通達

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テンプレート:Ambox 通達(つうたつ、テンプレート:Lang-en)とは、主に行政機関内部において、上級機関が下級機関に対し、指揮監督関係に基づきその機関の所掌事務について示達するため発翰する一般的定めのことをいう。行政法学にいう行政立法中の行政規則として位置づけられる。

通牒と呼ばれることもある。

目的及び内容

行政上の取扱いの統一性を確保することを目的として定められる。内容としては、法令解釈、運用・取扱基準や行政執行の方針等、様々なものがある。

あくまでも行政機関内部における指針であり、国民の権利・義務を直接に規定あるいは制限するものではないので、上級行政庁が行政監督権限に基づき発することができ、法律の根拠を要しない。

法令の解釈を内容とする場合、当該法令の行政解釈を示すものとして位置付けられる。行政機関がこれに沿って事務を行うことで事実上の強制力が生ずることから、一般的には、いわゆる有権解釈として理解されることが多い。

法的位置付け

国家行政組織法において、各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達するため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができるとされている(同法第14条第2項)。

一般への公開

法律・政省令や告示などとは異なり、本来的には行政機関内部の文書として位置付けられるものであることから、官報への登載というかたちで公表されることはない。ただし主要なものは関係法令集や専門誌、各省庁が設置するウェブサイトなどに掲載される。また通常は外部に公開されることのない通達であっても、一部は情報公開請求により閲覧することが可能である。

司法との関係

通達はあくまでも行政機関内部における指揮監督関係に基づき、下級機関に対する命令としての効果を持ちうるに過ぎないため、そこで示される法令の解釈は司法の判断を拘束しない。また通達そのものについては行政事件訴訟法にいう「処分性」がなく、通達の取消しを訴訟で求めても実体判断がなされず、却下決定(いわゆる門前払い)がなされる[1]

なお、その通達に基づいて行政処分がなされたならば、当該処分の違法を理由としてその取消しを求めることはできる。

通達と国家賠償

通達が法令の解釈を誤っていることを理由として国家賠償を求めることができるかが裁判上で争われることが多い。

この点について一般的には「ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚して公務を遂行したときは、後にその執行が違法と判断されたからといって、直ちに上記公務員に過失があったものとすることは相当ではない」と解されている[2]

また最近の判例では、「上告人(編者注: 国)の担当者の発出した通達の定めが法の解釈を誤る違法なものであったとしても、そのことから直ちに同通達を発出し、これに従った取扱いを継続した上告人の担当者の行為に国家賠償法1条1項にいう違法があったと評価されることにはならず、上告人の担当者が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と上記行為をしたと認められるような事情がある場合に限り、上記の評価がされることになる」とし、結論として国に損害賠償を認めたものがある[3]

通達行政

日本の行政において通達はきわめて広範かつ大量に発出されることから、行政実務上通達の果たす役割は大きい。また、通達は行政機関内部における指針に過ぎないとはいえ、行政機関がこれに沿って事務を行うことで、事実上新たに義務を課したり、規制を設けたのと同様な結果を招来することも少なくない[4]。このような状況を指して批判的に「通達行政」と呼ぶことがある[5]

地方分権改革と通達

従前、国と地方自治体の間で存在した機関委任事務においては、国の地方自治体に対する包括的かつ一般的な指揮監督権が認められていたため、これに基づき通達の形式で事務の管理・執行を一般的に定めることが可能であった。また、機関委任事務でない自治事務の分野においても、助言・勧告として法令解釈等に係る通達が国から発出されており、地方自治体に対して事実上強い影響力を及ぼしていた。

平成12年4月1日より施行された地方分権一括法により機関委任事務が廃止されたことで、地方公共団体に対する指揮監督権の行使としての通達という概念はなくなった。また一連の地方分権改革においては、国と地方公共団体の関係を上下・主従の関係から対等・協力の関係に転換することが目的とされ、通達についてもこの趣旨に則り適切に整理することが求められた[6]

これに伴い、それまで指揮監督権に基づき拘束力のあるものとして発出されていた通達のうち、法定受託事務に係る処理基準として、引き続き拘束力を有する必要があるものは、地方自治法第245条の9に基づく処理基準であることを明示して存続することとし、かつその内容も目的を達成するために必要最小限のものでなければならないとされている。また従来から技術的な助言又は勧告[7]として出されていた通達については、従来どおり助言・勧告として位置付けられるが、その内容の整理が行われ名称も通知等と改められた。

脚注

  1. 法律の解釈を指定する通達について、裁判所はこれに拘束されず、またこれを取消すことを請求する訴えは許されないとした判例として、1968年(昭和43年)12月24日最高裁判所第三小法廷判決[1]
  2. 2004年(平成16年)1月15日最高裁判所第一小法廷判決[2]ほか判例多数。なお、同判決は、外国人に対する国民健康保険の適用について「在留資格を有しない外国人が国民健康保険の適用対象となることは予定されていない」とされた旧厚生省が出した通知(通達に相当するものであった)に関する違法性が争われた案件についてのものであるが、処分当時に不法滞在の外国人については国民健康保険の対象外とした判断を示した地裁レベルの判決が1件あっただけであり、本件各通知と異なる見解に立つ裁判例はなかったというのであるから通知をだした国の担当者に過失があったということはできないとして国家賠償を否定している。
  3. 2007年(平成19年)11月1日最高裁判所第一小法廷判決[3]。この判決では、原爆二法の適用について被爆者が外国に出国することにより健康管理手当等について失権するとした402号通達について、被爆者についていったん具体的な法律上の権利として発生した健康管理手当等の受給権について失権の取扱いをするという重大な結果を伴う定めを内容とするものであり、これに従った取扱いを継続するに当たっては、その内容が原爆三法の規定の内容と整合する適法なものといえるか否かについて、相当程度に慎重な検討を行うべき職務上の注意義務が存したものというべきであるとしたうえで、「同法が適用されるための要件として被爆者が日本国内に居住関係を有することが要求されているものと解することはできず、したがって、日本国内に不法入国した在韓被爆者についても同法の適用がある」とするとした第一審判決が出され、通達を改めるに際し、他の社会保障関係立法では居住地が国外に変更になることにより失権する場合にはその旨の明示の規定が通常であるところ原爆二法にはそのような規定がないことなどに照らして、なおその取扱を継続する通達を発出し、継続することは違法であり、過失が認められるとして国家賠償を認めた。
  4. 一片の通達によって実質的に新たな課税を行うことは租税法律主義に反しないかが争われたものとして、いわゆる「パチンコ球遊器課税事件」がある。これは、旧物品税法(昭和15年法律第40号、昭和16年法律第88号により改正)第1条第1項は課税対象物品の一つとして「遊戯具」を掲げていたものの、パチンコ球遊器についての明記はなく、1950年(昭和25年)までは一部の例外を除きこれに物品税が課されていなかったところ、1951年(昭和26年)に国税局長官等が管下の下級税務官庁に「パチンコは遊戯具であるから物品税を賦課せよ」との趣旨の通達を発するに至り、爾後この通達に基づいて物品税が課税されることになり、原告がその処分の無効等を求めていたものである。これについての判決として最高裁は「論旨は、通達課税による憲法違反を云為しているが、本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであつても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基く処分と解するに妨げがなく、所論違憲の主張は、通達の内容が法の定めに合致しないことを前提とするものであつて、採用し得ない。」とし、上告を棄却した(1958年(昭和33年)3月28日最高裁判所第二小法廷判決[4])。
  5. 法人税法基本通達の前文では「この通達の具体的な運用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るように努められたい。いやしくも、通達の規定中の部分的字句について形式的解釈に固執し、全体の趣旨から逸脱した運用を行ったり、通達中に例示がないとか通達に規定されていないとかの理由だけで法令の規定の趣旨や社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留意されたい。」と記され、運用上の注意喚起がなされている[5]
  6. 第145回国会参議院行財政改革・税制等に関する特別委員会での、地方分権推進一括法案に対する平成11年7月8日附帯決議において「既に発出している通達は、今回の改正の趣旨に則り適切に整理することとし、いわゆる通達行政が継続されることのないようにすること」[6]とされている。
  7. 「技術的な助言又は勧告」とは、客観的に妥当性のある行為又は措置を実施するように促したり、又はそれを実施するために必要な事項を示したりすること[7]。技術的とは、恣意的な判断又は意思を含まないという意味である。

個別の記事を持つ日本国の通達

関連項目

外部リンク

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