女性警察官
日本ではかつて婦人警官(ふじんけいかん)と呼ばれていたが、法改正(後述)に伴い現在の呼称に改められた。通俗的には女性警官または、旧称を略して婦警(ふけい)と呼ばれる場合がある。
目次
概要
歴史
近代以降の警察組織における最初の女性警察官は、1891年にシカゴ市警察に採用されたマリー・キーエンスと見られている[1]。
その後1918年ごろまでに英国各地、およびカナダなどの諸国で女性警察官の任用が開始された。1942年にはインドのムンバイでも女性警察官の任用が記録されている。
第二次世界大戦後にこの動きは加速し、1949年にはロンドン警視庁で女性警察官(Woman Police Constable, WPC)が採用された。日本でもGHQの指示に基づき、1946年に最初の女性警察官採用が行われた。当時の名称は婦人警察官(ふじんけいさつかん。婦人警官・婦警)であり、執行(逮捕)権を持たなかった。
その後、世界各国での女性の権利向上に伴い、職名や職域、制服(後述)について男性との差違を減らそうとする国が増加している。英国では1999年に、WPCという女性特有の職名からWomanのWを外した。日本でも2000年の男女雇用機会均等法全面改正に伴い、従来の婦人警察官(婦警)という呼称から現在の女性警察官に改められた。 テンプレート:-
女性警察官のスタイル
制服
女性警察官の制服にはスカートが採用されることが多かったが、次第にスカートは減少し、イギリス、ドイツ、アメリカなどでは男性とほとんど変わらない制服が採用されている(帽子デザインなどに若干の違いがある)。日本においては、男女で制服のデザインが大きく違う(後述)。
- US Secret Service officers.jpg
米国シークレットサービスの制服(右が男性警官、左が女性警官)。服装において明確な違いはない。そもそもアメリカでは女性警察官の制服は、シャツが体形に合わせた縫製になるだけでスカートは存在しない
- Edinburgh G8 police group DSC05042.JPG
微細な違いの例。英国の制服。制帽に違いがある
- Iraq female police.jpg
イラクの女性警察官
- Chinese police at Gate of Heavenly Peace.jpg
中華人民共和国の女性警察官
- Swedish Police Woman, 2006.jpg
スウェーデンの女性警察官
日本の女性警察官
2012年4月時点における女性警察官の数は約1万7700名であり、警察官全体の約6.8%を占めている[2]。2013年度では、女性警察官の人数は約1万8700人で、全警察官のうち7.2%を占め、警視庁の女性警察官は3467人で、同じく7.9%である(朝日新聞 2013年12月25日付)。
スタイル
制服
日本においては、イギリス、ドイツ、アメリカなどとは異なり、男女で制服のデザインが大きく異なる。女性では礼服がブレザーにネクタイ・スカート着用と規定されている。職務上、長い丈のスカートでは邪魔になる場合があるため、膝丈程度のスカートが標準となっている。その他、キュロットスカートおよびズボンも用意されている。
外勤の場合、制服の上に指定の防寒服以外のロングコートやカーディガンを羽織ることは違反とされている。ちなみに制服時はロングの靴下を履くことも禁止されており、また制服の下にセーターやベストを着ることは、制服警察官の外観が変わってしまうことから望ましくないとされている。外見に影響を与えない保温肌着等の利用で対処している。
女性警察官導入が始まった戦後まもなくのころは、男女共用のデザインにしようとの動きもあったが、日本の警察官の制服を始めとする服務規定は、当時日本を占領していたアメリカによってほとんど決められてしまった。そのため、当時のデザインは極めてアメリカ的で色も黄色く、女性はスカートが正装と決められた。現在、アメリカでは男女共用の制服(軍服風デザインの、上着またはシャツにスラックス)が採用されている。
新たな制服
警察官の制服は1994年に変更されてから、10年以上変更されていない。2002年10月1日の警察手帳の形状変更と同時に変更されることが期待されていたが、識別票の装着が義務づけられたのみで、男女ともに実質的な変更はない。詳細は警察官における制服の変遷の項目を参照。
コート
警察官の制服は一目で分かるよう全国で統一しなければならないので、警察庁は警察官専用のコートを配布した。外勤の男女警察官が着ているコートはこれが多い。コートは黒い生地のハーフタイプで階級章・腕章が縫いこまれており、防寒性に優れている。
髪型・装飾
警察官の礼式は制服だけで留まるものではなく、髪型や立ち居振る舞いにも厳格な姿勢が求められる。 特に日本の場合、髪型にもその影響が反映される。すなわち、「警察官は市民の模範でなければならない・善良なる市民のモデルとなり真摯執行務を遂行する。そのため格好もそれ相応の形を維持するべきである」と考えられている。
具体的な化粧(メイク)や髪型について、警察において明文化された規制はなく、個人に任されている。初任研修で警察学校入校時は一般の警察官の勤務時より、厳しく指導されることはある。私服警察官の場合は、市民に擬装するためにナチュラルヘアにしたり、染髪することもある。
身体基準
日本では都道府県によって基準も多少変わるが、警視庁の場合は概ね身長154cm以上、体重45kg以上としている。極度の肥満体の場合、職務の妨げになることが多く、さらに運動神経上も問題があるので採用されない。
体力が乏しい者、著しい肥満者等が除外されるため、女性警察官の平均における、身体的・運動的能力は高くなる。但し、警察官といっても特殊部隊員並みの体力や剛健な肉体は求められていないので、男女ともに体格は大半の一般人と同じである。
警察官の身体基準は軍隊や特殊部隊員に比べてに厳しいものではなく、自衛官より多少緩和されている。日本の場合、機動隊員やSAT部隊員、SPなどは剛健な肉体の者や筋肉質な者も多いが、これらは警察官の中でも特殊な職域に入り、刑事地域交通など一般的な警察活動に従事する警察官とは性質が異なる。機動隊などに配属されている者は警察内で行われる選抜採用でさらに厳しい身体基準を問われ配属された警察官たちであり、一般の警察官の「身体基準」とは関係ない。
しかしながら、女性警察官は陸上競技能力の高いとの誤解も多い。もっとも採用試験において「身体基準」を満たすかの運動能力の試験が課されるため、その限りにおいて運動能力は担保されているとされる。
警察官としての技能
逮捕術と拳銃操法の訓練が義務付けられている。女性の場合、武道に関しては柔道、剣道もしくは合気道の初段を取ることが奨励されている。
運転の技能
二輪車の運転技能に優れた者で「女子白バイ隊」を結成したのは有名な話である。女子マラソンや女子駅伝の際に先導を行なう。 男性の白バイ隊員と違い、制服が空色ではなく各警察本部で独自に定めた特有の色(赤や緑)になっている。
女性ならではの技能
警視庁には捜査一課女性捜査班が存在し、強姦事件専従班があるほか、大阪府警察にもドラマ「木綿のハンカチ」で取り上げられた女性捜査班「ライトウィンズ」がある。こちらは性犯罪のみならず、女性が被疑者となる事件の捜査も担当しているようである。また、女性被疑者の身体検査なども、基本的に女性警察官が担当する。
ミニパト
テンプレート:Main ここでは、女性警察官との関わりについて述べる。
女性警察官はミニパトに乗っているイメージが存在する。これは、かつて女性警察官が交通部門に多く配属された経緯から、交通部門で多く使われるミニパトとのイメージが結びついたものである。
住居
独身者は警察の用意した寮に住居を与えられ、1年間の初任過程が済むまでは寮への入居が義務付けられている。女子寮に配置され、ここは警察学校のようなものである。
警視庁には全国一の寮数が確保され、独身警官はほとんど寮住まいである。キャリアの場合は警察庁宿舎に移住する。かつては徹底した厳しい体制がとられ教育役の寮長もいた。
最近は警察学校在校(この時点で巡査に任じられ警察官として扱われると共に、寮に住むことが義務付けられる)の際でもフリータイムが多く、開放的な就学体制で自由時間も多い。
交通部門と刑事部門
かつて女性警官は全国的に交通部門に配属されることが多かったが、交通部門は凶悪事件を扱わず、比較的安全な職務が多いからとの見解もある。残業が多い刑事部門・地域部門の外勤が男担当で、重労働・危険度の少ない部署は女担当という認識で配属されることが多かった。
最近の傾向
現在交通課の業務も安全・定時的ではなくなっており、飲酒運転など交通マナーの低下により危険度は増えている。一般的に初任配属先は地域課もしくは交番勤務と規定され、女性警官の場合は原則的に交通課であったが、近年の配属先には多様性が見られる。
さらに女性被疑者の増加、性犯罪の多発により女性の能力も求められ、刑事課や生活安全課に配属される女性捜査員が増員されている。刑事部門は能力や適性や素質を重視する傾向が強く、刑事への志願者が少なかったという現状もあるが、適性のある警察官がスムーズに任用されるようになった結果もあり、よって女性刑事も増えている。なお、2000年以降では私服警察官のうち約20%が女性警察官。
プライベートでは、女性警察官、女性警察事務職員の増加に伴い、「女性警察官だけの女子会」も盛んに行われており、ここで出た、雑談を本部警務課では女性警察官向けに働きやすい職場環境改善に取り組む参考にしている[3]。また交番に女性用仮眠室を整備したり、ベビーシッターを利用する際の補助を導入するなどの環境整備も進められている[2]。
幹部警察官
警部以上の階級に位置する女性警察官は2012年4月現在で224人[2]。また女性警察署長は2013年10月現在で3人[4]。
2013年8月、史上初の警察本部長が岩手県警察に誕生。女性キャリアとしてはじめて警視長に昇任し、本省課長級の警察庁刑事局組織犯罪対策部国際捜査管理官から異動した[5][6]。平成元年から採用された女性警察キャリアは40名を数え、年々増える傾向にある。ノンキャリアでは警察署長など所属長(警視)に就いた例がある[7]。
殉職
女性の殉職者は男性のそれに比べて少ないが存在する[8]。殉職者が多いのは刑事・地域部門である。交通部門は発砲事件や凶悪犯を直接拘束するような事態に直面することは少ないが、交通事故に巻き込まれる機会は当然多くその点では危険である。
さらに、交通違反車輌の追尾や暴走族の取締りといった危険度が高い任務は交通機動隊や自動車警ら隊の担当で、女性警官が単独で取り締まりにあたることはなく、女性の殉職は2013年現在1名である。
現在は、女性が刑事・地域など比較的危険な部門へ配属されることが増えている。2011年3月11日に発生した東日本大震災では、宮城県岩沼警察署の警部補(殉職により警視に2階級特進)が、震災発生直後沿岸部に向かい住民に対して避難誘導中に津波に巻き込まれて殉職した(日本の女性警察官として初めての公務中の殉職者)[9][10]。