コーカサスオオカブト

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コーカサスオオカブトは、昆虫綱コウチュウ目カブトムシ亜科に分類されるカブトムシ。3本の長い角が特徴。アジア最大のカブトムシであり、闘争心も旺盛なことから南米のヘラクレスオオカブトと並びしばしば世界最強のカブトムシとも称される[1]

原産国が日本に比較的近く、また年間を通じての捕獲が可能のため、日本国内で流通する外産昆虫の中では安価である。そのため亜種のアトラスオオカブトと並び最も国内で流通している外国産カブトムシの一つである。このためペット専門店以外にホームセンター等でも販売されている姿を見ることができる。

ファイル:Descent of Man - Figure 16.jpg

生息地

スマトラ島ジャワ島マレー半島インドシナ半島などの亜高山帯〜高山帯にかけて生息する。特に大型個体の分布は高標高に集中する。名に「コーカサス」とあるが、コーカサス地方に生息しているわけではない。(「caucasus:コーカサス」とは、古代スキタイ語で「白い雪」を意味する「クロウカシス」に由来するギリシア語で、コーカサスオオカブトの上翅にある光沢から名付けられたもの。)

形態

オスの体長は60~130mm前後が多く、小型個体でも日本のカブトムシ並となる。また最大級個体は130mmを越えるものも多い。体色は青銅色がかった黒褐色で、他にも色は赤みのない、又は青光沢や緑光沢を持つ純黒で黒光りする。脚は節が取れやすく損傷した個体が標本にされることは少ない。

頭部に1本、前胸背板に2本の計3本の角を備えることから、英語ではスリーホーンビートル(Three Hornd Beetle)と呼ばれる[2]。また、大型個体では前胸の中央にさらにもう1本角状の突起を備える。同種や他種と闘争する際には、この3本の角と併用して大きく鋭い爪を備えた長い脚を巧みに使い、長い胸角と頭角で相手を挟みこみ、強大な力で木から引き剥がして放り投げる。鋭い爪を持つ長い前脚は、人の手や服に乗せると引き離すことが困難なため注意が必要となる。また中胸にあたる前胸背板と両前翅が鋭利かつ完全に開閉できるような構造となっており、腹部を持ち上げることによって動作させることが可能となる。この間に不用意に指を入れると挟まれるケースが多く、場合によっては出血を伴う危険性がある。

生態

夜行性で主にジャングル生えるロダンの木に集まり、その幹を傷つけて樹液を吸う。しかし、天候や栄養状況に応じて昼間に活動する個体もある。灯火にもよく飛来し、採集される個体は主にこの方式で得られている。これはジャングルの内部が危険かつ苦労を伴うためであり、生態調査以外では生息域に人間が侵入することは少ない。メスはジャングルの腐倒木やその下の土に産卵することがわかっており、幼虫は朽ち木、又は土化した木を好んで食べる。自然下において成虫になるまでの期間は約二年と考えられている。

野生下での成虫の寿命は不明な点が多い。これは前述のとおり、生息域が奥地で危険が伴うため、生態調査が進んでいないことに所以する。ただし、飼育下では長くておよそ半年程度、学術的に確認がとれた例でおよそ4ヵ月程なので、自然下においてはおよそ2~3か月前後と推測されている。また、羽化から活動開始後2ヵ月程度経た個体には急速な老化現象が見られる。顕著な現象としては、各脚の付節をはじめとする付属肢が次々に壊死欠落していく。このような状態となった個体は、闘争も樹上歩行も不可能であり、野生下であれば実質的に寿命と考えられる。

性質

本種の特徴として、まず第一に闘争心が強いことが挙げられる[3]。本種の凶暴さはヘラクレスオオカブトやゾウカブトといった他の大型種と比較しても際立っており、その攻撃の矛先は同種や他種昆虫との闘争だけでなく、交尾相手(もしくはそれを拒否した)の雌にも向けられることが知られている[4]。また相手を負かすだけでなく、死骸となったそれをバラバラにするといった一種猟奇的な行動をとる場合もある。いわゆる肉食性昆虫が捕食する以外にこうした行動をとる種は極めて稀である。また雄だけでなく雌も同様に気が荒いため、雄雌ともに成虫の多頭飼いは本種では厳禁である。なお成虫にとどまらず幼虫すら好戦的であり、その大顎は噛む力も強い。噛まれた際には痛みを伴い、場合によっては出血することもある。

飼育

ヘラクレスオオカブトに比べ、寿命温度などの関係により、やや飼育が難しいとされる。元の生息地は赤道直下であるが、標高の高い地に生息するため暑さには弱く、大体15℃~20℃前後が適温とされている。故にクーラー等の温度管理無しで日本の夏を越すのは厳しい。しかし放虫することは厳禁である。

本種は気が荒く同種を殺める事態が多発するため、雄はもちろん、雌も単頭飼いが基本である。また交尾の際にも万全の注意が必要となる。大型の雄が暴れることで発生する事故を防止するために、敢えて角の小さい小型の雄を交尾相手として使用する方法もある。

幼虫は基本的に専門店等で販売しているカブトムシ用マットで飼育できる。なお卵のままで取り出すと孵化に結びつかないことが多い。ちなみに飼育下においては、体は大きいものの角が発達しない(短角型)成虫になることが多く、様々な方法が試みられている。海野和男の著書によれば、落ち葉や枯れ枝を集めた腐葉土よりも朽木で育った幼虫の方が大型化する傾向があるとの記述がある[5]

アトラスオオカブトとの関係

コーカサスオオカブトの属するアトラスオオカブト属には他に3種が含まれるが、そのうちのアトラスオオカブトとコーカサスオオカブトとは酷似している。外観は同じようもので、生息地も重なるところがある。一般的にはコーカサスオオカブトの方が大型になるが、これでは正確に両種を区別することはできず、頭角の基部付近に尖った突起を持つ方をコーカサスオオカブト、先端付近に丸みがかった突起がある方をアトラスオオカブトとする。しかし、頭角の発達しない短角型同士では見分けがつかないことも多々ある。尚、雌の相違点は、アトラス雌の外羽には毛が生えていること、本種雌には毛が生えていないことが挙げられる。加えて本種は羽根触りがややざらざらしている。またモーレンカンプオオカブトの雌は、前二種の羽根の色が青みがかった緑色なのに対し、赤銅色をしており、これが三種の雌の見分け方だと言われる。

学名の変更

最近までコーカサスオオカブトの学名はChalcosoma caucasusであり、和名もこれに基づくものであったが、種小名がchironに変更となった。chironはもともと1789年のOliverによって記載されていたのだが、その後1801年にFabriciusにより記載されたcaucasusが長らく使われており、今回の検証により国立スコットランド博物館の所蔵するchironタイプ標本(記載の元となった標本)がジャワ島産のコーカサスオオカブトと確認されたことから、国際動物命名条約における先取権により、古参であったchironに変更され、これに伴い和名も「キロンオオカブト」とすることが提唱されている。chironギリシャ神話ケイローンから。なお、1970年代の書籍には本種を単に「オオカブトムシ」[6]と記しているものもある。

亜種

ファイル:Chalcosoma caucasus02.jpg
ジャワ島産のオス(側面から)

胸角の太さと湾曲の強さが異なる。

  • ジャワコーカサス C. c. chiron - ジャワ島に生息し、特に西部に多い。頭部には尖った突起の他に、アトラスオオカブトに見られる先端の隆起もあるため、アトラスオオカブトとの交雑種ではないかとする意見も一部では存在する。胸角は細い。個体数が多いためか価格が安く、一般の(主に犬や猫を扱う)ペットショップやホームセンターで売られているものはほとんどがジャワ産である。
  • スマトラコーカサス C. c. jassensi - スマトラ島トアンク島ニアス島に生息する。他の亜種よりも体がやや細身。胸角がやや直線的に伸び、体格も大型であるため、体長が最も大きくなる。また、胸角・頭角共に大きく、横から見るとかなりの迫力がある。オスの体長は13cmを越すものが知られ、メスでも7cmを越えるものがあるという。
  • マレーコーカサス C. c. kirbyi - マレー半島に生息し、キャメロンハイランドは有名な採集地である。胸角は太く湾曲が強く、体も他の種よりやや横幅が広い。見た目が格好良いため人気がある。よく子供向けの図鑑などに写真が載っているのはほぼこれであると見てよい。
  • タイリクコーカサス C. c. belangeri - インドシナ半島ランカウイ島に生息する。個体数は少ない。胸角は太く、やや湾曲する。上記の3種よりかなり小型。

脚注

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  1. 海野和男著『カブトムシの百科』(データハウス・1993)他
  2. 海野和男著『カブトムシの百科』(データハウス・1999)
  3. とりわけ抗争に勝利したオスはより一層気が強くなり“勝ち癖が付く”ともいう。海野和男著『カブトムシの百科』(データハウス・1999)
  4. このため、本種の飼育、繁殖の際には同族殺しをする危険性が伴う。
  5. 海野和男『カブトムシの百科』(データハウス・1999)
  6. アトラスと混同している場合もある。

関連項目