人工林

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人工林(左)と天然林(右)の境界
丹沢山地西部・2012年11月)

人工林(じんこうりん)は、森林の更新、すなわち、生殖段階を人の手で行った樹木の密集地のこと。具体的には、人の手により苗木植栽播種挿し木などが行われ、樹木の世代交代(造林)が達成されている。人間が樹木の生殖に関わることにより、品種品質が整えられ、工業材料としての木材供給に適した樹木群となる。

概要

人工林は、住宅や家具などの資材を供給する産業化された森林であるため、価格競争や需要減少などにより供給先が減少すると簡単に放置される。放置されても、世代交代が進んで極相に達していなければ、人工林と称す。

  • 人工林 … 生殖:人工、育成:人工(放置)
  • 天然林 … 生殖:自然播種、育成:人工(放置)・自然
  • 原生林 … 生殖:自然播種、育成:自然

樹木の生殖段階(森林更新)に人の手が入っているものが人工林、人の手が入っていないものが天然林と呼ばれる。天然林では、人の手によって生殖が行われないため植生が自然に近いが、樹木を薪炭として利用するなど、育成段階に人の手は関与している。天然林と原生林は、両者とも生殖段階が自然播種であるが、育成段階に人の手が入ると天然林と呼ばれ、人の手が入らないと原生林と呼ばれる。なお、原生林の内、植生が古いものを原始林と言う。

日本の人工林では、主に住宅建設で用いられるスギヒノキなどが植栽される。効率上の理由などから、同じ年齢の同じ種類の樹木が整然と列をなしている森林づくり、いわゆる単層林施業が多いが、最近は林相の多様化などを狙い、間伐した間に樹下植栽をする複層林施業も行われている。

統計

森林面積全体に占める人工林の割合は、世界全体で約5%、日本は約40%となっている。

日本の地方別に見たデータは以下のようになっている。森林の地方別構造(1995年 林野庁編『林業統計要覧』)[1]

森林面積 林野率 人工林率 国有林
北海道 555万ha 66% 27% 57%
東北 471万ha 74% 41% 43%
関東 145万ha 45% 46% 30%
中部 512万ha 75% 41% 22%
近畿 183万ha 67% 48% 5%
中国 232万ha 73% 40% 7%
四国 139万ha 74% 62% 14%
九州 278万ha 66% 55% 20%
日本 2515万ha 66% 41% 31%
  • 林野率=森林面積÷総面積
  • 人工林率=人工林面積÷森林面積
  • 国有林率=国有林面積÷森林面積

種類

一般に人工林とは、人為的に樹木を植栽して、森林のようにしたものであるが、大部分の場合、その目的は木材の生産である。普通に人工林と言えば、まずこれを指す場合が多い。

現在の人工林は、一定面積の地表を樹木のない状態にして、そこへ一斉に同一年齢の同一樹種を植栽するものである。これによって同一年齢の木材を生産することができ、効率的である。これを単層林施業という。これは、特に林野庁による拡大造林の方針の元で強く進められた方法である。日本以外の国でも広く行われている。

ただし、皆伐により山や川が荒れることや、単一年齢の木が並んで、それが一斉に強風で倒れる被害が出たことなど、近年は批判が多く、これを解決するべく異なる年齢の木や複数の樹種で構成する複層林施業や広葉樹を利用することなど、新しい方法が模索されている。

材木生産以外の目的の人工林としては、防風林防砂林などがあげられる。

植栽密度

苗木の植栽は、一般的には1ヘクタール当たり2 - 3千本程度の密度で植えられる。3千本を標準として、これより多い場合を密植、少ない場合を疎植という。

密植は、伐採後早い時期に生育させる樹種で土地を覆い、表土の浸食や乾燥を防ぎ地力減退を軽減すること、風害の影響を緩和させること、形質優良木を選抜しやすくすることなどを目的に行われるが、手入れが遅れると風害や冠雪害を受けやすく、病虫害に弱い林になる危険性がある。生育過程で間伐除伐などの手入れを行い、最終的に成木する本数は数百本程度である。

人工林の手入れ

生育の過程では、時期に応じて幼齢期には除草下草刈りつる切間伐枝打ち、除伐といった手入れが必要となる。

北米では植栽後に雑草を除草剤を散布して除草するという方法が行われている。下草刈りは植栽した苗木の周りの草本を苗木が埋没しないように刈り払う作業、つる切りは葛や藤が巻き付いて生育を阻害しないようにまとわりついたつるを切り落とす作業、間伐は森林内の照度を調整するために木を切り密度を調整する作業、枝打ちは下枝を切り落とし節を作らないようにする作業、除伐は形の悪い木を間引く作業の事である。特に枝打ちは輪生枝のあるマツ属ラジアータパインでは重要である。 日本ではつる切、間伐、枝打ち、除伐は生育するまでに5 - 10年周期で数度行う必要がある。

日本では手入れを怠った場合には、他の草本類木本類に圧倒されて生育ができない、下層植生(林床に生える下草のこと)が発達しないために土砂の流出が起こる、年輪がマチマチで節だらけの商品価値の無い立木になるなどの問題が発生する。

拡大造林の歴史

日本に於ける造林の歴史は古くからあり、神社仏閣の造成の為の資材確保等の資料にその遍歴が見て取れる。また戦国時代にも城や城下町等を造成する必要もあって森林の人工林化が奨励されている。 1950年代 - 1970年代前半には、空前の住宅建設ラッシュが発生し国内の木材需要が逼迫。木材が高いから住宅が建てられない、売り惜しみだという非難が当時の林業界に集中。新聞記事でも大々的に取り上げられている。このため、天然林を伐採した跡などにスギヒノキカラマツを植栽する「拡大造林」が農林水産省等により奨励された。

その後、1970年代後半 - 80年代にかけて外材の輸入制限が緩和、海外からの輸入量が急増すると一転して木材価格は暴落。日本の山には、採算の取れない人工林の多くが取り残されることとなった。

人工林の問題

世界の人工林は以下のような問題を抱えており、日本の農林水産省等が奨励した人工林も多くの問題を抱えている。

緑の砂漠
緑の砂漠とは、樹木はあるものの、下層植生の生えていない状態である。人工林は過密に植えたものを適宜間引いていくことで良質の木材を得るという手順をたどる。まず、樹木が幼いうちは下草を刈るなどして、太陽光や養分をめぐる下層植生との競争を人為的に避ける方針がとられ、下層植生は刈り取られてしまい樹木は過密な状態のまま成長する。やがて、樹木が大きくなり下層植生に対して優位に立つと、今度は樹木間で間引きを行わなければならないのであるが、これを怠ったまま放置しておくと密に広がった樹冠によって太陽光は遮られ、下層植生は枯れ果てて土がむき出しになった状態になってしまう(一応時間が立てば再生はする)。因みに木材として育てる為には枝打ちをして余分な枝は切り落とさねばならず、それを行う為にも地面が露出していないと不便な為といった理由ででも下草刈りが行われる為に、土がむき出しの状態になる期間が人為的に増えてしまっている。これが緑の砂漠と呼ばれる状態で、遠目には緑に覆われているものの、実態は生物多様性という面で非常に乏しい森林となってしまっている。また、下層植生がないことで雨滴による土壌侵食を受けやすく、土砂災害の原因となってしまうことがある。

なお、天然林の場合は種子が芽生えた時から激しい競争に晒され、樹木が幼いうちから密度が急激に減るために下層植生もよく育ち、この問題は起こりにくい。

生態系の破壊
単一の樹種で構成されることが多く、天然林に比べると多様性という面では乏しいものがある。下層植生があるうちはまだいいものの、前述の緑の砂漠状態になってしまうと単純化が一気に進んでしまい、野生動物が人里に下りてきてしまう主な原因の一つとも言われている。
健康被害
手入れのなされていない人工林から発生する大量の花粉が花粉症の原因として問題になることがある。

これらの原因はいずれも手入れ不足だが、そうなる原因として日本では以下のようなことが挙げられている。

  • 民有林では地籍調査が進んでいないことから、所有者間の境界が不明瞭であり、森林所有者の管理意識が低下しがちである。
  • 木材価格の暴落により売っても利益が出るどころか、手間賃を差し引くと赤字である[2]
  • 地形が急峻で機械化が容易ではないし、機械を入れるお金もない。
  • 林家の高齢化と後継者問題。
天然更新にかかわる問題

近年の人工林は天然更新と称して皆伐後に広葉樹林とすることを狙い、植林をせず放置されることが多くなってきている。これは近隣に広葉樹林があり、条件のよい場所でとられる方法で、人工林にかかわる諸問題を解決する手段ともなっているが、豪雪地帯や風害地など条件の悪い場所ではササ類などが繁茂し森林が順調に回復しないケースもみられる。

2006年現在、日本の人工林の8割が未整備状態であるとされており[3]、公益的機能の低下に伴う土砂災害や森林の荒廃の危険性は年々高まってきている。廃村限界集落周辺の森林、大規模河川や都市を流れる河川の上流に位置する森林などは、整備の重要性が特に高いとされている。

人工林の将来

かつて日本の国産材を圧倒した南洋材(東南アジアなど)は、資源の枯渇と自然保護による伐採の禁止などの動きにより輸入用が激減している。

南洋材を補うように輸入量が増加した北米材(カナダアメリカ)も同様に規制が厳しく、供給は減少傾向にある、また、北洋材(ロシアシベリア地方)に関しては長年収奪的な伐採を続けたことによる資源量の減少が著しい。このような状況から、2009年には日本の木材自給率は2008年の24.0%から27.8%と漸増したものの、国産材の供給力は未だ回復しておらず、1985年の35.6%と比較して木材自給率は低水準にとどまっている。

世界的に利用可能な森林資源が減少傾向にある中、経済発展が目覚ましい中国の木材輸入は急増傾向にあり、木材需給が逼迫しはじめている。このため国産材の競争力は回復しつつあり、人工林の伐採による国産材の供給増加が急がれている。

脚注

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参考文献・出典

  • FAO
  • 林野庁 木材価格

関連項目

  • 日本の森林・林業と林業労働力問題(1999年4月 農林金融)
  • 林野庁の木材価格で平成22年9月のデータをみるとスギの丸太(枝を払い幹だけのこと)で1立方メートルあたり約12000円、製材品にすると約41000円となっている。ちなみに、一般に伐採する程度の樹齢のスギの容積は約0.3立方程度とされる
  • 縦並び社会・格差の現場から:限界集落毎日新聞