指差喚呼

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指差喚呼(しさかんこ)とは、危険予知 (KY/KYK) 活動の一環として、信号標識、計器、作業対象、安全確認などの目的で、指差を行い、その名称と状態を声に出して確認することである。この際、状況などにより手や足も使うことがある。

業界や部門、事業所によって指差確認喚呼(しさかくにんかんこ)、指差呼称(しさこしょう・ゆびさしこしょう)、指差称呼(しさしょうこ・ゆびさししょうこ)、指差唱呼(しさしょうこ・ゆびさししょうこ)とも言う。

一般的には「指さし確認」で知られる。

概要

ファイル:Organs involved during Pointing and Calling.jpg
指差喚呼の説明(香港鉄道SP1900形電車の運転室)

指差喚呼(鉄道での読みがなは「しさかんこ」)は、そもそも日本国有鉄道(国鉄)の運転士が行う信号確認の動作に始まった安全動作である。[1]

  1. 目で見て
  2. 腕を伸ばし指で指して
  3. 口を開き声に出して「○○○、ヨシ!」
  4. 耳で自分の声を聞く

という一連の確認動作を注意を払うべき対象に対して行うことにより、ミスや労働災害の発生確率を格段に下げることができることが証明されている。 ひとりの作業員が行った指差喚呼に続いて、協働する作業員がそれを復唱することを喚呼応答(かんこおうとう)といい、指差呼称の効果を高めるものとされている。(歴史的には、機関車乗務員の信号確認行為で、機関手と機関助手(=缶焚き)のする喚呼応答が指差喚呼より先にできた物である。この場合、機関助手は、機関手の言う事をそのまま復唱するのではなく、自分でもその内容を確認した上で復唱しなければ意味がない)

指差喚呼による確認は、ただ見て頭の中で確認するだけの場合に比べて誤り率が少ない。このため中央労働災害防止協会(中災防)では指差喚呼を有効な安全衛生対策として推奨し、現在では指差喚呼発祥の鉄道関係者や、エアライン建設業製造業電力バス業の間で広く行われている。

フェーズ理論では、対象を指で差し、大声で確認する行動によって意識レベルをフェーズⅢに切り替えて集中力を高める効果を狙った行為としている。

各業界のコマーシャルでは、従業員が凛々しく指差喚呼する映像も見受けられる。

喚呼応答の発端

喚呼応答の起源については、参考文献にある「機関車と共に」に出ており、明治末年に神戸鉄道管理局でルール化された物である。明治末年、目が悪くなった機関手堀八十吉が、機関助手に何度も信号の確認をしていたのを、同乗した同局の機関車課のお偉いさんが、堀機関手が目が悪いことに気がつかずに、素晴らしいことであるとしてルール化したもので、「機関車乗務員教範」(神戸鉄道管理局 大正2年7月発行)に、喚呼応答がでてくる。戦前に日本の鉄道システムを学んだ韓国や台湾においても、喚呼応答は実施されており、日本の鉄道が生んだ安全確認システムは、海外にも導入されている。 指差喚呼については、炭坑等危険と隣り合わせの職場から広まり、現代に受け継がれている。

指差喚呼の例

鉄道の場合

列車の運転士車掌などが「出発進行!」と喚呼して指差す場合、停車場の前方にある出発信号機進行信号を現示していること指差呼称で確認している。

運転士の場合

テンプレート:Sound 基本的に、その対象物(信号・標識等)を人差し指で差して喚呼する。

  • 10番線の第2場内信号機が停止現示の場合
10番、第2場内停止!
  • 緩行線の2番線出発信号機が進行現示の場合
緩行、2番出発進行!
  • 第5閉塞信号が警戒現示の場合
第5閉塞、警戒!」(閉塞信号の番号を喚呼しない場合もある)
  • 制限速度が75km/hで、規制距離が500mの場合
制限75!、距離500!」(距離は喚呼しない事業者もある)
  • 定時到着(発車)/遅れ到着(発車)の際
定着(定発)」「2分30秒延着(延発)」など(乗務員時刻表等を指差し喚呼することが多い)
  •  10両編成で駅に停車する場合
 「○○(駅名)停車。10両!」など(停車駅を運転台の時刻表で指差し、一度指を戻して再度両数の書かれた部分を指差す)
始発駅における駅出発時の運転士の喚呼例(JR西日本)
  1. 列車番号、両数確認「○○列車○両
  2. 発時刻確認「○○(駅名)○時○分○秒発車
  3. ATS表示灯、無線機、防護無線確認「車警よし無線機よし防護無線在姿状態よし
  4. 信号確認(例)「○番出発進行
    客扱い
  5. 後部確認(指定駅)「後部よし
  6. 車掌からの出発合図(ブザー合図)
  7. 運転士知らせ灯確認(喚呼しない)
  8. 発時刻確認「時刻よし
  9. 信号再確認「進行
  10. ブレーキ緩解後に「発車
  11. 起動後運転状況確認「定発
  12. 次停車駅確認「次の停車駅○○(駅名)」

車掌の場合

JRの例
  • 駅到着から駅発車までの動作例(JR東日本)
  1. 列車停車時にホームに標記された停止位置を目視確認し、問題が無い場合は車掌スイッチを扱いドア開。「○両停止位置オーライ!」。
  2. ドア開扉を示す車側灯の点灯を確認し「側灯、点!」。
  3. 信号もしくは出発反応標識(レピーター)を確認し「レピーター(閉塞レピーター)点灯!」(出発信号機または閉塞信号機の場合は運転士と同じく「出発進行!」「閉塞進行!」など)
  4. 発車ベルスイッチの操作が必要な場合はホームへ降り操作(駅員が扱う駅ではそのまま。またスイッチ自体がない場合は手笛を吹く)。
  5. 乗務員室に戻り発車時刻と乗客の乗降終了を確認、もしくは駅長からの出発指示合図または駅社員からの乗降終了合図がある場合はそれを確認し「○○(駅名)、○分○秒、時刻よし。乗降終了、発車!」(発車時刻の指定されていない駅では「○○(駅名)、ポツなし」という)
  6. 車掌スイッチを扱いドアを閉める。
  7. ドア閉扉を示す車側灯の消灯及びホーム上を確認し「側灯、滅!」及び「ホームよし
  8. 列車発車後はそのままホームを監視確認し、ホーム終端で列車の後方・駅構内を確認し「後方オーライ!
JR東日本では安全のため、発車ベル扱い後にホームや外方を確認する場合は、必ず乗務員室に乗車し乗務員扉を閉め窓から確認作業をするよう指導されている。過去にはホーム上や乗務員扉から大きく身体を乗り出して確認作業をする場合もあったが、車掌の接触・転落やホーム上への置き去りなどの危険があった。
  • 駅到着から駅発車までの動作例(JR東海)
    列車の完全停止後に「○両停止位置、オーライ!」→車掌スイッチを扱い、ドア開。全ドアが開扉したことと全車両の車側灯が点灯したことを確認し「点灯、オーライ!」→両足をホームに着地して出発信号機または出発反応標識を確認し「○○(本線や上り1番など)信号、オーライ!」→携帯時刻表を見て「○○(駅名)○分○秒発!」→時計で時刻を確認して「現時刻○分○秒、時刻オーライ!」→笛を吹き(静岡支社の場合明瞭に笛を三回鳴らすよう指導されている)乗客の有無の確認「乗降終了!ドア閉!」と言いながらドア閉操作→全ドアが閉扉したことと全車両の車側灯の消灯を確認しさらにホーム状態を確認するよう三角に手を振りながら「ドア、ホームオーライ!」→乗務員室に乗り込み、乗務員室ドア閉→車内ブザーにより出発合図→ホーム監視→ホームを抜けて振り返って「後方、オーライ!
JR東海は以前、ブザーによる出発合図までは知らせ灯確認の上で発車していたので、「乗降終了!発車!」と言いながらドア閉操作をしていた。
  • 駅到着から駅発車までの動作例(JR西日本)
    到着前、正しい到着番線に進入し、停止可能な速度まで減速したこと、ホーム上の旅客の安全を確認→「列車状態、よし」→完全停止後に「○両停止位置、よし」→停止位置を指差喚呼した手で車掌スイッチを扱い、ドア開。全ドアが開扉したことと全車両の車側灯が点灯したことを確認し→「ドア、よし」→両足をホームに着地して出発信号機または出発反応標識を確認し「信号、よし」または「信号、赤」(出発信号機のない停留場では「前方、よし」)携帯時刻表を見て「○○(駅名)○分○秒」→警告ベルを扱い、手笛吹鳴→ドア閉→全ドアが閉扉したことと全車両の車側灯の消灯を確認し「ドア、よし」→乗務員室に乗り込み車内ブザーにより出発合図→乗務員室ドア閉→列車起動→ホーム上の安全が確認できたら「ホーム、よし」→ホームを抜けて振り返って「後方、よし
    • なお、支社や区所によって停止位置限界を通過確認する「○両限界通過」や車掌スイッチを自動位置にした場合に「自動位置よし」、ドア閉の前に「時機よし」などと喚呼する場合がある。
    • また、乗員交代などでホームを移動する際やホーム上で待機する際に停車中の車両のパンタグラフや幌、方向幕、後部標識を指差しながら「パンタよし」「幌よし」「方向幕よし」「後部標識(点灯)よし」などと喚呼する場合がある。
私鉄の例
  • 駅到着から駅発車までの動作例(東急)
    開扉前、ドアカット駅である場合は非扱機器が動作しているのを確認し「点灯よし」→ 機器が正しい非扱駅を示していることを確認し「○○(駅略名)よし」→停止位置を確認して「開扉よし」→開扉してホームに降り「○○(駅名)です」→出発反応標識が点灯している場合「反応進行」、消灯時「反応停止」、しばらく停止する場合出発時刻のアナウンス、点灯したら「反応進行」→発車ベル操作、乗降終了確認後「閉扉よし」→閉扉してITV確認をし「モニターよし」→目視確認して「側面よし、発車」→電鈴合図操作後ブレーキ緩解音が聞えれば「よし」→列車が駅を出て駅構内に異常がなければ「後方よし
    • 出発反応標識がない駅においては出発信号機を使用する。その場合の喚呼は「出発進行」となる。
    • 九品仏での例:「点灯よし、九品仏よし、開扉よし」→「九品仏です。反応進行」→「閉扉よし」→「モニターよし、側面よし、発車よし」→「後方よし」

線路横断の基本動作

右ヨシ!、左ヨシ!、前ヨシ!(会社によっては「足元ヨシ!」「下ヨシ!」など)

自動車関係の場合

バス運転士の場合

基本形として「左よし、下よし、右よし」及び停留所通過時の「バス停よし」などが全社的に使用される。営業所や乗務員の所属するなどによってはこれに前方を加えた「左よし、下よし、右よし、前方よし」などを使用する場合があるほか、各乗務員の自発的な用法としてサイドミラー確認の時の「右(左)後方よし」や、交差点・横断歩道通過時の「横断歩道よし」など多く種類がある。通常は右手人差し指で指差呼称するが、停留所・横断歩道通過時など走行中で手を離せない場合は指差を省略する。
基本は発車時に必ず(全員着席後に)「左、前よし、右よし、車内よし、発車します(動きます、左/右、曲がります)」と呼称。車内に立ち客がいる場合は手すり部などを握る旨のアナウンスを、また閑散・山間区間などで十分な空席があるにもかかわらず着席しない乗客、停留所到着前走行中に車内移動を行う乗客には、半ば強制的に着席を慫慂する場合もある(車内事故対策の側面が大きい)。停留所接近時には「◯◯、よろしいでしょうか(例:「栄町、よろしいでしょうか)、通過します」など。(交差点)横断歩道通過時は徐行ないし一旦停止、見通しが取れる場合に限りブレーキペダルを操作できる状態で「歩道、よし」。
出発時の「左よし、アンダーよし、右よし」から、カーブなどでは「対向車注意」など。さらに、道路の速度制限標識でも「制限40」と指差呼称してから速度計を確認し、問題なければ「よし」と、むしろ鉄道に近い内容を実施していた。

なお、上記以外でも運転士や車庫、営業所単位で自主的に行っている場合もある。

製造業の場合

特にプレス機械作業の場合、挟まれ災害を防止する観点から指差喚呼を行うことを推奨されている。

  • 日常点検・始業前点検の場合
モーター停止よし!」 「一工程一停止よし!」 「安全装置動作よし!」などと動作を確認しながら人差し指で差して指差喚呼する。
  • 金型の取付・取り外し・調整作業の場合
金型の締め付けよし!」 「芯出しよし!」などと金型の取付状態を確認しながら人差し指で差して指差喚呼する。
バルブ開よし!」 「バルブ閉よし!」などとバルブの開閉状態を確認しながら人差し指で差して指差喚呼する。

脚注

  1. 芳賀 繁, 他: 産業・組織心理学研究 9: 107, 1996.

参考文献

関連項目

外部リンク

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