食道癌
食道癌(しょくどうがん、英Esophageal cancer)は、広義では食道に発生する悪性腫瘍の総称。
目次
疫学
日本では、60歳代の男性に好発し、男女比は、3:1程度である。また、食道癌全体の93%以上を食道扁平上皮癌がしめ、発生部位も胸部中部食道に多いのに対し、アメリカではここ30年ほどで扁平上皮癌の割合が低下し、現在では約半数を食道胃接合部近傍の腺癌が占める。その違いの原因は明らかではないが、ひとつは禁煙による癌発症予防効果が扁平上皮癌の方が高いことが挙げられている。これは、アメリカでは日本より禁煙が進んでいるためである。白人に比べて喫煙率が高い黒人では扁平上皮癌の罹患率がより高いことが示されている。また、バレット食道の罹患率がアメリカのほうが多いという点も理由に挙げられる。
病理
以下の種類に分類されるが、扁平上皮癌が全体の90%以上を占め、ついで腺癌である。
- 良性上皮性腫瘍
- 扁平上皮乳頭腫
- 腺腫
- 上皮内腫瘍
- 扁平上皮内腫瘍(低異型度・高異型度)
- 円柱上皮内腫瘍
- 上皮性悪性腫瘍
- 非上皮性腫瘍
- 平滑筋腫瘍
- 消化管間質腫瘍 (GIST)
- 神経性腫瘍
- リンパ球系腫瘍
- 腫瘍様病変
- 異所性胃粘膜
- 異所性皮脂腺
- Cowden病
- グリコーゲン表皮肥厚
分類
病期分類は、国際的に多くの腫瘍で用いられる通りTNM分類によって行われる。
肉眼的分類
- 0型 表在型
- 0-I 表在隆起型
- 0-II 表在平坦型
- 0-III 表在陥凹型
- 1型 隆起型
- 2型 潰瘍限局型
- 3型 潰瘍浸潤型
- 4型 びまん浸潤型
- 5型 その他
深達度分類
- T1a:癌が粘膜内にとどまる病変
- T1a-EP(m1)
- T1a-LPM(m2)
- T1a-MM(m3)
- T1b:癌が粘膜下層にとどまる病変
- SM1 SM2 SM3
- T2:癌が固有筋層にとどまる病変
- T3:癌が食道外膜に浸潤している
- T4:癌が食道周囲臓器に浸潤している
症状
初期症状は食道違和感等の不定愁訴に近く、またリンパ節転移が多いことと、食道は他の消化器臓器と異なり漿膜(外膜)を有していないため、比較的周囲に浸潤しやすいこと等から、進行が早いため、発見が遅れやすい。
食道癌と診断された人では、その時点で74%の人が嚥下困難、14%の人が嚥下痛がある。57%の人で体重が減少しているが、このとき、体重の減少の程度が、BMIで10%以上の減少に相当する場合には、予後不良の可能性が高くなる。呼吸困難、咳嗽、嗄声、胸骨後部または背部または右上腹部痛はまれだが、進行した病変の存在を示唆する。
早期癌の場合はそれに伴う身体所見はほとんどない。進行癌では、ときに右もしくは左の鎖骨上部リンパ節腫大を認める。反回神経麻痺による嗄声を認めることもある。
- 腫瘍マーカー
- 食道癌に関しては、診断、治療効果判定、予後評価のいずれかにでも有用であるものは少ないが、SCC、p53抗体、CEA、CYFRA21-1などが比較的よく用いられている。日本における食道癌は、90%以上が扁平上皮癌であることから、SCCが最も利用されている。保険適応となっているのは、SCC、p53抗体、CEAである。p53抗体は、比較的早期の症例での陽性率が高いのが特徴である。
治療
他の癌の治療と同様に、治療方針は癌の病理組織・病期診断によって変わってくる。主に以下にあげられる治療を集学的に行っていく。
内視鏡治療
病変がリンパ節転移の無い早期食道癌と診断される病変に対し、EMR・ESDといった内視鏡治療が広く行われてきている。詳細はEMR・ESDの記述を参照。
深達度診断で、T1a-EP(m1)ないしT1a-LPM(m2)と思われる病変はリンパ節転移の確率が低く、基本的に内視鏡治療の適応となり、肉眼形態では0-II(表在平坦型)タイプが多い。深達度診断で、T1a-MM(m3)ないしSM1と思われる病変に関してはリンパ節転移の確率が高くなり、根治的治療は外科手術が選択される。
手術的治療
旧来より、根治術として食道切除術+リンパ節郭清が多くなされてきた。詳細は食道切除術の記述を参照。 この手術は、非常に侵襲が大きく、合併症の発生率が非常に高かったが、腹腔鏡と胸腔鏡を併用した手術法により改善されつつある[2]。近年、日本から報告された臨床試験結果によると、手術の前に化学療法を行った患者群の治療成績は手術の後に行った群よりも良好であった。また、化学放射線療法をうけたが病変が残存もしくは再発した患者に救済治療として行われる事もあるが、その際の合併症(副作用)のリスクは高いとされている。
化学放射線療法
食道癌に対する化学療法と放射線療法の併用療法は、手術加療以外の根治的治療として、現在比較的広く行われてきている。StageI期においては5年生存率は手術加療とほぼ同じにまで至る報告もなされてきている。主なものに以下がある
放射線療法
根治的治療目的の放射線療法適応は広く、T1~3、N0,1、M0の切除可能例から、T4、N0,1、M0の切除不能例までが適応とされ、化学療法と併用されることで良好な治療が報告されている。食道癌の手術はリスクが高いため、上記の症例の場合における外科的手術を行わない根治的治療では、化学療法との併用による化学放射線療法が選択されている。
化学療法
遠隔転移を生じたM1の場合等では全身化学療法が施行される。ただし遠隔転移を生じているような進行の食道癌に対する化学療法の効果反応はたいてい数ヶ月程度で、全身化学療法が行われる場合においても生存期間が1年をこえることは稀である。
使用される抗癌剤は主に以下があり、組み合わせによって様々な「レジメ」が提唱されている。
予後
胃癌、大腸癌を含む消化管の癌の中では予後は極めて悪い。これはリンパ節転移が多いことと、食道は他の消化器臓器と異なり漿膜(外膜)を有していないため、比較的周囲に浸潤しやすいことが上げられる。
食道癌全体での5年生存率は、1970年には4%であったが現在では14%ほどに改善している。アメリカでの成績であるが、手術を行った場合の5年生存率は、0期で95%以上、I期で50-80%、IIA期で30-40%、IIB期で10-30%、III期で10-15%である。IV期は「転移あり」を意味するが、生存期間中央値が1年以下である。TNM分類以外で予後を予測する因子として、以下が統計的に証明された予後不良因子である: BMIの10%以上の減少、嚥下困難、大きな腫瘍、高齢、lymphatic micrometastases。