セルロース

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セルロースの構造式

セルロース (cellulose) とは、分子式 (C6H10O5)n で表される炭水化物多糖類)である。植物細胞細胞壁および繊維の主成分で、天然の植物質の1/3を占め、地球上で最も多く存在する炭水化物である。繊維素とも呼ばれる。自然状態においてはヘミセルロースリグニンと結合して存在するが、綿はそのほとんどがセルロースである。

セルロースは多数のβ-グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子である。構成単位であるグルコースとは異なる性質を示す。いわゆるベータグルカンの一種。

歴史

フランス生化学者アンセルム・ペイアン (Anselme Payen)によって1838年に発見された。

1991年小林四郎らによって、セルラーゼを利用した酵素触媒重合により初めて人工合成に成功した。 [1]

物理的性質

  • にも熱水にも溶けない。
  • 汎用有機溶媒にも溶けない。
  • 「セルロース溶剤」としていくつかの溶剤が見出されている。また、誘導体化により溶媒溶解性を付与することもできる。
  • 結晶多形を示す。
  • 25MPaの圧力のもと、結晶性のセルロースを水の中で320 ℃まで加熱すると無定形へと転移する。[2]

化学的性質

セルロースはβ-グルコース重合したものであり、分子水素結合によってシート状になっている。これに対し、α-グルコース分子が重合したデンプン水素結合によるらせん状になっている。セルロースはヨウ素デンプン反応を示さない。デンプンと同じくグルコース分子を構成単位としながら、セルロースがヨウ素デンプン反応を示さないのは、この反応が分子の形状に由来するためである。また、セルロースは非常に安定で、塩基に対して強い抵抗を示す。セルロースの分解には硫酸塩酸が用いられるほか、酵素セルラーゼが用いられる。リグニンと結合したセルロースは単独状態よりもさらに化学的に安定であるため、分解は非常に困難であり、工業的な利用を妨げている。

生合成

グルコースより、グルコキナーゼ (EC 2.7.1.2)・ヘキソキナーゼ (EC 2.7.1.1)、ホスホグルコムターゼ (EC 5.4.2.2)、UTP-グルコース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ (EC 2.7.7.9)、UDP形成セルロースシンターゼ (EC 2.4.1.12) の作用により合成される。セルロースシンターゼは細胞膜上に存在する。UDP-グルコース生成までの反応経路はグリコーゲン生合成経路と同じである。

EC 2.7.1.2: ATP + D-hexose → ADP + D-hexose-6-phosphate
EC 2.7.1.1: ATP + D-glucose → ADP + D-glucose-6-phosphate
EC 5.4.2.2: α-D-glucose-6-phosphate → α-D-glucose-1-phosphate
EC 2.7.7.9: UTP + α-D-glucose-1-phosphate → diphosphate + UDP-glucose
EC 2.4.1.12: UDP-glucose + (1,4-b-D-glucosyl)n → UDP + (1,4-β-D-glucosyl)n+1

この他に、中間体としてGTP-グルコースを経由する経路も存在する。

セルロースを合成するのは植物とホヤのほかいくつかの微生物が知られている。最もよく知られたセルロース合成細菌は酢酸菌アセトバクター属など)で、ナタ・デ・ココはこの細菌によって作られたセルロースである。

利用

再生繊維

綿パルプから採取されたセルロースは短い繊維状になっている。これに化学処理を施して溶解させると、長い繊維状のセルロースとして再生することができる。

綿火薬

セルロースを硝酸で処理するとニトロセルロースとなる。これはセルロースの硝酸エステルで、加熱や衝撃を与えることで爆発する。煙を出さない無煙火薬の原料の一つとして用いられている。もともとは綿をセルロース源としたので、綿火薬と呼ばれた。

セルロイド

おもな誘導体

セルロースを食べる動物

出典

  1. テンプレート:Cite journal
  2. Cooking cellulose in hot and compressed water Shigeru Deguchi, Kaoru Tsujii and Koki Horikoshi Chem. Commun., 2006, 3293 - 3295, テンプレート:DOI

関連項目

テンプレート:炭水化物