中医学

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生薬薬用植物など)を用いる。図は甘草

中医学(ちゅういがく)とは、現代の中華人民共和国を中心とする地域において行われる伝統医学の一種である。東洋医学、中国医学、伝統中国医学、中国伝統医学などとも呼ばれる。アーユルヴェーダ(インド伝統医学)・ユナニ医学(ギリシャ・アラビア医学)と共に三大伝統医学に数えられ、相互に影響を与えたと考えられている。中国地域に伝わる伝統医学は、中華人民共和国の成立以降歴史が整理され、中医学の名で統一理論が確立された[1]。そのため、中華人民共和国で整理された医学体系のみを「中医学」とし、それ以前と区別する場合もある。テンプレート:要出典。少数民族土着の医療との対比において、主に漢族が実践してきたものであると考えることもできる。

日本では、漢方を中医学と同じものと捉える人も多いが、漢方は中国から伝来した医学が日本で独自に発展したものである[1]。周辺地域の医学は中医学(中国医学)の影響を濃く受けており、東南アジアの伝統医学は、中医学・アーユルヴェーダ両方を取り入れたものが多い。

概要

以下のような点が特徴として上げられる。

  • 全身を見て治療を行う。西洋近代医学とは異なり、複数ある症状をもって「」という概念で治療方針を決める。[注 1]
  • 人間の心身が持っている自然治癒力を高めることで治癒に導くことを特徴としている。そのために生薬などを用いる。
  • 診断も、四診によって行う。西洋近代医学のように機械や採血の検査結果を用いることはない。よって、体を侵襲することがなく、害が少ないとされる。[注 2]

診療は、基本的に中医師が行う。ただし、日本においては中医師の資格は使えないため、これを行うのは日本国で有効な医師免許を持つ者、または一部の鍼灸師が行う中医針灸である。中医師の免許は米国などでは認可されているが、日本では現在未認可であるため、中医師免許のみでは診療行為を行うことができない。このため中国は中医師資格の認可を日本政府に働きかけている。

現代中医学は、西洋医学の影響を受け、中医内科、中医外科、中医婦人科、中医小児科などに細かく分類され複雑化している。中国の中医師の資格種類は次のとおりに分けられる。

  • 中医師(生薬処方を中心とする湯液治療を専門とする)
  • 針灸、推拿(中国整体)治療中心の中医師

その他に医師は西洋医があるが、西医学部を卒業後に中医学研修を受け、西洋医学も中医学も理解する「中西医結合」治療を行う医師(中医学部では西洋医学も同様に学習するため、両方の処方が可能である)もいる。この際、診察や処方において「西洋医学の薬にしますか、中薬にしますか」などと聞かれることがある。

日本の漢方医学と同根ではあるが、日本と中国の社会的事情、歴史的経緯、生活習慣、風土などの違いから、漢方医学と中医学は診察方法などが大きく異なる。例えば以下のようなものである。

中華人民共和国成立以降

中国においては、戦後、国民党政府の伝統医学廃止運動に反発する形で、共産党政権による伝統的医学復興が国策として行なわれ、現在、西洋医学を行なう通常の医師と、伝統学を行なう「中医師」の二つの医師資格が併設されている。 中華人民共和国成立に伴い、中国共産党は、大陸各地に点在していた伝統医療の担い手を「老中医」と呼んで召集し、伝統医学の教育に充てた。ただし、清末以来戦乱に明けた大陸では、体系立った伝統医学などは残っておらず、老中医にしても、ほとんどが家伝の生薬方なり鍼灸方なりを、各個伝えているだけであった。このため、これら個々の伝統技術を統合する理論体系が必要とされ、毛沢東の強い意向を受けて、「中医学」理論が急遽設えられた。つまり、現在の中医学は、中国において統一教科書教育が必要になった1959年を皮切りとし、文化大革命の時期を中心として展開された新しい理論である。

1958年の南京中医学院が編纂した教科書『中医学概論』では、五臓六腑ごとに病証が展開されており、病証も『千金方』の五臓病証に類似している。この教科書では「肝虚寒証」のように現在の中医学では用いられない病証が含まれる。また『千金方』には「腎実熱」などまで含まれる。

鍼灸を例にすれば、現在の中医理論は経絡治療と似ていて五臓の母子関係や相剋関係を中心に理論構築を展開する。およそ1960年代より、雑病の一つだった「肝気郁逆」(「肝気鬱滯」)が肝の基本病証の一つとなった。また、「肝鬱気滞」が肝実証である、という認識は中国ではあるけれども、日本での認識は乏しく、「肝実証」という発想は、脈診を中心として診断をおこなう経絡治療家にも理解しやすいものである[2]

派生・影響

漢方医学

テンプレート:Main 漢方医学(和漢方・和方):日本で発達した中国医学系の伝統医学の呼称である。中国を起源とする伝統医学は、奈良朝以来断続的に日本に伝来して来たが、日本では文物(古文献)の保存とともに技術体系の保存も高いレベルで維持されて来たため、大陸では使用されなくなり深化を止めた系統の技術も、発展維持されてきた経緯があり、現在では鍼灸・生薬ともに、中国原産のものとは趣を異にする物に発達している。

例えば、「」決定のための「腹診」という腹壁筋緊張を類型分類する診察技法がある。これは古代中国で原型が形成され主たる古典にも記されているが、大陸において儒教的な社会が高度に成立した宋代以降は、中国人は他人に腹部を露出するのを好まなくなったこともあり、腹診は用いられなくなった。実際には鍼灸における配穴(ツボを選ぶこと)においても、生薬の加減を決定する上でも腹診は非常に有用である為、この技術は日本で保存され、江戸期には按摩の技術とも関連を持ち、独自の診察技術へと発展した。

また、「六部定位診」と呼ばれる橈骨動脈の拍動の様子を分類し、病態把握を行なう技法がある。これは「難経」と呼ばれる3世紀以後に成立した古典が源流の技術であるが、非常に繊細な脈状分類を標榜したものであったため、大陸では廃れてほとんど用いられては来なかった。しかし上記腹診同様、日本においてはこの技法が精錬され、幕末から戦前にかけて台頭した皇漢医学の潮流の中で、「経絡治療」として大成された。

これらの例は、伝来した技法を独自に深化発展させる、日本の伝統的な文化受容の形態が、医学領域においても発揮されたものと言える。

このように発展してきた日本の伝統医療は、明治時代以降導入したヨーロッパ医学と区別する必要性から、皇方・皇漢方・和方・和漢方・東洋医学などと多くの呼び名が試行されたが、江戸時代に蘭方に対して用いられた漢方という名が、幕末よりほぼ一貫して一般的であると言える。漢方には前述のように本来鍼灸も含むが、現在漢方薬による治療のみをさすことが多い。日本においては鍼灸は医師鍼灸師がおこない、漢方薬は医師・薬剤師がおこなう分業になっている事もその一因と考えられる。

東医学・韓医学・高麗医学

  • 東医学:朝鮮半島で発達した中国医学系伝統医学の呼称(北朝鮮では1992年までこのように称していた)。
  • 高麗医学:北朝鮮での呼称。1993年に東医学から改称した。
  • 韓医学:東医学と同じものの韓国における呼称。韓方医学とも呼ぶ。

脚注・出典

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脚注

  1. ただし、この「証」も古くは症状の「症」と同じ。例としては、中風証、腰痛証など。現代の鍼灸の流派によっては古体字の「證」を用いることも多い。例として、「肝虚證」「気虚證」など。
  2. 診断は、機械のない環境でも行えるというのが特徴である。医院はともかくとして、鍼灸院のような小さな環境でも東洋医学は可能である。ただし、診断にも技術が必要であり、数年の勉強と訓練が求められる。鍼灸師も学校や国家試験だけでは満足な量の勉強ができないため、多くは鍼灸の勉強会や鍼灸院で修行を積む。また、漢方も同様で、学校主体の教育で満足な臨床能力が身につくかどうかは疑問とされており、中国での研修に行く例も少なくない。

出典

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関連項目

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  • アーユルヴェーダ - 北インドの伝統医学。脈診や薬物などを中医学から取り入れている
  • チベット医学 - アーユルヴェーダに強く影響を受けているが、中医学を取り入れている部分もある

外部リンク

  • 1.0 1.1 幸井俊高 『漢方的スローライフ』〈ちくまプリマ―新書〉 筑摩書房(2005年)
  • DENG Yu et al,Ration of Qi with Modern Essential on Traditional Chinese Medicine Qi: Qi Set, Qi Element, JOURNAL OF MATHEMATICAL MEDICINE (Chinese), 2003, 16(4)