激変星
激変星(げきへんせい)は、変光星の大きな分類の一つ。激変変光星ともいう。cataclysmic variableを略しCVで表す。
短期間(長くて数日)に極度に増光し、その後緩やかに減光する。それを1度きり起こすか、不規則な周期で繰り返す。
超新星以外は白色矮星を含む近接連星系であり、Ia型超新星も中性子星を含む近接連星系である。多くの場合、降着円盤が変光に関わっている。
目次
種類
超新星 (supernova)
超新星 (supernova) は、星全体が吹き飛び、劇的に明るさが増大し、星の一生の最期のイベントとなる。等級は10~20等明るくなり、ピーク時の絶対等級は-15~-20等にまで達する。1つの銀河で100年に数個現れると言われている。天の川銀河では古来より記録があり、1006年、1054年、1181年、1572年、1604年に超新星が現れ、それらの残骸(超新星残骸, M1かに星雲など)も証拠として現存している。いずれも実視等級は-1~-8等級で、発見当時は全天で一番明るい星としてみることが出来たであろう。また爆発のメカニズムは主に二通りに大別される。一方は、近接連星系において、伴星から白色矮星への質量降着に伴い、チャンドラセカール限界質量を超えて起こる大爆発である。もう一方は、進化した大質量星の重力崩壊で起こる大爆発である。
古典新星 (classical nova)
新星 (Nova) /古典新星 (Classical nova) は、元々そこにあった暗い星が、数日で数万倍の明るさに達する天体である(新しい星が誕生したわけではない)。等級でいうと8~15等の増光幅を持つ。増光後は数10日~数100日かけて減光していく。
新星の正体は、白色矮星(主星)と赤色星(伴星)から成る近接連星系であると考えられている。赤色星から白色矮星に向かって流れ落ちる物質が、白色矮星のまわりを円盤のように取り囲み降着円盤を形成する。白色矮星の表面には降着円盤を通じて物質が降り積もっていく。降り積もった物質は、白色矮星の強い表面重力によって熱核暴走反応が起こり、降り積もった物質を吹き飛ばし、劇的に明るさが増大する。回帰新星と増光のメカニズムは同じであるが、増光から次の増光までのタイムスケールが異なる(古典新星:数万年~数百万年, 回帰新星:百年以下)。そのため古典新星の増光は基本的にワンイベントと考えるのが一般的である。
新星は減光のスピードによって分類がなされている。主に減光スピードが速いファースト・ノヴァ(NA)、減光スピードが遅いスロー・ノヴァ(NB)、減光スピードが大変遅いヴェリー・スロー・ノヴァ(NC)に大別される。またスペクトルからも分類できることが知られている。主に鉄のラインが卓越するものと、He/Nが卓越するものに大別される。また新星の減光速度と極大時の絶対等級には相関があることが経験的に知られており (MMRD; Maximum Magnitude / Rate of Decline)、この関係から新星までの距離を推定することができる。
回帰新星 (recurrent nova)
回帰新星(反復新星、NR)は、2回以上の新星爆発が観測されたものを指し、10例ほど観測されている。代表的なものとして、らしんばん座T星 (T Pyx)、さそり座U星 (U Sco)、かんむり座T星 (T CrB)などがある。いずれも爆発の間隔は数十年以上で、近年では2009年に約10年ぶりに爆発を起こしたさそり座U星や、2011年に約45年ぶりに爆発を起こしたT Pyxが、この分野で注目を集めている。
矮新星 (dwarf nova)
矮新星(ふたご座U型変光星、UG)は、10~3000日くらいの間隔で急激に増光(アウトバースト)し、またすぐに減光するという現象を繰り返すのが特徴である。小規模な新星に似た光度変化を示しその増光の様子から新星の出現を想像させる。
ただし、新星爆発が白色矮星の表面で起こっているのに対し、UG型の増光は降着円盤内の水素の電離によって起こる降着円盤の発光によるものであり、新星とはその増光のメカニズムが全く異なっている。
この天体は増光の仕方によってUGSS(はくちょう座SS型)とUGZ(きりん座Z型)、UGSU(おおぐま座SU型)に細分類される。UG型も新星同様赤色星(赤色矮星)と降着円盤を持つ白色矮星の近接連星である。
矮新星は、より長い周期で新星爆発を起こす可能性がある。新星爆発自体が観測された記録はないが、矮新星きりん座Z星には新星爆発の痕跡星雲が発見されている。
おおぐま座SU型 (SU UMa type)
軌道周期100分程度の矮新星で、ノーマルアウトバーストとスーパーアウトバーストの2種類の増光を示す。最大の特徴は、スーパーアウトバースト時の光度曲線中に、スーパーハンプと呼ばれる軌道周期より数パーセント長い0.2~0.3等の周期的な変動が見られることである。さらにSU UMa型のサブクラスとして、ER UMa(おおぐま座ER)型やWZ Sge(や座WZ)型がある。
新星様変光星 (novalike)
新星様変光星(新星状変光星、新星類似型変光星、NL)は、爆発の記録がないが爆発時以外の新星・矮新星同様の変光を示す星である。
爆発期以外では、新星と矮新星に本質的な違いは無く、一括して扱われる。
アンドロメダ座Z型変光星
アンドロメダ座Z型変光星(ZAND)は、激変星爆発を起こす共生星である。共生星はミラに代表される、赤色巨星のガス殻の中に入り込んだ高温の星(多くの場合白色矮星だが、高温準矮星のこともある)がガスを加熱している近接連星系であり、爆発時以外にも不規則な光度変化を示す。赤色巨星の輻射が赤色巨星自身からのダストにより遮られ強い赤外線星となっている場合もあり、赤色巨星がミラ型或いは半規則型の脈動変光星である場合もある。ZAND型は古典新星やUG型と比較すると光度変化が穏やかである。
高輝度赤色新星
高輝度赤色新星 (LRN) は、赤く明るい、膨張がゆっくりした爆発現象である。2007年に始めて発見され、詳細なメカニズムは不明だが、赤色巨星が膨張過程で白色矮星と衝突したときに起こるとされる。
X線新星
X線新星は、矮新星と同様の変光メカニズムだが、中心星が中性子星やブラックホールであり、それに応じ電磁波のエネルギーも高くX線帯域となる。
ポーラー(強磁場激変星)
ポーラー(強磁場激変星)は、中心星が非常に強い磁場を持つ。
磁場により自転と公転が同期した、狭義のポーラーであるヘルクレス座AM型と、同期にはいたっていない、中間ポーラー(Intermediate Polar; IP)と呼ばれるヘルクレス座DQ型に分かれる。また新星として発見されたペルセウス座GK星は現在中間ポーラーとして知られている。
主な激変星
古典新星
- いて座V4743星 -- 5.0等星~16.8等星の範囲を変光する。
- ほ座V382星 -- 2.66等星~16.4等星の範囲を変光する。
- はくちょう座V1500星 -- 極大等級は1.7等、極小等級は21等以下[1]。
- いるか座HR星 -- 3.7等星~12等星の範囲を変光する[1]。
回帰新星
- かんむり座T星 -- 変光範囲:2.0等~10.8等[1]。
- へびつかい座RS星 -- 変光範囲:4.3等~12.5等[1]。
- さそり座U星 -- 変光範囲:8.7等~19.3等[1]。
- らしんばん座T星 -- 変光範囲:6.5等~15.3等, 発見者:H. Leavit (ハーヴァード・マップより1902年の増光を発見。最も古い増光記録は1890年。)[2]
矮新星
- はくちょう座SS星 -- 7.7等星~12.4等星の範囲を変光する。UGSS型に属する[3]。
- おおぐま座SU星 -- 10.8等星~14.96等星の範囲を変光する。UGSU型に属する[4]。
- や座WZ星 -- 7.0等星~15.5等星(写真等級)の範囲を変光する。UGSU型(サブクラスではWZ Sge型)に属する[3]。
- おおぐま座ER星 -- 極大等級は12.5等、極小等級は14等以下(写真等級)。UGSU型(サブクラスではER UMa型)に属する[5]。
アンドロメダ座Z型変光星
脚注・出典
外部リンク
- ↑ 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 天文観測年表編集委員会 編 『2008年 天文観測年表』 地人書館、2007年11月20日初版第1刷発行、ISBN 978-4-8052-0789-5、178頁。
- ↑ H. W. Duerbeck, 1986, Space Science Reviews, 45, 1-212, A Reference Catalogue and Atlas of Galactic Novae
- ↑ 3.0 3.1 3.2 3.3 『2008年 天文観測年表』、177頁。
- ↑ AAVSOによるSU UMaの眼視観測用星図
- ↑ AAVSOによるER UMaの眼視観測用星図