交番
交番(こうばん、kōban)とは、日本の警察が設置している施設で、市街地の各所に設けられた警察官の詰め所のこと。
通常は警察署地域課の警察官が勤務している。英訳語としては通常ポリスボックス (police box) が当てられるが、英語圏のポリスボックスと日本の交番は異なるとの考えからそのままコーバン (kōban) とされることもある。 警察用語では「PB」と呼ばれている(後述)。
概要
ある程度の人口があるが予算・人員等の都合により独立の警察署を置かない地域に設置され、各種申請・届出事務が可能なものを特に幹部交番(又は地区交番)と呼ぶ(通常、交番所長は警部補か巡査部長だが、幹部交番の所長は警視や警部)。ただし、警察本部によっては同様の経緯によって設置された施設を「警察署分庁舎」、「警部交番」などと呼んでいる場合もある。
なお、長の呼称が「交番長」ではないのは「派出所」の名残り(トップは「派出所長」だった)。
警察署の所在地付近の区域は、警察署の地域課にその区域を管轄する交番としての機能を持たせて、パトロールや巡回連絡などを行っている場合がある。これは「署所在地」と呼ばれ交番の一つとみなされる。但し、警察本部や警察署によっては署所在地がない場合もある。
警視庁管轄下の場合は殆どの地域に警察署が設置されている為、幹部交番は殆ど見られない。しかし地方では近年人口の増加してきた地域の普通の交番を幹部交番へ格上げすることもある。また、人口減少による警察署の統廃合によって幹部交番へ格下げになることもある。
通常は2~3人一組で24時間交代、つまり交番(交代で番にあたること)で勤務にあたる。仮泊設備(畳敷きの部分と布団、執務部分からつながる非常呼び出し用のベル)もある。パトロールや事件処理以外での外出はやたらに出来ないので食事は出前を頼むことが多い。
警察内の隠語では「PB」(ピービー。Police Boxの略)と呼ばれ、警察官同士の会話や警察無線での通話などで使われる。
歴史
1871年(明治4年)に、政府は東京で邏卒を採用し、屯所(警察署)を中心にパトロール等を行なわせていた。1874年(明治7年)に東京警視庁が設置され、邏卒を巡査に改称し、巡査を東京の各「交番所」(交番舎)に配置した。巡査を交代で屯所から「交番所」へ行かせ、立番(りつばん)等を行なう場所にした。同年8月に、「交番所」に設備を設置して周辺地域のパトロール等を行う拠点にし、1881年(明治14年)には、「交番所」は「派出所」に改称された。1888年(明治21年)になると、全国に「派出所」が配置されるようになり、同時に、外勤警察官が居住する施設として「駐在所」が設置された。
その後、1994年(平成6年)から「派出所」の正式名称は「交番」 (KOBAN) に決定した。現在も警備派出所として派出所という名称の施設は残存するが、通常の交番とは異なり、要警備諸所(各種公邸など)における警察官の詰め所的な存在である。他には警備派出所の名称が使用されている施設としては、各地空港に空港警備派出所がある。所長の階級は警部か警視で、昇任直後に就任する傾向が強い。最近の傾向としては、市町村合併の影響で警察署統廃合が全国で行なわれており、幹部交番(ただし、鳥取県警察・岡山県警察・佐賀県警察では幹部派出所が正式名称となっている)が増加しつつある。幹部交番は廃止された警察署庁舎を使用している。
交番の役割
交番と駐在所には、都道府県公安委員会の規則などにより管轄区域が割り当てられており、交番の勤務員は通常はその範囲内の治安維持にあたる。ただし、本署の指示があったときや緊急の場合には管轄区域にかかわらず出動する。また、交番の勤務員は、例えばパトロールカーによるパトロール、留置管理、被疑者の護送、重大な事件の捜査など警察署の他の部署の職務の応援に回ることもある。これを「補勤」(ほきん)という。
市街地の各所に警察官の詰め所を設けることで、周辺地域の治安の維持と住民の利便を図ろうというものである。交替で番をするところであるためこのように呼ばれる。日本の治安が良好な要因のひとつは全国の交番にあるのではないかと他の国からの注目は高い。
原則として、担当警察官の交代勤務により、警察官が24時間常駐している。しかし、警察官が減少しているため、一定時間のみ警察官が滞在する交番や、警察官を配置せずにテレビ電話を置いただけの無人交番も運用されている。この様な問題を抱えている交番を「空き交番」ということがある(後述)。このことで、暴漢から交番に逃れたものの無人で、結局暴行を受けた、などの事件も発生しており、今後の課題となっている[2]。
交番は、地域課のパトロール担当の警察官が常駐するところであるだけでなく、110番通報するまでもない状況の時(例として万引きの犯人を取り押さえて引き渡す)には警察官の出動依頼も可能である。110番通報よりも最寄の交番に電話をかける方が警察官の現場到着が早い場合もある(電話を受けた交番では制服警察官が黒バイや自転車で飛んで行く。また、交番には一般の電話から直接かけることができない地域もある)。
- 但し、電話連絡を受けた警察官は、その連絡の内容を本署に報告し、指示を受けてから出動する他、重要事件の場合はその警察官がさらに交番から110番通報をして、本部組織(機動捜査隊や鑑識課など)の応援を要請してから出動するので、かえって時間がかかることも多く、緊急時には交番や警察署ではなく110番へ電話をかけることが推奨される。
その他、管轄地域内で起こった事件、事故などの報告などが可能である。また、交番には付近の地図が掲示されているほか、日常的に管轄区域のパトロールを行う警察官は近所の地理に詳しい場合が多いため、交番で道を尋ねる風景はよく見られる(警察内部では「地理案内」と呼ぶ)。また、交通量の多い交差点に面して設置されている交番では、交通の監視の機能をもたせ、スピーカーを通して注意を促したりする場合もある。
この他、交番の職務の中に「巡回連絡」がある。これは、管轄区域内の住宅や事業所などを交番の勤務員が巡回し、住宅であれば世帯主をはじめとする家族構成、勤務先や通学先などを、事業所であれば業種や従業員数などを、それぞれ家人や経営者などから直接聞き取り、交番備え付けの「巡回連絡簿」に記載するというものである。管轄区域内の住民などは絶えず流動しているため、半年~1年ごとに区域内全ての住宅・事業所を巡回することを目安としているが、他の業務との兼ね合いもあり必ずしもこの通り実施されてはいない交番もある。
総務省による警察に対するアンケート調査の結果、『交番にはいつも警察官が常駐していて欲しい」「いつもパトロールして欲しい」との相反する要望がある。この国民の要望に応えるため2003年(平成15年)8月から福岡県警察は全国に先駆けて交番、駐在所の再編を行い交番の大型化等を実施して治安の回復など一定の成果をあげている。
空き交番
「空き交番」とは交番の施設があるものの、警察官が不在がちな交番をいう。交番は、原則として一当務2人以上の交替制をしくことになっているが、人手不足により夜間無人となるもの、あるいは警察官は常駐するが巡回に出かけた後などに無人になるものなどがある。
警察庁生活安全局地域課の統計によると、2006年4月1日現在の全国の交番数は6,362か所(前年同期比93か所減)、交番勤務員は約48,700人(昨年同期比約1,800人増)である。「空き交番」は全国で268か所あるが、2005年の統計では1,222か所であったのである程度改善されているといえる。
空き交番問題は以前から指摘されていたが、特に市街地や住宅街の交番、また過疎地の駐在所での警察官不足は未だ解消されていない地域がある。交番所長が置かれない交番も多い。 交番に勤務する警察官は毎日交番勤務についているわけではなく、各警察署各課の応援に出動することもあり(被疑者護送も地域課の任務)、交番勤務員の人手不足は治安に関係する深刻な問題である。
警察庁としては交番相談員制度を発足させ定年退職した警察官を対象に再雇用をして交番勤務員を増やす施策も行っているが、空き交番問題や署員不足などの問題は、警察官の人数(特に地域部・地域課員。一般的な「お巡りさん」)そのものが少ないことが原因である。
警察は広範囲の職域を抱えている警察署員数確保の為には全国的にあと3万人の警察官を増員する必要があるとしている。
市町村によっては、廃止した交番の建物や土地を譲り受けたり有償で借り上げたりして、地元の自治会やボランティアの力で治安の維持に努める場合もある。2007年4月、警察庁は人員増と統廃合により、空き交番の解消完了を発表した(本当に必要なのは勤務者の大幅な増加であり、見方によっては数のすり替えである。存在していた交番が「地域安全センター」化ではなく、廃止されて建物ごと消えた場所もある)。
配備されるパトカーの種類
交番に配備されているパトカーは地域特性や周辺の道路環境により異なる。大部分の交番には地域巡回・違法駐車取り締まりを主とするミニパトが置かれているが(「街頭犯罪対策車」と呼ぶところもある)、交通量の多い幹線道路沿いの交番では自ら隊や交機隊と同様に警らパトカーが配備されている場合もある。札幌薄野交番にはトヨタ・ハイエースや日産・キャラバンの護送車やトヨタ・クラウンが配備されている。
移動交番
最寄りの交番が遠い地域や犯罪が多発する地域、住宅地や公園、人出の多い商業施設などでは、既設の交番を補完するように日時を限定してワンボックスカーやマイクロバスによる移動交番が設置されることがある。警察官と交番相談員が乗り、地理案内や届出の受付、地域の警戒などに従事する。大規模な災害が発生した地域に派遣されて現地の仮設交番として活用されることもある。 テンプレート:-
海外の交番
近年はアメリカやシンガポールにも交番制度が輸出されている(ワイキキにはホノルル市警の「Waikiki Beach koban」がある)。シンガポールは幹部候補生を日本に研修に派遣し、警視庁数寄屋橋交番に勤務させて交番制度を実地で体験させるなど、積極的に制度を輸入した。韓国、台湾では、以前から日本とほぼ同様の交番が存在するほか、中華人民共和国にも交番が新設されており、いずれも「派出所」と呼ぶ[3]。ただ、中国・上海市公安局の交番は概ね日本のそれより規模が大きく、アメリカの警察署(または分署)の規模である。 また、ニューヨーク市のマンハッタンに交番が設置され、インドネシアやブラジル・サンパウロ州などでは日本の例を参考にして交番制度が導入されている。特にサンパウロ州では2005年からの導入で、殺人事件等の犯罪が大幅に減少した[4]。
- Kallang NPP.JPG
シンガポールの交番Neighbourhood Police Post(NPP)
関連項目
脚注
外部リンク
- 警察庁
- 警視庁のしくみ/交番・パトカー/交番(警視庁による、交番制度の解説ページ)
- 埼玉県/市町村総合助成制度(防犯のまちづくり支援事業)(埼玉県における廃止交番活用事業についての事例)
- 巡回連絡実施要領の改正について(通達)(平成11年11月1日警察庁丙地発第19号)(警察庁による巡回連絡に関する通達(PDFファイル))
- 交番の由来、警視庁
- 平成16年 警察白書(特集「地域社会との連帯」)テンプレート:Police-stub