山口厚

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山口 厚(やまぐち あつし、1953年11月 - )は日本の法学者。専門は刑法早稲田大学法学学術院教授司法試験委員会委員長(2012年~)、日本刑法学会理事長(2009年~)。指導教官は平野龍一

人物

結果無価値論の旗手として早くから頭角を現す。

助教授時代の論文である後掲『「原因において自由な行為」について』が出世作であるが、その内容は以下のとおりである。山口は、当時通説的見解であった間接正犯類似説が原因行為を実行行為としていたことに対し、その必然性はないと批判した平野龍一の問題意識を発展させて精密化し、結果無価値論の立場から未遂犯の処罰根拠を結果の危険と解した上で、その処罰範囲を法益侵害の危険性の相当な原因となった行為に限定するとの理論を展開したものとして高く評価された[1]

その後続けて発表した後掲『危険犯の研究』において、結果無価値論の立場から危険犯の処罰根拠を精密化し、抽象的危険犯においても結果の発生がない場合が想定できると準抽象的危険犯の概念を提唱した。 小林憲太郎立教大学准教授は山口の著書『問題探求刑法総論』は我が国の日本刑法学史において最も重要な業績と評価している[2]。 2005年に有斐閣より発売した『刑法』は通称「青本」と呼ばれ、法学部生や法科大学院生に好評を博している。

学説

基本的な立場は、師である平野と同じく結果無価値論の流れをくむものであるが、山口刑法学はこれを精密に分析し理論化した。その特色として、以下のようなものが挙げられる。

  • 構成要件論では: 実行行為概念の判断基準の明確化、因果関係の判断枠組み(判例)の支持と基準の明確化(従来の相当因果関係説の判断基底論の不採用)、正犯性論における結果原因支配(下位基準として遡及禁止論)の採用。
  • 違法論では: 主観的違法要素の原則的否定(法益侵害の危険を基礎づける限りで承認)。
  • 責任論では: 事実の錯誤論における具体的法定符合説、制限責任説、修正旧過失論の採用。
  • 共犯論では: 因果共犯論および制限従属性説(混合惹起説)の採用。

さらに、未遂犯と不能犯の区別における修正された客観説、中止犯における新たな政策説(意識的危険消滅説)などを提唱している。

略歴

著作

単著

  • 『「原因において自由な行為」について』(団藤重光博士古希祝賀論文集2巻、1981年)
  • 『危険犯の研究』(東京大学出版会、1982年)
  • 『問題探究刑法総論』(有斐閣、1998年)
  • 『問題探究刑法各論』(有斐閣、1999年)
  • 『クローズアップ刑法総論』(成文堂、2004年)
  • 『クローズアップ刑法各論』(成文堂、2008年)
  • 『刑法〔第2版〕』(有斐閣、2011年・初版2005年)
  • 『刑法総論〔第2版〕』(有斐閣、2007年・初版2005年)
  • 『刑法各論〔第2版〕』(有斐閣、2010年・初版2005年)
  • 『新判例から見た刑法〔第2版〕』(有斐閣、2008年・初版2006年)
  • 『刑法入門』(岩波新書新赤版1136、2008年)
  • 『基本判例に学ぶ刑法総論』(成文堂、2010年)
  • 『基本判例に学ぶ刑法各論』(成文堂、2011年)

編著

  • 『ケース&プロブレム刑法総論』(弘文堂、2004年)
  • 『ケース&プロブレム刑法各論』(弘文堂、2006年)

共著

共編著

  • 西原春夫松宮孝明新倉修・井田良)『刑法マテリアルズ』(柏書房、1995年)
  • (西田典之・佐伯仁志)『判例刑法総論〔第5版〕』(有斐閣、2009年・初版1994年)
  • (西田典之・佐伯仁志)『判例刑法各論〔第5版〕』(有斐閣、2009年・初版1992年)
  • (西田典之・佐伯仁志)『注釈刑法 第1巻』(有斐閣、2010年)
  • 川端博・井田良・浅田和茂)『理論刑法学の探究〈1〉』(成文堂、2008年)
  • (川端博・井田良・浅田和茂)『理論刑法学の探究〈2〉』(成文堂、2009年)
  • (川端博・井田良・浅田和茂)『理論刑法学の探究〈3〉』(成文堂、2010年)
  • (川端博・井田良・浅田和茂)『理論刑法学の探究〈4〉』(成文堂、2011年)
  • 中谷和弘)『安全保障と国際犯罪』(東京大学出版会、2005年)
  • 芝原邦爾・西田典之)『刑法判例百選Ⅰ<総論>〔第5版〕』(有斐閣、2003年)
  • (芝原邦爾・西田典之)『刑法判例百選Ⅱ<各論>〔第5版〕』(有斐閣、2003年)
  • (西田典之・佐伯仁志)『刑法判例百選Ⅰ<総論>〔第6版〕』(有斐閣、2008年)
  • (西田典之・佐伯仁志)『刑法判例百選Ⅱ<各論>〔第6版〕』(有斐閣、2008年)

学会活動等

門下生

脚注

  1. 内藤謙『刑法総論(下)Ⅰ』845~892頁
  2. 小林憲太郎・島田聡一郎『事例から刑法を考える』112頁