双子の赤字
双子の赤字(ふたごのあかじ、テンプレート:Lang-en-short)とは、1980年代のアメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンの政権下、アメリカ合衆国において莫大な貿易赤字(経常赤字)と財政赤字が並存していた状態を指す。1998年には財政収支が黒字となり解消されたが、ジョージ・ウォーカー・ブッシュ政権下において双子の赤字が再発している。
また、英国も双子の赤字の状態にある。米英両国とも、かつての資本輸出国であり成熟した工業国である。
背景
1980年代前半に、経済学者のポール・クルーグマンがアメリカの双子の赤字が深刻な経済危機をもたらす恐れがあると警告し、当時のアメリカの双子の赤字が維持可能であるか否かという問題提起を行い(サステナビリティ問題)、全世界に衝撃を与えた[1]。クルーグマンは、双子の赤字が維持不可能となる条件として、長期金利が名目成長率を上回る状態が続くことを主張した[1]。
この背景には、レーガン政権において高金利政策が行われたことによってドル高が進行し、輸出の減少と輸入の増大が起こったこと、また、スターウォーズ計画のような防衛政策に対する巨額の財政支出や減税政策が行われたことなどがある。こうして、海外からの輸入によって需要超過を満たすことに成功したアメリカは1970年代の高インフレから脱出することに成功した。この経常赤字により1986年、アメリカは純債務国に転換した。
そして、ジョージ・H・W・ブッシュ政権時代の1992年には、財政赤字はピークに達するとともに、経常収支は均衡に近づいた。その次のビル・クリントン政権時代には次第に財政収支が均衡に向かい、1998年から2001年にかけては財政黒字であったものの経常収支の赤字は拡大の一途をたどった。
ジョージ・W・ブッシュ政権においては、減税政策やイラク戦争の戦費、ITブームの終了などが重なったことから財政収支が赤字化し再び双子の赤字となった。その後、財政赤字と経常赤字は過去最高を記録している。また、GDPに対する経常赤字の割合も1980年代のピークを上回っている。
経済学的背景
国民経済においては、「家計」「企業」「政府」「海外」という4つの主体が存在する。 一般に、
- 国内所得:Y
- 家計消費:C
- 企業投資:I
- 政府支出:G
- 貿易収支:NX(広義には経常収支に当たる)
とした場合、
- Y=C+I+G+NX
となる。式を変形すると、
- Y-(C+G)-I=NX
となる。 これは、総貯蓄(所得Y-消費(C+G))マイナス総投資I=貿易収支NX(純輸出(輸出-輸入))ということを意味する(アブソープション・アプローチ)。他の項目が変わらずに、政府支出Gだけが増加するとNXが減少する。
つまり、政府支出を増やすと貿易収支が悪化するということを意味する。また、政府支出増加は財政収支悪化も意味する。このように財政収支悪化と貿易収支が連携しているという考えから双子の赤字という概念が生まれた。
しかし前提条件に「他の項目が変わらずに」ということがあるように、いつでも成り立つわけではない。現実には政府支出を増やすための裏づけとして増税をすれば家計や企業の可処分所得に影響をあたえ、国債により調達すれば金利の上昇の過程を経て、家計や企業の消費・投資計画に与える影響などもある(クラウディング・アウト効果)。
1990年代後半のアメリカにおいては、財政黒字と過去最高の経常赤字が同時に発生していた。背景には民間投資(I)の増加による税収と輸入の拡大があったが、その背景には国外資本によるアメリカ国内への直接投資と雇用の安定、情報通信技術の発展にみられるニューエコノミーの立ち上がりによる超大国アメリカに対する信頼感の拡大と域内信用創造の拡大など、多面的な要素を考量する必要がある。
脚注
- ↑ 1.0 1.1 安達誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 【第40回】 「経常収支赤字」は悪なのか?現代ビジネス 2014年 4月3日