スタインウェイ・アンド・サンズ

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テンプレート:Infobox スタインウェイ・アンド・サンズSteinway & Sons, 通称:スタインウェイまたはスタンウェイ)は、1853年アメリカ合衆国ニューヨークで設立されたピアノ製造会社である。ベヒシュタインベーゼンドルファーと並んで、世界のピアノメーカー御三家の一つに数えられる。総合楽器製造複合体スタインウェイ・ミュージカル・インスツルメンツの一角をなす。

1880年以来、ドイツハンブルクにも生産拠点を置いている。スタインウェイのピアノは、世界で最も有名なピアノの代表格であり、俗に「神々の楽器」 (The Instrument of the Immortals) として知られているが、これは多くの伝説的なピアニスト作曲家達の信奉の結果でもある。

沿革

1836年に、ドイツニーダーザクセン州ゼーセンテンプレート:Enlinkで家具製作を営んでいたハインリヒ・エンゲルハルト・シュタインヴェーク(ヘンリー・スタインウェイテンプレート:Enlink)が、スタインウェイの第一号となるピアノを製作した。ヘンリー・スタインウェイはその後、ドイツからアメリカ合衆国へ渡り、1853年にスタインウェイ・アンド・サンズをニューヨークのアストリアに設立する。ヘンリー・スタインウェイの死後、1880年にハンブルクに生産拠点が置かれた。

ベーゼンドルファーなどのヨーロッパの名門メーカーは、ピアノをチェンバロの発展形として、音響的に残響豊かな宮廷で使用する前提でピアノを造っていた。これに対しスタインウェイは、産業革命により豊かになったアメリカ市民が利用していた、数千人を収用できる音響的に貧弱な多目的ホールでの使用を念頭においていた。そのために、今では常識となっている音響工学を設計に初めて取り入れた。結果、スタインウェイは構造にいくつか特色がある。

ピアノの設計思想にはいくつかの流派がある。主に響板の響きを重視したベヒシュタイン。胴の部分にも響板と同じスプルース材を用い、響きやすくしたベーゼンドルファー。スタインウェイはそれらに対して、厚く強固な胴でしっかりと響板からの圧を支える構造を持つ。また胴からの反射音も多彩な響きに貢献していると言われている。それ以外にも交差弦やデュプレックススケールなど、スタインウェイの革新の数々は、世界的に広く他のピアノ製造者への手本となった。

しかしながら、20世紀後半以降スタインウェイの経営は順風満帆とは行かず、1972年CBSによる買収、その後の複数の個人投資家への売却を経て、1995年セルマー・インダストリーズの傘下に入った。今日では、セルマーおよびその傘下に収まった旧ユナイテッド・ミュージカル・インスツルメンツ、ルブラングループらと共に楽器製造企業複合体スタインウェイ・ミュージカル・インスツルメンツ(旧セルマー・インダストリーズ)を形成するに至っている。

この企業複合体は、1990年代後半にかけてアメリカ経済のバブルの恩恵を受けて、売上高を急激に増やし、楽器業としては最も高い売上を確保するようになり、財務体質が改善された。その結果、多くのピアノ製造メーカーが経営難に直面し、良い素材の確保が困難になる中で、スタインウェイはピアノ造りに欠かせない良質な素材を確保する点で優位性を保持することとなった。

またこれ以外に、戦後の世界的な高級ピアノ市場をスタインウェイが独占できたのは、ヨーロッパ、特に敗戦国であるドイツの名門メーカーが第二次大戦の戦災により壊滅的なダメージを受け、主要な工房や多くの技術者を失ったせいでもある。

設計

構造上は以下のような特徴を持つ。

  • カエデなどの硬く緻密な木材を使用した、曲げ練り製法によるアウターリムとインナーリム
  • 放射状支柱とその基部のコレクターを後框および金属フレームと結合することで弦の張力と響きを支柱とリムに拡散すること
  • 力学および音響的に優れかつ軽量な金属フレーム
  • クラウン(むくり)を長く持続させ音質的に優れた響板の材質および厚みを管理した製造法
  • 他社に比べ張力が低いスケールデザイン
  • 弦の倍音を有効に活用するデュプレックススケール
  • フレームとリムを連結し弦圧を最適化するとともに高音域の響きをリムに伝えるサウンドベル
  • 金属チューブに木材を充填したアクションレールおよびハンマー固定方法
  • レスポンスに優れたエルツ式のウイペン

上記の要素はほぼ19世紀末までに確立された。弦の振動をピアノ全体に分散し響かせる設計によって、楽器全体から豊かな音を出せ、特に大ホールにおいても充分な量のきらびやかな音を響かせるのである。また整調、整音により幅広い音色を持たせられるため、クラシックジャズに限らず、幅広いジャンルに対応でき、多くのホールや録音スタジオでのファーストチョイスとなっている。また楽器としての寿命が長く、古くなった楽器でもリビルドすることによって演奏可能な状態に再生することができるのも、その特色の1つである。このため現在に至るまで、ほとんどのピアノメーカーはスタインウェイの特徴を取り入れようと努めている。

2つの生産拠点

スタインウェイピアノの生産工場はアメリカのニューヨーク(1853年より)とドイツのハンブルク(1880年より)の2箇所にあり、それぞれで材料・形状・アクション・鍵盤・足の固定方法などが若干異なる。

ニューヨーク・スタインウェイは現在でも伝統的な製造方法で作られており、比較的柔らかいハンマーフェルトをもっている。整調、整音や硬化剤の使用により幅広い音色を生み出すことも可能であり、明るい音色とあいまってニューヨーク・スタインウェイを好むユーザーも多い。鍵盤両端の腕木と呼ばれる部分の角が直角であることとペダルボックスに金属装飾を持つ点が特徴である。

ハンブルク・スタインウェイは、より近代化された工場で製造されており精度が高い。他のドイツ製ピアノと同様に堅めのハンマーフェルトを使用している。鍵盤両端の腕木と呼ばれる部分の角が丸いことが特徴である。日本に入ってくるスタインウェイのほとんどはこのハンブルク製である。

ハンブルク・スタインウェイは日本をはじめとするアジア地域とヨーロッパに輸出され、ニューヨーク・スタインウェイは北米、南米への出荷が中心である。しかし過去100年以上に渡り製造されたピアノの多くが世界中で流通しているため、ニューヨーク・スタインウェイも世界中で使われている。日本ではハンブルク製が主流であるが、独禁法への抵触が指摘され特約店が複数になったため、正規代理店でも納期は長くなるが現在ではニューヨーク・スタインウェイを注文できる。

関連項目

参考文献

  • 『スタインウェイ物語』 / 出版社:法政大学出版局 / 著者名:R.K.リーバーマン/鈴木依子(訳) / 初版日:1998年11月30日

外部リンク