プロピオン酸
テンプレート:Infobox 有機化合物 プロピオン酸(プロピオンさん、propionic acid)は示性式 CH3CH2C(=O)OH、分子量74.08のカルボン酸。IUPAC系統名ではプロパン酸 propanoic acid となる。CAS登録番号は79-09-4。
単体は融点 −21 テンプレート:℃、沸点 141 テンプレート:℃ の無色の液体で、不快な臭気を有する。水、エタノール、クロロホルム、エーテルなどに溶けやすい。1-プロパノール、プロピオンアルデヒドの酸化によって得られる。
語源は「最初の脂肪酸」という意味で、油脂の加水分解により得られる脂肪酸のうち、最も炭素数の少ないものであったことによる。
用途
プロピオン酸および同カルシウム塩・ナトリウム塩が、食品用保存料[1]および香料として利用可能であるが、特有の臭気があるため使用例は多くない[2]。
誘導体
イブプロフェン、ナプロキセン、ロキソプロフェンナトリウムなど、α位に芳香族部位が置換した非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) が知られ、「プロピオン酸系」と称される。
生体での生成
哺乳類の大腸やルーメンでは細菌が食物の中のセルロースやヘミセルロースを嫌気発酵し、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸を生成しており、これが草食性動物の体内では重要なエネルギー源となっている。ウシなどの反芻動物は、第1胃で行われる糖質の発酵によって大量のプロピオン酸を生産する[3]。反芻動物の場合は、セルロースを分解するバクテリアが胃の中で糖を揮発性脂肪酸にしてしまうのでプロピオン酸からの糖新生は特に重要な代謝である。プロピオン酸生産菌はビタミンB12を生産する主要な菌であり、草食動物は腸内細菌としてこれらの菌からビタミンB12を摂取している[4][5]テンプレート:信頼性要検証。後述するようにビタミンB12は、プロピオン酸の代謝に必要不可欠な補酵素の1つである。
炭素数が奇数の脂肪酸はβ酸化により反応が進み、2個ずつの炭素がアセチルCoAとして生成し、最後に炭素数3個のプロピオニルCoAを生じる。プロピオニルCoAは、プロピオン酸とCoAが結び付いたもので加水分解するとプロピオン酸が生じる。
イソロイシン、メチオニン、バリンは、アミノ酸の代謝分解によりプロピオニルCoAを生じる。
生体での代謝
哺乳動物では、プロピオニルCoAはビオチン依存性酵素であるプロピオニルCoAカルボキシラーゼによって(S)-メチルマロニルCoAに変換される。この酵素反応では炭酸水素イオンとATPを要する。この生成物はさらにメチルマロニルCoAエピメラーゼによって(R)-メチルマロニルCoAに変換される。(R)-メチルマロニルCoAは、メチルマロニルCoAムターゼによってスクシニルCoAに変換されるが、この酵素は炭素-炭素結合の移動を触媒するためのコバラミン(ビタミンB12)を要する。メチルマロニルCoAムターゼの欠如は、血液のpHが低下するメチルマロン酸血症(Methylmalonic acidemia)を引き起こす[6]。 生成したスクシニルCoAは、クエン酸回路の中間体として代謝される。
関連項目
- 無水プロピオン酸
- プロピオン酸イソアミル - バナナ、ブドウ、リンゴなどの香り成分の1つ。
- プロピオン酸エチル - イチゴ、ブドウ、リンゴなどの香り成分の1つ。
- プロピオン酸ベンジル - 合成香料の1つ。
脚注
C2: 酢酸 |
飽和脂肪酸 | C4: 酪酸 |
- ↑ 食品衛生の窓(東京都福祉保健局)
- ↑ 食品添加物公定書規格中のプロピオン酸「易酸化物」について(CiNii)
- ↑ David L. Nelson, Michael M. Cox 共著 『レーニンジャーの新生化学[下]‐第4版‐』 山科郁男 監修、川嵜敏祐ほか 編、廣川書店、2007年2月、p.897-912、ISBN 978-4-567-24403-9
- ↑ 帝京科学大学生命環境学部生命科学科松岡研究室研究内容紹介
- ↑ 山田惠子 ビタミンB12の栄養学 講座の紹介資料
- ↑ テンプレート:Cite web