賄賂罪

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テンプレート:Ambox テンプレート:日本の刑法 テンプレート:ウィキプロジェクトリンク 賄賂罪(わいろざい)とは、日本刑法197条198条に規定されている犯罪類型の総称である。

概説

公務員に公権力の行使に関して何らかの便宜をはかってもらうために、金品などを提供する賄賂による職権濫用・法律違反に関する犯罪規定である。以前は、仲裁人についても刑法で規定されていたが、現在は仲裁法50条~55条に同様の犯罪が規定されている。現在公務員である者に対する行為のほか、過去に公務員であった者に対する行為(197条の3第3項の事後収賄罪)や公務員になろうとする者に対する行為(197条第2項の事前収賄罪)や法律上みなし公務員とされた民間人の行為についても犯罪とされる場合がある。

この場合の保護法益は国家的法益であると解されているが、その意義について争いがある。「職務行為の不可買収性」とする見解、「職務行為の公正」であるとする見解がある。さらに「職務行為に対する国民の信頼」を保護法益とする見解(判例の立場)もある。

一般に収賄の立証が困難なため、贈賄側有罪(事実を認めるため)、収賄側無罪(賄賂性を頑強に否認、証拠も不十分のため)となる事件も多い。また贈賄罪と収賄罪は公訴時効が異なっている。贈賄側の公訴時効が成立している一方で収賄罪側の公訴時効が成立しないため、収賄罪側のみ立件することを「片肺飛行」と表現することがある。

収賄罪と贈賄罪は、収賄行為と贈賄行為の両方の行為が犯罪となることが必要である必要的共犯(対向犯)とされる。具体的には、賄賂収受罪と賄賂供与罪、賄賂約束罪どうしが必要的共犯とされる。一方、賄賂申込罪と賄賂要求罪は一方の行為のみで犯罪となり、必要的共犯ではない。

収賄罪は、先に述べたとおり、公務員という身分がなければ成立しない真正身分犯であるが、この犯罪に、公務員身分のないものが、共犯として加担した場合は、その身分なき者についても収賄罪が成立する(第65条1項)。例として2007年の山田洋行事件において、公務員ではない守屋武昌防衛事務次官の妻が収賄罪で逮捕された例がある(後に不起訴処分)。

公職選挙法改正により公職として1992年2月16日以降に収賄を犯したとして有罪が確定した場合には、執行猶予中や刑期満了後一定期間は公民権が停止される。

なお、あっせん贈賄罪が昭和33年改正により新設されたが、昭和55年改正により削除されている。

単純収賄罪

公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処される(刑法197条第1項前段)。他の加重類型と区別するために単純収賄罪と呼ばれる。

主体

本罪の主体は「公務員」である(真正身分犯)。

行為

本罪の行為は職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をすることである。

受託収賄罪

公務員が、請託を受けて、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、7年以下の懲役に処される(刑法197条第1項後段)。昭和16年改正により新設された。

主体

本罪の主体は「公務員」である(真正身分犯)。

行為

受託収賄罪は単純収賄罪のうち公務員が請託を受けた場合を特に重く罰する加重類型である。

事前収賄罪

公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、5年以下の懲役に処される(刑法197条第2項)。昭和16年改正により新設された。

趣旨

本罪は公務員になろうとする者が利益を得て職務の公正を害する危険を抑止するものであるが、行為時には公務員ではないことから職務の公正を害する危険性は未だ小さいため、請託を受けたことを要件としてこれを処罰する趣旨である[1]

主体

本罪の主体は「公務員になろうとする者」である(真正身分犯)。

行為

本罪の行為は、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をすることである。

第三者供賄罪

公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処される(刑法197条の2)。昭和16年改正により新設された。

趣旨

本罪は他人の利益のために供与させるもので、自己の利益のために供与させる場合よりも職務の公正を害する危険性は相対的に低いものの、請託を受けた場合については職務の公正を害する危険性が高まることからこれを処罰する趣旨である[2]

主体

本罪の主体は「公務員」である(真正身分犯)。

行為

その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求若しくは約束をすることである。

加重収賄罪

公務員が前二条の罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときは、1年以上の有期懲役に処される(刑法197条の3第1項)。また、公務員が、その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、若しくはその要求若しくは約束をし、又は第三者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求若しくは約束をしたときも、同様に1年以上の有期懲役に処される(刑法197条の3第2項)。

趣旨

将来的な利益を目的とする収賄罪を処罰し不正行為を抑止する趣旨であるが、不法内容を補うため職務に対する一定の影響を付加的に要件としている[3]

主体

本罪の主体は「公務員」である(真正身分犯)。

行為

加重収賄罪は単純収賄罪・受託収賄罪・事前収賄罪・第三者供賄罪の加重類型である。

事後収賄罪

公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処される(刑法197条の3第3項)。昭和16年改正により新設された。

趣旨

加重収賄罪と同じく将来的な利益を目的とする収賄罪を処罰する趣旨であるが、加重収賄罪と異なり将来の職務に影響を及ぼす危険性がないため不法内容を補うため在職中に請託を受けることを要件としている[4]

主体

本罪の主体は「公務員であった者」である(真正身分犯)。

行為

その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をすることである。

あっせん収賄罪

公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処される(刑法197条の4)。昭和33年改正により新設された。その新設に尽力した当時の法務大臣は唐沢俊樹であった。

趣旨

職務行為といえないあっせん行為を目的とする収賄罪を処罰する趣旨である[5]

主体

本罪の主体は「公務員」である(真正身分犯)。

行為

請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をすることである。

贈賄罪

刑法197条から刑法197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処される(刑法198条)。

主体

各種の収賄罪とは異なり、身分犯ではなく、本罪の主体に特に制限はない。

行為

本罪の行為は賄賂の「供与」「申込み」「約束」である。公務員に対して、ある職務行為を行うあるいは行わないように、財産上の利益を供与し、またはその申込あるいは約束する行為を指す。

特別法上の賄賂罪

各種法令上の賄賂罪

公務員以外についても、みなし公務員に対して賄賂罪が規定されている。

対象
組織
国際機関 国際刑事裁判所 裁判官、検察官その他の職員 国際刑事裁判所に対する協力等に関する法律第58条~第63条
株式会社 企業再生支援機構機構 取締役、会計参与、監査役又は職員 株式会社企業再生支援機構法第68条~第70条
商工組合中央金庫 取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 株式会社商工組合中央金庫法第67条~第69条
日本政策投資銀行 取締役、執行役、会計参与、監査役又は使用人 株式会社日本政策投資銀行法第30条~第32条
日本アルコール産業 取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 日本アルコール産業株式会社法第13条~第15条
日本たばこ産業 取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 日本たばこ産業株式会社法第14条~第15条の2
日本郵政 取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 日本郵政株式会社法第18条~第20条
日本郵便 取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 日本郵便株式会社法第19条~第21条
日本電信電話 取締役、会計参与、監査役又は職員 日本電信電話株式会社等に関する法律第19条~第21条
NEXCO 取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 高速道路株式会社法第18条~第20条
保証事業会社 役員又は職員 公共工事の前払金保証事業に関する法律第29条
産業再生機構 取締役、会計参与、監査役又は職員 株式会社産業再生機構法第61条~第62条の2
日本環境安全事業 取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 日本環境安全事業株式会社法第16条~第18条
成田国際空港 取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 成田国際空港株式会社法第18条~第20条
中部国際空港 取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 中部国際空港の設置及び管理に関する法律第24条~第25条の2
関西国際空港 取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 関西国際空港株式会社法第25条~第26条の2
JR[6] 会社の取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律第16条~第18条
東京地下鉄 取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 東京地下鉄株式会社法第12条~第14条
輸出入・港湾関連情報処理センター 取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 電子情報処理組織による輸出入等関連業務の処理等に関する法律第22条~第24条
産業革新機構 取締役、会計参与、監査役又は職員 産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法第78条~第80条
中小企業投資育成 取締役、執行役、会計参与、監査役又は職員 中小企業投資育成株式会社法第13条~第14条の2
独立行政法人 日本スポーツ振興センター 役員若しくは職員又は試合関係者 スポーツ振興投票の実施等に関する法律第37条~第40条
財団法人 日本船舶振興会 競走選手 モーターボート競走法第72条~第75条
オートレース振興協会 オートレース選手 小型自動車競走法第65条~第68条
JKR 競輪選手 自転車競技法第60条~第63条
認可法人 日本貸金業協会 役員又は職員 貸金業法第50条の3~第50条の4
特殊法人 日本放送協会 役員 放送法第54条
日本中央競馬会 経営委員会の委員又は役員若しくは職員 日本中央競馬会法第37条~第38条
調教師、騎手又は競走馬の飼養若しくは調教を補助する者 競馬法第32条の2~第32条の4
地方共同法人 地方競馬全国協会 調教師、騎手又は競走馬の飼養若しくは調教を補助する者 競馬法第32条の2~第32条の4
公益法人 都道府県農業会議 会議員 農業委員会等に関する法律第91条
公共法人 土地改良区 役員、総代 土地改良法第140条~第141条
土地改良区連合 役員、議員 土地改良法第140条~第141条

不正競争防止法による外国公務員に対する賄賂罪

不正競争防止法第18条は、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益の供与する行為やその申込み・約束する行為を処罰する。

  • 九電工のフィリピン政府への利益供与疑惑
  • PCI事件

脚注

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関連項目

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  1. 林幹人 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)447頁
  2. 林幹人 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)449頁
  3. 林幹人 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)446頁
  4. 林幹人 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)446頁
  5. 林幹人 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)450頁
  6. 2001年以降は本州三社を除く。