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[[ファイル:Light dispersion conceptual.gif|thumb|300px|プリズムによる光線の波長分割]] '''分光法'''(ぶんこうほう、spectroscopy)とは、物理的観測量の強度を[[周波数]]、[[エネルギー]]、[[時間]]などの関数として示すことで、対象物の[[定性]]・[[定量]]あるいは[[物性]]を調べる科学的手法である。 spectroscopy の語は、元々は[[光]]を[[プリズム]]あるいは[[回折格子]]でその[[波長]]に応じて展開したものを[[スペクトル]] (spectrum) と呼んだことに由来する。[[18世紀]]から[[19世紀]]の[[物理学]]において、スペクトルを研究する分野として[[分光学]]が確立し、その原理に基づく測定法も'''分光法''' (spectroscopy) と呼ばれた。 もともとは、[[可視光]]の放出あるいは吸収を研究する分野であったが、光(可視光)が[[電磁波]]の一種であることが判明した19世紀以降は、ラジオ波から[[ガンマ線]]まで、広く電磁波の放出あるいは吸収を測定する方法を分光法と呼ぶようになった。また、光の発生または吸収スペクトルは、物質固有のパターンと[[物質量]]に比例したピーク強度を示すために物質の定性あるいは定量に、[[分析化学]]から[[天文学]]まで広く応用され利用されている。 また光子の吸収または放出は[[量子力学]]に基づいて発現し、スペクトルは離散的なエネルギー状態([[エネルギー準位]])と対応することが広く知られるようになった。そうすると、本来の意味の「スペクトル」とは全く異なる、「質量スペクトル」や「音響スペクトル」など離散的なエネルギー状態を表現した測定チャートも'''スペクトル'''とよばれるようになった。また「質量スペクトル」などは物質の定性に使われることから、今日では広義の'''分光法'''は「スペクトル」を使用して物性を測定あるいは物質を同定・定量する技法一般の総称となっている。 == 測定装置 == [[ファイル:Czerny-turner monochromator.png|thumb|right|300px|分光光度計の構造。曲面鏡Cによって[[回折格子]]Dに光を照射し、曲面鏡EとスリットFによって目的波長の光を取り出す]] [[ファイル:Spiritusflamme_mit_spektrum.png|thumb|300px|アルコール炎と、そのスペクトル<!-- Spiritusflamme と書いてあったけど、「アルコール」もしくは「エタノール」でいいんだろうか -->]] 分光法の測定装置は、大別すると[[光源]]、試料、[[分光器]]、[[検出器]]から構成される。天文学などの場合は光源と試料とは装置内に内蔵し得ないが、理化学的な分光測定装置はこの四者から構成される。 光源は電磁波の[[波長]]により様々な物理現象と装置が利用される。[[NMR]]等のラジオ波はループコイルから、赤外・可視・紫外光は[[キセノンランプ]]や[[ハロゲンランプ]]、重水素ランプなどから、X線は熱タングステンターゲットや[[シンクロトロン]][[放射光]]装置から発生させる。 試料は一般に分光光学セルまたは[[キュベット]]と呼ばれる試料容器に格納して観測される。 セルは観測する波長の電磁波を吸収や干渉しない材質である必要があるが、すべての波長に透明な素材は存在しない為、分光装置の波長に応じて種々の材質で作成される。例えば、γ線や硬 X線ではベリリウムの薄板が利用され、紫外線では[[石英]]セル、赤外線では KBr セルや NaCl セルが利用される。 分光部と検出部の構造は、分光対象とする波長によって大きく異なる。 波長が長い[[電波]]などでは、まず強度の時間変化を測定してから[[フーリエ変換]]することで周波数ごとのスペクトルを得る。検出器は[[受信機]]とも呼ばれ、[[アンテナ]]や[[電気回路]]から構成される。 波長の短い光などでは、あらかじめ[[回折格子]]や[[プリズム]]、[[スリット]]で波長を選別してから検出器に導き、エネルギー量を検出する。この波長選別・エネルギー測定を繰り返すことでスペクトルが得られる。近年では、回折格子などで空間的に分光した光を、複数の[[素子]]を並べた形状のダイオードアレイと呼ばれる検出器に一度に導入することで、同時に複数の波長を測定することも可能になっている。検出には測定する波長に適した[[バンドギャップ]]を持つ[[半導体]]が用いられる。X線の場合、[[比例計数管]]や[[CCDイメージセンサ|CCDカメラ]]、[[光電子増倍管]]などが利用される。 電子分光や質量分析では、[[光学素子]]の代わりに[[電磁場]]を用いてエネルギー別に分離する。検出器は高電圧を印加した[[電極]]が利用され、荷電粒子が到達すると[[電流]]が生じることを利用して検出する。 == 種類 == 最も一般的な分光法は電磁波を測定する方法であるが、用いる電磁波の波長領域によって、観測できる現象や用いる実験装置が大きく変わるため、検出される電磁波の[[波長]]領域による分類がしばしば行われる。また、測定される物理量([[吸光|吸収]]、[[発光]]、光[[散乱]]など)、分光法の原理、分光する目的などによって細かく分類されている。例えば分子では、可視・紫外光では電子状態が、赤外光では振動状態が、マイクロ波では回転状態を観測することができ、それぞれ、可視・紫外光分光、赤外光分光、マイクロ波分光とよばれている。この場合のように、波長領域だけを指定して○○分光(例えば赤外分光)という場合には、その波長領域での吸収分光を指すことが多い。前述したように、今日では広義の分光法は「スペクトル」を使用して物性を測定あるいは物質を同定・定量する技法一般の総称となっている。したがって、[[光電子分光]]や[[質量分析]]のように、[[電子]]や[[イオン]]、[[中性子]]など粒子の[[運動エネルギー]]を測定する方法も、広い意味での分光法に分類されている。 [[化学反応]]などの分析では、測定する[[物理量]]が時間に対してどのように変化するかを測定する時間分解分光が行われる。通常の化学反応の場合、[[ストップドフロー法]]などを用いて急速に試薬を混合し、スペクトルの時間発展を観測して[[反応中間体]]や[[反応速度]]を求める。光化学反応の場合、[[超短パルス]][[レーザー]]を使用し、過渡スペクトルを測定することで、[[フェムト秒]]レベルの極めて速い反応であっても進行する様子が観察できる。 [[細胞]]内での物質分布や、材料の元素分布など、2次元または3次元的に分光する手法は、空間分解分光と呼ばれていて、分光法と[[顕微鏡]]を組み合わせることで測定が行われる。 以下に、一般的な分光法を示す。 === 吸収分光 === [[吸光|吸収]]分光は、試料に光を照射して透過光(場合によっては反射光)の強度を測定し、吸収の程度を照射した光子のエネルギー(光の波長)の関数として表す。もっとも広く行われている分光法である。照射する光としては、赤外線、可視、紫外線が多く用いられているが、X線を用いた吸収分光法([[X線吸収分光法]]、[[エックス線吸収微細構造]]など)も存在する。 === 発光分光 === [[発光]]分光は、何らかの方法(光照射、電気、化学反応など)で試料から光を放出させ、その光の強さを光子のエネルギーの関数として表す。熱による発光現象が[[炎色反応]]である。 分子を扱う場合には、[[蛍光]]と[[燐光]]とに区別することが多い。光照射によって発光させる場合には、発光の強さを照射する光の光子エネルギーの関数として求めることもある(このスペクトルを励起スペクトルという)。 X線の発光を利用した分析法として、[[蛍光X線]]元素分析法(XRF; X-ray Fluorescence Analysis)や[[X線発光分光法]](XES; X-ray Emission Spectrosopy)などがある。 === 可視・紫外分光 === 詳しくは「[[紫外・可視・近赤外分光法]]」を参照 === 赤外分光 === 詳しくは「[[赤外分光法]]」を参照 === 核磁気共鳴分光法 === 詳しくは「[[核磁気共鳴分光法]]」を参照 === 光散乱分光 === [[光散乱]]分光は、試料に照射する光子のエネルギーから一定のエネルギーだけシフトした光(散乱光)の強度を、エネルギーシフトの関数として表す。[[ラマン効果]]を利用したラマン散乱分光法や[[ブリルアン散乱]]分光法がこれに当たる。また、光子のエネルギーが変化するのではなく、(例えば液体中の微粒子によって)光が別の方向に出ていく現象も散乱であり、これを利用して微粒子の粒径分布を測定する技術もある(動的光散乱法)。X線を用いた光散乱として[[X線小角散乱]]法がある。 === 光電子分光 === 物質に光を照射することによって、[[光電効果]]によって放出される電子(光電子とよばれる)のエネルギーを測定し、[[電子状態]]を調べる方法である。照射する光に[[X線]]を用いるものは[[X線光電子分光]] (XPS) 、[[紫外線]]を用いるものは紫外光電子分光(UPS) と呼ばれている(詳しくは[[光電子分光]]を参照)。また、光電子が放出された後に生じる2次電子を分析する方法として、[[オージェ電子分光]]がある。 === 光音響分光 === [[光音響分光]]法などの光熱分光法では、試料に光を照射したときに試料がそのエネルギーを吸収し[[励起状態]]になりそこから光を放出せずに緩和して[[熱]]を発生することによって起こる物理現象を測定する。測定される物理現象としては、光を断続的に照射したときに生じる[[振動]]や、試料の熱[[膨張]]などによって生じる[[屈折率]]変化などがある。吸収を測定する手法の一種と見なすこともできる。 ===音響光学分光=== 音響光学型分光計(Acousto-Optical Spectrometer: AOS)は[[ミリ波]]や[[サブミリ波]]の分光技術として最近まで用いられていた。[[電磁波]]の中でも主に1GHz程度までの[[電波]]又は、[[スーパーヘテロダイン]]によって1GHz程度の帯域までダウンコンバートした電波を入力とし、同軸線路上に乗せた[[電気信号]]を音響光学偏向素子に[[印加]]する。音響光学偏向素子は[[圧電素子]]と、振動を伝達する透明な結晶によって構成されている。素子の入力部には、圧電素子が設置されており、 [[圧電効果]]によって電気信号を機械振動に変換する。このとき、機械振動の振動数は[[音波]]~[[超音波]]帯域になる。生じた音波は、媒質中([[ニオブ酸リチウム]]、[[二酸化テルル]]などの結晶を用いる)を疎密波として進み、片端で吸収させる。この粗密波に直行するように[[レーザー]]光を入力すると、粗密波は[[回折格子]]として機能し、回折縞を生じる。これをリニア[[CCD]]などによって計測することによって、フーリエ分光することができる。近年、[[FPGA]]や[[AD変換器]]の高速化により[[サンプリング]]周波数が数GHz~数10GHzまでの[[フーリエ変換]]が[[電子回路]]上で実行可能になってきたため、[[ミリ波]]や[[サブミリ波]]の分光技術としては、音響光学型分光計はあまり用いられなくなってきている。 == 関連項目 == * [[分光測色法]] {{DEFAULTSORT:ふんこうほう}} [[Category:分光学|*]] [[Category:化学]] [[Category:光学]] [[Category:分析化学]]
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