フェルミのパラドックス

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フェルミのパラドックステンプレート:Lang-en-short)とは、物理学者エンリコ・フェルミが最初に指摘した、地球外文明の存在の可能性の高さと、そのような文明との接触の証拠が皆無である事実の間にある矛盾のことである。

概要

フェルミは、当時考えられていた宇宙年齢の長さと宇宙にある膨大な恒星の数から、地球のような惑星が恒星系の中で典型的に形成されるならば、宇宙人は宇宙に広く存在しており、そのうちの数種は地球に到達しているべきだと考察した。1950年に昼食をとりながら同僚と議論の中では「彼らはどこにいるんだ?」という問いを発したとされる。

このような問題について考えたのはフェルミが最初ではなかったが、フェルミはこの問題を「宇宙人の存在の可能性」だけに単純化したという特徴がある。1975年にはテンプレート:仮リンクによってこの問題についての研究が始められ、いつしかフェルミ-ハートのパラドックスと呼ばれるようになった。

各種の考察

宇宙人は存在しているが、存在の証拠を人類の知識では理解できないのだという主張から、宇宙人の存在を前提にフェルミのパラドックスの解決が試みられたり、知性を持った宇宙人は存在しないか極まれにしか存在しないので、人類はそれらと接触することができないという観点から議論されることが多い。主として超常現象を基にした憶測に基く様々な解釈・意見が挙げられている。

  • 宇宙人は存在し、すでに地球に到達しているが検出されない。
    • 到達した宇宙人は発見されても全て、各国政府により公表が差し控えられている。
    • 到達した宇宙人は全て、潜伏、又は地球の生命に擬態して正体を隠している。
    • 到達した宇宙人は全て、ケイ素生物・意識生命体など、地球人が「宇宙人」として認識できない形態の生命である。
    • 別次元(五次元等)に存在するため、地球人が認識出来ない。
  • 宇宙人は存在し、過去に地球に到達していたが、最近は到達していない。
    • 既に来訪しており、遺蹟などにその痕跡が残されている。詳細は古代宇宙飛行士説を参照。
    • 既に来訪しており、我々人類(もしくは地球上の他の生物)はその子孫である。
    • 既に来訪しており、ハンガリー人を名乗っている。(当時のフェルミの周囲で語られたジョーク。「火星人」と言われた天才ジョン・フォン・ノイマンらハンガリー勢を指している。アインシュタイン他の19世紀後半のヨーロッパ生まれの天才たちを、潜伏した宇宙人とするバージョンもある)
  • 宇宙人は存在するが、なんらかの制限又はある意図のためにまだ地球にやってきていない。
    • 多くの宇宙人は穏健で引っ込み思案な知的生命であるため、宇宙に進出しない。
    • 知的生命体は、高度に発達すると異星人の文明との接触を好まなくなる。
    • 異星人と接触した結果地球上に起きる混乱を避けるなどの目的で敢えて目立った接触を行わない。これは「動物園仮説」又は「保護区仮説」と呼ばれる。(創作小説等の言葉を借りれば、「未開惑星保護条約(宇宙に大規模に進出し得ない文明レベルの惑星には介入しない)」のような星系間の条約が存在する可能性が指摘されている)
  • 宇宙人は存在するが、恒星間空間に進出し地球にたどり着くための進化・技術発展における難関を突破できない。
    • 生命が発生し、知的生命として発展し、宇宙航行種族になる確率が非常に低い。
    • 高度な技術文明があっても、地球人の観測圏までたどりつくのは非常に難しい。
    • ほとんどの宇宙人はある程度文明が発展すると、核戦争や著しい環境破壊などの事態を引き起こし、短期間に滅亡してしまうため宇宙旅行に乗り出す時間を持ち得ない。
  • この宇宙には地球以外に生命体が存在しない。「存在しないものは来ない」。
    • この宇宙には地球以外に生命が存在しない。
    • 地球以外に生命が発生する確率はゼロではないが、今のところ地球の生命が一番目に発生した生命で、二番目がまだ登場していない。或いは二番目が現在の地球の文明レベルよりも低い。
    • 宇宙人による全天探索計画が実際になされているとしても、はるか遠方で行っているため光速の壁に突き当たってまだ地球には達していない。(137億光年以内に、そのような試みをする知的生命体はいない)

これらの論議の大部分は科学的根拠に基づいていない。他方、恒星間の実測距離は科学的根拠を提供する。宇宙の広さは一般の想像をはるかに超越しており、恒星間の距離はあまりにも大きい。現実には電波による通信すら困難であり、現在に至っても地球外文明とのコンタクトは確認されていない。電波による相互通信が確立される以前の宇宙船による旅行は、非現実的かつSF的な方法である。また地球外生命発生と知的生物の発生とはまったく異なる事象である。地球生命の研究から前者の確率は比較的高いが後者の確率はきわめて低いと考えられるので、両論議を混同してはならない。

この問題を科学的に理論化するために多くの努力がなされ、多くのモデルが作られた。このパラドックスに関連する問題は天文学、生物学、経済学、哲学など様々な分野に及び、多くの学術的な成果を生み出した。宇宙生物学という分野の出現で、フェルミのパラドックスと宇宙人の問題に対して、学際的に検討することが可能となった。

参考文献

  • スティーヴン・ウェッブ(著)、 松浦俊輔(訳) 『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由―フェルミのパラドックス』 青土社 2004年 ISBN 479176126X
フェルミのパラドックスに対する様々な解答を、SF的なものから、科学的なもの、哲学的なものまで含めて、実に50種類にわたって収録した書籍。著者である物理学者のウェッブ自身は、人間が(少なくともこの銀河系内においての)実際の唯一の知的生命なのではないか、という立場を取る。

関連項目

テンプレート:地球外生命

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