パーソナリティ障害

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テンプレート:Infobox Disease テンプレート:パーソナリティ障害

パーソナリティ障害 (パーソナリティしょうがい、テンプレート:Lang-en, PD)とは、文化的な平均から著しく偏った行動の様式でありテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn、特徴的な生活の様式や他者との関わり方テンプレート:Sfn、または内面的な様式を持ちテンプレート:Sfn、そのことが個人的あるいは社会的にかなりの崩壊テンプレート:Sfnや著しい苦痛や機能の障害をもたらしているものであるテンプレート:Sfn。青年期や成人早期に遡って始まっている必要があるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn症状が著しい苦痛や機能障害をもたらしていないものは、正常なパーソナリティであるテンプレート:Sfn

従来の境界例精神病質の受け皿にあたる概念である。以前は、人格障害(じんかくしょうがい)の訳語が当てられていたが、烙印[1]あるいは偏見的なニュアンスが強いことから現在の名称に変更されたテンプレート:Sfn。なお以前は同様の意図から性格障害と言われることもあった。

概要

パーソナリティは、見方や反応の仕方、考え方、人とのかかわり方、振る舞いの仕方といったことの持続的なパターンであり、その人らしさを形成しているテンプレート:Sfn。それが、適応的にできなくなり、臨床的に著しい苦痛や機能の障害をもたらしている場合にパーソナリティ障害であるテンプレート:Sfn

パーソナリティとは、個人の生活様式と、他者との関係の仕方における様々な状態と行動のパターンであるテンプレート:Sfn。パーソナリティ障害は、根深い持続する行動のパターンであり、文化による平均的な人間のものから偏っているテンプレート:Sfn。パーソナリティ障害は、小児期、青年期に現れ持続するものであるテンプレート:Sfn。従って、成人期に発症したなら、ストレスや、脳の疾患に伴って起きる別の原因がある可能性があるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。各々のパーソナリティ障害は、行動上の優勢な症状に従って下位分類されているだけであり、排斥しあうことはないテンプレート:Sfn

パーソナリティ障害は広義において神経症に入る概念である。今日の精神科における神経症圏の病名は、そのほとんどが患者自身の苦しみ・つらさの中心となっている問題に「障害」をつける形での命名となっている。強迫性障害のように。しかし苦しみやつらさが一つに限局できず、より深い問題を抱える例がある。このような患者は慢性的、かつ複数の症状をかかえており、抑うつや不安感、厭世観や希死念慮などの、人生を幸せに生きることができないという広範囲に及ぶ問題を持ち、「自分が自分であることそのもの」「生きることそのもの」、つまりパーソナリティが苦しみやつらさの中心であるとしか表現できないような状態をパーソナリティ障害と位置付けているテンプレート:Sfn。パーソナリティ障害という病名を付けることは、障害の対象を明確にすることにより、治療とそのためのコミュニケーションに利用するという、ポジティブな意味でなされているテンプレート:Sfn

同様に、パーソナリティ障害は一種の「性格」であるとも言えることから病気ではないと思われている点も多いが、これは短絡的な考えである。生物学的な存在概念である「疾患」と違い、医学においては「疾病(病気)」は正常な状態である「健康」に対置する価値概念であり、平均からかけ離れた状態になり、生存する上で不利になることを意味する。またそれら病気の概念は、人間が生活していく上で不都合な状態であるとする社会的な側面も包含している。よって、パーソナリティ障害は広義の意味で疾病であると言えるだろう[2]。という意見も存在するが、世界保健機関は、本質的で重大な問題があるため疾患や病気といった言葉を避け、障害という用語を用いているテンプレート:Sfn

古典的な精神医学における神経症などの症状を含む病理としてパーソナリティ障害が見られることもある。さまざまな乳幼児研究や精神分析的臨床研究からも、病気というよりは持続的な固定された性格様式として、精神的病気とは区別される。実際に現在のパーソナリティ障害の診断においては、他の精神疾患とパーソナリティ障害の併記が行われている。

名称の変更

人格障害からパーソナリティ障害への変更を最初に行ったのは、『DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』の2003年新訂版である。その早見表の翻訳書にて、翻訳者の高橋三郎は、2002年の精神分裂病から統合失調症への名称変更に伴うものであり、病名にスティグマのあるものとして精神分裂病、精神病、人格障害であると言及している[1]

2005年11月に『ICD-10精神および行動の障害-臨床記述と診断ガイドライン』日本語版が改訂され、精神分裂病は統合失調症に、痴呆も認知症に変更され、そして「人格障害は精神分裂病の場合と同様に当事者にとっては極めて差別的印象をもたらしやすい呼称であることからDSMシステムと同様にパーソナリティ障害に修正した」としているテンプレート:Sfn。『精神医学ハンドブック』は2007年1月の版にて、それぞれの名称が変更されている[3]

2008年6月に日本精神神経学会は、『精神神経学用語集』を約20年ぶりに改定し、パーソナリティ障害へと変更した[4]。新聞にて「人格障害は性格の極端な偏りを指すが、人格否定の印象があり、変更した[5]」と報道されている。厚生労働省では2010年3月にその病名データベースにおいて、多くをパーソナリティ障害へと変更している[注 1]

診断

世界保健機関

F60特定のパーソナリティ障害は、パーソナリティの領域を含む性格と行動における重度の障害であり、崩壊した個人や社会機能を伴っていることがほとんどであるテンプレート:Sfn。小児期後期以降から現れる傾向にあるが、16~17歳において適切に診断されるということは疑わしく、成人期に入り明らかとなってから持続するテンプレート:Sfn。 診断基準dが、小児期から青年期に発症したものが持続していることを要求しているテンプレート:Sfn。診断基準eが、相当な苦痛について言及しているテンプレート:Sfn。診断基準fが、職業上あるいは社会的遂行機能の重大な障害を要求しているテンプレート:Sfn。これらの全般的診断ガイドラインは、すべてのパーソナリティ障害に適用されるものであり、その補助的なものは個々において示されているテンプレート:Sfn。その評価には、生活史を含めた多くの情報源に基づくべきであるテンプレート:Sfn。また多軸的に評価することで、他の障害によって引き起こされているパーソナリティ障害の記録は容易になるテンプレート:Sfn

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アメリカ精神医学会

パーソナリティ障害とは、その人の属する文化から期待されるものから著しく偏った、広範かつ柔軟性のない、持続的な内的あるいは行動の様式によって、苦痛または障害を引き起こしているものであるテンプレート:Sfn。青年期や成人早期にはじまり持続していることが必要とされるテンプレート:Sfn。小児期の傾向が大人になるまで持続することはあまりなく、もし18歳以下に診断を下す際には、18歳未満には診断を下すことができない反社会性パーソナリティ障害を除き、少なくとも1年間の持続を要するテンプレート:Sfn。記録は、多軸評定に沿って、I軸とII軸も評定し、パーソナリティ障害が主診断であれば、そのことを記録するテンプレート:Sfn

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分類

診断分類には、世界保健機関による『ICD-10精神と行動の障害』と、アメリカ精神医学会による『精神疾患の診断・統計マニュアル』(DSM)が存在する。

DSMによる分類

精神疾患の診断・統計マニュアル』では、10種類のパーソナリティ障害を3つのカテゴリに分け規定している。このカテゴリ分類は、ある種の研究のためには有用であるが、一貫した妥当性があるものではなく、異なった群のパーソナリティ障害を同時に有さないということでもないテンプレート:Sfn

A群 (クラスターA), 奇異型 (odd type)
風変わりで自閉的で妄想を持ちやすく奇異で閉じこもりがちな性質を持つ。
世の中は危険で信用できないとして、陰謀などを警戒しており、自己開示しないテンプレート:Sfn
とにかく1人で行動し、友人を持たず1人で暮らすことを望むテンプレート:Sfn
幻覚や妄想といった統合失調症と診断されるような症状はなく、病的ではない程度の風変わりな行動や思考を伴っており、人生の早期に表れそして通常一生持続するテンプレート:Sfn。しかし、現在ではより受け入れられやすいアスペルガー障害とすることも多いテンプレート:Sfn
B群 (クラスターB), 劇場型 (dramatic type)

感情の混乱が激しく演技的で情緒的なのが特徴的。ストレスに対して脆弱で、他人を巻き込むことが多い。

少年期の素行症による非行の段階を経て、利己的で操作的な成人となり、人を欺くが周囲には気づかれにくいテンプレート:Sfn。中年になると落ち着くことも多いテンプレート:Sfn
他者に大きな期待を抱き、非現実的な要求によって人を遠ざけてしまったり、喪失体験をしたときに、自傷行為に至ることがあり、不安定な自己の感覚や人間関係があり、衝動的な側面を持つとされるテンプレート:Sfn。中年になると落ち着くことも多いテンプレート:Sfn
自己顕示性が強く、その時に演じている役柄に影響され、大胆に振る舞うテンプレート:Sfn
他者に賞賛を求め、自分が特別であろうとし、有名人との関係を吹聴したり、伝説の人物のつもりでいて、他者の都合などは度外視しているテンプレート:Sfn
C群 (クラスターC), 不安型 (anxious type)

不安や恐怖心が強い性質を持つ。周りの評価が気になりそれがストレスとなる性向がある。

人付き合いが苦手であり、批判や拒絶に敏感であり、新たな関係を避けがちであるが、スキゾイドパーソナリティ障害とは異なり、人間関係は希求しており、親しい人を何人か持っているテンプレート:Sfn。青年期前後にさらに回避的になってくることがあるが、加齢と共に寛解してくる傾向があるテンプレート:Sfn
何かを決めることも、身の回りのことも手助けが必要であると感じているテンプレート:Sfn
完璧主義であり、他者に仕事を任せられず、くつろぐことも、気のままに行動することもできないテンプレート:Sfn
その他
2種類以上のパーソナリティ障害の特徴を示しながら、単独では診断するほどの重症さはない場合などテンプレート:Sfn

ICDによる分類

『ICD-10第5章精神と行動の障害』においては、「F6.成人のパーソナリティおよび行動の障害」における「F60.特定のパーソナリティ障害」である。

F60-62をひと塊で説明しておりテンプレート:Sfn、他は「F61.混合性および他のパーソナリティ障害」、「F62.持続的パーソナリティ変化、脳損傷および脳疾患によらないもの」であるテンプレート:Sfn

多軸評定におけるパーソナリティ障害

精神疾患の診断・統計マニュアル』(DSM)には、1点だけに関心が絞られてしまえば見過ごすようなことを系統的に評価するために、多軸評定を持っているテンプレート:Sfn。I軸の精神疾患、II軸のパーソナリティ障害と精神遅滞、III軸の一般身体疾患による精神障害、IV軸の心理社会的また環境的な問題、V軸の機能の全体的な評定と総合的に見るということであるテンプレート:Sfn。そこではパーソナリティ障害は、精神遅滞と共にII軸であり該当すべき状態がない場合には、II軸にはV71.09という診断コードが割り当てられるテンプレート:Sfn。コードは用いず障害に達しないような人格的特徴や、防衛機制のために用いることもできるテンプレート:Sfn

パーソナリティ変化

ICD-10におけるパーソナリティ変化は、他の精神障害や脳疾患から二次的に生じたり、重度のあるいは持続的なストレスといったものに引き続いて起こるテンプレート:Sfn。対してパーソナリティ障害は、小児期、青年期に現れるもので他の精神障害や脳疾患から二次的に生じることはないテンプレート:Sfn。F07が脳疾患、脳損傷および脳機能不全によるパーソナリティおよび行動の障害である。それ以外はF62持続的パーソナリティ変化であるテンプレート:Sfn。大惨事など強度のストレスや体験が原因にあり、パーソナリティ変化がその体験に先行していてはならないテンプレート:Sfn。DSM-IV-TRにおいては、パーソナリティ障害の診断基準Fが除外している、薬物乱用や投薬といった薬物による症状や、頭部の外傷など一般身体疾患によるパーソナリティ変化が鑑別されるテンプレート:Sfn

診断における注意点

症状が著しい苦痛や機能障害をもたらしていないものは、正常なパーソナリティであるテンプレート:Sfn。パーソナリティ障害は、発症年齢が低く持続的である必要があるテンプレート:Sfn。文化的な文脈によって適切だとみなされるパーソナリティは異なり、観察者ではなく患者における標準的な文化を基準にすることが必要であるテンプレート:Sfn。また観察者自身のパーソナリティの在り方を自覚することで、偏見に基づく評価を避けることができるテンプレート:Sfn。ICD-10研究用診断基準は、文化的に規範が異なるため、下位分類について相応した行動パターンの定義を推奨している[6]

たとえば、相互依存的な文化習慣色が比較的強いとされることの多い日本[7][8]では、欧米で依存性パーソナリティ障害として定義づけられている状態を病的とみなさないことが多いとされる。また自己愛性パーソナリティ障害の症例報告は先進国に有意に多く、文化的産物と言えるであろうという意見もあるテンプレート:Sfn。子供と青年期のような低年齢において、パーソナリティ障害の診断をくだすのは賢明ではなく、年齢が低いうちは行動が変わりやすいためであるテンプレート:Sfn

鑑別診断

行動等が、他の精神疾患の発症によって現れているものは、その軽快によって消失してくるテンプレート:Sfn。突然に、(年をとってから)遅発性で変化したならば、抑うつ、物質使用、医学的疾患である脳腫瘍など、また重大なストレスといった他の原因の探索が必要であるテンプレート:Sfn。一般身体疾患によるパーソナリティ変化の原因としてDSMは、甲状腺機能低下症、または亢進症、副腎皮質機能の異常、妄想性のパーソナリティ変化の例には全身性エリテマトーデスが、他にも中枢神経系の新生物、頭部外傷、脳血管疾患、ハンチントン病、HIVウイルスが挙げられているテンプレート:Sfn

患者が十分な情報を提供しないこともあり、家族や何らかの記録など多くの情報源に頼ることも必要であるテンプレート:Sfn

パーソナリティ・ディメンジョン

パーソナリティ・ディメンジョンとは、正常な状態と、他の精神障害、また各々のパーソナリティ障害は連続上にあり、明確な境界線はないため、カテゴリーによる累計の分類ではなく、ディメンジョン(次元的)に定量的に数値的に表す方法であるテンプレート:Sfn。コンピュータによる数値処理に適しているテンプレート:Sfn。以前から関心を集めてきたが、成功をおさめていないテンプレート:Sfn

現行のカテゴリーの分類は、明確な境界線がなく不正確でもあるが、現行のように分類することは、より分かりやすく鮮明であるテンプレート:Sfn。DSM-IIIが改訂される際には、このディメンションモデルの発想を取り入れるかどうか大きな論争を呼んだが、結局はDSM-IVでの採用は見送られることとなったテンプレート:Sfn。DSM-5においても、さらなる研究が必要とされる部分に収録されているテンプレート:Sfn

治療

治療は精神療法を中心にして行われるテンプレート:Sfn薬物療法は合併しているI軸の精神障害の治療や、精神症状に対する対症療法として補助的に用いられるテンプレート:Sfn。厚生労働省のホームページにおいては、薬物療法では、気分安定薬SSRIや少量の抗精神病薬が症状の軽減に有効であるとされている[9]

一部のパーソナリティ障害は、30~40歳代までに状態が改善していく傾向(晩熟現象)があるとされている。それは加齢による生理的なものの影響だけではなく、社会生活を通じて多様な人々に触れ、世の中にはさまざまな生き方・考え方があるということを知り、それを受容することによると考えられている。

注釈

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脚注

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参考文献

診断ガイドライン

医学書・一般書

  • テンプレート:Cite bookEssentials of Psychiatric Diagnosis, Revised Edition: Responding to the Challenge of DSM-5®, The Guilford Press, 2013.

関連項目

外部リンク

テンプレート:ICD-10におけるパーソナリティ障害
  1. 1.0 1.1 DSM診断基準早見表新訂版2003 p.6
  2. テンプレート:Cite book
  3. テンプレート:Cite book, 第6版まえがき
  4. テンプレート:Cite book
  5. 読売新聞2008年 5月31日
  6. テンプレート:Cite bookテンプレート:Cite book
  7. テンプレート:Cite book
  8. テンプレート:Cite book
  9. パーソナリティー障害 (厚生労働省)


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