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'''伝達性海綿状脳症'''(でんたつせいかいめんじょうのうしょう、Transmissible spongiform encephalopathy、略称TSE)または'''伝播性海綿状脳症'''(でんぱせい—)はプリオン病の別名。'''プリオン病'''(プリオンびょう)は異常[[プリオン]]蛋白の増加による[[中枢神経]][[疾患]]の総称である。[[代表]]的な[[疾患]]にヒトの[[クロイツフェルト・ヤコブ病|ヤコブ病]]、[[ヒツジ|羊]]の[[スクレイピー]]、ウシの[[牛海綿状脳症]]などがある。 この疾患の脳組織には海綿状態が共通の特徴として見られる。[[光学顕微鏡]]で多数の泡の集まりのように見えるので海綿状の名がある。 1980年頃から定着した疾患概念。1950-1970年代は、遅発ウイルス感染症と呼ばれていた。しかしながら、病理組織に感染徴候、炎症所見がないのが特徴と認められていた。また、ウイルス感染の封入体のように、電子顕微鏡でウイルスは検出されない。(ウイルス発見の報告もあるが、再現性が無いとするのが一般的である。) 海綿状態は、先天性代謝異常症のグルタール酸血症(1型)でも高度である。また、栄養失調、その他の[[疾患]]でも起こりうる状態なので、伝達性海綿状脳症に限るものではない。しかし、この特徴がその後の、一連の伝達実験の成功、原因解明を導くきっかけとなった。 == 解明 == 異なる症状・疾患が実は同じ原因で、それは異常蛋白が原因だった。このプロセスの解明の過程は、『死の病原体プリオン』(リチャード・ローズ著、草思社、1998年、ISBN 4478960712)に詳しい。 1959年、W.J.Hadlowが[[スクレイピー]]と[[クールー]]が海綿状態において類似することを発表し、1966年、Gajdusekがクールーをチンパンジーに伝達することに成功した。同じ頃、神経難病を高等哺乳類に伝達する実験が行われていたが、いずれも不成功の中、海綿状態を共通項として、[[クロイツフェルト・ヤコブ病]]、家族性の[[ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群]]、(最近では[[牛海綿状脳症]])などの伝達が証明された。 [[スクレイピー]]は18世紀から知られる[[ヒツジ|羊]]の[[神経]][[疾患]]で、J.Cuilleが1936年に[[脳]]の乳化物を動物に接種して、[[疾患]]が伝達されることを確認した。その後、病原体が濾過性であることから、1954年にシガードソン(Bjoern Sigurdson)が[[遅発性ウイルス]]を提唱した。1959年にWilliam Hadlowが[[スクレイピー]]と[[クールー]](Kuru)の海綿状態が似ていることに気づき論文を発表。これを受け、[[ダニエル・カールトン・ガイジュセック|ガイジュセック]]([[:en:Daniel_Carleton_Gajdusek|Daniel_Carleton_Gajdusek]])が1966年にチンパンジーへの伝達実験に成功し、遅発性ウイルス説を主張した。また、1959年に、Igor KlatzoがCJD([[クロイツフェルト・ヤコブ病|ヤコブ病]])の一部の病型ではKURU同様の海綿状態を示すことを指摘し、Gibbsが1968年にCJDの伝達実験に成功した。 このころから、[[ウイルス]]説が全盛となったが、1974年、日本では生田が脂質代謝異常説をとるなど、疑問を呈する研究者もあった。電子顕微鏡で[[ウイルス]]を見出したとする報告もあったが、再現性のある報告は続かず、通常の[[ウイルス]]としては異例の性質が注目されるようになった。 [[スタンリー・B・プルシナー]] は[[スクレイピー]]の脳標本から原因物質単離を試みた。遠心分離やその他の技術で上清、蛋白、[[ウイルス]]、細胞膜等を分離し、蛋白分画に感染性があることを証明し、1982年に感染性の蛋白という意味のプリオンを提唱した。その後の研究により、プリオン蛋白が立体構造を変化させて発病するというメカニズムで、孤発例、遺伝例、伝達例を比較的シンプルに説明した。その功績により、1997年に[[ノーベル賞]]の医学・生理学賞を受賞した。 ノーベル賞講演の中でプルシナーはプリオンがまだ仮説の段階であり、ウイルスの可能性は否定できないと述べている。しかし、その意味するウイルスは通常の[[ビリオン]](Virion)の形をとるウイルスのことではない。プリオン蛋白の分子量程度で、プリオン蛋白サンプル作成中に混入しうる小RNAを想定している。植物に病気を起こすViroid(200-400塩基)は、RNAの立体構造が宿主のRNAを乱すことで、発病するという説がある。同様に、核酸がプリオン蛋白に作用して、立体異性を引き起こす可能性も否定できないと主張している。 プルシナーの研究グループは'97年以降も研究を重ね、2005年、50塩基以上の核酸断片を除き、かつ感染力のあるプリオン蛋白分画を用意し、これに混入する25塩基程度の核酸断片は宿主細胞由来のものであることを示し、化学処理の結果から考えると、核酸が異常プリオン蛋白の原因である可能性は極めて低いとしている。まだ可能性は0ではないかもしれないが、プリオン蛋白以外の不純物に原因を求めるのは、かなり難しくなっている。 ==「伝達」という用語== 現在、[[プリオン]]病は[[感染症]]の一種と[[分類]]される。しかし、プリオン病の発病メカニズムは[[感染]]というよりも[[代謝]][[異常]]に近い。[[遅発性ウイルス]]としての[[麻疹]][[ウイルス]]の関与は1970年代に確立するが、同じ頃、伝達性海綿状脳症の[[代謝]][[異常]]説が提唱されている。生田は、[[クロイツフェルト・ヤコブ病]]の病理[[組織 (生物学)|組織]]に[[脂質]]の[[異常]]を認め、[[1974年]]に[[脂質]][[代謝]][[異常]]説を唱えた。[[1978年]]にはslow virusという用語をやめ、伝達性海綿状脳症を提唱している。また、赤井は[[1984年]]の著書で、[[感染]]という従来の[[用語]]は不適切で、伝達(transmission)というべきと強調している。 == 動物のプリオン病 == *[[スクレイピー]] - めん羊、山羊 *[[慢性消耗病]] - シカ科動物 *[[牛海綿状脳症]] - 牛 *[[伝達性ミンク脳症]] - ミンク *猫海綿状脳症 - 猫 *[[クロイツフェルト・ヤコブ病]](CJD) - ヒト *[[ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群]](GSS) - ヒト *[[致死性家族性不眠症]](FFI) - ヒト ==参考文献== *Prusiner, S. B. (1998). Nobel Lecture, "Prions". ''Proc. Natl. Acad. Sci. USA'' '''95''' (23): 13363–13383. PMID 9811807 *赤井淳一郎 『クロイツフェエルト・ヤコブ病』 星和書店、1984年。(現在、Virion説で活発な研究をしている研究者のManuelidis L.は、1970年代から重要な業績を多々残しているManuelidis E.E.の研究グループに所属していた。赤井は117頁でManuelidis E.E.の論文の信憑性を疑問視する意見を述べている。)前書きで、著者がCJDの生検標本(感染した脳)を素手で扱ったと書いている。121頁では論文の紹介として、過度の心配はいらないとしている。1999年(生年は1933年)にアルコールに関する書籍を出版し、身をもって証明している。(注意しなくて良いといっているのではない。) *Safar, J. G.; Kellings. K.; Serban, A.; Groth, D.; Cleaver, J. E.; Prusiner, S. B.; Riesner, D. (2005). "Search for a prion-specific nucleic acid". ''J. Virol.'' '''79''' (16): 10796–10806. PMID 16051871. *Manuelidis, L. (2006). "A 25 nm virion is the likely cause of transmissible spongiform encephalopathies". ''J. Cell. Biochem.'', Epub ahead of print. PMID 17044041. *Wang, M. B. et al. (2004). "On the role of RNA silencing in the pathogenicity and evolution of viroids and viral satellites". ''Proc. Natl. Acad. Sci. USA'' '''101''' (9): 3275–3280. PMID 14978267. *インターネット利用(上記以外)[[MEDLINE|NLM]] Gateway、[[MEDLINE|Pubmed]] centralで閲覧できる範囲の文献、タイトル、サマリー。 *Amazonでの著者検索。 <!-- 「漢方」「ヨーグルト」については出典がない執筆者自身によるdiscussionか、あったとしても広くコンセンサスを得られてはいないhyper-speculationに該当する記述と判断してコメントアウトします。前半部について、参考文献を活かした再構成&修正に期待します。 ==余談== クールー、BSE、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病が示しているのは、腸から異常プリオン蛋白が分解されずに体内に入るということ。蛋白というと常識的には、消化吸収されてペプチドの形でしか吸収されない。分解されなければ体外にでると想像してしまいがちである。ところが、プリオンが分解されずに体内に入るのを前提とすると、興味深いスペキュレーションにいたる。例えば、漢方を摂取し続けると体質が徐々に改善するとか、ヨーグルトはいくら食べても腸内の常在菌化しないとされるが、食べ続けることで体質が変わるなどという現象など、今まで解明の進んでいない俗説を証明できるのかもしれない。--><!--この部分も面白く読めましたが、最後の文章は出典が示されないと独自の研究に相当しそうです。--> <!-- 参考: Protease-Resistant Human Prion Protein and Ferritin Are Cotransported across Caco-2 Epithelial Cells:Implications for Species Barrier in Prion Uptake from the Intestine Ravi Shankar Mishra,et. al. The Journal of Neuroscience , 2004 ,24,11280-11290 --> {{DEFAULTSORT:てんたつせいかいめんしようのうしよう}} [[Category:脳神経疾患]] [[Category:感染症]] [[Category:特定疾患]]
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