キネシン

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ファイル:Kinesin walking.gif
微小管に沿って運動するキネシン。
ファイル:Kinesin cartoon.png
微小管に結合したキネシン二量体。
ファイル:Motility of kinesin en.png
微小管に結合したキネシンが移動する仕組み。
ファイル:Kinesin view.png
(図1) キネシンの構造(モーター領域のみ)

キネシン(Kinesin)とは、真核生物の細胞質中に含まれるモータータンパク質の一種。酵母からラットヒトを含め広く存在するタンパク質の一群で、この中では最初に発見された conventional kinesin (遺伝子名kinesin-1)の研究がもっとも盛んに行われている。キネシンは主にATP加水分解しながら微小管に沿って運動する性質を持ち、細胞分裂や神経軸索輸送などの細胞内物質輸送に重要な役割を果たしている。

キネシン分子の全体構造

キネシンスーパーファミリーの分子構造は多様であるが、主なものは、分子量約12万の重鎖2本と分子量約6万の軽鎖2本からなる二量体である。重鎖はモータードメイン、ストーク、尾部(ここに軽鎖が結合する)からなる。モータードメインは通常アミノ酸配列の N 末端側にあり、ここで ATP を分解し微小管と結合する。ストークはコイルドコイル構造を持ち、2本の重鎖がねじれあってこの領域で結合している。尾部はさまざまな荷物(小胞細胞内小器官など)と結合するため、多くのバリエーションがある。

分子形状は約80nmの棒状(というより、カイワレ大根のような形状)で、微小管との相互作用部位は重鎖N末端にあるATPアーゼ活性部位を持ち、微小管と結合する部位を持つ。このモータードメインの構造はミオシンGタンパクと似ている。このモータードメインには、微小管の存在しないところでは通常ADPが結合しており、その解離は非常に遅いが、微小管によってその解離が1000倍以上速くなる。

キネシンの微小管上での移動は単分子でも可能で、微小管に結合すると1秒以上微小管に結合したままおおむね1μm程度移動することができる。

キネシンスーパーファミリータンパクの働き

キネシンスーパーファミリーには、ヒトおよびマウスにおいては45種類ものメンバーが存在することが知られている。この中には、微小管上をマイナス端からプラス端に移動するもの、逆にプラス端からマイナス端に移動するものの他、微小管の脱重合を促進するものも存在する。例えば、KIF2と呼ばれるキネシンは、主に微小管の脱重合に関与するといわれる。KIF5やKIF1同様微小管上を移動するが、微小管末端に到達した後、微小管からの解離に伴い微小管末端のチューブリンを微小管から切り離すことが知られている。

キネシンの微小管上における運動の仕組み

ファイル:Kinesin exp1.png
図2 SwitchIとSwitchIIの拡大図

キネシンが、どのように微小管上を動くかについては、いくつかの説が唱えられている。ここでは、代表的な2つの説を示す。

Hand-over-Hand Model

キネシンの2つのモータードメインが交互に、まるで歩くように、あるいはたぐり寄せるように、前に出て動くという説。その原動力になっているのは、ネックリンカー ((図1)付録の解説および(図2)参照)と呼ばれる領域がATP/ADPの結合解離に応じて前向きに折れ曲がったり離れたりを繰り返す運動ではないかと考えられている。

滑り説

滑り説は、キネシンが微小管上を滑るように移動するという説である。右に示した図が、キネシンの活性発現に関し重要といわれる領域の拡大図である。冒頭のキネシンの構造図でいうと、左下から見上げた形になる。

キネシンのモーター領域には、L9 からなるSwitch Iと呼ばれる領域と、Switch II clusterと呼ばれる L11-α4-L12 の領域が存在する。この2つの領域はATPの加水分解に際し、その構造を大きく変化させる。Switch IとSwitch IIのL11にはATPの加水分解に直接関与するアミノ酸残基が存在し、また、SwitchII領域は微小管結合部位となっているが、ATPの加水分解に際し、SwitchIIのL12の部分で、微小管を形成するタンパク質のE-hookと呼ばれる管表面に露出した環状の部分を順次つかみ換えて移動するらしいと考えられている。

なお、E-hookは微小管上におよそ4nmの間隔で存在する。(これは微小管の構成要素であるチューブリンの長さに等しい)一回のATP加水分解で8nm進み、1秒あたり100回以上繰り返す。

関連項目

外部リンク

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