ストラット式サスペンション

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ストラット式サスペンションとは、サスペンション方式の一種で、テレスコピックショックアブソーバー自体を懸架装置とし、それにばねと車輪を取り付けた構造のもの。考案者のアール・マクファーソンにちなんでマクファーソン・ストラット (MacPherson Strut) 式とも呼ばれる。

簡潔でコンパクトな構造を長所としており、安価なことから、自動車用の独立懸架としては1970年代以降、世界的にもっとも多く利用されている。

歴史

原型は1940年代にアメリカ合衆国の自動車技術者アール・マクファーソン (Earl Steele MacPherson、1891 - 1960) によって考案された。

マクファーソンはこの簡略なサスペンションを考案した当時、ゼネラル・モーターズ (GM) のために働いていたが、GMでは既に実績のあるダブル・ウィッシュボーン式独立懸架に信頼を置いて、マクファーソンの提案を顧みなかった。これには、初期の独立懸架方式の一つであるデュボネ独立懸架を「小型車向きな方式」と判断して1934年型シボレーの前輪に採用した結果、大失敗に終わったという苦い経験が影響していたともいわれる。

GMの冷淡さに不満を抱いたマクファーソンは、GMを去り、競合メーカーのフォードにこのアイデアを持ちこんだ。フォードもこの新方式をアメリカ本国の大型車に使うことには躊躇したようであるが、コンパクトな構造が小型車に適していると判断され、子会社であるイギリスのブリティッシュ・フォードの新型車にこれを導入することにした。

モダンで機能的なフラッシュサイドボディと新型エンジンに加え、前輪独立懸架にマクファーソン・ストラットを採用したブリティッシュ・フォードの1500ccサルーンコンサル」が発表されたのは、1950年である。保守性の強い英国製サルーンの中では革命的だったコンサルのメカニズムの中でも、その簡潔でコンパクトな前輪独立懸架は、ウィッシュボーン式独立懸架が大勢を占めていた1950年代初頭の自動車界に大きなインパクトを与えた。

この方式はやがてヨーロッパの他メーカーにも小型車を中心に広まって行った。ことに1960年代以降、横置きエンジン方式の前輪駆動車が各国で開発されるようになると、省スペースなストラット式独立懸架はこれと組み合わせるのに好適な方式であることから、普及に拍車がかかった。

日本車で最初の採用となったのは1965年に登場した商用車であるホンダ・L700/P700の前輪である。一般の乗用車用では1966年に登場したトヨタ・カローラの前輪に採用されたのが最初であった。以後、欧州同様に急速に広まった。

前輪駆動方式が乗用車の駆動方式で主流を占める昨今では、特殊な事由のない限り、多くの中型以下の乗用車が、フロントサスペンションにストラット式を採用している。

概要

この方式の構造は前述のとおり、ショックアブソーバにばねと車輪をつけたものであり、これを「ストラット」と呼ぶが、このままでは車軸の位置決めができないため、車軸側(下側)にロワアーム(トランスバースリンク)を取り付けて車体に固定する。

この方式は前輪にも後輪にも用いることができるが、後輪用の場合、ロワアームの前後幅を広くとるか、2本にすることが多い(パラレルリンク式)。これは、後輪には操舵用のタイロッドがないため、車体、ハブ側、それぞれ1点ずつの支持では鉛直軸まわりのモーメントに抗することができず、2点ずつの支持が必要になるためである。支持軸に傾きを与え、ストローク時にトー角変化を発生させ、これを積極的に操縦特性に利用することもできる。

また、一般車に多く採用されるストラット式は、ダブルウィッシュボーン式のようにジオメトリーの変更が容易では無いが、少ない部品点数で構成されることによってコストダウンが容易で、量産車向けのサスペンション形式といえる。

特長

  • 長所
    • この方式の特長は、他の方式と比較してストロークを大きくでき、スペース効率に優れ、軽量でコストが安いことである。また、後輪については横力によるタイヤのトウ角変化を積極的に使うことにより、タイヤのグリップを向上させることができる。さらに、ボデー側の取付け点がダブルウィッシュボーン式にくらべて、上下方向に分散しているために、ボデーに働く力が小さい。主に中型以下の乗用車に多く用いられる他、鉱山や造成現場で稼動する超大型ダンプトラックの前輪にも採用例がある。
  • 短所
    • ダブルウィッシュボーンサスペンションでは、コーナリング中にかかる力はサスペンションアームに掛かるだけであるが、ストラット式の場合、ストラット自体が力を受け、曲げ方向に変形する点が短所となる。これにより、コーナリング中にショックアブソーバーの動きが規制されてしまい、スムーズにストロークしなくなる。この力をキャンセルするため、コイルスプリングとショックアブソーバーの軸線を傾けたり、オフセットさせているものが主流である。
    • もう一つの短所は、サスペンションが沈み込んだ際に発生するキャンバー変化が大きいことである。キャンバーが変化するとタイヤの接地が変わってしまうのでタイヤのグリップに影響が出る。
    • スペース面での短所としては、ストラット上側取り付け部がタワーと呼ばれる形状となり、サスペンション剛性を確保するためには、タワーを太くせざるを得ないため、エンジンルームや、客室、荷室の空間を大きく侵食されることがある。
  • ダブルウィッシュボーン式サスペンションとの関係
    • 機構学的にはダブルウィッシュボーン式の変形と考えることができる。すなわち、ストラットのボデー側取付け点を含むストラットの法面が、ダブルウィッシュボーン式サスペンションのアッパアーム長を無限大にしたものと等価である。したがって、ストラット式サスペンションのジオメトリー設定の自由度は、ゴムブッシュの変形を除き、ロワアームの長さと角度で決まる。

種類

  • マクファーソン式
  • パラレルリンク式
    • 2本のロワアームを平行(パラレル)に近い角度に配したもの。2本の長さや取り付け位置を変えることで、トーコントロールが可能。
  • デュアルリンク式
    • ロワアームに加え、ラジアスアーム(前後方向のリンク)で位置決めを行うもの。
  • リバースAアーム式
    • A形のロワアームを持つが、頂点側が車両側・底辺側がホイール側となっており、前後方向の規制に別途リンクが追加されている。
  • チャップマン式

関連項目