数理経済学

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数理経済学(すうりけいざいがく、Mathematical Economics)は、経済現象を数理モデルを用いて数学的に解析し、説明する分野をさす。

概要

19世紀において、オーギュスタン・クールノーレオン・ワルラスフランシス・エッジワースらにより数学の経済学への応用が試みられた。その後、1930年代から1940年代におけるジョン・ヒックスポール・サミュエルソンらの貢献により、数理モデルは経済学のあらゆる分野で用いられることとなった。さらにジョン・フォン・ノイマンジョン・ナッシュといった数学者の参入により、20世紀中葉には飛躍的な発展を遂げた。現代の経済理論では数理経済学や金融工学などの分野からの研究成果が多いため、数理経済学と理論経済学の区別は曖昧になっている。このため現在では「数理経済学」という言葉は、数学を使う経済モデルの構築や経済モデルの数学的な妥当性の検証などの諸研究を指して用いられることが多い。

なお、経済数学は初級から中級にかけての経済学で必要な数学を指す用語で、数理経済学とは意味が異なる。また応用数学の中では経済に関連する諸問題の研究が行われているが、その内容は数理経済学と重複しているといえる。

ワルラス以来の一般均衡理論においては、ブラウワーによる不動点定理分離定理といった数学的事実が、一般均衡解の存在や均衡の安定性の証明に用いられた。インフレーションの調整過程や資本流列に対するターンパイク定理の応用は、数理経済学的議論が、ややもすれば理論経済学と見誤る議論に学問的発展を与えうることを示唆している。

一方で新古典派マクロ経済学は、ケインジアンに対抗しつつ新しい古典派の研究として結実した。その過程において、経済動学を扱うモデリングを必要とすることが明らかになり、動学的最適化の手法がマクロ経済学にとって必要不可欠となった。現在の経済動学における数理経済学は、差分方程式を用いつつ離散型力学系のモデルを援用した動学的計画法における多期間最適化を議論することになる。例としては最適成長モデル世代重複モデルなどの議論があるが、世代間の個人消費や異時点間でどのように資源を配分して個人が消費を決定するかなどを想起すると分かりやすい。有名なリカード等価定理や等価定理を拡張したロバート・バローの中立命題は、動学的なモデリングがもたらすインプリケーションの好例となる。また、確率過程を導入した合理的期待や条件付行動などの応用は、ランダムウォーク解釈やマンデルフレミングモデルにおける財政政策および金融政策の有効性・無効性など、その応用や拡張は現実の経済にも影響を及ぼしている。また、従来は避けられる傾向にあった計量経済学といった分野との並立も、その可能性を広げている。特に、新しい古典派モデルにおける確率過程の援用や、カリブレーションと呼ばれるモデルから予想される予測値と実際のデータとの比較によって、議論が陶冶されている。

現代の数理経済学において、ゲーム理論の占める位置は非常に大きい。その影響の大きさにより、ゲーム理論が経済学の方法論を革新したと評価されることもある[1]。ゲーム理論はフォン・ノイマンとオスカー・モルゲンシュテルンにより初めて本格的に経済学に流入したが、ゲーム理論を用いた分析はコアなどの協力ゲーム理論の応用を除いて長らく低調だった。しかし1980年代になると経済学における非協力ゲーム理論の有用性が広く認められるようになり、本格的なゲーム理論を利用した研究がスタートした。現在では経済学における均衡概念としてナッシュ均衡とその精緻化が広く受け入れられている。

経済動学

数理経済学者


出典・参考文献

脚注

  1. 例えば神取道宏 1994「ゲーム理論による経済学の静かな革命」岩井克人・伊藤元重編『現代の経済理論』東京大学出版会

関連項目