手本引

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手本引き(てほんびき)は、日本賭博ゲーム

親は1から6までの数字が書かれた6枚の札の中から自らの意志で1枚を選び出し、子は1点から4点張りのいずれかの賭け方で、親が選んだ札を推理して勝負に挑む。1点張りは当たる確率が低いだけに配当が高く、4点張りは確率が上がるだけに配当が低くなっている。 人数の制限は特になく、15人程度の多人数が同時に参加することができ、一勝負は2分前後の短時間で決着する。任意のタイミングで参加退出が可能なことから、不特定多数が出入りする賭場の都合に適っていた。 「ホンビキ」「しっち」「釣り」とも呼ばれる。

1人の親に対して複数の子が賭けを行うところはおいちょかぶと似ているが、偶然性よりも過去の推移や相手の性格や癖(キズ)を読む心理戦の攻防に主眼が置かれる。その興奮から、手本引きを知ると他のギャンブルがつまらなくなると言う人も多い。丁半やアトサキ(バッタ撒き)などの賭博よりも格上とされ、日本における「究極のギャンブル」「博奕の華」「賭博の終着駅」と賛されている。

基本的な用語

親と子は3ほどの間隔を開け、「盆茣蓙/盆布(ぼんござ)」と呼ばれる白布を挟んで、平行に向かい合わせに座る。親側は胴を中心に、その左右隣りには「合力」と呼ばれる補助の役目の人間が座る。 数字の呼び方は、一(ぴん)、二(に)、三(さん)、四(し)、五(ご)、六(ろく)で、一のことを「いち」、四を「よん」とは呼ばない。

  • (ぼん):賭場のこと。盆中(ぼんなか)、盆屋(ぼんや)、敷(しき)、場(ば)、道場、入れ物、鉄火場(てっかば)とも言う。
  • (どう):親のこと。胴師、胴親、胴頭(どがしら)とも言う。繰札を選ぶことから、札師とも呼ばれる。喋ると言質からヒントを与えかねないため、終始無言なおかつ無表情であることが多い。
  • 胴前(どうまえ):胴が用意した軍資金のこと。胴前金、胴金、胴芯、芯、芯玉とも言う。最初に提示した額までしか支払い義務はなく、この額と同じだけ儲けたら胴を交代しなければならない。つまり、胴の損得の上限を意味する。
  • 繰札(くりふだ):胴が用いる一から六までの数字が書かれた6枚の札のこと。天正かるた系の貨幣(オウル)の紋標から豆札とも呼ばれる。引札、親札、本綱、豆一六、小点(こてん)とも言う。片手で繰りやすいように、張札よりも小型で細長く作られている。三の札には「願ひなし」と崩し字で書かれ、四の札には製造元の意匠が記される。
  • 紙下(かみした):胴が繰札を隠すために使用する手拭のこと。トマとも言う。博徒の襲名披露などで引出物として作られた代紋入りの手拭が使用されることが多く、手拭を縦に一重、横に三つ折りにして周囲を縫い合わせている。
  • 目木(めき、めもく):一から六の数字の書かれた出目の履歴を表示する札のこと。木札(もくふだ)、モク、ケンコ、出目札、目安札、目安駒、前綱(まいづな)とも言い、扱い易いよう厚みがあり、柘植や樫などの木製であることが多い。胴が選んだ目(数字)を逐次、自分の右側に並べることで、どのようなサイクルで引いてきたかの履歴を示し、それを張子が勝負の推測に役立てている。
  • 張子(はりこ):子のこと。張手、側師、側(がわ)とも言う。
  • 張札(はりふだ):張子が用いる一から六までの数字が書かれた6枚の札のこと。書き札、大一六とも言う。裏張りが黒と赤茶色に分かれる。赤裏の張札は、対角をカットすることで、廻札やケイモン札といった特殊な張り方に使用されることが多い。一・三・六の奇数だけが朱色の大阪タイプを「赤ピン/赤半」、すべての数字が黒色の京都タイプを「黒ピン」と呼んで区別したりする。数字を白抜きにした特殊なタイプも販売されていた。
  • 合力(ごうりき):盆の世話役のこと。中盆(なかぼん)、出方(でかた)、脇(わき)とも言う。合力の役目は多彩で、進行係、あおり役、配当計算、配当付け、賭け金回収、イカサマの監視、手入れの時には客を逃がすために身体を張って警察の進入を防ぐのもその役割である。熟練者である兄貴分が受け持つことが多く、上半身裸に巻き、もしくはダボシャツにステテコ姿。大規模な盆になると合力が4人に増えることもある。
    合力は「入りました。さァ、どうぞ!」「ここが喰い所、張った、張った!」「胴前が増えてまっせ。サクサク張っておくんなはれ!」「さァ、行こか、でけた!(揃いました)」「手ェ切って、勝負!」「ろく!(6など出目を叫ぶ)」などと威勢の良い声で張子を適度に熱くさせ、胴に対しては、「受かりました(親が儲かることを差す)」「いい綱です。次入って下さい」、場合によっては「そろそろ引き退きではないですか?」などと逆に冷ましたりして、合力の力量次第でその場が盛り上がるかどうかの鍵を握っている。

手順

  1. 胴が胴前を提示する。
  2. 胴は、繰札の中から任意の1枚を選び、それを一番上にして6枚すべての繰札を紙下に挟んで場に出す。
  3. 張子は、これだと思う張札を裏向きに置き、賭け金を添える。
  4. 胴は、自分が選んだ数字の目木を右端へ動かす。
  5. 胴は、紙下を開いて、繰札を公開する。
  6. 張子は、当たりがあれば、その張札だけを表返す。なければ、張札を仕舞う。
  7. 合力が配当の付け引きを行う。
    • ハズレた賭け金を没収して胴前に加える。
    • 配当倍率が種で当たった張子に賭け金を戻させる。
    • 当たった張子に配当金を投げ渡す。
  8. 胴の交代がなければ[2.]に戻る。
  9. 胴の胴前が浮いた状態で終了する場合、寺銭を収める。

詳細な手順・作法・知識

  1. 胴は胴前として用意した札束を自分の前に置き、目木を自分から見て、左から右へ123456の順に横一列に並べ替える。「初綱(しょな)/天(てん)」と呼ばれる一手目は、張子には推理材料が一切ないため、慣習として賭けられないとすることが多い。その場合、合力から「お手は止めといておくれやす!」と言われる。この初綱においては、目木は動かさない。
    • 開始時にすべての目木を裏返して置き、胴が出目を引くごとに対応する目木を1枚ずつ表返して、胴の前に左から順に並べていく京都古式なやり方もある。この場合は初綱から張ることが可能で、さらに玄人の博奕打ちが胴を務める際、初綱では3を引かないことが不文律となっている。これは堅気の旦那衆へ対するハンディキャップであり、博奕打ちの器量を示している。
    • 合力は絶えず胴前の総額を把握しておかなければならず、迅速に配当が付けられるようにするため、胴前の紙幣を5枚ずつズラして重ね合わせ、自分たちの前に置き直す。
  2. 胴は、1から6の6枚の繰札の中から、任意の1枚を張子に悟られぬように選ぶ。これは「屋根/片方(かたえ)/被り」と呼ばれる羽織や浴衣やオーバーなどを半肩にかけ、その胸元で片手で選ぶ「前引き/懐引き」、もしくは、片手を背中に回して選ぶ「後ろ引き/背中引き」のどちらかの方法で、選んだ札を一番上にして、すべての繰札を紙下に挟んで隠し、自分の膝前の盆茣蓙に置く。繰札の選択から紙下に入れるまでの動作を「釣り」と言い、この間、胴が繰札を見ることは一切禁じられる。
    • 胴の毎回の選択には制限がなく、1ばかりを何回続けても良いし、1-2-1-2-1-2のように繰り返しても構わないが、連続性を持たせると張子に読まれる危険性が増すことになる。だが、わざと読ませ、さらにその裏を突く、というような心理戦もあるので、一概にダメというわけでもない。ただし、出目を無作為に選ぶことは禁じられており、繰札を公開する前に目木を先に移動させるのは、胴が引いた目を自覚していることを証明するためである。
    • 胴は、初綱に入る前に「綱」と呼ばれる繰札の並び順を確認しておく必要がある。これを「綱改め」と言い、繰札を広げられた紙下にスライドさせて曝し、123456の順に正しく並んでいることを確かめた上で、選択動作に入るのが正式な所作とされる。
    • 札の繰り方にも規定があって、繰札の山の中から選んだ目も含めて、下にある札をまとめて山の上に持ってこなければならない。つまり、シャッフルをするような繰り方は認められておらず、繰札の山の並び順を崩してはいけない。例えば、4の目を引く場合には、繰札の山の並びが上から456123でなければならない。この並び順が崩れていると「綱もつれ/綱切れ」と呼ばれる反則により、張られた賭け金と同額をそれぞれの張子に対して支払う「総付け」が課せられる。
    • 繰札を繰って、選んだ目を一番上にしたら、繰札を山ごと裏返して、紙下の中央に挿し込み、これを逆の手で上から包んで折り込む。盆茣蓙に置く時にひっくり返せば、紙下を開く際に繰札の山は表向きになっている。
    • 胴の視線や表情の変化、筋や筋肉の動き、呼吸や身体の揺れ具合といった行動パターン、札を繰る時間や音にまで、張子たちの神経が一斉に集中するため、この間、席を立ったり、物音を立てたり、私語は一切禁止である。盆が最も緊迫する瞬間だけに、室内の出入りも避けられる。
  3. 胴が繰札の入った紙下を盆茣蓙に置いたら、合力は「入りました。張って下さい」と張子を促す。張子は出目を推理して、各自に配られている張札の中から、これだと思う札を自分の前に裏向きで賭け金を添えて置く。原則として張札は1枚から4枚までを張ることができ、張札や賭け金の配置で配当倍率が異なる。基本的には本命1点と保険に何点か張るといった感覚である。下記[張り方一覧]参照。
    • 張子が張札を見ながら考え、1枚ずつ裏向きで置いていく張り方を「見下ろし」と言い、この方法が一般的である。配当の高い順に配置していくのが美しい作法とされる。張札をシャッフルして全く見ないで張ることを「盲我(もが)」、1枚だけ抜き、残りをシャッフルして順に張ることを「1枚切り」、2枚抜くことを「2枚切り」、3枚抜くことは「3枚好き」と呼ばれ、抜いた張札のことを「見切り」、山の上から順番に張って、手許に残った張札のことを「突き上がり」と呼んでいる。ただし、この張札をシャッフルして張る方法は運任せだけに不調法とされる。「3枚好き」で1・2・6の札を張ることを「薄(うす)」、3・4・5の札を張ることを「厚(あつ)」と言ったりもする。
    • 賭けずに様子を見たい時は、「見(けん)さしてもらいます」と合力に断っておけば、礼儀を欠くこともない。
    • 「通り」や「半丁」と呼ばれる補助札が用意されている盆もあって、ツイている他の張子の賭け方に便乗することができる。半丁札は相手の賭け金の半額だけを張る場合に用いられる。これらは「雛形(ひながた)」と呼ばれる張り方で、「通り、行かしてもらいます」と申告すれば、合力がどの張子に乗るかを確認した上で、その相手に通り札を渡してくれる。親しい間柄であれば「誰々さんに通り!」と宣言することもある。
    • 賭けに使用できるのは原則として現金紙幣のみ。紙幣は人物面(表面)が見えないように2つ折りにして、幾ら賭けているかを合力に判るように、少しずつズラして目を切って重ね合わせるのが作法である。「ズク」と呼ばれる同額紙幣を10枚束にしたものが使用されることが多いが、これを縦に置けば額面通り、横に置くと半分、斜めに置くと4分の3、4つ折りにすると4分の1だけを賭けたことになるというルールもある。
    • 盆ごとに賭け金の最低額が設定されており、これを「裾(すそ)」と言う。裾で賭けることを「小張り(こばり)/小者張り(こしゃばり)」、逆に百万円を帯(おび)で賭けるような大きな博奕を「大張り(おおばり)」、ほどほどの金額でのベットを「中堅張り(ちゅうけんばり)」と呼んだりする。
    • 実際には、4点張りで勝負する張子がほとんどで、これは賭け金が高額なこと、長時間楽しむため、そして、1点張りや2点張りは、胴の面子(めんつ)を踏みにじり、喧嘩を売るような張り方だと考えられているためである。
  4. 合力が張子全員が賭け終えたことを確認した上で「勝負!」と掛け声を発する。胴はまず自分が選んだ目木を取って右端へと移動させる。前回と同じ目を引いた場合には、それを指し示すか、目木に触れずに紙下をめくることで了解される。
    • 合力の「勝負」の声が掛かってから紙下がめくられるまで、張子たちは盆茣蓙に置いた張札や賭け金に触れることは御法度とされる。
    • 胴が何の目を引くかというより、目木の何番目を引いたかが駆け引きの焦点となるため、それぞれの目木の位置に対して独特な名称がついている。同じ目は「根(ね)/根っ子/面(つら)」、右から2番目を「小戻(こもどり、こもど)/戻り」、3番目を「三間(さんけん、さんげん)/三法(さんぽう)」、4番目を「四間(しけん)」、5番目を「古付(ふるつき、ふるつぎ)/後家(ごけ)/ゴドス」、6番目は「大戻(おおもどり)/大廻/捲り/穴(けつ)/ドス」などと呼んでいる。
    • 目木の1・2番目を「口(くち)」、3番・4番目を「中綱(なかな)」、5・6番目を「奥(おく)」と呼んだり、目木の1・2・3番目を「先(さき)」、4・5・6番目を「後(あと)」と呼んで、張り方の目安にされる。
  5. 胴は目木を移動した後、続いて紙下をめくって繰札を見せる。この一連の胴の動作を「唄う」と言う。合力は胴が動かした目木と紙下の繰札の目が合致していることを確認して、例えば、目木が1、繰札も1の場合には「中(なか)もピン! ピンのない方は札をあげておくんなはれ」というように進行する。
    • 目木と繰札の目が異なる場合、これを「唄い違い/唄い損ない/祭」と言い、両方が当たりとなって、張子の張ったどちらか配当の高い目に対して支払いが生じる。この場合の繰札と合致した張札を「本家」、目木と合致した張札を「嘘」と呼ぶ。ただし「嘘」で受かる場合には「半付け」と言って半額だけ配当される。ハズレた子方の賭け金は徴収される。
  6. 張子は当たりがあれば、その張札だけを表返す。開かずに引っ込めれば、その子方はハズレと了解される。どこに何を張ったかうろ覚えであれば、配当の低い順に確認していくのが礼儀である。不審な点があれば、胴に対しては繰札の山すべて、張子に対しては張った札と張らずに手許に残るすべての張札の公開を要求できる。
    • 当たることを「受ける/開く(あく)/起きる/踊る」、ハズレることを「抜ける/滑る/すかれ」と言う。受けたかどうかは、手許に残した張札を見れば一目瞭然である。
    • 張子が張札を開ける際、手の中に隠していた札と瞬時に置き換えるイカサマを「吹っ替え/吹き返し/打替え」と呼ぶ。このイカサマと誤解されないためにも、張らずに手許に残った張札は盆茣蓙の外に一旦置いて、張った札の上側が盆御座から離れないように下側を軽く上げて確認してから、当たりの札を開くのが作法である。
    • 元来、張札は貸元(かしもと)や専門の字書屋が、「白ぼて」と呼ばれる無地の札に揮毫して、勝負が終わると廃棄していた。昭和30年代頃から既製品の張札が登場し、これを使用することが多くなった。盆によっては、目を切り替える「屏風/ベガ/返し/シャッター/コットン/ガリ」と呼ばれるイカサマ札の不正使用を防止するため、張札の対角線上にパンチで穴を2つ開けることで対処している。
  7. 合力はハズレた張子の賭け金を没収して胴前に加える。当たりの張札を開けている張子に対しては配当金を胴前から支払い、その3〜5%を寺銭として胴前から別途徴収する。これを「受け寺」と言い、それぞれ合力の側には、受け寺を入れるための「受けざる」と呼ばれるザルや桝が置かれている。配当率0倍の「種(たね)」で当たった張子に対しては「玉返しでんな」と確認した上で、賭け金と張札を戻させるよう促す。
    • 実際には、 合力がハズれた賭け金を没収したら、配当付けは後回しにして、胴に次の勝負に入らせる場合がほとんどである。こうすることで、抜けた張子を待たせる時間が短縮でき、スムーズに進行できるメリットがある。配当付けは胴が紙下を場に置いてから行われる。
    • 配当金は、必ず盆茣蓙の外に移動させるのがマナーである。そのまま残しておくと、次の勝負の賭け金と誤解されかねない。
  8. 清算が終わると、合力は「さァ行こう」「次、入って下さい」などと胴に促し、次の勝負に移る。
    • 胴は毎回、繰札の山の一番上を1に戻してから、それを張子に提示した上で、次の勝負の選択動作に入るのが正式な所作とされる。この際に合力は「ピンから入ります」と言葉を添えたりする。
  9. 胴が交代することを「胴を洗う」と表現する。胴は勝っても負けても「これにて胴を洗わして頂きやす。悪うおました」と挨拶するのが礼儀である。
    • 胴が勝って胴を洗うことを、胴が「立つ/生きる/浮く」などと言い、この場合、まず「浮き胴」と呼ばれる勝ち金の総額10%を合力への報酬として支払う。そして、合力代を差し引いた残額の20%を寺銭として収める。この寺銭のことを「生き寺」、寺銭を差し引いた胴の純利益を「立ち/おどみ銭」と言う。勝ち金の5%を合力へ、25%を寺銭にする盆もある。
    • 胴が負けてすべての胴前がなくなると、胴が「潰れる/腐る/割れる/溶ける」と言って、胴を洗わなければならない。だが、最初に「半チョイ」もしくは「テンチョイ」と宣言しておけば、胴前の半分、あるいは胴前の同額まで、貸元に借金をすることで支払い限度額が増える。それでも支払い切れなければ比例配分され、このことを「分散」と言う。胴が潰れた場合には、当然「生き寺」は発生しない。同じ胴が新たな胴前を提示して続投することを「焚き付け」と言ったりする。
    • ヤクザなどの盆で胴元が決まっている場合は、数人の胴が用意されているので、交代して新たな勝負が始まる。本職の胴でもかなりの体力と神経を消耗するため、一人の胴が連続して行う勝負は通常2時間とされ、これを「一本」と呼んでいる。
    • 一般の旦那衆の集まりでは「廻り胴」と言って、順に持ち廻りで胴を担当することが多い。この場合の合力は、胴が勝てばご祝儀をもらうが、負けた時は何も入らない。この合力も持ち廻りで行うことが多い。胴の勝ち逃げを防止するため、最後の三番勝負を宣言しなければならない、としたり、浮いた場合でも元金の1.5倍以上にならなければ、胴を洗うことができないといった規定を設けることがある。
    • 胴前を客が出資するシステムもあり、胴が勝てば出資した客も配当を得る。このことを「乗り胴/側乗り/乗り」と言う。もちろん、胴が負けて破産すれば出資金は戻らない。乗り胴が付いた胴のことを「打ち合せ胴」、付かないことを「ポン抜き」と呼ぶ。盆によっては、胴前の額を記録して寺銭を計算したり、乗り胴の金額を記録して配当金を計算する「帳付(ちょうつけ)/帳面(ちょうめん)」と呼ばれる幇助役がいることもある。帳付がいなければ、合力がこれを兼任する。

用具については、現在、田村将軍堂が張札と繰札と目安駒(目木)を、任天堂が張札のみを販売している。双天至尊堂が繰札・張札・補助札をひとつのパッケージにまとめた「手本引きセット」を廉価版として製造販売している。このセットにはボード上に札を載せることで配当倍率が一目瞭然となる配当盤が付属する。この他、一時期は、板東笑和堂、小原商店本店、日本骨牌製造、東洋骨牌、松井天狗堂が製造していた。 テンプレート:See also テンプレート:See also

張り方一覧

数字はオッズではなく配当で、賭け金に対して胴から支払われる倍率を示している。例えば、スイチで20万円を張って受かれば、賭け金の20万は戻され、配当金として胴前から90万円が支払われる。

配当の高い順に、大(だい)/頭(あたま)、中(なか/ちゅう)/腰(こし)、止(とまり)/穴(けつ)、角(つの)/別(わかれ)と呼ばれる。

張札を縦か横にするかの向き、前後の位置、さらに賭け金の配置場所によっても配当倍率が変化するので注意が必要である。「種(たね)」は配当が付かずに賭け金がそのまま戻され、「種返し/玉返し/戻り」とも呼ばれる。4点張りの角で当たっても、賭け金の2割(もしくは1割)が差し引かれることになる。配当率1倍で当たることを「玉受け」と呼んだりする。

枚数 配置/通称 漢字表記/別称
1点張り 130pxスイチ 4.5
(4.6)
- - - 素一、本気(ポンキ)
ピン張り
2点張り 130pxケッタツ 3.5
(3.6)
- - 脚立、ケタツ
2点張り 130pxサブロク 3 0.5
(0.6)
- - 三六、三五
2点張り 130pxグニ 2.5
(2.6)
1 - - 五二、石塔
3点張り 130pxヤマポン 2.8 - 大和一本、大和の本、
ボンウケ、ヤマボン、
大穴(ダイアナ)
3点張り 130pxピンチュウキツカラ 2 0.8 - ※中に止の札を重ね、
 合力に了承を得る
3点張り 130pxロクサンピン 2 0.6 0.2 - 六三一、ロクゾウピン、
与平
3点張り 130pxピンチュウ 1.5 1.3 - 一中
※中に止の札を重ね、
 合力に了承を得る
3点張り 130pxクイチ 1.5 1 0.3 - 九一、クッピン
3点張り 130pxトマリ8分 1 1 0.8 - ※角の位置にライター置き、
 合力に了承を得る
 オイルライターが望ましい
4点張り 130pxソウダイ 2 -0.2 総大
4点張り 130pxキツ 1.4 0.6 -0.2 高(キツ)
4点張り 130px安張り 1.2 0.6 0.2 -0.2 安受け、七二一
4点張り 130px箱張り 1 1 -0.1 -0.1

上記は代表的なもので、呼称や配当倍率も盆によって様々で微妙に異なる。盆のカスリ(寺銭)、「特別」と呼ばれる合力への礼金を計算に含めるか否かなどは、開帳者(主催者)である寺師(貸元もしくは代貸のことでもある)の取り決めによる。

配当の合計値は、1点張は4.6倍、2点張は3.6倍、3点張は2.8倍、4点張は1.8倍になるのが基本。 オッズに換算して合計すると、1点張と2点張は5.6倍、3点張と4点張は5.8倍となり、張り目の多いタイプの方が少し張子に有利なことが判る。 ギャンブルとしての期待値は96.777%、控除率は3.333%である。これは1万円賭けるごとに負ける平均値が333円であることを意味する。

自信のある札の下に賭け金を置いてスイチを重ねたり、安張りとヤマポンを組み合わせる「大和(やまと)」、張札を2面、3面使う「2個入り」「3個入り」、5枚張る「受け受け/三三受け」「総大受け」、逆目を当たりとする「裏張/裏面張/総裏」、角を切った廻札を使って合計値を当てたり、来ない目を推理する「ケーモン/ケイモン」など、特殊な張り方が多数存在するので、事前に合力への確認が必要である。

配当金額に端数が生じる場合、「駒札(こまふだ)/半券(ぱん)」と呼ばれるセルロイド製の札や碁石が使用される。例えば、碁石1つを2500円として代用したりする。これ以外に生じた端数は切り捨てられるため、賭け金によっては張子が若干の得をすることもあれば、損することも起こり得る。この切り捨てのことを「出入り」と呼んでいる。

歴史

手本引きの起源は意外と新しく、明治に入ってから、京都白川に一家を構える初代・会津小鉄こと上坂仙吉をはじめ、柿木松之助や長谷川伊三郎ら侠客たちによって、江戸時代から遊ばれていた賽子賭博「樗蒲一(チョボイチ)」を進化発展させる型で考案された。当時勢力下にあった京都や大阪の常盆(常設賭場)を中心に、西日本の都市や温泉街へと伝播していった。

明治16年(1883年)3月14日、上坂仙吉は明治政府による博徒狩りで捕えられ、重禁固10ヵ月・罰金百円の判決を受け服役した。その翌年には出獄するも、明治18年(1885年)に歿している。享年51。

明治17年(1884年)1月4日、刑法の賭博罪の規定が停止され、新たに賭博犯処分規則が制定された。これにより賭場の捜索は昼夜問わず現行犯でなくとも取締ることが可能になり、博徒たちからは「大刈込」と恐れられた。しかし、この規定は大日本帝国憲法との整合性に問題があったことから、明治21年(1889年)6月10日には廃止されている。

大正12年(1923年)9月1日に起こった関東大震災の頃には、手本引きは東日本にまで波及している。昭和5年(1930年)には全国的に流行、昭和30年代になると専用の張札も市販されピークを迎えた。

昭和39年(1964年)2月、警視庁に組織暴力犯罪取締本部が設置される。それ以降、証言さえあれば非現行でも逮捕するようになり、盆茣蓙が鋲で固定されていたり、目木があると現金の有無に拘らず、玄人賭博の物的証拠とされた。常盆は壊滅的な打撃を受け激減した。

昭和39年(1964年)3月19日、箱根塔之沢の温泉旅館「紫雲荘」で、住吉一家(現・住吉会)三代目・阿部重作の引退に伴う総長賭博を、錦政会(現・稲川会)会長・稲川裕芳と住吉一家四代目・磧上義光が共同で開帳した。一晩で動いた総額が約6億円、祝い金として阿部重作のもとに約4千4百万円が届けられたという。

昭和47年(1972年)10月、後に四代目山口組組長となる竹中正久の姫路の事務所(竹中組)3階の大広間に、全国から蒼々たる親分衆が集まり、5,6日間ぶっ通しの総長賭博が開帳された。動いた金額が150億円、寺銭は1億円に昇ったいう。

平成に入ってからは、大阪市西成区に集中するほとんどの常盆では賽本引きが主流となっていく。大阪府警察捜査4課では、西成区にある酒梅組の常盆を、平成18年(2006年)1月25日、平成20年(2008年)9月18日、平成24年(2012年)2月14日と度々摘発している。また、平成26年(2014年)5月24日には、大阪市住之江区のマンションで賽本引きをしていたとして、胴元側が用意した現金約250万円を押収、飲食店経営の69歳の男性ら9人を賭博開帳図利、客7人を常習賭博の容疑で逮捕している。

バリエーション

  • 賽本引(さいほんびき)
サイコロ2個をツボザルか湯のみに入れて伏せ、出た目の合計の数( 12なら合計は3)を答えとし、7以上の数は6を引く。目木は、手本引きで使用するタイプよりもサイズが大型で、例えば、サイコロの目が 35の場合、当たり目である2の目木を右端に移動させ、「台」と呼ばれるサイコロの大きい目(この例では5)の目木を少し突き出すようにする。手本引きほど胴師の技量を必要とせず、運任せでよりスピーディーな勝負が楽しめることから、関西だけでなく関東でも人気があった。関西の一部では「オッチョコ」とも呼ばれていた。
  • 牌本引(はいほんびき)
麻雀牌を使用。
  • 絵本引(えほんびき)
花札を使用。札の目は、松一、雨二、桜三、藤四、杜若五、桐六、もしくは、萩一、山二、菊三、楓四、牡丹五、梅六とする。目木を使用しないこともあり、この場合には張子が紙に出目を書き記して、これを「看板」と呼んで張りの目安にしていた。手本引きの専用札のない時代、また、株札がほとんど流通していなかった関東地方で主に普及した。愛知や東海地方でも「伊勢」と呼ばれる地方札を用いて遊ばれ、「六一(むついち)」とも呼ばれていた。
  • ネタ本引(ねたほんびき)
数字ではなく、大トロ、ウニ、甘エビ、サーモン、タコ、ガリといった寿司ネタに改変され、専用札と目木がセットになってパッケージされている。2014年にサイ企画が製造。

参考文献

  • 司法資料 賭博に関する調査(司法省/著、風媒社、1927年)ISBN 978-4833103978
  • とばくの栞(三木今二/著、大阪府警察官吏遺家族救護会印刷部、1937年)
  • 警察叢書 賭博犯検挙要説(光藤直人/著、警察時報社、1948年)
  • 賭博犯罪捜査資料(警視庁組織暴力犯罪取締本部/編、1966年)
  • ヤクザの世界(青山光二/著、筑摩書房、1970年)ISBN 978-4480035875
  • 鉄火賭博犯捜査の実際(清水清/著、学陽書房、1972年)
  • 賭博事犯の捜査実務(栗田啓二,山田一夫/共著、日世社、1972年)
  • と博犯の捜査(警視庁刑事部第四課/編、1972年)
  • 実証・日本のやくざ 正統派博徒集団の実像と虚像(井出英雅/著、立風書房、1972年)
  • 別冊太陽 日本のこころ9「いろはかるた」(飯干晃一/著、平凡社、1974年)ISBN 978-4582920093
  • とばく学入門 花と賽(樋口清之,石田和/共著、エレック社、1975年)
  • 賭博 花札・さいころ・イカサマ手口(半沢寅吉/著、 原書房、1977年)
  • 賭博犯の捜査必携(埼玉県警本部刑事部捜査第四課/編、1978年)
  • 花札ゲーム28種(竹村一/著、大泉書店、1983年)ISBN 978-4278045246
  • 極道渡世の素敵な面々(安部譲二/著、祥伝社、1987年)ISBN 978-4396610074
  • 賭博大百科(山本卓/著、テータハウス、1989年)ISBN 978-4924442689
  • 別冊宝島125「当世ぎゃんぶる読本」(原田信一/著、JICC出版局、1991年)ISBN 978-4796691253
  • これが超法規ギャンブルだ!(非合法遊技総合研究会/編、ハローケイエンターテインメント、1994年)ISBN 978-4584181928
  • 花札必勝 これでOK!!(田中健二郎/著、金園社<ハウブックス>、1995年12月20日初版発行)ISBN ISBN 978-4321554039
  • 賭事 日本の名随筆(安部譲二/編、作品社、1995年)ISBN 978-4878938764
  • 最後の読みカルタ(山口泰彦/著、1998年)
  • 裏ギャンブルで遊ぶ本 仲間で楽しみ、財布が豊かに (河合大成/著、三才ムック VOL. 61、2000年)ISBN 978-4915540264
  • 裏バクチで死ね!! (日名子暁/著、ワニマガジン社 ワニの穴22、2001年)ISBN 978-4898296448
  • 小博打のススメ (新潮新書) (先崎学/著、新潮社、2003年)ISBN 978-4106100383
  • ザ闇賭博(鈴木智彦/著、宝島社、2003年)ISBN 978-4796635417
  • 現代ニッポン裏ビジネス(別冊宝島編集部/編、2004年)《手本引きの部分は「ザ闇賭博」から張り方一覧を削除した同一のもの》
  • 鉄火場攻略かげろうガイド(西原理恵子,五十嵐毅/共著、竹書房、2004年)ISBN 978-4812416204
  • 別冊国文学61 ギャンブル 破滅と栄光の快楽「賭博骨牌考」(寺山修司/著、學燈社、2006年)
  • 図解 裏社会のカラクリ(丸山佑介/著、彩図社、2007年)ISBN 978-4883926176
  • 潜入ルポ ヤクザの修羅場 (文春新書) (鈴木智彦/著、文藝春秋、2011年)ISBN 978-4166607938
  • ものと人間の文化史167 花札(江橋崇/著、法政大学出版局、2014年)ISBN 978-4588216718

手本引きを題材にした作品・イベント

小説

ギャンブル小説家の第一人者であった阿佐田哲也は、「世の中には三千種以上のギャンブルがあるが、面白さでは一位がホンビキ、二位が競輪だろう」と手本引きを高く評価するコメントを残している。 また、作家の安部譲二は、胴師の経験があり「特にハマったのは"手本引き"っていう博打でさ、純日本製、単純にして完全無欠。国際的にポピュラーなポーカーやブリッジなど、手本引きの面白さと合理性には足もとにも及びません」と語っている。

  • 乾いた花(石原慎太郎/著、文藝春秋新社、1959年)
  • 獣の倫理/仁義(青山光二/著、小説現代、1964年10月号/徳間書店、1991年)ISBN 978-4195993576
  • 紅夜叉登場/極道(青山光二/著、カラー小説、1969年9月号/徳間書店、1990年)ISBN 978-4195992067
  • 現代女侠列伝/女侠(青山光二/著、別冊土曜漫画、1972年2月18日〜4月28日号/徳間書店、1993年)ISBN 978-4195775585
  • 耳の家みみ子/ギャンブル党狼派(阿佐田哲也/著、角川書店、1980年)ISBN 978-4041459553
  • ホンビキ原作屋/ああ勝負師(阿佐田哲也/著、角川書店、1980年)ISBN 978-4041459577
  • ドサ健ばくち地獄阿佐田哲也/著、角川書店、1984年)ISBN 978-4041459645
  • 小説 阿佐田哲也(色川武大/著、角川書店、1984年)ISBN 978-4041459027
  • ばいにんぶるーす(阿佐田哲也/著、講談社、1985年)ISBN 978-4061835221
  • 札師(青山光二/著、角川書店、1985年)ISBN 978-4041588024
  • ばくち打ちの子守唄(阿佐田哲也/著、双葉社、1986年)ISBN 978-4575501032
  • 陽炎(KAGERO) (栗田教行/著、角川書店、1991年)ISBN 978-4047825017
  • 極道記者(塩崎利雄/著、白夜書房、1991年)ISBN 978-4893672377
  • 博徒(青山光二/著、徳間書店、1992年)ISBN 978-4195773147
  • 同伴賭博(安部譲二/著、週刊小説、1992年10月9日号/実業之日本社、1994年)ISBN 978-4408532233
  • 照柿(高村薫/著、講談社、1994年)ISBN 978-4062069021
  • ほんびき落とし/麻雀放蕩記(黒川博行/著、双葉社、1997年)ISBN 978-4575232998
  • 日本版黄金の腕/極道者 アウトロー小説集(青山光二/著、筑摩書房、2002年)ISBN 978-4480037152
  • 二進法の犬(花村萬月/著、光文社、2002年)ISBN 978-4334073169
  • 消し屋A(ヒキタクニオ/著、文藝春秋、2006年)ISBN 978-4167702021
  • 跪き、道の声を聞け(ヒキタクニオ/著、PHP研究所、2011年)ISBN 978-4569795003
  • いねむり先生伊集院静/著、集英社、2011年)ISBN 978-4087450996

映画

主としてヤクザ映画に登場することが多く、中でも鶴田浩二が主演した「博奕打ちシリーズ」第1弾『博奕打ち』に詳細な賭場の場面を観ることができる。この映画を監督した小沢茂弘は、関西人なら皆、手本引きのルールを知っていると思っており、ルールを把握することでより楽しめる娯楽作に仕上げている。 「緋牡丹博徒シリーズ」でも緋牡丹のお竜(藤純子)が賭場の場面で行っていたのが手本引きで、シリーズの監修にあたっていたのは、任侠社会の元老である石本久吉(小久一家総長)であった。

漫画

ゲーム

イベント

  • ギャンブルゲーム特集(なかよし村とゲームの木・東京)2009年10月31日 / 2011年7月30日
  • 手本引きイベント(アキバギルド・東京)2010年9月13日 / 2013年3月27日 / 2014年1月7,8日 / 2014年4月22,23日 / 2014年8月26,27日
  • 横浜下町パラダイスまつり・乾信治先生と手本引で遊ぼう(横濱古典遊戯場・横浜)2013年8月30日

関連項目

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