元素分析

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

元素分析(げんそぶんせき)は、化学物質を構成する元素の種類と構成比率を決定する手法のことをいう。

化学物質はすべて元素からできているので、構成する元素の種類と量を決定することはきわめて重要である。 元素分析には様々な方法が存在するが、有機合成の分野では以下に記す燃焼法を指すのが一般的である。また、無機化合物には、主に ICPESCASIMSEPMA などの手法が用いられる。

有機物

有機物の精密な元素分析には、リービッヒデュマプレーグルらによって開発された燃焼法が一般的に用いられる。まずサンプルを酸素を混合したヘリウム気流下で、高温に加熱し(酸化炉)、構成元素のうち炭素CO2窒素NOx硫黄SOx水素H2O に変換する。このガスを別の炉(還元炉)に移し、Cu 存在下加熱すると NOx が還元されて N2 となる。この CO2、N2、H2O を定量することによって、それぞれの元素の比率を算出する。したがって酸素は直接測定できない。また、燃焼して気化しない元素は灰分として残る。

この手法による元素分析には数 mg の量が必要な上、燃えてしまって回収不可能なため、天然物など貴重な合成をしている人たちは本当はあまりやりたくない分析である。しかし、アメリカ化学会の発行する雑誌に新規な有機化合物を発表する場合は元素分析結果が必須であり、また 0.4% 以内の誤差で計算値と一致しなければならないため、投稿する上でかなりやっかいである。ただし、高精度の質量分析データ (HRMS) を NMR スペクトルやクロマトグラフィーなどの純度を示すデータとともに提出することで代替することもできる。

無機物

ICP はほぼあらゆる元素を高感度で分析することができるが、一般に溶液でないと測定できない。 ESCA はあらゆる元素を検出できるが、試料は固体に限られ、また定量性もあまりよくない。 EPMAEDX、WDX)は、B以降より重い元素について分析可能であり、重元素になるほど高感度・高精度になる。またX-Y方向で元素濃度のマップを描くことも可能である。試料は固体に限られる。 スパーク放電OESは微量元素には高感度であり、且つ多元素を同時に測定できるが、高濃度域では感度低下を示す。導電性のある固体でないと測定できない。 AAは一般にICPより微量域で高感度であるが、高濃度域で感度低下を生じる。試料を溶液にしないと測定できない。 SIMSは非常に高感度であり、同位体の分析も可能である。また深さ(Z)方向に元素濃度のプロファイルを描くことも可能である。しかし、X-Y方向で元素マップは作成できず、元素のフラグメンテーションについての経験と知識が必要である。