窒化ガリウム
テンプレート:Infobox 無機化合物 窒化ガリウム(ちっかガリウム、GaN)はガリウムの窒化物であり、主に青色発光ダイオード(青色LED)の材料として用いられる半導体である。ガリウムナイトライド (gallium nitride) とも呼ばれる。
物理的性質
結晶構造はウルツ鉱構造と閃亜鉛鉱構造の2種類を取りうるが、前者がエネルギー的に安定であり、よく使われている。ウルツ鉱構造の格子定数は、a軸が 3.18 Å、c軸が 5.17 Å である。
バンドギャップは室温において約 3.4 eV で、波長では約 365 nm に相当し、紫外領域の光源となる。微量のインジウム (In) を加えて InGaN 結晶にすることで紫色、青色の光源として用いることができる。発光ダイオードによる光の三原色のひとつとして交通信号やディスプレイに用いられる。
他の半導体と比較して、
- 熱伝導率が大きく放熱性に優れている
- 高温での動作が可能
- 電子の飽和速度が大きい
- 絶縁破壊電圧が高い
などの理由から電子デバイスとしての応用が期待されている。
電子デバイスへの応用は、AlGaN/GaNのヘテロ構造を利用した高周波デバイスが先行している。これは、GaNの持つピエゾ効果によりヘテロ界面に発生する高密度の2次元電子ガスを利用できるためである。 また、高い絶縁破壊耐圧を持つことから損失の低いパワーデバイスを実現できると考えられる。
化学的性質
窒化ガリウムは化学的には非常に安定した物質であり、一般的な酸(塩酸、硫酸、硝酸など)や塩基には溶けないが、紫外線を照射することで強アルカリには溶解する。
半導体の製造工程におけるエッチングの際には反応性イオンエッチング (reactive ion etching, RIE) によるドライエッチングを行う。
歴史
1990年代前半はセレン化亜鉛 (ZnSe) と GaN が青色系発光ダイオードの材料の候補であった。しかし格子定数と熱膨張係数が GaN に近い基板が存在せず、良質な結晶を作製できなかったため、ほとんどの研究者は ZnSe を用いて青緑色発光ダイオード作製を目指していた。ZnSe を用いた青緑色半導体レーザも報告されたが、寿命が短く製品化には至らなかった。
この問題を解決したのが、サファイア基板上への低温バッファ層技術である。これは赤崎勇と天野浩(名城大学理工学部教授)によってはじめて実現され、この技術によって、p型半導体、n型伝導性制御、pn接合による青色発光ダイオードなど発光ダイオードや半導体レーザに必要な要素のほとんど全てが実現されている。また、この技術を元に日亜化学(当時)の中村修二がツーフローMOCVD法を提案し、世界で初めて窒化物半導体を用いた高輝度青色発光ダイオードの製品化に成功している。なお、ツーフローMOCVD法の有効性に関しては、専門家の間では懐疑的であり、現在市販されているLEDでこの方法を用いているところはないと考えられる。