超流動
超流動(英語:superfluidity)とは、極低温において液体ヘリウムの流動性が高まり、容器の壁面をつたって外へ溢れ出たり、原子一個が通れる程度の隙間に浸透したりする現象で、量子効果が巨視的に現れたものである。1937年、ヘリウム4が超流動性を示すことをピョートル・カピッツァが発見した。
ヘリウム4の場合
ヘリウム4は、零点振動の効果により低温で液化しても、絶対零度に到るまで液体のままで存在する。つまり、固体にはならない。そして、2.17K(ケルビン)で比熱の跳びがあり、二次の相転移を起こし超流動という状態となる。この転移温度のことを比熱の跳びの形からλ点という。
超流動状態では、ヘリウム4は粘性が0の状態(He II相)になっており、壁を登っていったり、原子一個が通れる隙間さえあればそこから漏れ出す。ただ、有限温度の領域では常流体(普通の液体としての性質を示す:He I相)と超流体(粘性ゼロ:He II相)が共存している(→二流体理論)。超流体の状態では、ボース粒子であるヘリウム4がボース凝縮している。
超流体部分がボース凝縮しているのではないかということは、1938年、ロンドン (F. London) によって最初に指摘された。ロンドンは、ヘリウム4原子を理想ボース気体とみなして、超流動の転移温度をボース凝縮温度とし、その理論値3.13Kを導いた。この値は実験観測値2.17Kに近い値と言える。値のずれは、超流動状態にあるヘリウム4は液体状態であり、理想ボース気体とは異なる状態であること、ヘリウム原子間の相互作用、原子同士が接近したときに働く強い斥力の影響などによる。理想ボース気体では、粒子間の相互作用を考慮していないが、その後、相互作用のある場合への理論的な拡張が行われている。ただ、理想ボース気体でのボース凝縮状態への相転移は三次の相転移であるが、ヘリウム4(ヘリウム3も同様)の超流動への転移は二次の相転移である。この部分に対する理論面からの解釈はまだ十分なされていない。
また、超流動状態では非常に高い熱の伝導性を示す。これは、熱源に対してヘリウム4のうちの超流動成分が近づくように、常流動成分が遠ざかるように運動するためである(一種の対流であると言える)。この高い熱伝導性により、超流動ヘリウムは全体が熱的に非常に均一になっている。
ヘリウム3の場合
ヘリウム3は、ヘリウム4と異なりフェルミ粒子である(1/2の核スピンを持つ)ので、1972年、オシェロフ、リチャードソン、リー等が発見するまで超流動現象は観測されなかった。
ヘリウム3での超流動へ転移する温度は、34気圧で2.6mK(ミリケルビン)、0気圧でおよそ1mKと、ヘリウム4と比べて非常に低い。これは、ヘリウム3がフェルミ粒子で、そのままでは凝縮状態とならないためである。ヘリウム3が超流動になるためには、超伝導の場合と同様に2個のヘリウム3が対(ペア:この場合もクーパーペア(クーパー対)ということがある)を成して対凝縮する必要がある。ただ超伝導の場合と異なるのは、通常のBCS理論の枠内の超伝導では、電子対がs波一重項 (L=0, S=0) なのに対し、ヘリウム3の対はp波三重項 (L=1, S=1) となっている。ヘリウム3の対を形成する駆動力(従来型の超伝導におけるフォノンに相当)は、スピンのゆらぎと思われている。
なお、ヘリウム3の超流動機構は、超伝導(BCS理論)ほどには理論面での詳細な解明がなされていない。
関連項目
参考文献
- 超流動 (新物理学シリーズ) 培風館 (1995/7) ISBN: 978-4563024284
- 岩波講座 現代の物理学 17 超伝導・超流動 岩波書店 (1993/4) ISBN: 978-4000104470
外部リンク
- 常識を覆す「超流動」ヘリウム実験の貴重なムービー(音声あり) GIGAZINE 2007年12月14日版