公理的集合論
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公理的集合論(こうりてきしゅうごうろん、axiomatic set theory)とは、公理化された集合論のことである。
集合の公理系
現在一般的に使われている集合の公理系は以下の ZFC である。
ZF 公理系
ツェルメロ=フレンケルの公理系 (ZF) とは以下の公理からなる。
- 外延性の公理 A と B が全く同じ要素を持つのなら A と B は等しい:
- <math>\forall A\forall B(\forall x(x\in A \leftrightarrow x\in B)\rightarrow A = B)</math> 。
- 空集合の公理 要素を持たない集合が存在する:
- <math>\exists A\forall x(x\notin A)</math> 。
- 外延性の公理から、空集合の公理が存在を主張する集合はただ一つであることが言えるので、これを空集合と呼び、<math>\varnothing</math> で表す。
- 対の公理 任意の集合 x, y に対して、x と y のみを要素とする集合が存在する:
- <math>\forall x\forall y\exists A\forall t(t\in A\leftrightarrow (t = x\vee t = y))</math> 。
- 外延性の公理から、x と y に対して対の公理が存在を主張する集合はただ一つであることが言えるので、これを <math>\{x,y\}\,</math> で表す。<math>\{x,x\}\,</math> を <math>\{x\}\,</math> で表す。
- 和集合の公理 任意の集合 X に対して、X の要素の要素全体からなる集合が存在する:
- <math>\forall X\exists A\forall t(t\in A\leftrightarrow \exists x\in X(t \in x))</math> 。
- 外延性の公理から、X に対して和集合の公理が存在を主張する集合はただ一つであることが言えるので、これを X の和集合と呼び、<math>\bigcup X</math> で表す。<math>\bigcup \{x,y\}</math> を <math>x\cup y</math> で表す。
- 無限公理 空集合を要素とし、任意の要素 x に対して x ∪ {x} を要素に持つ集合が存在する:
- <math>\exists A(\varnothing\in A\wedge \forall x\in A(x\cup\{x\}\in A))</math> 。
- 冪集合の公理 任意の集合 X に対して X の部分集合全体の集合が存在する:
- <math>\forall X\exists A\forall t(t\in A\leftrightarrow t \subseteq X))</math> 。
- 外延性の公理から、X に対して冪集合の公理が存在を主張する集合はただ一つであることが言えるので、これを X の冪集合と呼び、<math>\mathcal{P}(X)</math> または2xで表す。
- 置換公理 "関数クラス"による集合の像は集合である:
- <math>\forall x\forall y\forall z((\psi(x,y)\wedge\psi(x,z))\rightarrow y = z)\rightarrow\forall X\exists A\forall y(y\in A \leftrightarrow \exists x\in X\psi(x,y))</math> 。
- この公理は、論理式 ψ をパラメータとする公理図式である。
- 正則性公理(基礎の公理) 空でない集合は必ず自分自身と交わらない要素を持つ:
- <math>\forall A(A\ne\varnothing\rightarrow\exists x\in A\forall t\in A(t\notin x))</math> 。
- 正則性公理はジョン・フォン・ノイマンによって導入された(1925年)。
分出公理
置換公理はフレンケルによって次の分出公理の代わりにおかれたものである(1922年)。分出公理は上に述べた ZF の公理から示すことができる。
- 分出公理 任意の集合 X と論理式 φ(x) に対して、X の要素 x で φ(x) をみたすような x 全体の集合が存在する:
- <math>\forall X\exists A\forall x(x\in A \leftrightarrow (x\in X\wedge \varphi(x)))</math> 。
- この公理は、論理式 φ をパラメータとする公理図式である。論理式 φ を決めたとき、X に対して分出公理が存在を主張する集合はただ一つであることが外延性の公理から言えるので、これを <math>\{x\in X\mid \varphi(x)\}</math> で表す。<math>\{x\in X\mid x\in Y\}</math> を <math>X\cap Y</math> で表す。
選択公理
上記の ZF に次に述べる選択公理(axiom of choice)を加えた公理系を ZFC という(C は "choice" の頭文字)。選択公理を仮定しない体系も盛んに研究されている。
- 選択公理 X が互いに交わらないような空でない集合の集合であるとき、X の各要素から一つずつ要素をとってきたような集合(選択集合)が存在する:
- <math>\forall X((\varnothing \notin X\wedge\forall x\in X\forall y\in X(x\ne y\rightarrow x\cap y = \varnothing))\rightarrow\exists A\forall x\in X\exists t(x\cap A = \{t\}))</math> 。
- 選択公理と同値であることが ZF において証明できる命題として、整列定理やツォルンの補題などがある。
パラドックスの回避
ツェルメロが ZF の元となる公理系を1908年に発表した最大の動機は、実数が整列可能だとする彼の証明を弁護することであった。しかし、同時に彼はその当時すでに知られていたパラドックスを回避しなければいけないこともわかっていた。代表的なものとしては、 ラッセルのパラドックス、リシャールのパラドックス、ブラリ=フォルティのパラドックスがある。 これらのパラドックスは、集合を構成する方法に制限を付けている ZFC の中では展開できない。 例えば、ラッセルのパラドックスで用いられる
- <math>\{x\mid x\notin x\}</math>
という集まりは ZFC の中では構成できないし、 リシャールのパラドックスで用いられる構成は論理式で記述できない。