フリーエージェント (プロスポーツ)
フリーエージェント(Free Agent)とは、所属チームとの契約を解消し、他チームと自由に契約を結ぶことができるスポーツ選手のことである。FAと略す。
広義には自由契約選手を指すが、近年は狭義として特別な自由移籍の権利を持つ選手を指す言葉として使われる。また、無制限フリーエージェント(Unrestricted Free Agents、略称UFA)と制限付きフリーエージェント(Restricted Free Agents、略称RFA)の2種類が存在し、リーグによってはUFAのみの場合と、両方が併存する場合がある。
概要
特別な権利によるフリーエージェントの制度が存在する背景には、保留制度に基づく条項によって選手の自由意志による移籍が厳しく規制されていた事実がある。これは、かつてシーズン中に移籍が横行したことからファン離れがおこり、流出過多に伴う不均衡の発生により興行が成り立たなくなる状況に陥ったことから、オーナーたちの間で競業避止の協定が結ばれたことに由来する。後に条項が強化され、チームは契約期間満了後も選手の保留権が認められるようになると、選手の引止めなどに伴う年俸の高騰は抑制されたが、一方で選手が移籍する手段はチームが保留権を放棄する(自由契約)、チーム間による保留権の取引(トレード)、あるいは条項の効力が及ばない他の競技団体への移籍に限られることになる。この結果、選手は奴隷条項とも呼ばれるこの制度のもと特定のチームに拘束され、不利な状況下での契約交渉を強いられ、あるいは物のように取引される状況が長きにわたって続いたことから、選手たちは制度の撤廃を訴え、幾多の司法判断や労使交渉を経て、フリーエージェントの権利を勝ち取ることになる。一方、保留制度導入の経緯から制度における一定の妥当性を認める意見も少なからず存在し、選手の獲得や育成に費やされた資金の回収や、新しい戦力の補充・育成などを考慮に入れて、権利獲得までの期間や移籍に伴う補償などが設定されている場合もある。
無制限フリーエージェントと制限付きフリーエージェント
無制限フリーエージェント(UFA)とはチームに所属していない選手を指す。チームから解雇された選手、契約期間が満了した選手、ドラフトで指名されなかった選手などが該当する。通常こうした選手はいずれのチームとも新たな契約を結ぶことができる。
制限付きフリーエージェント(RFA)とは選手はいずれのチームからも新たなオファーを受けることができるが選手の所属チームが同等以上の条件で引き留めを行ったり、選手を手放す代わりにドラフト指名権を補償でもらうことができるようルール化されているものがある。
北米のメジャースポーツのうち、NFL・NBAではUFAとRFAが明確化されており、単にフリーエージェントと呼ぶ場合、通常は前者を指すことになる。
日本においては自由契約=UFA、フリーエージェント=RFAとほぼみなされる。
メジャーリーグベースボール
フリーエージェントの起こりは、メジャーリーグベースボール(MLB)においてである。モントリオール・エクスポズのデーブ・マクナリー投手やロサンゼルス・ドジャースのアンディ・メサースミス投手が、テンプレート:Byは球団側から提示された条件に不満を持ち、契約書にサインしないまま1年間プレーした後、契約から自由であると主張したことに始まる。1975年12月21日に第三者の調停委員会の主任を務めるピーター・ザイツによる仲裁で、2人は「自由契約選手である」という裁定が下った。翌1976年2月13日にジョン・オリバー連邦地裁判事もこの裁定を支持した。経営者側が野球選手を縛ってきた制限事項が廃止されることになり、MLB機構側と選手会との話し合いの結果、フリーエージェント制は生まれた。
MLBのフリーエージェントは、日本のプロ野球と言葉の指す意味合いとはやや異なる。契約の切れた選手はすべてフリーエージェントと表現されるため、解雇されるなどで自由契約となった選手もフリーエージェントという扱いになる(そもそも「Free Agent」を日本語訳したものが「自由契約」である)。選手がFA権を取得するには、1年を172日とし、およそ6年分にあたる計1032日間のアクティブ・ロースター(故障者リスト登録中期間や各種出場停止期間も含む)への登録が必要である。 FAの補償はドラフト指名権の譲渡で行われている。対象者が多いため、FAによる移籍は日本プロ野球と比べても盛んである。 また、マイナーリーグFAという制度がある。40人枠に入れなかった期間(つまりマイナー契約期間)が、1年172日として1032日間に達した選手が対象となる。マイナーリーグFAとなった選手をメジャー契約しても構わないため、マイナーリーグでの飼い殺しを防ぐ役割も果たしている。
シーズンオフにFAとなる選手を抱えている球団は、オフに他球団との獲得競争にさらされ、選手の保有権を失うリスクを背負う。その対策として、FAになる前に優勝争いでさらなる戦力補強を必要としている球団へトレードし、見返りに金銭や若手選手をもらう場合もある。特にシーズン途中で事実上優勝争いから脱落した球団では、FAとなる選手を交換要員としていかに有望な若手選手を引っ張って来られるかがGMの腕の見せ所ともいえる。
- 契約上の特例によるFA
- メジャーリーグに所属する選手は、上記のように原則として最低6年間FA権を得ることができない。しかし、特別に契約年数が切れた時点でFAになる条項を契約に盛り込む場合がある。メジャーリーグに挑戦する多くの日本人がこの条項を契約中に盛り込むことによってFA権の条件を満たさずにFAとなっている。ただし、あくまで日本で実績を残した日本人選手に対する慣例にすぎず、契約にその点を盛り込んでいないと、原則通り最低でもFA権を得るまで6年間かかる(日本でのFA権は無関係である)。そのような条項を入れておらず、契約満了後にFAにならなかった例として岡島秀樹がいる[1]。また、そのような条項を入れない契約を不満として入団しなかった例として中島裕之がいる[2]。
MLBにおけるFA補償制度の仕組み
FA(フリーエージェント)になった選手がこれまでとは異なる球団と契約すると、一部のFAに関しては、それまで所属していた球団に、補償としてドラフト指名権が与えられる。この点は従来通りなのだが、その補償の規定は、2012年のオフ(2012~13年)から大きく変わった。
以前は、イライアス・スポーツ・ビューローのランク付けで「タイプA」「タイプB」に分類されたFAが他球団と契約した場合、それまで選手の所属していた球団が年俸調停を申請していれば、選手のタイプと獲得した球団の順位に応じて、選手を獲得した球団からドラフト指名権を譲渡されたり、1巡目の後、2巡目の前に位置する補完指名権を与えられていた。 現在、選手のタイプ分けは廃止され、代わって補償の対象は、直近のシーズン中に途中移籍しておらず、所属していた球団からメジャーリーグ全体の上位125選手の平均年俸と同額の1年契約を提示(クオリファイリング・オファー)された選手となっている。その選手がオファーを拒否してFAになり、他球団へ移った場合に、次のドラフトで指名権の補償が発生する。 流出球団は補完指名権を得て、獲得球団は持っているうちで最も順位が高いドラフト指名権を喪失する(流出球団には譲渡されず、以降のドラフト順位が繰り上がる)。ただし、全体10位以内の指名権は保護されていて、10位以内の指名権を持っている時は、11位以降で最高順位の指名権を失う。 球団がクオリファイリング・オファーできるのは、ワールドシリーズ終了から5日以内。選手はワールドシリーズ終了から12日以内に、オファーを受け入れて残留するか、拒否してFAになるかを決めなければならない。拒否しても、交渉して再契約することは可能だ[3]。
クオリファイング・オファー(Qualifying Offer)
クオリファイング・オファーとは、FAとなった一部の選手に対して旧所属球団が行うものであり、選手にはMLBに所属する上位125人の平均年俸と同額の1年契約が提示される。クオリファイング・オファーを提示された選手が他球団に移籍した場合、旧所属球団は移籍先球団からドラフト指名権を得る。 2012年は9人、2013年は13人の選手がクオリファイング・オファーを提示されたが、全ての選手が拒否をしている。
日本プロ野球
日本プロバスケットボール
日本プロバスケットボールではbjリーグで導入しており、bjリーグが定める条件を満たした選手で前所属球団も含めていずれの球団とも選手契約を締結する権利を持った選手をフリーエージェントと称し、その権利を与える制度を「フリーエージェント(FA)制」という。残留を前提としつつ移籍の可能性に含みも持たせて権利を行使するケースが多いが、権利行使に伴い契約満了(解雇)に至るケースも存在する。
概要
あるシーズンのレギュラーシーズンにおいて80%以上の試合に出場選手登録(ベンチ登録)され、そのシーズンの数が累積で3シーズンに達すると選手はフリーエージェントの権利が発生する。ただし、出場選手登録試合数がレギュラーシーズンの80%に満たないシーズンがある場合は、それらのシーズンの出場選手登録試合数をすべて合算し、80%に達したものを1シーズンとして計算される。また、移籍(トレード)された場合、移籍元球団及び、移籍先球団での実績を通算する。
レギュラーシーズン終了後、権利を取得した選手はbjリーグによって公示され、その公示された選手は、プレイオフ終了後から宣言期間内(ドラフト会議の約1週間前)に、所属球団を通じてbjリーグにFA権行使を宣言した上で翌日より交渉が可能になる(2008年はドラフト会議の直前までと規定されていた)。
FA宣言選手として公示された選手のFA権再取得には、残留・移籍問わず2シーズン、80%以上の出場選手登録が必要。権利を行使しなかった場合は翌年に持ち越される。
2009-10シーズンからは外国籍選手の仮保有権も認められたため、日本人選手同様のFA権が認められるようになる。
FAにおける制約・補償
一時金
FA宣言選手には年俸の他にサラリーキャップ対象外の一時金の支払いが認められる。前年基本報酬の50%が上限となる。
獲得人数
直前のシーズンまで他の球団に在籍していたFA選手と翌年度の選手契約を結べるのは各球団10名までである。FA宣言前からその球団に所属していた選手はこれに含まれない。
移籍に関わる補償
FA選手を獲得した球団は、移籍元に対して補償金を支払う。金額は移籍元での在籍シーズン数に基づき算出され、移籍元における基本報酬、または、移籍先での基本報酬に下表の係数を乗じて、高いほうの金額とする。
2008年は一律で前年基本報酬の50%を支払っていた。
在籍シーズン数 | 旧契約 | 新契約 |
---|---|---|
3シーズン以内 | 40% | 20% |
4シーズン | 30% | 15% |
5シーズン | 20% | 10% |
6シーズン | 10% | 5% |
7シーズン以降 | なし |
FA権を行使し他球団へ移籍した選手
年 | 選手 | 移籍元 | 移籍先 | 備考 |
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2008年 | 佐藤公威 | 新潟アルビレックスBB | 大分ヒートデビルズ | 初のFA移籍選手 |
吉田平 | 琉球ゴールデンキングス | りゅうせきクラブ | チームから契約満了となったためで、事実上の解雇である。 | |
2009年 | 庄司和広 | 埼玉ブロンコス | 高松ファイブアローズ | |
与那嶺翼 | 大分ヒートデビルズ | 琉球ゴールデンキングス | ||
2010年 | 長谷川誠 | 新潟アルビレックスBB | 秋田ノーザンハピネッツ | 監督兼任 新規参入球団へFA移籍した初の選手 |
岡田優 | 高松ファイブアローズ | 滋賀レイクスターズ | ||
青木勇人 | 琉球ゴールデンキングス | 大分ヒートデビルズ | アシスタントコーチ兼任 過去所属していた球団へFA移籍した初の選手 | |
小菅直人 | 新潟アルビレックスBB | 琉球ゴールデンキングス | ||
清水太志郎 | 埼玉ブロンコス | 宮崎シャイニングサンズ | ||
千々岩利幸 | ライジング福岡 | チームから契約満了となったためで、事実上の解雇である。 | ||
2011年 | 佐藤公威 | 大分ヒートデビルズ | 新潟アルビレックスBB | 初の2度目のFA移籍 |
仲西翔自 | 島根スサノオマジック | 浜松・東三河フェニックス | ||
竹田智史 | 高松ファイブアローズ | 大阪エヴェッサ | ||
牧ダレン聡 | 東京アパッチ | 埼玉ブロンコス | ||
2012年 | 仲摩純平 | 島根スサノオマジック | 滋賀レイクスターズ | |
清水太志郎 | 宮崎シャイニングサンズ | 大分ヒートデビルズ | ||
波多野和也 | 滋賀レイクスターズ | 大分ヒートデビルズ | ||
岡田優 | 滋賀レイクスターズ | 京都ハンナリーズ | ||
岡田慎吾 | 浜松・東三河フェニックス | 群馬クレインサンダーズ | ||
寺下太基 | 埼玉ブロンコス | 滋賀レイクスターズ | ||
仲村直人 | 京都ハンナリーズ | 岩手ビッグブルズ | チームから契約満了となったためで、事実上の解雇である。 | |
青木康平 | 大阪エヴェッサ | 東京サンレーヴス | ||
高田秀一 | 高松ファイブアローズ | 大阪エヴェッサ | ||
高橋憲一 | 仙台89ERS | 岩手ビッグブルズ | チームから契約満了となったためで、事実上の解雇である。 | |
2013年 | 石橋晴行 | 岩手ビッグブルズ | 大阪エヴェッサ | チームから契約満了となったためで、事実上の解雇である。 |
薦田拓也 | 仙台89ERS | 京都ハンナリーズ | ||
日下光 | 仙台89ERS | 京都ハンナリーズ | ||
北向由樹 | 埼玉ブロンコス | 青森ワッツ | ||
木村実 | 横浜ビー・コルセアーズ | 岩手ビッグブルズ | チームから契約満了となったためで、事実上の解雇である。 | |
藤原隆充 | 滋賀レイクスターズ | 新潟アルビレックスBB | ||
今野翔太 | 大阪エヴェッサ | 信州ブレイブウォリアーズ | ||
小淵雅 | 大阪エヴェッサ | 群馬クレインサンダーズ | ||
与那嶺翼 | 琉球ゴールデンキングス | 岩手ビッグブルズ |
NBA
NBAの場合他のリーグとは異なりFA権取得年数というシステムは存在しない。契約終了やNBAの権利放棄ウェーバーの手続きに従って解雇された場合、あるいはNBAドラフトの資格を有していたにも関わらず指名されなかった選手を総称してフリーエージェントと呼ぶ。新人の場合最長4年、新人以外も最長7年でFAとなる。RFAあり。
RFA
制限付きフリーエージェント(Restricted free agent)。 RFAの選手は、他球団が提示したオファーシートと同額の契約を、元球団が提示した場合、契約の優先権は元球団になる。元球団がRFA選手を引き止める事を一般に「マッチ(match)」と言う。
選手をRFAにするには、球団は6月30日までに「クオリファイング・オファー」を提示する必要がある。他球団のオファーシートにサイン後、15日以内に所属していたチームがオファーシートと同額を提示すれば「マッチ」となり、元球団と選手は契約することになる。「マッチ」しなければ、サインした球団へ移籍となる。
ドラフト1巡目選手が結ぶルーキー契約を4年終了した場合の5年目、またはリーグ所属3年未満の選手に制限が認められる。
NFL
NFLの場合、FA権取得年数経過後に契約が切れた時点でフリーエージェントとなる。UFA(アンリストリクテッド(無制限)フリーエージェント)・RFA(リストリクテッド(制限付)フリーエージェント)の他に、球団側に拒否権のある「フランチャイズプレーヤー」「トランジションプレーヤー」という制度もある。また、契約満了前に契約更改をまとめたり、現契約を破棄して新しい契約を結ぶ等して、フリーエージェントにならないようにすることも可能である。
UFA
NFLに4年以上在籍するとUFAの資格を取得する。契約が切れるとどの球団とも自由に契約ができ、それ以降は契約が切れるたびに何度でもFAになる。
UFA選手は、7月22日までは自由に交渉ができる。しかし、6月1日に元球団が「テンダー・オファー」を提示していて7月22日までに新球団と契約しなかった場合、7月23日以降は元球団が独占交渉権を持つ。「テンダー・オファー」を提示されていなければ、完全に自由な交渉ができる。
RFA
NFLに3年在籍し、チームとの契約が切れるとRFAの資格を取得する。RFAの場合、元球団に残留を実現するための権利が与えられる。
まず、RFA選手は元球団から「クオリファイング・オファー」という1年契約を提示され、移籍の際に元球団への補償金額が決まる。「クオリファイング・オファー」がない場合、その選手はUFAとなる。
そのRFA選手の獲得を希望する球団の「オファー・シート」にRFA選手がサインした場合、元球団は7日以内に、その「オファー・シート」と同等以上の契約を提示することで、移籍を阻止できる。この権利を「第一拒否権(Right of First Refusal)」と呼ぶ。
もしそれを提示せずに移籍を許可した場合、「クオリファイング・オファー」次第で元球団は移籍先球団からドラフト指名権を受け取る。
RFA選手が他球団と交渉できるのは、NFLドラフトの8日前まで。所属球団が第一拒否権を行使する期限はその1週間後、すなわちドラフトの前日である。
「クオリファイング・オファー」分の金額は、サイン前であってもサラリーキャップに加算される。
フランチャイズプレーヤー、トランジションプレーヤー
チームは1名のフランチャイズプレーヤー、2名のトランジションプレーヤーを指定することができる。チームは選手に対し、フランチャイズプレーヤーは同じポジションでの前シーズンの年俸トップ5選手の平均額またはその選手の前シーズンの年俸の120%、トランジションプレーヤーはトップ10の平均または前年俸の110%のうちの多い方の額でオファーを出し、他チームからのオファーに対して、7日以内に同じ条件を提示することで拒否権を発動できる。 これらは、中心選手、人気選手をチームに引き留めるために利用される。
NHL
NHLでは、選手のFA権取得可能年齢があり、これまでは31歳だったが、2007-08年のシーズン終了後に27歳に引き下げられる。新人選手は入団7年後、それ以外は4年後にFA権取得可能となる。
RFAの場合、前年年俸の75%(クオリファイング・オファー)を提示することにより、元チームはその選手の権利を保有することができる。契約期限は12月1日とし、この期限までに契約できなかった選手は、同シーズンのNHLでプレーすることはできない。
脚注
外部リンク
日本プロバスケットボール