コーシーの主値

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数学において、コーシーの主値(Cauchy principal value)とは、ある種の広義積分に対して定められる値のことである。

定義

a < x < cで定義される関数 f に対して、あるb (ただしa < b < c)について

<math>\lim_{u\rightarrow b-0}\int_a^u f(x)\,dx=\pm\infty</math>
<math>\lim_{v\rightarrow b+0}\int_v^c f(x)\,dx=\mp\infty</math>

であるとき(複号同順

<math>\lim_{\varepsilon\rightarrow 0+} \left(\int_a^{b-\varepsilon} f(x)\,dx+\int_{b+\varepsilon}^c f(x)\,dx\right)</math>

で定められる値をコーシーの主値という。

或いは、関数 f に対して

<math>\int_{-\infty}^0 f(x)\,dx=\pm\infty</math>
<math>\int_0^\infty f(x)\,dx=\mp\infty</math>

が成り立つ時(複号同順)

<math>\lim_{a\rightarrow\infty}\int_{-a}^a f(x)\,dx</math>

で定められる値をコーシーの主値という。

これらの条件は、 b や ∞ が特異点である時ということであるが、もし b と ∞ が同時に特異点である場合には、コーシーの主値は次のように定義される。

<math>\lim_{\varepsilon \rightarrow 0+}\left(\int_{b-1/\varepsilon}^{b-\varepsilon} f(x)\,dx+\int_{b+\varepsilon}^{b+1/\varepsilon}f(x)\,dx\right).</math>

表記法

コーシーの主値の表し方は特に決まっておらず、著者によって様々である。概ね、以下の

<math>PV \int f(x)dx,</math>
<math>\mathcal{P}\int f(x)dx </math>

のごとく、PV, P, P.V., Pv, (CPV), V.P. のような記号を符牒として積分の通常の記法に付して用いるが、特にこれらに限られるというわけでもなく、その時の前後の文脈から判断する必要があるといえる。

次の式は、一つ目はコーシーの主値を計算しているが、二つ目は積分区間が少し違うために結果も異なる。

<math>\lim_{a\rightarrow 0+}\left(\int_{-1}^{-a}\frac{dx}{x}+\int_a^1\frac{dx}{x}\right)=0,</math>
<math>\lim_{a\rightarrow 0+}\left(\int_{-1}^{-a}\frac{dx}{x}+\int_{2a}^1\frac{dx}{x}\right)=-\log_e 2.</math>

このように少しの違いで値が異なってしまうため注意が必要である。 広義積分の仕方によっては

<math>\int_{-1}^1\frac{dx}{x}</math>

は、±∞の両方の値を取り得る。

同じように

<math>\lim_{a\rightarrow\infty}\int_{-a}^a\frac{2x}{x^2+1}dx=0,</math>
<math>\lim_{a\rightarrow\infty}\int_{-2a}^a\frac{2x}{x^2+1}dx=-\log_e 4</math>

の場合も

<math>\int_{-\infty}^\infty\frac{2x}{x^2+1}dx</math>

は、±∞の両方の値を取り得る。

超関数

<math>C_0^\infty(\mathbb{R})</math>を数直線<math>\mathbb{R}</math>上のコンパクトな台を持つ滑らかな関数の集合とする。このとき、写像

<math>\operatorname{p.\!v.}\left(\frac{1}{x}\right)\,: C_0^\infty(\mathbb{R}) \to \mathbb{C}</math>

を、コーシーの主値を用いて

<math> \operatorname{p.\!v.}\left(\frac{1}{x}\right)(u)=\lim_{\varepsilon\to 0+} \int_{| x|>\varepsilon} \frac{u(x)}{x} \, dx</math> for <math>u\in C_0^\infty(\mathbb{R})</math>

と定義すると、これは超関数である。この超関数は、例えばヘヴィサイドの階段関数フーリエ変換などに現れる。