魔法少女

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魔法少女(まほうしょうじょ)とは、日本のサブカルチャーにおけるキャラクター類型(ストックキャラクター)の一つ。魔法などの不思議な力を使い、騒動を巻き起こしたり事件を解決したりする。魔女っ子 / 魔女っ娘(まじょっこ)ともいう。

概要

魔法少女の基本的な要素は、ヒロインが周囲の誰も持っていない力を使えることである。この力は、より上位の力の持ち主から授けられたものと、生まれつき有しているものの2つに大別できる。さらに生来の力は、最初から使いこなせている場合と、成長にしたがって発現する場合とがある[1]

なお、魔法少女が行使する力は、文字通りの意味での魔法や魔術であるとは限らない。忍術使いの『さるとびエッちゃん』やサイボーグの『ミラクル少女リミットちゃん』が他の魔法少女作品と一緒に「変身少女」というカテゴリで扱われた例があり[2]、また、超常的ではない手品使いの『怪盗セイント・テール』やコンピュータ・ネットワーク上の仮想空間で活躍する『コレクター・ユイ』を魔法少女に分類する文献もある[3]

魔法少女の年齢は多くが10歳から14歳であるが、これは第二次性徴期にあたる。魔法少女の「変身」は、子供から女性への成熟を象徴している[1]。大人になりたいというのは子供がよく抱きがちな願望であり[1]、魔法少女はしばしばヒロインが成長した姿へと変身する。そうした作品では変身した自分と本当の自分との違いに悩むという二重生活の困難さが主題であり、特に恋愛が絡むと事態はいっそう複雑になる。ヒロインが憧れる少年が、彼女の変身した姿のほうに恋したりするのである。こうした筋書は、人々の見た目に惑わされがちな傾向への批評である[4]

魔法少女は常に純真で無垢であり、純粋さを別にすれば普通の女の子である。たいていの魔法少女は力を振るうためにコンパクト、ステッキ、クリスタルといったアクセサリーを用いるが、それらの道具が実際に力の源であることは稀であり、ヒロインの純真さこそが愛と命の力を引き出す鍵である[4]

1982年の『魔法のプリンセスミンキーモモ』以来、魔法少女は不思議なペット等の「マスコット」をお供に連れるようになった。魔法少女が感情に基づいて行動するのに対し、マスコットは理性の役割をし、彼女たちをたしなめ諭そうとする。両者はしばしば喧嘩するが、魔法少女は助言から学ぶことで感情を制する術を身につけていき、マスコットの側も感情から出た行動が困難であっても正しい道に通じることを理解していく。ここで重要なのは、ほとんどのマスコットが男性であることである。魔法少女とマスコットの関係は、夫婦や親友同士のように、意思の疎通と理解こそが良好な関係を築く秘訣であることを示している[4]

また、1990年代の『美少女戦士セーラームーン』以降、「バトル」をメインとした(またはバトル要素も含む)魔法少女も確立された。

魔法の力には制限が課せられていることがある。使える期間は1年間だけ、秘密を知られてはならない、などの例がある[4]

魔法少女が特別な力を捨てて普通の女の子に戻ることを望む場合がある。これは、「普通」で「平均的」であることは決して悪いものではなく、ただ「自分であること」が何よりすばらしいことなのだ、という理想を示している[5]

魔法少女ジャンルの歴史

1960 - 1970年代

日本の魔法少女作品は、横山光輝原作で、東映動画によりアニメ化された『魔法使いサリー』(1966年)がジャンル第一作であるとされている[6]。『サリー』では、人間の世界にやってきた大魔王の娘サリーを取り巻く人間模様と、サリーの魔法による人助けが描かれる。

サリーに続いて東映動画でアニメ化された赤塚不二夫原作の『ひみつのアッコちゃん』(漫画1962年、アニメ1969年)では、鏡の精から魔法のコンパクトを授かった人間の少女・鏡アツ子(後の作品では加賀美あつ子)が登場する。ここに、『サリー』の「異世界からの訪問者」という設定に対し、『アッコ』の「魔法の力を授かった人間の少女」という設定が示され、以後の魔法少女アニメに於ける「先天型魔法少女」「後天型魔法少女」の二大主流ジャンルの原型が確立された。もっとも、同時期に流行した「変身ヒーロー」が人間から超人へ変身する以外に設定上の共通点を持たないように、東映の魔女っ子アニメは「魔女っ子=不思議な力を持つ少女」つまり「魔法少女の類型」を踏襲した少女が活躍するエブリデイ・マジック作品であった事実は後々まで様々な派生作品(戦闘美少女系を含む)を生み出す源になる。

また、『魔法使いサリー』のすぐ後にこちらはアメリカ映画『メリー・ポピンズ』の影響で同じ横山光輝原作(原画)の『コメットさん』(1967年)が実写メディアで製作されている。この時期、児童向けの映像作品はアニメーションと実写の児童向けドラマも同様に展開されており、NETでは1969年に『ひみつのアッコちゃん』と平行して土曜には『魔女シリーズ』として魔法少女アニメの祖となったドラマ『奥さまは魔女』を放送し、同放送枠で海外魔法ドラマ『かわいい魔女ジニー』【第2シリーズ】や松竹製作の『魔女はホットなお年頃』(1970年)と二年にわたって魔法物のドラマを放送した。この枠は『仮面ライダー』にとってかわられるが、その影響を受ける形で『仮面ライダー』の作者の石ノ森章太郎原作の『好き! すき!! 魔女先生』(1971年)において、アニメに20年先駆けて美少女戦士(アンドロ仮面)が登場している。

アニメのジャンルでは『アッコ』の後も東映製作によりシリーズを重ね、当時の少女漫画の影響を受ける形で登場した、1974年の『魔女っ子メグちゃん』の主人公として登場したお転婆でコケティッシュなメグのキャラクターは、『サリー』の優等生的な魔法少女像を払拭し、これ以降の魔法少女物では、やんちゃな主人公が幅を利かせることになる。また、クールなライバルヒロインのノンや、滑稽な調査官チョーサン、闇の女王サターンは、後の魔法少女作品のサブキャラクター像に大きな影響を与えている。

1980年代

1980年代に入ると東映製作の作品は一時中断し、葦プロダクション制作の『魔法のプリンセスミンキーモモ』(1982年)と、スタジオぴえろ制作の『魔法の天使クリィミーマミ』(1983年)から始まるぴえろ魔法少女シリーズが、第二期魔法少女ブームを引き起こす。『モモ』では、夢と魔法の国フェナリナーサのプリンセスである少女モモの人間界での活躍が、『マミ』では、魔法のステッキでアイドルに変身する人間の少女森沢優を取り巻く事件が、それぞれコミカルなタッチで描かれる。この両作品は本来の視聴対象である低年齢の女児のみにとどまらず、十代後半から二十代に至る男性層の間でも人気を博し、「魔法少女」ジャンルのファン対象を大きく広げる事になった。その背景要因として、社会的なアイドルブームがある。

1980年代末から1990年代初めにかけては、過去の人気作品のリメイクが行われた。当時はアニメ冬の時代でリバイバルブームでもあり『ひみつのアッコちゃん』(第2作、1988年)が、第1作を凌ぐほどの人気は得られなかったと評される一方で、マーチャンダイジングが成功し、バンダイによる女児玩具の強化が行われ、続いて『魔法使いサリー』(第2作、1989年)が製作され、その一環で実写の『東映不思議コメディーシリーズ』で石ノ森章太郎原作の『魔法少女ちゅうかなぱいぱい!』(1989年)が製作され、以後、同シリーズで1990年代初頭まで同ジャンルの作品群が製作された[7]

1990年代

武内直子原作の『美少女戦士セーラームーン』(1992年1997年)の成功は、アニメ版『赤ずきんチャチャ』(1994年)、『魔法騎士レイアース』(1994年)、『愛天使伝説ウェディングピーチ』(1995年)、『ナースエンジェルりりかSOS』(1995年)等の作品を生み出し、戦闘美少女(バトルヒロイン)系魔法少女作品は魔法少女の一ジャンルとなった。「バトル」「戦隊モノ(複数のメインヒロイン)」「恋愛」などの要素は後の作品に影響を与えている。

1995年には、OVAシリーズ『天地無用!』のスピンオフ作品『魔法少女プリティサミー』が制作された。本作は視聴対象を明確に女児以外の層に想定して制作され、同種の高年齢視聴者向け魔法少女アニメの先駆けとなった。

1990年代後半から2000年代序盤にかけてCLAMP原作で設定やビジュアルが従来の作品の型にはまらない『カードキャプターさくら』が制作された。バラバラになった魔法のカードを集めるという展開や魔法を使う少年のライバルが出現するなどのそれまでの魔法少女作品になかった要素がある。街で起こる事件をカードの魔法で解決するという従来の魔法少女やバトルヒロイン的な要素も持ち合わせた作品であった。

2000年以降

1999年には『おジャ魔女どれみ』シリーズ(1999年2002年)が制作される。主人公による人助けという点で『サリー』に代表される古典的魔法少女の流れと複数の主人公格のキャラクターの登場および魔法を行使するために変身(魔女見習い服へのお着替え)を要するという点で『美少女戦士セーラームーン』に代表される戦闘美少女の流れを、それぞれ継承している。

安野モヨコが王道的な魔法少女を意識した『シュガシュガルーン』(2003年)を執筆、この形態を扱った少女漫画としては久しぶりの作品となり、2005年にはアニメ化された。

なお、『東京ミュウミュウ』(2002年2003年)、『マーメイドメロディー ぴちぴちピッチ』(2003年2004年)、『プリキュアシリーズ』(2004年〜)等の1990年代の戦闘美少女系魔法少女の流れを受け継いだ作品も多数制作されている。『マーメイドメロディー ぴちぴちピッチ』は歌と人魚をテーマとして取り入れ、歌を使った戦闘をメインとした。『プリキュアシリーズ』は男児向けヒーロー物のような肉弾戦の描写に力を入れた「魔法少女格闘物」を標榜し、ロングランヒットとなっている。

魔法少女隊アルス』(2004年)、『ふしぎ星の☆ふたご姫』(2005年)などの魔法界型アニメも作られている。また、ゲーム原作の『オシャレ魔女 ラブandベリー』(ゲーム2004年、アニメ2007年)が大ヒットした。

魔法少女ものの本流ではないが、この時期には魔法少女のフォーマットを利用した男性向けアニメが次々と現れた。毒のある描写を盛り込んだ2001年の『ぷにぷに☆ぽえみぃ』、2002年の『ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて』をはじめとする邪道魔法少女三部作、軍事・政治・英語卑語などの際どいギャグを盛り込んだヒライユキオの『魔法の海兵隊員ぴくせる☆まりたん』(2005年)や、アニメより規制の緩い小説という媒体を利用したミステリ要素のある『新本格魔法少女りすか』(2004年)、少年漫画的な要素を強く出した『魔法少女リリカルなのはシリーズ』(2004年〜)、自動車産業であるスバルのプロモーションのために製作された『放課後のプレアデス』(2011年)、魔法少女をモチーフとしたダーク・ファンタジー魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)などである。特に『魔法少女まどか☆マギカ』は社会現象とまでされる大きな盛り上がりを見せた[8]。 また、近年においては男性の主人公が何らかの理由により能力を発動する際、魔法少女の力をふるうのにふさわしい少女の体へと性転換させられる作品や、『魔法少女プリティ☆ベル』や『魔法☆中年おじまじょ5』などといった、ボディビルダーやサラリーマンといった中年の男性が肉体的にはそのままに魔法少女の衣装をまとって戦うという、ある種のミスマッチを売りにした「キワモノ系」というべき作品も登場している。その他、『魔法少女・オブ・ジ・エンド‎』は魔法少女という存在をゾンビ映画のゾンビのような「日常を破壊し仲間を増やしながら殺戮を繰り返す、人間に対する脅威」として描いたパニックホラー的な作品である。

日本以外

アニメの魔法少女物は吹き替えや字幕付で輸出され、世界各地で放送されているものの、魔女という設定を比較的正確に伝えるもの(他にアメリカで同ジャンルとされているドラマ『かわいい魔女ジニー』も存在するが彼女はジンであり、日本では『ハクション大魔王』が該当する、この点からも日本と異質である)に対して日本の作品は(日本で)馴染みのない魔女設定を極めて曖昧且つファンタジー寄りに処理した事で独自のジャンルとして形成されている。アメリカのアニメシリーズ『パワーパフガールズ』(1998年)は、日本の魔法少女ジャンル、特に『セーラームーン』に影響を受けた作品であることは製作者クレイグ・マクラッケンが認めているテンプレート:要出典(ただし、この作品自体は魔法少女作品ではなく、スーパーヒーロー作品として受け止められている)。この作品では、ユートニウム博士の実験から生まれた怪力と超能力を持つ三人の幼稚園児の少女が登場する。

欧米では、『セーラームーン』に代表される美少女戦士系ジャンルが魔法少女物の典型・事実標準であると受け止められており、magical girl (mahō shōjo) を主にこのジャンルを指すのに使うアニメファンも少なくない。

特に北米では、2006年の時点で、東映・葦プロ・ぴえろなどの戦闘要素が皆無ないしメインでは無い魔法少女アニメというものがほとんどまったく公開されておらず、これら本来の魔法少女については存在自体があまり知られていないため、上記のような(日本から見れば)ややずれた理解もやむを得ない。北米向きにローカライズされた『おジャ魔女どれみ』が4Kids TVで放映された例を除けば『魔法のステージファンシーララ』などごくわずかの比較的マイナーな作品が、例外的に深夜に有料テレビで放送されたりDVD発売[9]されたものの、歴史的にも重要な『魔法のプリンセスミンキーモモ』(空モモ・海モモ)さえ正式に紹介されるには至っていないし、上記のDVDも商業的には成功しなかった[10]。厳密に言うと『ミンキーモモ』のうち、OVA『夢の中の輪舞』は子供向けVHSとして吹き替え版が北米でも発売されたようであるが、一般の認知は著しく低い[11]

他方、イタリアなどヨーロッパの一部では、葦プロ・ぴえろなどに代表される非戦闘系の魔法少女物が、多少の改変はあったものの、代表的なものはすべて吹き替え放映されている。そのため、これらの国のアニメファンは本来の魔法少女をよく知っていて作品の愛好者も多く、mahō shōjo ないし majokko という語を日本語とほぼ同じ意味で使う。

魔法少女ジャンルの影響を受けた海外作品としては、イタリアのアニメーション製作会社 Rainbow S.r.l. による『Winx Club』(日本未放映)や、フランスでアニメ化されたイタリアのエリサベッタ・ニョネの漫画『ウィッチ -W.I.T.C.H.-』(日本では飯田晴子が漫画化)が挙げられる。これらの作品では、魔法の力を授かったティーンエイジャーの少女たちと悪の勢力との戦いが描かれる。

2000年代には、アメリカ合衆国で1962年からアーチー・コミックスにより出版され、1970年にアニメ化され、日本では1971年に『かわいい魔女サブリナ』のタイトルで放送された、魔法使いと人間のハーフの少女サブリナの生活を描いたアメリカン・コミックスSabrina, the Teenage Witch』シリーズが、メキシコ系アメリカ人の漫画家タニア・デル・リオにより、日本の漫画風のスタイルでリメイクされた。

中国では2008年に『巴拉拉小魔仙』が特撮テレビドラマとして放映され[12]、2011年には続編である『巴拉拉小魔仙2彩虹心石』がテレビアニメとして放送された[13]。2013年には初の劇場版が公開される予定。

脚注

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参考文献

関連項目

  • 1.0 1.1 1.2 『The Sailor Moon Role-Playing Game and Resource Book』p.10
  • gooランキング 思い出に残る女の子の変身少女キャラクターランキング
  • 『The Sailor Moon Role-Playing Game and Resource Book』p.8
  • 4.0 4.1 4.2 4.3 『The Sailor Moon Role-Playing Game and Resource Book』p.11
  • 『The Sailor Moon Role-Playing Game and Resource Book』p.12
  • キネマ旬報別冊『動画王 vol.02 スーパー魔女っ子大戦』 p25
  • 『ハイパーホビー』2010年12月号「石ノ森ヒーローの系譜【前編】」徳間書店
  • 週刊プレイボーイ 集英社 2011年5月30日号
  • Fancy Lala - Complete Collection (DVD 1-6 of 6) - Anime News Network
  • Bandai Discontinues Collections - Anime News Network
  • Amazon.com: Magical Princess Gigi Hiroshi Watanabe (II): Video
  • 巴啦啦小魔仙
  • 巴拉拉小魔仙彩虹心石