909年は詩人フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ未来派宣言を発表した年である。後半から現れる高次倍音を含んだ朗読はヴォコーダーではなく、マッキントッシュのソフトウェア「Smooth Talker」で作られた合成音。内容は細川周平による未来派の解説。
  6. Variety Show
    • 作曲:坂本龍一
    サンプリング音で組み立てられたヒップホップのビートに、マリネッティの演説がラップとして乗る曲。タイトルはマリネッティ自身が演説会のことを“ヴァラエティー・ショウ”と呼んだため。サンプリングには機械音、放電の音、兵器の音、マリネッティの頃のピアノ曲など、「未来派」のキー・コンセプトに該当する素材を探し出して使われている。音声は「未来派」を意味する「フューチャーリスタ(Futurista)」がサンプリングされている。
  7. 大航海 Verso lo schermo
    • 作詞:かの香織 / イタリア語翻訳:細川周平 / 作曲:坂本龍一
    ジュール・ベルヌの「月世界旅行」のような世界を夢とロマンを、当時細野晴臣が傾倒していたOTT(Over The Top)で表現した。ヴォーカルはかの香織。複雑な転調を何度も繰り返す。仮タイトルは「機械状無意識」だった。坂本のアルバム『プレイング・ジ・オーケストラ』ではオーケストラの演奏とバーナード・ファウラーのヴォーカルで再演されている。
  8. Water is Life
    • 作曲:坂本龍一
    クラシックCDからの音源を切り刻んで編集したコラージュ音楽。
  9. Parolibre
    • 作曲:坂本龍一
    タイトルはイタリア語で1910年代の未来派の自由詩のことで、未来派に関わったアーティストによる造語といわれ(直訳すると「話し文学」)、読み方は「パロリブル(イタリア人ネイティヴスピーカーの発音ではパロウリブル)」[1]となる。坂本としてはブッチーニのオペラの中の間奏曲のようなつもりで書いている。主題はヘ長調であるのに対し、中間部では変ホ短調に転調する(調性対比)。主題にはショパンの前奏曲第13番嬰ヘ長調からの引用がある。後半のボーカルはかの香織。ギターはアート・リンゼイ。前半のメロディー部分のオンド・マルトノ正弦波)はDX 7によるもの。テーマの再現部において、ピアノの後ろでうっすら聴こえる不協和音がいかにも坂本的。フリップ・K・ディックの近未来SFの世界の世界で、2056年ぐらいの遠い惑星に住み、ブロードキャスティングで地球から送られてくる放送を惑星のスペース・カプセルの中で聴いているというイメージで作られ、仮タイトルは「オペラ」であった。後にアルバム『1996』でピアノ三重奏アレンジで再演。アルバム『メディア・バーン・ライヴ』にもライヴヴァージョンが収録されている。
  10. G.T.
    • 作詞:ピーター・バラカン / 日本語原詞:矢野顕子 / 作曲:坂本龍一
    アルバムに先行してシングルとして発表された曲。CDではボーナストラックとして追加収録された。作曲当時、すでに坂本のソロライヴが行われることが決定しており、そのためライブで演奏できるようなアレンジを意識的に行われている。アルバム『メディア・バーン・ライヴ』には原曲に忠実なアレンジで収録されている。

※曲目はCD版を参照した。

出典

  1. NHK-FM放送サウンドストリート」1986年3月11日放送より。

外部リンク

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