大統領 (大韓民国)
大統領(だいとうりょう、テトンニョン)は、韓国の国家元首である。韓国の政治体制は国民の直接投票で選ばれる大統領の権限が非常に強力な大統領制である。
概要
現在の大韓民国憲法(第六共和国憲法、1987年採択)の規定では、大統領は国家元首(第66条1項)かつ韓国三軍(陸・海・空軍)の統帥権保有者(第74条1項)であり、行政権を有する政府首班という地位にある(第66条4項)。また、大統領には非常措置権が与えられているが、その発動には制約が加えられている。また、大統領に国会の解散権は無く、公民権の停止もできないよう定められている。
国会が大統領の弾劾訴追を発議するには国会議員の過半数の賛成が必要。弾劾訴追が発議されると24時間以降72時間以内に無記名投票を行わなければならず、これを過ぎると発議は無効となる。投票の結果、国会議員の3分の2以上の賛成があれば弾劾が可決され、大統領の職務は停止され、国務総理(首相)が代行を行う。この後、180日以内に憲法裁判所にて弾劾審判がなされ、裁判官の3分の2以上の支持があれば弾劾が成立する。
なお、大統領は在任中は内乱又は外患の罪を犯した場合を除いて刑事上の訴追を受けない。しかし、過去の大韓民国の大統領は、在任中に暗殺されたり、退任後に自身や身内が刑事捜査によって逮捕・起訴されて有罪判決を受けたり自殺したり、あるいは糾弾を受けて亡命を余儀なくされるなどして、不幸な末路を迎えている例が多い[1]。
大統領の選出と任期
韓国の大統領選挙には、国会議員の被選挙権があり、選挙日の時点で満40歳に達している者が立候補することができ、国民の普通・平等・直接及び秘密の選挙によって選出される。投票の結果、最高得票者が2人以上いる場合は、国会の在籍議員の過半数が出席した公開の会議において多数票を得た者が当選者となる。また、大統領候補者が1人しかいない場合は、その得票数が選挙権者総数の3分の1以上でなければ、大統領として当選することは出来ない。
選挙は、前大統領の任期満了の70日前から40日前までの間に実施されるほか、大統領が欠位となったとき又は大統領当選者が死亡もしくは判決その他の事由によりその資格を喪失したときは、60日以内に後任の大統領を選挙しなければならない。
大統領の任期は5年で、重任(再選)は出来ない(第70条)。仮に、憲法改正により任期延長や重任解禁がなされたとしても、改憲提案時の現職大統領には適用されない(第128条第2項)。重任禁止規定は、長期独裁を許した李承晩時代の第一共和国憲法(1948年採択)、朴正煕政権時代の第四共和国憲法(1972年採択)への反省から、全斗煥政権時の第五共和国憲法(1980年採択)で導入された。これを受け継いだ第六共和国憲法により、盧泰愚以降の歴代大統領はいずれも1期限りで退任している。
大統領の権限および義務
主な権限
- 国の元首として、外国に対して国家を代表する
- 条約を締結・批准し、外交使節を信任・接受し、又は派遣し、宣戦布告及び講和を行う
- 憲法及び法律が定めるところにより、国軍を統帥する
- 大統領令の発令
- 戒厳令の宣布
- 国会の同意に基づき、国務総理を任命する
宣誓と義務
大統領は、就任に際して「私は、憲法を遵守し、国家を保衛し、祖国の平和的統一並びに国民の自由及び福利の増進並びに民族文化の暢達に努力し、大統領としての職責を誠実に遂行することを国民の前に厳粛に宣誓します」と宣誓をし、在任中は以下のような義務を負う。
- 国の独立、領土の保全、国の継続性及び憲法を守護する責務
- 祖国の平和的統一のために誠実に努力する義務
- 兼職の禁止
韓国大統領一覧
以下表中、代 は歴代大統領、人 は何人目の大統領。
代 | 人 | 大統領の氏名 | 党派 | 在任期間 | 備考 | 政体 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | 李承晩 イ・スンマン 이승만 |
李承晩 | 韓国民主党 ↓ 自由党 |
1948年7月20日 - 1952年8月15日 |
国会議員による間接選挙にて選出 大統領選挙に直接選挙制を導入 |
第 一 共 和 国 | |
2 | 1952年8月15日 - 1956年8月15日 |
憲法改正により三選禁止を撤廃 (四捨五入改憲) | ||||||
3 | 1956年8月15日 - 1960年4月26日 |
再選の為に大規模な不正選挙を強行。4・19革命で失脚し、亡命。 | ||||||
- | - | 4・19革命の後、許政(허정)が大統領権限を臨時代行(1960年4月27日 - 1960年8月12日) | 第 二 共 和 国 | |||||
4 | 2 | 尹潽善 ユン・ボソン 윤보선 |
尹潽善 | 韓国民主党 ↓ 新民党 |
1960年8月13日 - 1961年5月19日 |
国会議員による間接選挙によって選出。憲法改正により議院内閣制に移行した為、政治的な実権は国務総理の張勉が握っていた。 | ||
1961年5月19日 - 1962年3月22日 |
5・16軍事クーデターで国家再建最高会議が政権掌握。憲法停止。 | 軍 政 | ||||||
- | - | 朴正煕国家再建最高会議議長による軍政(1962年3月22日 - 1963年12月16日) | ||||||
5 | 3 | 朴正煕 パク・チョンヒ 박정희 |
100px | 民主共和党 | 1963年12月17日 - 1967年7月1日 |
新憲法の下で民政に復帰 直接選挙により選出 |
第 三 共 和 国 | |
6 | 1967年7月1日 - 1971年7月1日 |
直接選挙により選出 | ||||||
7 | 1971年7月1日 - 1972年12月26日 |
1972年10月17日に非常戒厳令 (十月維新) | ||||||
8 | 1972年12月27日 - 1978年12月26日 |
「維新体制」を標榜し独裁を強化 統一主体国民会議による間接選挙 |
維 新 体 制 |
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9 | 1978年12月27日 - 1979年10月26日 |
統一主体国民会議による間接選挙 在任中に暗殺(朴正煕暗殺事件) | ||||||
- | - | 崔圭夏国務総理が大統領権限を臨時代行(1979年10月26日 - 1979年12月7日) | 第 四 共 和 国 | |||||
10 | 4 | 崔圭夏 チェ・ギュハ 최규하 |
崔圭夏 | 無所属 | 1979年12月8日 - 1980年8月16日 |
粛軍クーデターで軍内部の実権を奪取した全斗煥・盧泰愚らによる5・17クーデターによって、軍部に政権を掌握され、辞任。 | ||
- | - | 朴忠勳が大統領権限を臨時代行(1980年8月16日 - 1980年9月1日) | 軍 政 |
|||||
11 | 5 | 全斗煥 チョン・ドゥファン 전두환 |
全斗煥 | 民主正義党 | 1980年9月1日 - 1981年3月2日 |
統一主体国民会議による間接選挙 第五共和国憲法制定 | ||
12 | 1981年3月3日 - 1988年2月24日 |
大統領選挙人団による間接選挙にて選出。第六共和国憲法制定。粛軍クーデターや光州事件等により、退任後に死刑判決(高裁で無期懲役に減刑され、後に特赦)。 | 第 五 共 和 国 | |||||
13 | 6 | 盧泰愚 ノ・テウ 노태우 |
盧泰愚 | 民主正義党 ↓ 民主自由党 |
1988年2月25日 - 1993年2月24日 |
直接選挙により選出。 粛軍クーデター・光州事件及び大統領在任中の不正蓄財により、退任後に軍刑法違反で懲役刑(後に特赦)。 |
第 六 共 和 国 | |
14 | 7 | 金泳三 キム・ヨンサム 김영삼 |
金泳三 | 新韓国党 | 1993年2月25日 - 1998年2月24日 |
直接選挙により選出 | ||
15 | 8 | 金大中 キム・デジュン 김대중 |
金大中 | 新政治国民会議 ↓ 新千年民主党 |
1998年2月25日 - 2003年2月24日 |
直接選挙により選出。 太陽政策を推し進め、2000年6月に北朝鮮の金正日との南北首脳会談を実現。在任中にノーベル平和賞を受賞。 | ||
16 | 9 | 盧武鉉 ノ・ムヒョン 노무현 |
盧武鉉 | 新千年民主党 ↓ 開かれたウリ党 |
2003年2月25日 - 2004年3月12日 |
直接選挙により選出。 国会の弾劾訴追により大統領権限停止。 | ||
権限停止期間 (3月12日~5月14日) |
高建国務総理が大統領権限を臨時代行。 | |||||||
2004年5月14日 - 2008年2月24日 |
弾劾訴追の棄却により、職務に復帰。在任中の収賄疑惑により退任後に捜査を受け、自殺(公式発表による)。 | |||||||
17 | 10 | 李明博 イ・ミョンバク 이명박 |
李明博 | ハンナラ党 | 2008年2月25日 - 2013年2月24日 |
直接選挙により選出 | ||
18 | 11 | 朴槿恵 パク・クネ 박근혜 |
朴槿恵 | セヌリ党 | 2013年2月25日 - |
直接選挙により選出 初の女性大統領および親子2代での大統領。 |
副大統領
第一共和国時代には、副統領(ふくとうりょう、부통령、プトンニョン)と呼ばれる副大統領職が設置されていた。当初は国会議員の無記名投票によって選出されていたが、第1次憲法改正(1952年7月7日)によって国民の普通・平等・直接・秘密選挙による選出となった。しかし、四月革命後の第3次憲法改正(第二共和国体制の発足)によって、副統領職は廃止された(韓国憲法の改正については、大韓民国憲法#沿革参照)。
代 | 副統領の氏名 | 在任期間 | 党派 | 備考 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
漢字 | カタカナ | ハングル | 就任年月日 | 退任年月日 | |||
1 | 李始栄 | イ・シヨン | 이시영 | 1948年7月24日 | 1951年5月9日 | 韓国民主党 | 国会議員による間接選挙。国民防衛軍事件発生により辞任。 |
2 | 金性洙 | キム・ソンス | 김성수 | 1951年5月17日 | 1952年5月29日 | 韓国民主党 | 釜山政治波動の政府対応に抗議しての辞任。 |
3 | 咸台永 | ハム・テヨン | 함태영 | 1952年8月15日 | 1956年8月14日 | 無所属 | 直接選挙で選出 |
4 | 張勉 | チャン・ミョン | 장면 | 1956年8月15日 | 1960年4月23日 | 民主党 |
関連項目
- 大韓民国
- 青瓦台(韓国大統領官邸)
- 青南台(かつての韓国大統領専用別荘、2003年に廃止)
- 大韓民国国務総理(韓国の首相)
- 韓国の政党一覧
- 池東旭 『韓国大統領列伝 権力者の栄華と転落』(中公新書 2002年)※金大中まで扱う。
脚注
外部リンク
テンプレート:韓国大統領de:Präsident der Republik Korea fr:Liste des présidents de la Corée du Sud id:Daftar Presiden Korea Selatan nl:Lijst van presidenten van de Republiek Korea no:Liste over sørkoreanske presidenter pt:Anexo:Lista de presidentes da Coreia do Sul
sk:Zoznam prezidentov Kórejskej republiky- ↑ 辺真一「大統領を殺す国 韓国」(角川oneテーマ21)