Super Audio CD
テンプレート:ディスクメディア スーパーオーディオCD(Super Audio CD, SACD, SA-CD)は、1999年にソニーとフィリップスにより規格化された、次世代CD規格の1つ。
CDと同じサイズの120mm光ディスクに、オーディオデータをCD以上の高音質で記録したものである。規格書はその表紙の色からScarlet Bookと呼ばれる[1]。
ディスクの構造
CDと同様に直径120mm、厚さ1.2mmの円盤である。スーパーオーディオCDには2層分の記録領域があり、このうち1層を通常のCD-DAもしくはコピーコントロールCD(CCCD)として使用できる(SACD/CD(CCCD)ハイブリッド仕様)。このCD-DA部分が通常のCD-DAである場合、通常のCDプレーヤー(一部のDVD機器を除く)で再生することが可能であるが、CCCDの場合はCD-DAの規格を逸脱しているため、注意が必要である。ただし、CD-DA部分がCCCDであっても、SACD部分のみの使用の場合は機器への負担などの影響はない。
もちろん1層でSACDプレーヤーのみで再生できるソフトも製作可能。
SACD層の1層あたりの容量は4.7GBで、物理的な構造ではCDというよりはDVDのそれに近い。また、2層構造ディスクにおいてもSACDとCD/CCCDのハイブリッド仕様に限らず、2層ともSACD層で構成された長時間SACDが製作可能。
オーディオフォーマット
ステレオ(2.0ch)とサラウンド(最高5.1chサラウンドまで)をサポートしている。5.1chサラウンドはオプション扱いで、一部のプレーヤーでは再生不能。2.0chステレオに機能を絞ったプレーヤーは音質重視の高級機種が多い。
オーディオデータはCD-DAやDVDビデオで利用されているリニアPCMと称される16bit44.1kHzではなく、ΔΣ変調を併用した高速標本化低bitである1bit2.8224MHz(=2822.4kHz)である。この量子化語長・標本化周波数フォーマットをダイレクトストリームデジタル(Direct Stream Digital, DSD)という方式と紹介される場合も多い。
ΔΣ変調1bit2.8224MHzのフロントエンドをもつADCはDAT録音機等に広く用いられたが、DATやCD-DAなどは1bit2.8224MHzのデータにデジタルローパスフィルターをかけて折り返しノイズ発生を防いだ後、2.8224MHzの標本点をデシメーションフィルターによって1/64の44.1kHzに間引く。量子化語長は16bitを出力することで16bit44.1kHzのリニアPCMデータを得ている。高速標本化とΔΣ変調によって量子化雑音は超高域に追い出されているが、この不要帯域をカットしているわけである。この高域をカットするフィルターや、2.8224MHzの標本化周波数を1/64の44.1kHzに間引くデシメーター回路では、ディザを用いないで量子化語長を切り捨てたり、丸める場合もあるために音質が劣化する要因となっていた。人間の耳の特性を考えると量子化雑音が寄せ集められた超高域周波数帯域では感度が低いので、わざわざ帯域を制限しなくとも良いのではないか?、という思想に基づいて、2.8224MHz1bit信号のまま記録・再生する訳である。SACDや高速1bit音源のスーパーオーディオCDの音は、CD-DAと比較してより原音に近いと言われている理由はデシメーションフィルターを通過させずに記録できるという利点にあるのであって、人間の耳には聴こえないはずの超高域周波数まで記録・再生しているからではない。もしも人間が超高域周波数帯域を感じているのであれば、ΔΣ変調と高速標本化によって量子化雑音が寄せ集められたSACDの超高域周波数帯域は非常に雑音レベルが大きいのでうるさく感じるはずである。
スーパーオーディオCDではA/D変換の際にΔΣ変調1bit2.8224MHzのデータをそのままスーパーオーディオCD盤上に記録している。SACDプレーヤー黎明期には、この高速1bit信号データを再生時にも間引きせずそのままD/A変換する機種もあったが、A/D変換時に不要帯域に寄せ集められた量子化ノイズがそのまま再生されると、超高域のノイズがフォールダウンして可聴帯域に落ちてきたり、場合によってはスーパーツイーターが破損するので、SACDプレーヤーのアナログ回路基板上に100kHz以上をカットするローパスフィルターを増設した。また、デジタル回路でフィリタリングした後、標本化周波数を間引くことによってD/A変換する機種もある。この回路を用いたSACDプレーヤーでは、1/2fs以上に存在する側帯波をフィルタリングしているが、D/A変換以後でアナログフィルターのみで帯域制限を行うと音質が劣化するので、オーバーサンプリングデジタルフィルターを併用してアナログフィルターの減衰特性を緩やかにしている機種もある。
アナログレコードの再生限界周波数を40kHzと紹介される場合もあるが、アナログレコードは、この帯域までフラットなレスポンスを有しているわけではない。SACDは100kHzをカバーする再生周波数範囲を有していると紹介される場合もあるが、スーパーオーディオCDのサンプリング周波数は2.8224MHzなので、1/2fsの1.4MHzまでの信号が記録されている。しかし、スーパーオーディオCDではΔΣ変調(ノイズシェーピング)によって可聴帯域外の超高音域には量子化雑音が寄せ集められているので、この超高域帯のダイナミックレンジは非常に小さい。この超高域帯のノイズが多くとも人間には聞こえないが、そのまま再生すると、スーパーツイーターの許容入力が小さい場合にはボイスコイル断線の恐れがあるので、多くのスーパーオーディオCDプレーヤーではアナログLPFを挿入して再生周波数帯域を100kHz以下(40kHz前後)に抑えている。スーパーオーディオCDの1bit2.8224MHzフォーマットの特性を、再生周波数帯域=100kHz、120dB以上のダイナミックレンジと称しているのは、スーパーオーディオCDプレーヤーの可聴帯域での再生能力を示している。CDプレーヤーの16bit44.1kHzの場合に再生周波数=20kHz・ダイナミックレンジ=96dBと紹介している場合は記録フォーマットの限界を示しているので、単純に両者の数字を比較することはできない。
なお、DVDオーディオ規格は192kHz24bitだが、ΔΣ変調A/D変換器の出力bit数を24bitにしたからといっても、ダイナミックレンジが144dBになるわけではない。A/D変換器のダイナミックレンジは24bit出力間引きフィルター・デシメーション回路で決まるのではない。間引きフィルターやデシメーション回路が存在しないスーパーオーディオCDのダイナミックレンジは120dBと紹介されるが、これはΔΣ変調1bit2.8224MHz高速標本化回路の可聴帯域信号のダイナミックレンジであるので、DVDオーディオのダイナミックレンジもこの部分で決まることに注意しなければならない。そもそもアナログ信号を抵抗器に通すと熱雑音が生じるので、144dBのダイナミックレンジを確保することは不可能に近い。
約2倍のロスレス圧縮が行われるため、2chステレオ録音の場合、片面1層でも4時間以上の収録が可能であり、長大なオペラなども1枚に収められる。ただし、CDフォーマットとのハイブリッド盤の場合、そちらの収録時間(1枚70分余り)に合わせることになる。
著作権保護
スーパーオーディオCDはコンテンツを再生させるまでに二重三重のデータ保護機構が採用されている。デジタルデータをコピーできても、それだけでは再生できないようにし、データを保護するのである。
当初は著作権保護のためS/PDIFなどからのデジタル出力が許可されていなかったが、2005年にはデノンやアキュフェーズといったオーディオ機器メーカーが各社独自の方式でデジタル出入力が可能な機器を発売、伝送にはi.LINKを用いた機種が多く登場した。HDMI 1.2a以降ではDSDデータの転送が可能となっている。
スーパーオーディオCDを自主制作する場合について
スーパーオーディオCDは著作権保護の関係から基本的にPC上で使用することは不可能であり、市販のソフトのコピーなどはできないようになっている。
しかしながら、CD-DAやDVDビデオ、BDMVなどと同様に、自分たちで作詞、作曲、演奏などを手がけてSACDとは規格は異なるものの、同じ信号形式のDSDで記録したディスクを制作することは可能である。
ティアックから「タスカム」ブランドで、そうしたユーザー向けにDSD録音対応のDVDレコーダー「DV-RA1000HD」が発売されている。最大の特長は、一般的なDVDレコーダーとは異なり、最大24bit/192kHzのリニアPCM形式での録音に加え、スーパーオーディオCDなどで利用されるDSD形式での録音が可能なこと。このレコーダー単体では、スーパーオーディオCDやDVDオーディオ形式のディスクは作成できないが、録音モードとしてBWF(リニアPCM)、DSIDIFF(DSD)、CD-DAの3種類が搭載されている。このため、このレコーダーで作成したDVDデータディスクをマスターとしてプレス業者に委託すれば、オリジナルのスーパーオーディオCDソフトやDVDオーディオソフトを制作することが可能である。なお、一般的な音楽CD(CD-DA形式)であれば、このレコーダー単体で作成可能である。
ソニーのノートPC「VAIO」に搭載されているSonicStage Mastering Studioなどのソフトウェアを用いることで、DSD形式の音楽をDVDメディアに書き込んだ擬似的なSACDを作成することができるので、小ロットのディスク制作には向いている。ただし、VAIOの他にこの方法で作ったDSDディスクを再生可能な機器は、一部のスーパーオーディオCDプレーヤーとPlayStation 3(スーパーオーディオCD再生非対応モデルを含む)のみである。
普及
複数の映像・音声規格が再生できるユニバーサルプレーヤーが登場し、その超低価格化が進んだことによって実売2万円以下のクラスからスーパーオーディオCDの再生機を購入できる環境になってきている。しかし、レーベルが積極的に発売しないのとCDと比較して選択できる機種が限られることや、パソコンでの再生ができないこと、CD以上の特性を十分に発揮するために一定水準以上のオーディオが必要なこと、多くの消費者は現行のCD(あるいはそれ以下のMP3、WMA、AAC等の圧縮音声)でも音質に不満が少ないとされていること等から、スーパーオーディオCDはCDを代替するほどには普及していない。
このためSACDは、CD規格の音に満足できないハイエンドユーザーを対象としたフォーマットとみなされることが多い。発売されているソフトはロックやポップスから歌謡曲まで様々なジャンルあるが、クラシック音楽・ジャズなどが発売されるソフトの大部分を占める。2008年6月現在で約5300タイトルが発売されている。
2003年11月にソニーからSACDを標準対応としたミニコンポ「Listen」を発売し、実売価格が4万円強からと普及価格であったものの、1年半程度で終焉している。
2006年に発売されたPlayStation 3は日本国内でSACDが再生できるのは初期型である60GB/CECHA00と20GB/CECHB00のみである。ファームウェア・バージョン2.00で光デジタル音声端子からの出力が可能になった。5.1chサラウンドを収録したソフトについてはDTS5.1chサラウンド(48kHz/24bit)に変換して出力されたが、直後に出たバージョン2.01において、デジタル光出力ではリニアPCM2.0chステレオ(44.1kHz/16bit)のみ出力可能、DTS5.1chサラウンドでは出力されなくなった。ただし、HDMI端子接続ではリニアPCMに変換することで、2.0chステレオ(176.4kHz/24bit)と5.1chサラウンド(176.4kHz/24bit)のハイサンプリング&ハイビットで出力可能である。なお、DSDのビットストリーム出力には対応していない。
DVD規格の一つであるDVDオーディオは、ハイエンドユーザーを対象としている点ではスーパーオーディオCDと競合する規格である。DVDオーディオはリニアPCM形式(非圧縮または可逆圧縮)を採用。DVDビデオとの互換性を活かして映像との融合・低価格機種への展開などが見られるが、ソフト数ではスーパーオーディオCDの方が多い。一時はベータマックス・VHS規格の対立のような規格争いが指摘されてきたが、その後オーディオ専業メーカーを中心にスーパーオーディオCD・DVDオーディオの両規格が再生可能なユニバーサルプレーヤーが普及し、規格提唱メーカー(ソニーはスーパーオーディオCD専用、松下電器(現・パナソニック)と日本ビクターはDVDオーディオ専用、パイオニアとオンキヨーからもそれぞれスーパーオーディオCD専用プレーヤーが発売された[2])以外はほぼその方向に向かった。しかしその後DVDオーディオは普及せず、SACD/CDが再生可能な機種が目立つようになってきた。
2010年代に入ると、DVDオーディオで採用されたCD-DAスペックを超えたリニアPCMや、スーパーオーディオCDで採用されたDSDが、ともにインターネットなどで本格的にデータ配信されるようになった(詳しくはハイレゾリューションオーディオの項目を参照)。