加工貿易

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加工貿易(かこうぼうえき、added-profit trade)とは、原材料半製品を他国から輸入し、それを加工してできた製品や半製品を輸出する貿易の形態である。


解説

加工貿易は、中継貿易と異なり加工のプロセスが追加されている分だけ付加価値が高まるため、有利な貿易である。また、最終製品の行き先をあらかじめ輸出に頼る構造であるため、国内経済の変動に左右されにくく、大きな資本力と技術力を有しながら経済基盤の脆弱な国においては基幹産業となる。また、こうした条件を十分満たしていなくても労働賃金が安く生産性が比較的高い国であれば成立しうる余地がある。

さらに、原料調達を外国に依存しているため、コストに応じて調達先を変更できる。国内からの原料調達に依存した場合、コストを理由に取引を切ることが政治的にも困難になるからである。一方で、世界経済の動向や国際政治に影響を受け、原材料価格の高騰に対して有効な策が少ない。しかし第二次世界大戦当時のブロック経済体制よりは国際政治の影響は少ない。

加工貿易をより細分化して、他国より原材料や半製品を輸入して加工した上で輸出を行う「能動的加工貿易」、自国の原材料・半製品を外国に輸出して加工を行わせた上で再輸入する「受動的加工貿易」、「能動的加工貿易」の変形で自国では加工のみを行って、本来の輸出相手である第三国に再輸出する「通過的加工貿易」に分けることもある。

世界の加工貿易

加工貿易が増大すれば、中間財貿易が増大する。加工貿易についての統計資料は入手困難であるが、中間財貿易については、しっかりした統計化゛ある。中間財貿易は、世界貿易において、1960年代以降つねに、消費財・資本財・最終財(消費財+資本財)を上回る貿易量を示してきた[1]。経済のグローバル化の進展は、この傾向をさらに強めている。

各国の加工貿易

産業革命の時のイギリスはインドやエジプト、アメリカ南部などから綿花を輸入してそこや綿布や綿糸を輸出した。これらの地域はイギリスの植民地もしくは半植民地の地域であり、原材料の輸入価格を安く抑えることが出来た。このように帝国主義の時代には植民地を原材料生産地として発達した本国の加工貿易の例が見られた。

加工貿易は、日本ドイツなど、鉱物資源の乏しい国に多い。

日本

日本は、かつて「資源の博物館」「鉱物の標本室」等と呼ばれるほど地下資源が豊富であったが、産業構造の転換とコスト面から利用できる資源は乏しくなった。

1930年代から始まった石油エネルギーの台頭は高度経済成長の時代により進み、格安の石油をエネルギー源とした加工貿易産業が成長した。

一方で、国内石炭産業はこの流れから外れることとなり、衰退の一途をたどった。

1980年代初めには自動車産業の躍進を背景に加工貿易は隆盛を極めたが、プラザ合意後の円高により収益性が大幅に低下した。その後、国内の有力な製造業は北米や東南アジア、中国へ生産拠点を移していった。

2002年以降、中国とアメリカの経済成長により再び加工貿易がクローズアップされている。中国の安価な人件費を背景にした工業化は、より高い原料費とより安い販売価格でも収益を確保できるため、生産量が急増し原材料価格の上昇と最終販売価格の低下圧力となっている。これにより代替可能ないくつかの製造業は利幅圧縮に見舞われている。

しかし、技術力と生産性を背景にした自動車産業が依然として競争力を保っており、日本の基幹産業となっている。

中野剛志は1980年代までの政治経済学では日本は輸出立国ではないのは常識であったにもかかわらず、1990年代から2000年代になると、輸出依存の日本は貿易立国なので輸出をしていかなければ生きていけないと言われるようになったが、GDPに占める輸出の割合からもそれは完全なる間違いであるとしている[2]。日本は1970年代から1990年代あたりまでは内需主導で成長しており、2000年代に入るまでそのバランスは崩れていなかったとし、外需主導の成長は日本経済の本来の姿ではないとしている[3]

経済学者竹中平蔵は「日本の貿易依存度の数字が低いにしても、輸出が日本の経済にとって重要であるという事実を鑑みれば、やはり日本は貿易立国だと言える」と指摘している[4]

加工貿易の理論

日本は、明治中期以降、基本的に加工貿易に依存してきた。それは日本の経済政策が輸出依存型であるべきかどうかとは独立の問題である。このように日本にとって、また世界の多くの国にとって重要な主題であるにもかかわらず、加工貿易の理論は、きわめて不充分な状態にとどまっている。日本語で「加工貿易」を論文題名に掲げた理論論文は、大山道広の2論文にとどまる[5]。海外では、近年、加工貿易(processing trade)に関する関心が高まっているが、それも多くは中国の加工貿易の進展に刺激されたものであり、理論的分析枠組みが得られているわけではない[6]

加工貿易は、現在では、中間財貿易(trade in intermediate goods)、投入財貿易(input trade)、フラグメンテーション(fragmentation)などという題目でも研究されている[7][8]。ただし、加工貿易、輸入した原材料・部品等を加工して再輸出することであり、輸入国の中間財輸入に含まれるが、輸出に際しては最終財に分類されることがありうる。

加工貿易の実証的研究の豊富さに比べて、その理論的研究の少なさは、国際貿易理論の現状を表している。貿易理論で主流のヘクシャー・オリーンの理論では、各国の生産関数(技術)が同じで、各国の賦存生産要素の比率が違うことから貿易が起こると説明されている。このような場合、もしいくらかでも輸送コストがかかるならば、原材料あるいは部品を輸入して加工しても、輸入元で生産して世界に輸出するのに競争できないことは明らかである。理論的に説明できないことは言及しないのが通常の教科書のあり方であるので、日本で書かれた多くの教科書にも「加工貿易」という用語が一切登場しないものがたくさんある[9]。投入財貿易の画期的な著作とされるジョーンズGlobalization and input tradeも、理論的課題を提示した意義は大きいが、特定のパタンを前提して分析しているにすぎない[10]。中間財貿易あるいは投入財貿易を含む一般理論は、リカード理論の拡張として、2007年に塩沢由典により始めて構築された[11]この理論は、中間財貿易の一般理論であるため、加工貿易の発生も当然なから説明可能である。

脚注

  1. Timothy J. Sturgeon and Olga Memedovic, 2010 Mapping Global Value Chains: Intermediate Goods Trade and Structural Change in the World Economy, Development Policy and Strategic Research Branch Working Paper, 05/2010, UNIDO, p.8, Figure 1.
  2. 中野剛志・柴山桂太 『グローバル恐慌の真相』 94-95頁。
  3. 中野剛志・柴山桂太 『グローバル恐慌の真相』 152頁。
  4. 竹中平蔵 『あしたの経済学』 幻冬舎、2003年、200頁。
  5. 大山道広 1996 加工貿易の理論: リカード型モデル、三田學會雑誌、 89(3): 339-351. 大山道広 1997 加工貿易の理論: HO 型モデル、 三田商学研究、40(4): 19-36. 第1論文はともかく、第2論文は失敗作であろう。大山道広(1997)では、加工に比較優位があって、輸入した財を加工・輸出するという貿易構造は得られない。2国の生産関数がと同一と仮定されているからである(p.26)。
  6. Baldone, S., Sdogati, F., & Tajoli, L. 2001 Patterns and determinants of international fragmentation of production: evidence from outward processing trade between the EU and Central Eastern European countries. Weltwirtschaftliches Archiv 137(1), 80-104. Egger, Hartmut and Peter Egger 2005 The Determinants of EU Processing Trade. The World Economy 28(2): 147–168. Koopman, R., Wang, Z., & Wei, S. J. 2008 How much of Chinese exports is really made in China? Assessing domestic value-added when processing trade is pervasive. No. w14109, National Bureau of Economic Research. Xu, B., & Lu, J. 2009 Foreign direct investment, processing trade, and the sophistication of China's exports. China Economic Review, 20(3): 425-439. Xing, Y. 2012 Processing trade, exchange rates and China's bilateral trade balances. Journal of Asian Economics, 23(5): 540-547.
  7. 中間財は、国民経済計算において、最終財以外の財を言い、他の財・サービスの生産に投入される。したがって、投入財と呼ばれる場合もある。
  8. Jones, R. W. 2000 Globalization and the theory of input trade. MIT Press.
  9. 新旧の3例だけを挙げる。渡辺太郎『国際経済』春秋社、新版第15刷1978年。竹森俊平『国際経済学』東洋経済新報社、第莉7刷2007年。大矢野栄次『国際貿易の理論』同文館出版、新訂版2011年。
  10. Ronald Jones 2000 Globalization and input trade. MIT Press.
  11. 塩沢由典(2007)「リカード貿易理論の新構成 /国際価値論によせてⅡ」『経済学雑誌』(大阪市立大学)107(4): 1-62。Shiozawa, Y. 2007 A New Construction of Ricardian Trade Theory: A Many-country, Many-commodity Case with Intermediate Goods and Choice of techniques, Evolutionary and Institutional Economics Review, 3(2): 141-187. その解説として塩沢由典(2014)「新しい国際価値論とその応用」塩沢・有賀編『経済学を再建する』中央大学出版部、第5章; 植村博恭(2014)「雁行形態発展論と東アジアの国際生産・貿易熱とワーク」塩沢・有賀編『経済学を再建する』中央大学出版部、第12章; 塩沢由典(2014)『リカード貿易問題の最終解決』岩波書店を見よ。

関連項目

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