振幅変調

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テンプレート:変調方式 振幅変調(しんぷくへんちょう、AM、テンプレート:Lang-en)は、変調方式の一つで、情報搬送波の強弱で伝達する変調方式である。

主に中波短波などによるAMラジオ放送や、航空無線などに使用される他に、アナログテレビ放送における映像信号部の変調にも用いられる。

振幅変調の概念

振幅変調を横軸時間とした説明図で表す。

ファイル:Amplitude modulation.png

なお通常、変調波帯に比べ、搬送波(キャリア、テンプレート:Lang-en)の周波数ははるかに高い(AMラジオ(中波)放送で1000倍程度)ため搬送波の波形は一部拡大して示した。変調波の振幅の正の最大値において振幅変調波の振幅が最大に、負の最大値において振幅が最小になる。詳細は理論の項を参照。ここで変調波は信号波(送信しようとしている原信号(音声や音楽等))と読み替えて理解してもよい。

振幅変調の種類

ファイル:AM pattern diagrams.png
振幅変調のスペクトラム模式図

大きくは両側波帯 (LSB+USB) と単側波帯(LSBのみ、またはUSBのみ)に分ける事が出来、さらにそれぞれ、全搬送波・低減搬送波・抑圧搬送波に分けることが出来る。

全搬送波
搬送波の信号レベルをそのままで伝送するもの。一般のAMモノラル放送がこの形式である。復調には包絡線検波が使われることが多い。
低減搬送波
搬送波の信号レベルをある程度まで落として伝送するもの。受信側において局部周波数の制御等に利用するため一定のレベルまで搬送波を低減して送出する電波をいう[1]
抑圧搬送波
搬送波を全く伝送しないもの。全搬送波よりも小さい送信電力で同じ伝送特性が得られる。

以上をまとめると次のようになる。

振幅変調の方式一覧
全搬送波方式
With Carrier
低減搬送波方式
Reduced Carrier
抑圧搬送波方式
Suppressed Carrier
両側波帯 (DSB)
電波形式(電話)
電波形式(電信)
DSB-WC
A3E
A2A
DSB-RC
A3E
stub
DSB-SC
A3E
stub
単側波帯 (SSB)
電波形式(電話)
電波形式(電信)
SSB-WC
H3E
H2A
SSB-RC
R3E
R2A
SSB-SC
J3E
J2A

参考: 単に AM または DSB と言えば DSB-WC を指し、SSB と言えば SSB-SC を指すのが普通である[2]

以下、主要な形式について述べる

全搬送波両側波帯

全搬送波両側波帯(単にAM、またはDSB-WC、テンプレート:Lang-en)とは中波や短波のAM放送や、航空無線に用いられる方式である。

変調方式は、大電力変調と低電力変調とに分けられる。トランジスタ回路では、大電力変調はコレクタ変調といい、終段の電力増幅器のコレクタ電圧を、変調トランスを介して低周波信号で変化させて変調する。この方式では電力増幅器の出力に変調をかけるため、大きな電力を必要とするが、直線性に優れた変調をかけることができる。低電力変調にはベース変調や二重平衡変調器(DBM、テンプレート:Lang-en)を使った変調方式がある。ベース変調では、低周波信号でトランジスタのベースに流れるバイアス電流を変化させて変調をかける。二重平衡変調器は通常 DSB-SC を出力するが、音声信号を入力する端子に直流電流を重畳させると出力に搬送波が現われる。AM の搬送波は、低周波(ベースバンド)に変換すると直流であるので、変調回路に直流を加えると AM 波が得られるという仕組みである。ダイオード DBM(ダイオードによる二重平衡変調器)は、低周波的な周波数特性や歪特性ともに優れコレクタ変調とは比べ物にならないくらい良い音がする[3]

抑圧搬送波両側波帯

抑圧搬送波両側波帯(DSB、テンプレート:Lang-en)両側波帯で同じ情報を伝送するもの。一般のAMラジオモノラル放送では搬送波の信号レベルをそのまま伝送するが、DSBでは搬送波をキャンセルし、両側波帯のみを伝送する。抑圧搬送波と呼ばれる。

※ なお、正確にはDSB-SC(テンプレート:Lang-en[1]と呼ぶべきであるが、日本では単にDSBと省略して呼ぶ慣習がある。全搬送波両側波帯(単にAMと呼ばれることが多い)をDSBと呼ぶこともあるため、注意が必要である。例えば、総務省の文書に見られる「海上用DSB」と呼ばれる無線設備は全搬送波両側波帯である。

変調には平衡変調器が用いられる。DSB (DSB-SC) の場合は両側波帯が存在するが、SSBの受信機で受信可能で、送信機がSSBよりも簡単なことからSSBの代用として用いられることもある。しかし、日本の法規上は両側波帯については全搬送波・抑圧搬送波を区別しない(電波型式の表記法を参照)ので、送信電力上で不利な扱いを受ける。FMステレオ放送の副信号がこの形式である。

抑圧搬送波単側波帯

ファイル:USB pattern diagrams.png
SSB (USB) のスペクトラム模式図
ファイル:LSB pattern diagrams.png
SSB (LSB) のスペクトラム模式図

抑圧搬送波単側波帯(SSB、テンプレート:Lang-en)とは情報を片側の側波帯のみで伝送するもの。短波帯の業務無線やアマチュア無線などで利用される。搬送波よりも上の周波数の側波帯をUSB (upper sideband)、下を使うものをLSB (lower sideband) という。アマチュア無線を除いては、原則としてUSBを使用する。アマチュア無線では、7MHz帯以下ではLSB、10MHz帯以上ではUSBを使う慣習になっている。

変調には二重平衡変調器等が用いられる。これは、周波数変換器に使われる回路と同じである。二重平衡変調器には、入力用のポートが2つあり、出力用のポートが1つある。入力用のポート1に搬送波を、ポート2に音声信号を入力すると、出力用のポートから、抑圧搬送波両側波帯 (DSB-SC) で変調された信号が出力される。これは搬送波を含まず、LSBおよびUSBの両側波帯のみが含まれた信号である。これを、クリスタル・フィルタ等の急峻な特性を持つフィルタに入力し、USBまたはLSBの希望の側波帯を得ると、SSBで変調された信号が得られる。これを希望の出力まで増幅すれば SSB送信機ができる。

SSBはエネルギー効率がよく、同じ距離までの通信であれば少ない電力の送信機で、また選択性フェージングの影響を受けにくく、同時に占有周波数帯域が狭くて済む。なお、側波帯だけに着目すれば、AMもSSBも同じものであるため、隣接大出力局の混信をかわすために、SSB受信機で混信が無い方の側波帯だけを取り出し、AMの混信を避けることが可能であり、AM放送の受信テクニックとして使われている。

一方、SSBの音声通信は一般に音質が悪く、また、良好な了解度を得るためには受信周波数を数10Hzの単位で調整しなければならない。音質が悪いと言われるのは次の理由によるもので、SSBそのものが音質が悪いというのは誤解である。

  • 占有周波数帯域が狭いという利点を生かすため、伝送帯域を狭く設定している。
  • 数MHzの中間周波数において、数100Hz離れた側波帯の片側だけを消去するような特性が非常にシビアなフィルタ回路が要求されるため、振幅や位相などについて良好な特性を持つフィルタ回路を作ることが困難である。
  • 抑圧搬送波には搬送波の情報が含まれていないので、送信信号と等しいスペクトルを持つ受信信号を得ることは困難である。最終的には、原音と同じ音質になるよう、人間の聴感で周波数を合わせることになる。
  • 振幅変調の復調にはAGC(自動利得制御)を使うことが多いが、搬送波が無いためAGCの基準になるべきものがなく、例えば音声通信の場合は、音声のエンベロープを基準にAGCが動作する。そのため、大きな声も小さな声も同じ大きさの声になるほか、無音時は受信ゲインが最大となり、耳障りな雑音が出力される。
  • 変調に使う搬送波と復調に使う搬送波が異なるため、搬送波のC/Nが悪いと(残留FM成分が多いと)瞬時的に搬送周波数が変動することとなり、復調音声の品質が損なわれる。
  • SSBは、FMのようにチャネルで区切って隣接チャネルとの間に十分なガードバンドを設けて使うということをしないため、隣接した周波数で行われる通信が雑音となって可聴周波数に落ち込んできて、耳障りとなる。

残留側波帯

残留側波帯(VSB、テンプレート:Lang-en)とは帯域幅を節約するため片方の側波帯だけにしたいが、ほぼ直流の成分(搬送波の周波数の直近となる)まで送信する必要があるため、現実的なフィルタの性能から、反対側の側波帯の一部まで送信する方式。アナログテレビ放送の映像信号の伝送に用いられる。

AMステレオの方式

独立側波帯

独立側波帯(ISB、テンプレート:Lang-en)と、USB、LSBそれぞれの側波帯を左右の音声信号としたものがカーン方式AMステレオである。

両立性直交振幅変調

両立性直交振幅変調(モトローラ方式AMステレオ C-QUAM、テンプレート:Lang-en) とは和信号により搬送波を平衡変調した信号と、差信号に25Hzのパイロット信号を加えた信号で直交する搬送波を平衡変調した信号とを合成し、振幅制限したものを搬送波として、和信号で振幅変調するもの。日本のAMステレオ放送で用いられている。

その他のAMステレオ方式

  • ハリス方式 (VCPM)
  • マグナボックス方式 (AM-PM)
  • ベラー方式 (AM-FM)

AMの利用

放送

振幅変調によるラジオ放送は、中波帯および短波帯においておこなわれているものが一般的である。一般に日本でAM放送と呼ばれているものは中波帯のもので、ラジオ#中波放送(AM放送)を参照。ステレオ放送もおこなわれている。AMステレオ放送を参照。短波帯の放送については短波放送を参照。ロシアやヨーロッパでは長波帯での振幅変調による放送がおこなわれている。

通信

航空無線では、超短波帯で振幅変調を利用している。これは、混信しても両方の音が混じって聞こえる(周波数変調では弱い側がかき消される)という特性のためである。アマチュア無線では、帯域幅の節約のために現代ではもっぱらSSBが使われているが、50MHz帯(6mバンド)ではAMも生き残っている。

電信

無線電信の多くは単に搬送波のオン、オフを断続して送信するため、搬送波の振幅を変化させるという意味で振幅変調に分類することがある(振幅偏移変調)。側波帯は使用しない。受信機では送信された電波を共振回路によって取り出し(選局し)、うなりの周波数が人の耳に敏感な700 - 800Hz程度になるような局部発振周波(BFOテンプレート:Lang-en)を作り、混合させて復調を行って信号波形(700 - 800Hz程度の正弦波)を再現する。

データ通信においては周波数変調による電信も用いられている(周波数偏移変調)。

理論

<math>V_{\mathrm{c}} = V_{\mathrm{cm}}\sin 2\pi f_{\mathrm{c}}t\,</math>

<math>V_{\mathrm{s}} = V_{\mathrm{sm}}\cos 2\pi f_{\mathrm{s}}t\,</math>

  • <math>V_{\mathrm{c}}</math> : 搬送波、<math>V_{\mathrm{cm}}</math> : 搬送波最大値、<math>f_{\mathrm{c}}</math> : 搬送波周波数
  • <math>V_{\mathrm{s}}</math> : 信号波、<math>V_{\mathrm{sm}}</math> : 信号波最大値、<math>f_{\mathrm{s}}</math> : 信号波周波数

とするとき、振幅変調波は以下のように表される。

<math> \begin{align} v_{\mathrm{am}}

& = (V_{\mathrm{s}} + V_{\mathrm{cm}})\sin 2\pi f_{\mathrm{c}}t \\
& = (V_{\mathrm{sm}}\cos 2\pi f_{\mathrm{s}}t + V_{\mathrm{cm}})\sin 2\pi f_{\mathrm{c}}t \\
& = V_{\mathrm{cm}}\sin 2\pi f_{\mathrm{c}}t + \frac{V_{\mathrm{sm}}}{2}\sin 2\pi (f_{\mathrm{c}} - f_{\mathrm{s}})t + \frac{V_{\mathrm{sm}}}{2}\sin 2\pi (f_{\mathrm{c}} + f_{\mathrm{s}})t \\

\end{align} </math>

  • <math>v_{\mathrm{am}}</math> :振幅変調波、<math>(f_{\mathrm{c}} - f_{\mathrm{s}})</math> :下側波帯 (LSB)、<math>(f_{\mathrm{c}} + f_{\mathrm{s}})</math> :上側波帯 (USB)

<math>m = \frac{V_{\mathrm{sm}}}{V_{\mathrm{cm}}}</math>

  • <math>m</math> :変調度

変調度の値が大きいほど信号波の振幅が大きくなり効率の良い通信となる。ただし100%を超える状態を過変調といい、復調信号の波形が歪み、また実装上は不要波を発生して他の通信に妨害を与えるので、放送では変調度の最大値が厳しく規定されている。

占有帯域幅は、次の式で表される。

  • 両側波帯 (DSB)
    • <math>BW = (f_{\mathrm{c}} + f_{\mathrm{s}}) - (f_{\mathrm{c}} - f_{\mathrm{s}}) = 2f_{\mathrm{s}}\,</math>
  • 単側波帯 (SSB)
    • <math>BW = f_{\mathrm{s}}\,</math>
      • <math>BW</math> :占有帯域幅

脚注

  1. 日本の電波法施行規則第2条第1項第66号による定義。
  2. 「新・上級ハムになる本」(丹羽一夫著、CQ出版社2006年2月1日発行、ISBN 4-7898-1168-9) pp. 183-148
  3. テンプレート:Cite book

関連項目